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last,故郷
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「いや、学校行けって話せって言われただけ」
「では、あなたのお考えですか」
「別に何も考えてねーし」
「そうですか。ですが、ヒナタは登校に前向きになったようですよ」
「あ、そ」
「強引にでも登校させてみる、というのはいいお考えだったと私は思います。以前通っていた学校はヒナタにとって、あまりいい場所ではなかったようですから。環境が変われば、人も変わると気づいたのではないでしょうか」
シオンは話しながら、ヒナタの穏やかな寝顔を見る。不登校児すべてがそれに当てはまる訳ではないが、ヒナタには良いきっかけになっただろう。なんだかんだ言葉で説得されるより、実際体験した方がわかることもある。口数の少ない蓮らしいやり方だと思った。
「学校行ってるのなんか皆同じよーなガキだろ」
「ふふ、レン様もヒナタのような年齢の頃はきちんと登校されていたのではないですか」
「…っ、忘れた」
シオンに笑って指摘され、蓮は気恥ずかしいやら、悔しいやらでふてくされ、車窓に目をやる。
「そうですか」
シオンはそんな蓮を見つめてから、前を向く。
ヒナタのために命令以上の行動をし、心を動かせる蓮の力に改めて感心すると同時に、嫉妬してしまう。蓮の力にではなく、彼を行動させた王と与えられたヒナタに。こんな時は決まって、失った右目がうずいてくる。
「シオンさん、ご気分がすぐれませんか?」
うつむき、布の上から右目を押さえるシオンを運転手が心配して声をかける。
「いいえ、すみません。ご心配なく。運転に集中してください」
「あ…っそ、そうですか!失礼しました!」
シオンが微笑み、運転手はその綺麗な笑顔に見惚れてから慌てて前に向き直る。
「…」
他人に勘ぐられてしまうとは、重症だ。シオンはふっと表情を失くす。
「レン様、到着しましたらお茶にいたしましょうか」
「あ?ああ」
この後、入っていた勤務は休むことを決めた。
ウェア城、蓮の自室は温かいお茶のいい香りが漂っていた。
「ん…っあ…!」
そのお茶を飲むのもそこそこにシオンは蓮をベッドへ組み敷き、身体をよじらせる彼を逃がすまいとはだけた胸元に手のひらを滑らせ、股間に膝を押しつける。蓮はびくんと身体を強ばらせ、恐怖で潤む目をぎゅっと閉じる。
「嫌、だ…っシオン…っ」
「まだ、何もしていませんよ?」
「ぅ…するな…って、言っ…」
「それはもう無理ですね」
「んん…っ!」
シオンはふっと笑み、蓮の唇に唇を重ねる。柔らかな唇をなめて口を開くよう促し、歯列を割って舌を差し込む。角度を変え、逃げる蓮の舌と絡ませる。するとすぐに蓮の抵抗は薄れ、もっとと求めるように舌を差し出してくる。
「…っはぁ…あ」
唇を離せば、名残惜しげな息を吐く。
「ふふ…嫌だとおっしゃっていませんでしたか?」
「ぐ、う…っ」
濡れた唇を指先でなぞり、意地悪く笑うと蓮は顔を真っ赤にして目をそらす。一度深いキスでとろかしてしまえば、彼は快楽に従順になるとわかっているが、そんな表情を見たらじらしたくなる。
「我慢せず、おっしゃってください。『気持ちよくしろ』と」
「だ、誰が…っく、あぁ?!」
口では抵抗する蓮の胸元にはわせた指先で、強く突起を押しつぶす。首筋にキスをしながら突起をつまみあげ、股に当てた膝は軽く揺らしてやる。すると、下半身のもどかしさに蓮は無意識に股を押しつけてくるが、嘲笑うように膝をずらす。それを繰り返せば、更に彼は従順になる。
「さぁ…レン…?」
「ひ、ぅ…っ」
限界であろう蓮の耳元でささやくと、いっそう顔を上気させ、ふるふると身体を震わせる。
「…き…っもち、よ…し、ろ…っ」
蓮はプライドも羞恥も無理やり抑え、代わりに黒い大きな瞳からポロポロと涙をこぼす。蓮の身体も心もすべてを支配したような、たまらない瞬間。シオンはゾクリと全身が粟立ち、危うく理性が飛びそうになる。
「承知しました」
「あっ?!あぁーっ!!」
それを隠すためににこりと笑むと、蓮のズボンを手早く脱がし、すでにぐっしょり濡れたものを握る。待ちかねた直接的な刺激に蓮は悲鳴と共に、腰を跳ね上げる。後は蓮の求めるがまま、己の欲望をぶつけるだけだ。
シオンも元ではあるが、王やヒナタと同じ金眼保有者。同じように愛する者に守ってほしいという本能に近い感情がある。
自分には眼がないから?眼があればあなたは自分を見てくれる?
眼を失った時に芽生えた、金眼保有者に対するどうしようもなく稚拙な嫉妬心と劣等感。蓮は眼のあるなし関係なく、お前はお前だと言ってくれたのに。失ったはずの眼は、一度うずきだすと厄介だった。
「はぁ…っレン」
「あ…!シ、オン…っ!」
右目を覆う布が弛み、ほどける。こうして蓮に触れていると、眼のうずきは不思議と治まった。彼に守られたいなど身の程知らずも甚だしい。今の自分は彼への償いのために生きている。彼が望むなら手段は選ばず何でもすると誓ったではないか。
「レン…」
この見苦しい傷に唯一触れてくれる手を、シオンはぎゅっと握った。
それから、1週間後。ウェア王国の情勢が落ち着き、体調も万全になった蓮は元の自分の世界にいったん帰ることになった。
「帰る?故郷にか」
ヨイチの自室。その知らせを聞き、部屋主は読んでいた歴史書から顔を上げる。
「はい。お見送りはしますか」
知らせに来たのはシオン。ヨイチらに蓮の帰郷を知らせず、後で騒がれるよりは顔くらい合わせてやった方がいいと議会で決まったためだ。本来なら現役の王室護衛の役目だが、彼らはヨイチらを恐れている部分があり、シオンが引き受けた。
「ふざけるな。共に行くに決まっている」
「罪人であるあなたがレン様と共に行ける訳がないでしょう。それに、レン様の送迎は護衛長の役目です」
血相を変えて立ち上がったヨイチを、シオンは冷ややかに制する。
「護衛長…?あいつか。あんな頼りない者にレンを任せるのか」
「頼りないのは否定しませんが、アラシの役目は送迎のみです。レン様の帰省先で我々は何の干渉もしません」
アラシがくしゃみをしたのは言うまでもない。
「俺の話を信じていないのか。レンを故郷で無防備なまま過ごさせるつもりなのか。あんたは頭の切れる者だと思っていたが…期待外れだ」
ヨイチは頭を抱え、ぼすんとベッドに腰を下ろす。4人目の造られた金眼保有者のことをシオンに知らせておけば、少なくとも蓮を単独行動させることはしないと思っていたのに。ここまで自分の発言は信用されていないのかと失望する。
「私はあなたの期待に応えるために生きてはいません。それから、レン様が帰省先であなたの心配されているような者に出会うことはありません」
「何故そう言い切れる。レンの故郷はどこにある?レンは何者なんだ?レンは…っ」
変わらず冷静な口調のシオンを見上げ、まくし立てる。
「お答え出来ません」
「な…」
彼の答えはやはり同じで、ヨイチは言葉が出なくなる。
「何ソレっ?!何でレン君の何もかもを隠すのさ?!」
そこへ、ドアを勢い良く開けてイールが飛び込んでくる。ドアに張り付いて聞き耳を立てていたが、じれったくて我慢出来なかったのだ。
「すまん、ヨイチ」
ワンスは勝手に話を聞こうとし、更にイールを止められず邪魔したことを、申し訳なくてヨイチに謝る。ふたりの後ろでは見張りの護衛たちが青ざめていた。
「お答え出来ません」
彼らがいることに気配で気づいていたシオンは、動じずに同じ答えを繰り返す。
「もうそれ聞き飽きたよ!」
キィーっとイールはシオンをにらみつける。
「お聞きするのは最後です。お見送りはしますか」
それでも淡々と業務連絡を繰り返す彼に、3人は黙ってうなずくしかなかった。
「よお」
「レン君!」
「レン」
見送りのために用意された部屋にダウンジャケットとジーンズ姿の蓮が現れ、待たされていたイールとワンスはパッと顔を上げてかけ寄る。室内にはシオンを始め、数名の護衛がおり、触れるまで近づくことは出来ないが。蓮の背後にもアラシがついてくる。
「うわ、これキミの国の服?何着てもかーわいい~」
「うぜーな」
「レン君ヒドイ!ほめてるのに!」
「体力は戻ったようだな」
「ああ、ナメんな」
相変わらず素っ気なくて生意気な態度だが、イールとワンスはその会話が嬉しくて顔がほころぶ。
「コイツらにあんま迷惑かけんなよ」
と、蓮は護衛たちを指す。
「ふ…ああ」
「いいコにしてるって。気をつけて帰ってね」
ワンスは笑み、イールもにこにこと手を振る。護衛たちは蓮が気遣ってくれたと感涙していた。
「…レン」
傍観していたヨイチが口を開く。
「戻るのはいつだ」
「さぁな」
蓮はにっと笑う。ミカビリエにいた頃は見られなかった、かわいらしく穏やかな蓮の表情。それが見られるだけで、罪人となってもウェア王国に来たことは正しかったとヨイチは思えた。この、やっと見つけた大切なものを絶対に失いたくない。たとえ不可能でも、彼と共にいたいと伝えたい。
「俺も、お前の故郷へ…」
「レン様、お時間です」
そのNGワードを待っていたかのように、シオンが遮る。
「ん、ああ」
「アラシ、お願いします」
ヨイチから目を離した蓮の背に手を添え、アラシの方へと促す。
「はい!お任せください!参りましょう、レン様!!」
「るせーよ」
意気揚々と声を張り上げるアラシに顔をしかめ、蓮は部屋を出て行く。やがて、閉まった扉の向こうから、待っていたクラウドやヒナタ、護衛たちのしばしの別れを惜しむ声がわずかにもれ聴こえてくる。
「ヨイチ…」
「…」
扉をただ見つめるヨイチに、イールとワンスはかける言葉が見つからない。
「…」
シオンはそんな彼らを冷ややかに見下ろす。彼らと蓮の家族のような関係はいまだ不快でならなかった。しかし、4人目の造られた金眼保有者の話を全く信じていない訳ではない。ヨイチに嘘をつくメリットがないからだ。それよりもシオンの心配は、もし蓮がそれを知れば、自分をおとりにしてでも捕らえようと行動してしまうこと。ならば、今は何も知らないまま異世界へと帰った方がいい。最も有効な蓮を守る方法だが、ヨイチには納得も理解も出来ないだろう。
次の蓮の来訪までに、本格的に対策を考えなければならない。シオンは一度目を伏せ、気持ちを切り替えてから護衛たちに指示を始めた。
「レン様が先ほど無事帰郷されたと、連絡がありました」
王の執務室。アラシから連絡を受けたライカが片膝をつき、王に報告する。
「そうか。ありがとう」
王は感情を抑え、穏やかに微笑む。昨夜は蓮とずっと一緒に過ごし、笑って甘えて泣いて散々触れ合ったのに、今はこの世界にすらいないとわかるとたまらなく寂しい。
「失礼します、陛下。メンバル王国より報告書が届いております」
ライカと入れ替わりに書類を手にした国務大臣が入って来て、王は気持ちを切り替える。
「ああ、そこに置け」
「はい」
分厚い書類を『これから見る』の箱に置かせる。そのただの紙に、悲劇の引き金が記されていることを知るすべはまだなかった。
終。
「では、あなたのお考えですか」
「別に何も考えてねーし」
「そうですか。ですが、ヒナタは登校に前向きになったようですよ」
「あ、そ」
「強引にでも登校させてみる、というのはいいお考えだったと私は思います。以前通っていた学校はヒナタにとって、あまりいい場所ではなかったようですから。環境が変われば、人も変わると気づいたのではないでしょうか」
シオンは話しながら、ヒナタの穏やかな寝顔を見る。不登校児すべてがそれに当てはまる訳ではないが、ヒナタには良いきっかけになっただろう。なんだかんだ言葉で説得されるより、実際体験した方がわかることもある。口数の少ない蓮らしいやり方だと思った。
「学校行ってるのなんか皆同じよーなガキだろ」
「ふふ、レン様もヒナタのような年齢の頃はきちんと登校されていたのではないですか」
「…っ、忘れた」
シオンに笑って指摘され、蓮は気恥ずかしいやら、悔しいやらでふてくされ、車窓に目をやる。
「そうですか」
シオンはそんな蓮を見つめてから、前を向く。
ヒナタのために命令以上の行動をし、心を動かせる蓮の力に改めて感心すると同時に、嫉妬してしまう。蓮の力にではなく、彼を行動させた王と与えられたヒナタに。こんな時は決まって、失った右目がうずいてくる。
「シオンさん、ご気分がすぐれませんか?」
うつむき、布の上から右目を押さえるシオンを運転手が心配して声をかける。
「いいえ、すみません。ご心配なく。運転に集中してください」
「あ…っそ、そうですか!失礼しました!」
シオンが微笑み、運転手はその綺麗な笑顔に見惚れてから慌てて前に向き直る。
「…」
他人に勘ぐられてしまうとは、重症だ。シオンはふっと表情を失くす。
「レン様、到着しましたらお茶にいたしましょうか」
「あ?ああ」
この後、入っていた勤務は休むことを決めた。
ウェア城、蓮の自室は温かいお茶のいい香りが漂っていた。
「ん…っあ…!」
そのお茶を飲むのもそこそこにシオンは蓮をベッドへ組み敷き、身体をよじらせる彼を逃がすまいとはだけた胸元に手のひらを滑らせ、股間に膝を押しつける。蓮はびくんと身体を強ばらせ、恐怖で潤む目をぎゅっと閉じる。
「嫌、だ…っシオン…っ」
「まだ、何もしていませんよ?」
「ぅ…するな…って、言っ…」
「それはもう無理ですね」
「んん…っ!」
シオンはふっと笑み、蓮の唇に唇を重ねる。柔らかな唇をなめて口を開くよう促し、歯列を割って舌を差し込む。角度を変え、逃げる蓮の舌と絡ませる。するとすぐに蓮の抵抗は薄れ、もっとと求めるように舌を差し出してくる。
「…っはぁ…あ」
唇を離せば、名残惜しげな息を吐く。
「ふふ…嫌だとおっしゃっていませんでしたか?」
「ぐ、う…っ」
濡れた唇を指先でなぞり、意地悪く笑うと蓮は顔を真っ赤にして目をそらす。一度深いキスでとろかしてしまえば、彼は快楽に従順になるとわかっているが、そんな表情を見たらじらしたくなる。
「我慢せず、おっしゃってください。『気持ちよくしろ』と」
「だ、誰が…っく、あぁ?!」
口では抵抗する蓮の胸元にはわせた指先で、強く突起を押しつぶす。首筋にキスをしながら突起をつまみあげ、股に当てた膝は軽く揺らしてやる。すると、下半身のもどかしさに蓮は無意識に股を押しつけてくるが、嘲笑うように膝をずらす。それを繰り返せば、更に彼は従順になる。
「さぁ…レン…?」
「ひ、ぅ…っ」
限界であろう蓮の耳元でささやくと、いっそう顔を上気させ、ふるふると身体を震わせる。
「…き…っもち、よ…し、ろ…っ」
蓮はプライドも羞恥も無理やり抑え、代わりに黒い大きな瞳からポロポロと涙をこぼす。蓮の身体も心もすべてを支配したような、たまらない瞬間。シオンはゾクリと全身が粟立ち、危うく理性が飛びそうになる。
「承知しました」
「あっ?!あぁーっ!!」
それを隠すためににこりと笑むと、蓮のズボンを手早く脱がし、すでにぐっしょり濡れたものを握る。待ちかねた直接的な刺激に蓮は悲鳴と共に、腰を跳ね上げる。後は蓮の求めるがまま、己の欲望をぶつけるだけだ。
シオンも元ではあるが、王やヒナタと同じ金眼保有者。同じように愛する者に守ってほしいという本能に近い感情がある。
自分には眼がないから?眼があればあなたは自分を見てくれる?
眼を失った時に芽生えた、金眼保有者に対するどうしようもなく稚拙な嫉妬心と劣等感。蓮は眼のあるなし関係なく、お前はお前だと言ってくれたのに。失ったはずの眼は、一度うずきだすと厄介だった。
「はぁ…っレン」
「あ…!シ、オン…っ!」
右目を覆う布が弛み、ほどける。こうして蓮に触れていると、眼のうずきは不思議と治まった。彼に守られたいなど身の程知らずも甚だしい。今の自分は彼への償いのために生きている。彼が望むなら手段は選ばず何でもすると誓ったではないか。
「レン…」
この見苦しい傷に唯一触れてくれる手を、シオンはぎゅっと握った。
それから、1週間後。ウェア王国の情勢が落ち着き、体調も万全になった蓮は元の自分の世界にいったん帰ることになった。
「帰る?故郷にか」
ヨイチの自室。その知らせを聞き、部屋主は読んでいた歴史書から顔を上げる。
「はい。お見送りはしますか」
知らせに来たのはシオン。ヨイチらに蓮の帰郷を知らせず、後で騒がれるよりは顔くらい合わせてやった方がいいと議会で決まったためだ。本来なら現役の王室護衛の役目だが、彼らはヨイチらを恐れている部分があり、シオンが引き受けた。
「ふざけるな。共に行くに決まっている」
「罪人であるあなたがレン様と共に行ける訳がないでしょう。それに、レン様の送迎は護衛長の役目です」
血相を変えて立ち上がったヨイチを、シオンは冷ややかに制する。
「護衛長…?あいつか。あんな頼りない者にレンを任せるのか」
「頼りないのは否定しませんが、アラシの役目は送迎のみです。レン様の帰省先で我々は何の干渉もしません」
アラシがくしゃみをしたのは言うまでもない。
「俺の話を信じていないのか。レンを故郷で無防備なまま過ごさせるつもりなのか。あんたは頭の切れる者だと思っていたが…期待外れだ」
ヨイチは頭を抱え、ぼすんとベッドに腰を下ろす。4人目の造られた金眼保有者のことをシオンに知らせておけば、少なくとも蓮を単独行動させることはしないと思っていたのに。ここまで自分の発言は信用されていないのかと失望する。
「私はあなたの期待に応えるために生きてはいません。それから、レン様が帰省先であなたの心配されているような者に出会うことはありません」
「何故そう言い切れる。レンの故郷はどこにある?レンは何者なんだ?レンは…っ」
変わらず冷静な口調のシオンを見上げ、まくし立てる。
「お答え出来ません」
「な…」
彼の答えはやはり同じで、ヨイチは言葉が出なくなる。
「何ソレっ?!何でレン君の何もかもを隠すのさ?!」
そこへ、ドアを勢い良く開けてイールが飛び込んでくる。ドアに張り付いて聞き耳を立てていたが、じれったくて我慢出来なかったのだ。
「すまん、ヨイチ」
ワンスは勝手に話を聞こうとし、更にイールを止められず邪魔したことを、申し訳なくてヨイチに謝る。ふたりの後ろでは見張りの護衛たちが青ざめていた。
「お答え出来ません」
彼らがいることに気配で気づいていたシオンは、動じずに同じ答えを繰り返す。
「もうそれ聞き飽きたよ!」
キィーっとイールはシオンをにらみつける。
「お聞きするのは最後です。お見送りはしますか」
それでも淡々と業務連絡を繰り返す彼に、3人は黙ってうなずくしかなかった。
「よお」
「レン君!」
「レン」
見送りのために用意された部屋にダウンジャケットとジーンズ姿の蓮が現れ、待たされていたイールとワンスはパッと顔を上げてかけ寄る。室内にはシオンを始め、数名の護衛がおり、触れるまで近づくことは出来ないが。蓮の背後にもアラシがついてくる。
「うわ、これキミの国の服?何着てもかーわいい~」
「うぜーな」
「レン君ヒドイ!ほめてるのに!」
「体力は戻ったようだな」
「ああ、ナメんな」
相変わらず素っ気なくて生意気な態度だが、イールとワンスはその会話が嬉しくて顔がほころぶ。
「コイツらにあんま迷惑かけんなよ」
と、蓮は護衛たちを指す。
「ふ…ああ」
「いいコにしてるって。気をつけて帰ってね」
ワンスは笑み、イールもにこにこと手を振る。護衛たちは蓮が気遣ってくれたと感涙していた。
「…レン」
傍観していたヨイチが口を開く。
「戻るのはいつだ」
「さぁな」
蓮はにっと笑う。ミカビリエにいた頃は見られなかった、かわいらしく穏やかな蓮の表情。それが見られるだけで、罪人となってもウェア王国に来たことは正しかったとヨイチは思えた。この、やっと見つけた大切なものを絶対に失いたくない。たとえ不可能でも、彼と共にいたいと伝えたい。
「俺も、お前の故郷へ…」
「レン様、お時間です」
そのNGワードを待っていたかのように、シオンが遮る。
「ん、ああ」
「アラシ、お願いします」
ヨイチから目を離した蓮の背に手を添え、アラシの方へと促す。
「はい!お任せください!参りましょう、レン様!!」
「るせーよ」
意気揚々と声を張り上げるアラシに顔をしかめ、蓮は部屋を出て行く。やがて、閉まった扉の向こうから、待っていたクラウドやヒナタ、護衛たちのしばしの別れを惜しむ声がわずかにもれ聴こえてくる。
「ヨイチ…」
「…」
扉をただ見つめるヨイチに、イールとワンスはかける言葉が見つからない。
「…」
シオンはそんな彼らを冷ややかに見下ろす。彼らと蓮の家族のような関係はいまだ不快でならなかった。しかし、4人目の造られた金眼保有者の話を全く信じていない訳ではない。ヨイチに嘘をつくメリットがないからだ。それよりもシオンの心配は、もし蓮がそれを知れば、自分をおとりにしてでも捕らえようと行動してしまうこと。ならば、今は何も知らないまま異世界へと帰った方がいい。最も有効な蓮を守る方法だが、ヨイチには納得も理解も出来ないだろう。
次の蓮の来訪までに、本格的に対策を考えなければならない。シオンは一度目を伏せ、気持ちを切り替えてから護衛たちに指示を始めた。
「レン様が先ほど無事帰郷されたと、連絡がありました」
王の執務室。アラシから連絡を受けたライカが片膝をつき、王に報告する。
「そうか。ありがとう」
王は感情を抑え、穏やかに微笑む。昨夜は蓮とずっと一緒に過ごし、笑って甘えて泣いて散々触れ合ったのに、今はこの世界にすらいないとわかるとたまらなく寂しい。
「失礼します、陛下。メンバル王国より報告書が届いております」
ライカと入れ替わりに書類を手にした国務大臣が入って来て、王は気持ちを切り替える。
「ああ、そこに置け」
「はい」
分厚い書類を『これから見る』の箱に置かせる。そのただの紙に、悲劇の引き金が記されていることを知るすべはまだなかった。
終。
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