白銀色の中で

わだすう

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24,無法地帯

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 数秒後には8人の負傷者の山が、港街の外れに出来ていた。

「もう俺たちの情報が出回り始めたのか」

 早いなと、クラウドは手袋の汚れを払う。

「我々の船が着岸した時点で情報は流れますから、この国の犯罪組織ほとんどがすでに認識済みでしょう」

 いえ、世界中でしょうかと、シオンはマントのフードをかぶり直す。


 ウェア王国は国内の情報を他国にほとんど公開していない。国内に少数存在する『金眼保有者』を、強いては唯一無二のウェア王を『金眼』の略奪行為から守るためだ。それでも、未だ他国には『金眼』を狙う犯罪組織が多数存在しており、それを奪うための情報は少しでも得たいと考えている。
 しかし、国を閉じているウェア王国へ簡単には入国出来ない。他国にやってくるウェア人は国務大臣くらいで、そばには常に屈強な護衛がおり、情報を得ようと近づいても返り討ちにあうだけ。しかも、それによって国同士の関係が悪くなれば、王位継承式などの他国の要人が王国に招待される数少ない機会を失ってしまう。
 そのペナルティを最小限にし、情報を得るにはウェア王国から来た一般人ほど格好のターゲットはいない。港での異様な騒がしさはそのためで、一般人としてミカビリエに入国したシオンとクラウドは、同時に世界中の犯罪組織に狙われる身となったのだ。

 ふたりを連れて行こうとした彼らは、犯罪組織の一味というより、金で雇われた港街の荒くれ者たちのようだが。ふたりの戦闘能力の高さは予想外だっただろう。


「行きましょう」
「ああ」

 シオンとクラウドは国境近くの街を目指して歩き始めた。










「…何」
「うわっ?!やっぱ起きるの早いよ、レン君!!」

 蓮のほほをふにふに触っていたイールはまた突然目覚めた彼に驚き、飛び退く。

「何をしているんだ?」

 イールの騒がしい声を聞き、ワンスが部屋に入ってくる。

「ワンス!べ、別にちゅーしようとかしてないからね!」
「そいつはヨイチのものだ。うかつに触るな」

 あたふた余計な言い訳をする彼に、ワンスは苦言する。

「いいじゃん、少し味見するくらい。レン君、かわいい顔してるんだもん」
「それをヨイチの前で言えるか?」
「…言えません」

 イールはうなだれる。

 そう言えば、部屋を見回してもヨイチの姿はない。

「あ、ヨイチなら今出かけているよ。キミに何か買ってくるみたい」
「ふーん…」
「それよりさ、レン君の顔、何もいじらないでウェア王と同じなの?ウェア人じゃないんでしょ?出身はどこ?どうやって身代わりに選ばれたの?」

 イールは身を乗りだし、ずけずけと質問攻めする。

「答えなくていいぞ」
「え~?気になるじゃん!『身代わり護衛』の情報なんてほぼないんだから!」

 ワンスが見かねて蓮に言うが、イールは都市伝説レベルだよ!とまくし立てる。すると

「何を騒いでいる」

 ヨイチが気配も感じさせずに部屋に入って来ていた。

「お、お帰り、ヨイチ!レン君にちゅーなんかしてないからね!」
「馬鹿なのか、お前」

 また墓穴を掘るイールに、ワンスは呆れる。

「…レン、何かされたのか」
「あ?顔なで回されて、キスされそうになった」
「ギャー!!レン君ー?!なで回してないし!!」

 蓮にあっさりチクられ、イールは悲鳴をあげた。

「お前たちは好きなものを買ってこいと言っただろう」

 ヨイチはため息をつく。

「この国で買えるのって、レベル低くてさ~。ウェア王国で舌が肥えちゃって~」
「元に戻せ」
「わー厳しい」
「隣の部屋にひとり買ってきてあるぞ」

 ワンスが隣室の方を指す。

「ワンスの好み?美人?」

 と、イールは隣の部屋をのぞきに行く。

「レン君の方がずっと美人じゃん~」
「文句言うな」

 げんなりして戻ってくる彼に、ワンスは言い返す。

「レン、何か食べるか?」

 ヨイチは我関せずで蓮の額に触れ、ほほにキスをした。




「うまいか?」
「…フツー」

 蓮はヨイチにパンを少しずつちぎって口に入れられ、スープもスプーンで少量ずつ飲まされる。熱は引いたので咀嚼も苦ではなく、味もわかるようになった。

「レン君、元気になってきて良かったね。昨日までぐったりだったから」

 イールは椅子に座り、それをながめながらニコニコと言う。まだ両腕はひどく痛み、身体もろくに動かせないが。          
 そして、求めた水を飲んだ後、また口移しで鎮痛剤を飲まされる。

「…ぅえ」
「ふ…そんなに苦いか?」

 と、ヨイチは苦味にえずく蓮の濡れた唇をぬぐう。

「味覚ねーのか、お前…」
「お前の唇がうまいのはわかる」
「キモい」
「ははっ!面白い言葉を使うな、レン」

 声を出して笑う様は、ウェア王国に異変をもたらした元凶には見えなかった。


「汗をかいたな。身体を拭いてやろう」

 ヨイチは蓮のしっとり濡れている首筋に触れ、立ち上がる。

「お前たちは部屋を出ろ。レンの身体を見せたくない」

 ずっと見守っていたイールとワンスに命じると、タオルと温かい湯の入ったボウルを持ってくる。

「ええっ?!そこまでする?!ちょっと、ヨイチ…っ」
「わかった。行くぞ、イール」

 さすがにイールは抗議しようとするが、ワンスが止める。

「はぁ~…はいはい」

 大げさにため息をつき、ワンスと共に部屋を出て行った。


「もっと、身を任せろ」

 ヨイチは上着を脱がした蓮を抱き起こし、腕でつかまれない彼を肩に寄りかからせる。

「う…っ」

 蓮は身体中の痛みに顔をしかめ、なんとかヨイチに上半身を預ける。

「この傷…銃創だろう?あの国に武器はないはずだが」

 濡らしたタオルで蓮の身体を拭きながら、ヨイチは胸と背に残る傷あとを見る。

「…さぁ」

 これは王位継承式の時に拳銃で撃たれたもの。ヨイチたちは蓮がウェア王の身代わり護衛だと知っているようなので隠す必要もないが、蓮は説明するのが面倒でにごす。

「お前は自分のことを話したくないか?」
「人のこと、言えねーだろ…」
「ふ…そうだな」

 ヨイチたちの素性の方がほとんど謎のまま。言い返されて、ヨイチは笑む。

「お前の肌は思った通りだが、この傷は気に入らない。そのうち消してやる」
「んぅ…っ」

 胸元に唇を当てられ、蓮はびくっと身体を震わせる。

「レン…」

 ヨイチは蓮の負傷も身体を拭いていたことも忘れたかのように、腕をつかみ、胸に舌を這わせ、小さな突起にも吸い付く。

「あ…っく、痛ぅ…っ」

 鎮痛剤の効き目を上回る激痛に襲われ、さらにわずかな快感を与えられる耐え難い苦痛。けれど、蓮はヨイチを突き放すことも出来ずに悶えるしかない。

「ぅ…ぐ…っ」
「…っすまない」

 ヨイチは涙をにじませて震える蓮に気づき、手を離す。

「まだ辛かったな、レン。許せ」
「は、あ…」

 謝りながら新しい上着を羽織らせ、震えの治まらない蓮をそっとベッドに寝かせる。

「もうお前が苦しむことはしない。眠れ」
「ん…」

 苦痛から解放され、蓮は急にやってきた倦怠感と眠気に目を閉じる。蓮の呼吸が落ち着いていくのを見て、ヨイチは抑えられて良かったと、ふっと息を吐く。

「早くこの身体を味わわせてくれ、レン…」

 ほほを伝う涙を拭い、半開きの柔らかな唇にキスをした。








 シオンとクラウドはその日のうちに、国境近くの街に入った。

「治安悪そうだな」
「ええ、ウェア王国に最も近い街ですから」

 ウェア王国の情報を得たい犯罪組織の者たちが必然的に集まり、一般人は次第に離れ、街は無法地帯と化しているようだ。

「まぁそんなの俺たちには関係ないか。手分けして行くんだろ」

 蓮の写真と外国人らの似顔絵を頼りに、彼らを見た者はいないか探すのだ。

「はい。ですが、くれぐれも気をつけてください」
「へっ、お前が俺の心配すると気色悪いな。金眼の血縁ナメるなって言ってるだろ。じゃあな」

 待ち合わせ場所を決めると、クラウドは足早に多くの人が行き交う通りに向かう。

「…はい」

 シオンは彼の背を見送り、別の方向へ足を向けた。




「あー…見たね。見た見た」
「本当か?!どこでだ?!」

 声をかけた何人めかで早速いい反応があり、クラウドは嬉々としてその男に詰め寄る。

「俺の仲間の方が詳しいぞ。こっちに来な」
「ああ!」

 と、言われるがまま彼について行く。期待で浮き足だってしまい、彼が怪しく笑んで、携帯電話で何やら連絡していることには気がつかなかった。


「ここだ。入りな」

 案内されたのは人家というより、倉庫に使っていそうな建物だった。クラウドは彼が開けたドアをくぐったとたん

「?!」

頭に袋を被せられ、数人がかりで身体を押さえつけられる。

「よし!やったぞ!!」
「早く、早く縛れ!」

 ばんっとドアが閉まり、興奮する声をあげる男たちはぐるぐるとクラウドの身体を紐で縛りあげる。さすがにここまでされると、クラウドも騙されたことに気づく。
 彼らは犯罪組織の一員で、一般のウェア人がふたり入国したという情報を得ていた。異常な戦闘能力で捕らえるのは容易でないとも聞いていたが、ひとりなら何とかなると考えていたところ、クラウドに声をかけられた。これ幸いと、捕縛を試みたのだ。

「…なんだ、嘘かよ」
「え…っ?」

 暴れることもせず、ぽつりと袋の中でつぶやくクラウドに彼らは動きが止まる。

「こんなので…捕まえた気になるなよ!!」
「?!!」

 覇気を一気に高めると身体を押さえつけていた男たちは吹っ飛び、何重にも巻かれていた紐も千切れる。

「俺を騙した代償は安くないぞ。覚悟しやがれ…!!」

 クラウドは頭から袋を取り、怒りで更に鋭くなった目で青ざめる彼らをにらみつけた。






「ひ、ひぃ…っ!す、済まなかった!!許し…っぐへっ?!!」

 シオンは泣いて詫びる男を、容赦なく絞め落とした。クラウドと同じように写真を見せるなり『見たことがある。ついて来い』と話した男の嘘をすぐに見破り、建物の陰に入ると同時に攻撃したのだ。
 彼の心配はお人好しなクラウドがこういったトラップに簡単に引っ掛かってしまうのでは、ということ。犯罪組織の目的はあくまで情報なので、すぐに殺されはしないだろうが、時間の無駄になると思っていた。
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