白銀色の中で

わだすう

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4,双子

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 街の警備員駐在所。雪と寒さで冷えた蓮たち4人の身体を、焚かれたストーブが温めていく。 

 奥の部屋では暴走した金眼保有者、カスミが簡易ベッドで眠っており、そばにはハルが付き添っている。ハルはカスミの婚約者で保有者であることは知っていたが、異変については知らされていなかった。彼女の自宅を訪ねようとして、あの場面に出くわしたのだ。彼女の妹と両親は病院に運ばれ、大ケガを負ったが、命に別状はなかった。
 ちなみに一度暴走した保有者は気絶させた後、正気に戻ることがわかっており、今のところ再び暴走する例はないため、意識を戻したら帰宅させる予定だ。

「お前が、新しい『身代わり護衛』…?」

 椅子に足を投げ出して座る蓮を、レイニーはじろじろ見定めるように見回していた。

「しつこいぞ、レイニー。その容姿は間違いないだろう」

 シャウアはあきれて言い、蓮とアラシの前に温かいお茶を置く。アラシは痛めた肩をテーピングしてもらい、蓮は首にアザが出来たくらいで大したことはなかった。

 レイニーとシャウアは双子の元王室護衛。兄・短髪のレイニーはお調子者、弟・長髪のシャウアは冷静沈着と性格は違うが容姿と仕草はよく似ている。戦闘の実力は確かで、ふたりで護衛長を務めていた(シオンの2代前)。退職してからは生まれ故郷のこの街で警備員として、日々街の人々の平和を守っている。

「だってよ、先代のミノル様と顔以外全く似てないぞ?」

 ふたりは蓮の父親、実と面識があり、真面目な実とかけ離れた蓮の態度と目付きはにわかに受け入れ難い。

「るせーよ、親父は関係ねーだろ」

 蓮はギロっとレイニーをにらむ。

 『身代わり護衛』は城野家が代々引き継いできた役目であり、蓮の父親も先代ウェア王の身代わりを務めあげた。3年半ほど前に仲違いして以来、親子は気まずい関係のままで、父親と比べられると蓮は気分が悪いのだ。

「口も悪いな…!あのかわいい王子…っいや、陛下がグレたみたいだっ!」

 素直でかわいらしい現ウェア王を生まれた時から見守ってきたレイニーとしては、蓮の悪態が我慢ならない。

「腹立つから、そのカツラとコンタクトレンズ外せ!」
「触んな、タレ目」

 蓮は頭をつかもうとしたレイニーの手を避ける。

「んが…っ?!シャウア!こいつ大人をからかってきたぞ?!」
「正直な方だ」
「お前もタレ目だからな?!」

 他人事かのようなシャウアにレイニーがツッコむ。

「…~っフフ」

 おとなしくしていたアラシだが、彼らのやりとりにこらえきれず、噴き出してしまう。

「笑うなアラシ!!」
「すっすみません…っ」

 大先輩レイニーに怒鳴られ、焦って謝る。

「言われなくても取る」

 蓮は痛くて出来れば着けていたくない、金髪のカツラと金のコンタクトレンズを乱暴に取ってアラシに投げ渡す。

「「あ…」」

 生来の黒髪、黒い瞳になった蓮を見て、双子は目を見開き、声を合わせる。

「「サンカ」」

 ふたりの口から出たのは、聞いたことのない名前。

「あ?」
「?」

 蓮はもちろん、アラシも知らないようで首をかしげる。

「誰だ?」
「昔の知り合いです。失礼しました。あまりに似ていたので」

 聞く蓮に、シャウアは微笑んで頭を下げる。

「はは…っ似てるな。顔は全然似ていないのに」

 レイニーは驚いた様子で苦笑いする。

「矛盾してねーか、タレ目」
「また言った!そういうとこだ、そういうとこがそっくりだ!!」

 蓮の悪態に再び怒鳴りつけた。

「んなことより、聞きてーんだけど。金色の目の外国人をアンタらも見たのか?」

 本来の目的である、謎の外国人の話を蓮は切り出す。

「ん?ああ」

 レイニーはうなずく。

「いつだ?」
「私たちは昨日です。最初の目撃証言は…3日前ですね」

 シャウアが日誌を手に答える。

「『金眼』だったのか?」
「いいや、金眼みたいに綺麗な光り方ではなかったな。ぼんやりした不気味な金色だった」

 レイニーは目撃した時のことを思い出し、身震いする。外国人がいるはずないので追いかけたが、すぐに見失ってしまったのだ。

「ふーん…」
「…」

 外国人がそんなに気になるのかと、アラシは横の蓮を見つめる。

「あと、他に暴走した保有者はいるのか?」
「2日前にひとりです」
「そん時は…」
「失礼します」

 駐在所の扉が開き、長身の男が入ってきて話が遮られた。

「「シオン!」」

 双子はパッと笑顔になり、同時に声をあげるとかつての後輩にかけ寄る。

「お久しぶりです。レイニーさん、シャウアさん」

 シオンはマントのフードを取り、にこりと微笑む。訳あって幼い頃からウェア城で暮らしているシオンを、ふたりは弟のようにかわいがっていた。それは今も変わらない。

「どうしたんだ?連絡もしないで」
「申し訳ありません。早くお会いしたかったもので」
「シオン…っそんなに、俺たちのことを」

 かわいい弟分が自分たちを思ってくれていたのかと、レイニーは感涙しそうになるが

「お迎えに参りました、レン様」

 シオンはふたりを通りすぎ、蓮の前で片膝をついた。

「「?!!」」

 レイニーとシャウアはショックで絶句する。

「わざわざ来んな」
「保有者の抑制をなさったとお聞きしました。お怪我はありませんか」
「ねーよ」

 シオンは仏頂面の蓮の手をとり、頬に触れ、全身を見回す。

「首にアザがありますね。他に痛むところがあるのではないですか。背中などは…」
「ん…っさ、触んな…っ」

 首筋に触れられ、背をなでられ、蓮はびくっと身体を震わせる。

「「…」」

 ふたりのいちゃつく姿を、双子はただ呆然と見つめる。

「…っな、な、何で…っ?!まさか、シオンは…っ?!」

 レイニーははっとして、震える指で蓮を指す。

「…っまぁ、そういうことだろうな」

 シャウアもはっとして、兄の言いたいことを察してうなずく。潔癖なシオンが他人の身体に触るなど、ふたりの経験上あり得ない。それはつまり、蓮が特別な存在だと言うこと。

「お前、何でそんな冷静なんだ?!シオンがっ!よりによってあんな生意気な奴をっ!!」
「見苦しいぞ、レイニー」
「うわあぁぁぁっ!!」

 心中は混乱しているシャウアだが、冷静を装い、レイニーは受け入れたくなくて、頭を抱えて叫ぶ。そこへ

「レンーっ!!」

 必死の形相で駐在所の扉を開けたのは、赤髪のクラウド。

「迎えに来たぞ!!」
「ぅぐ」

 先輩の双子を無視し、シオンを押し退け、蓮をぎゅうっと抱きしめる。

「さらに生意気なのが増えやがった!!」

 もちろん双子はクラウドとも周知の仲だが、彼に対しては手をわずらわされた記憶しかない。

「実家に帰ってて悪かったな。会いたかったろ?」
「全然」
「かわいくないな!かわいいくせに!」

 素っ気ない態度でも抱かれたままの蓮が愛しくてたまらず、クラウドは黒髪をなでまわす。

「クラウド、久しぶりに会った先輩に、あいさつくらいするべきじゃないか?」

 殴ってしまいそうなレイニーを制し、シャウアが冷静に苦言する。

「…コンニチワ。これでいいですか?」
「あ、相変わらず…っ目上に対する態度がなってない…っ」

 敬いのない適当なあいさつに、さすがのシャウアもキレそうになる。

「クラウド、いい加減にしてください。レン様はお怪我をされているのですよ」

 ぐいぐいと蓮を抱きしめるクラウドを見かね、シオンが声をあげる。

「怪我?どこだ?」
「首です。おそらく保有者に強く絞められたのでしょう」
「これか…!すげぇ真っ赤じゃないか!痛かっただろ?」
「別に」

 クラウドにも首に触れられて心配され、蓮はぶすっとして顔を反らす。

「アラシ!!」
「ひ、はいっ!!」

 シオンの登場あたりから完全に気配を消していたアラシだが、クラウドに怒鳴られて飛びあがる。

「お前がついていながら、何でレンに怪我させているんだ?!」
「申し訳ありません!その、保有者の力があまりに強く…っ」
「言い訳するな!!」
「はいぃっ?!すみません!!」

 理由を聞かれたのに…と思うが、口答えは逆効果なので謝るしかない。

「覚悟は出来ているな…!!」

 拳を鳴らしながら迫るクラウドに、アラシはもう許しも請えなかった。


「では、城に戻りましょう。レン様」

 アラシの悲鳴が響く中、シオンは蓮にマントを羽織らせる。

「えっ?もう帰るのか?」
「はい、レン様をお迎えに来ただけですので。また何かありましたら、城にご連絡下さい」
「「ああ、わかった…」」

 久しぶりに会ったかわいい弟分との会話はほぼ業務連絡で、レイニーとシャウアはむなしく返事をする。

「あ、おい!勝手に帰るなよ!」

 駐在所を出る蓮とシオンに気づき、クラウドも後を追う。

「お…お待ちください~…っ」

 みっちりシメられたアラシもヨロヨロと3人を追いかけた。

「あの…一体、何が…」

 あまりの騒がしさに、奥の部屋からハルが怯えた様子で顔をのぞかせていた。
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