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5,友達になって
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「僕、あなたと会ってすごく驚いたんだ!本当に僕とそっくりだったんだもの!あそこではあんな風に偉そうにしなくちゃならなかったんだけど、飛び上がりたいくらいだったんだよ!」
王子は本当に飛び上がりそうなくらい、まくし立てて話す。
「それで…あの…城には僕と同じ年齢の人はいなくて。あなたに会ったら、お願いしたいことがずっとあって…」
そして、急に伏し目がちになり、もじもじと話す。表情コロコロ変わるヤツだなと、蓮は無表情で思う。
「僕と、友達になってほしいんだ!」
意を決したように、王子は蓮の目を見つめ訴える。
「友達…」
「うん、僕この城から出たことがなくて、友達がいないんだ。あなたのことを知った時から、もしかしたら、友達になれるんじゃないかなって」
まさかの要望に、蓮はあっけにとられて王子を見る。
王子、という身分ゆえに友達を作ることは困難だったのだろう。蓮も理由は違えど友達を作る機会がなかった。住む世界が文字通り違い、顔以外の共通点など皆無だと思っていた王子が自分と同じく友達というものに憧れ、飢えていたのだ。
王子は蓮の存在を知り、その希望を芽生えさせた。蓮は逆に絶望に近い感情を抱いてしまっていた。
どうせ逃れられないことに絶望するくらいなら、王子の希望に乗っかる方がいいかもしれない。
「あ、ごめんね。僕ばかり話してしまって。迷惑、かな…」
王子は黙っている蓮に申し訳なさそうに言い、うつむく。
「いや」
「え?」
「友達になってやる」
王子が顔を上げ、蓮は照れくさくて目線を反らす。
「ほ、本当に?」
「ああ」
「あ…ありがとう!!ありがとう!!」
蓮の返事に王子はぱあっと金色の目を輝かせ、勢いよく抱きついた。
「うわ…っ」
蓮は驚いて突き飛ばすわけにもいかず、よろけて受け止める。
「僕はティル!ティルって呼んで!」
父様と母様が付けてくれた愛称なんだと嬉しそうに言う王子をどうしたら良いかわからず、触れられない手を震わす。
「あなたは?」
「…蓮」
少し身体を離して顔を見つめる王子から目線だけ反らし、ぼそっと言う。
「レン!!」
王子はいっそうにっこりと笑い、またぎゅうっと抱きしめた。
なかなか離れない王子を蓮はやっとで引きはがしてぐったりとベッドに座り、王子はパタパタと足を振って嬉しげに隣に座る。
「あれ、レン。お昼食べてないの?」
「ん、ああ」
テーブル上のお弁当箱を見て、王子が聞く。昼食のことなどすっかり忘れていた。
「僕もまだだけどね」
「食うか?」
「えっ!いいの?!」
「あ、つーか、お前これ食っていいのか?」
何気なく言ってしまったが、王子ともなれば食事管理も厳しいのではと思う。
「ひとりで食べたっておいしくないもの。レンと一緒に食べたい」
王子はにっこりと言った。
ふたりは揃ってテーブルに着き、ひとつのお弁当をつついて食べていた。王子は椅子、蓮はベッドに座り、ひとつずつしかないスプーンとフォークを分け、お茶はバスルームに備え付けのコップを持ってきて…。と、やや食べづらくはあったが、蓮も誰かと食事をすることは久しく、何より王子が嬉しそうなのが悪くない気分にさせた。
「おいしいね、レン」
「ああ…」
ただ、お弁当の中身は肉や野菜ということはわかるが、蓮は見たことがない食材ばかりで。まずくはないが、異世界であることをここでも実感した。
「あのさ、レンは城に来るまでに街の様子は見た?」
「ああ…」
お茶を飲みながら聞く王子に、蓮は何で出来ている茶だろうかと思いながらうなずく。
「どうだった?みんな幸せそう?」
「んー…たぶん」
送迎車から風景の一部として見たが、後半寝ていたためあいまいに返事をする。
「僕はもうすぐ国王になる」
王子の顔が次期国王のそれになり、蓮ははっとする。
「でも、自分の治める国の街を実際に見たことがないんだ。聞いたり、読んだりしただけじゃわからないこともあるのにね」
おかしいよねと、王子は自嘲した。
「わかった」
「えっ?」
蓮はコップを置くと、立ち上がった。
「着替えろ」
不思議そうに見上げる王子をよそに、クローゼットに向かう。
「レン?何で?」
この国の一般的な服のそろったクローゼット内から適当に服を引っ張り出し、立ち上がった王子に投げ渡す。
「街に行く」
蓮はにっと笑う。
「…ええぇーっ?!」
王子はワンテンポ置いてから、驚きの声を上げた。
「れ、レン…本当に?」
「ああ」
着替え終わった蓮は窓を全開する。王子も戸惑いながらも着替えを済ませ、蓮に改めて聞く。
「行きたいんだろ、街」
「そうだけど…っどうやって…」
エントランスホールからはもちろん、例え他の出入り口があったとしても、今まで城から出たことのない王子が普通の出入り口から出るのは不可能だろう。ならば。
「ここから飛び降りる」
「えぇえ?!」
シンプルかつ大胆な脱出方法に王子は驚愕する。蓮の部屋があるのは5階。と言っても、城は1、2階部分の高さがあるため、実質10階の建物から飛び降りるようなもの。王子ははるか下の地から吹き上げる風に恐怖で身震いする。
「ホラ、来い」
窓枠に足をかけた蓮が手を差し出すが、王子はぶんぶん首を横に振る。
「む、無理無理!すっごい高いよ!外に行くなら中庭があるから…っ」
「ティル」
涙目の王子の訴えを蓮はさえぎった。
「俺はお前の何だ」
「えっ、と、友達…」
きょとんとして王子は答える。
「友達といりゃ、何だって出来んだよ」
蓮はもう一度手を差し出した。
「来い、ティル」
蓮の力強い言葉と黒い瞳。王子は恐怖心を抑えるようにぎゅっと手を握りしめる。
「…うん」
そして、おそるおそる出された震える手を蓮はつかむやいなや、王子を引き寄せて胸に抱きかかえる。
「しっかり掴まってろ」
と、言い終わらないうちに蓮は窓枠を蹴っていた。城の壁を背に落下していく速さは目をつぶっていても風で感じてしまう。王子の声にならない悲鳴が、晴れた空に吸い込まれていった。
「…よっ、と」
国境近くの断崖絶壁に比べたら何てことのない高さ。蓮は王子の重さも関係なく、余裕で地上に着地した。
「ひぃ、いぃぃ…っ」
「ティル、着いたぞ」
蓮の首もとをぎゅうぎゅう抱きしめ、悲鳴の止まない王子の背をぽんと叩くが、王子は嫌々と首を振る。このまま止まっていては誰かに見つかるかもしれない。蓮は軽くため息をつくと、王子を抱いたまま芝生を走り抜け、見上げるほど高い塀を飛び越えていった。
城を囲む深い森を抜ける頃には王子もようやく落ち着いていた。
「降りるか?」
「うん、ごめんね」
照れくさそうにほほを染め、蓮から離れた。
「ホラ、見ろ」
蓮は自分の方ばかり見る王子の顔を反対方向へ向ける。
「わぁ…」
城からではなく、初めて地上から見る街の風景。
王子は感嘆の声をもらす。そんな王子を眺めてから、蓮は後ろの森を振り返る。念のため来た時に通った車道を避けたのだが、王子を抱えていたとはいえ抜けるのに骨が折れた。国境の森、シオンの結界、絶壁の崖、城を囲む高い塀に広い堀、そしてこの森。こうまでして守っているものは…。
蓮は金色の目を輝かせる王子をまた見つめた。
ウェア城内、2階にある大会議場。白いコートの国務大臣ほぼ全員と、黒コートの王室護衛たちが数人集まっていた。国務大臣のひとり、ウォータのいら立ちを隠せない声が響く。
「レン君が我々のことを全く知らなかったというのは本当かね?!」
「はい」
「国の内情も知らず、王子への忠誠心すらもないということになる!!」
「はい」
ウォータは恰幅の良い身体を揺らし、頭を下げるシオンに詰め寄る。
「先代はどうしたのだ!あんなに真面目な彼の子息が何故だ?!」
「レン様の戦闘の腕前はかなりのものです。我々護衛の中でも敵う者は少ないでしょう。ミノル様からのご指導をしっかり受けていらしたたまものだと思われます」
さすがに実と蓮のいざこざを話すわけにはいかず、シオンは当たり障りなくフォローするが
「余計悪いではないか。『あのこと』を知ったら王子に危害を加えるかもしれん。それを防げる者がおらぬということになる」
別の大臣がそれを更に危惧する。ウォータは大きくため息をついた。
「最悪、彼を抹殺しなければならない。シオン、その時は頼むぞ」
「…はい」
予想以上に大臣たちの蓮への印象は悪い。シオンはこれ以上のフォローは逆効果だと思い、頭を下げるしかない。
「護衛長!!ご報告が!」
そこに、慌てた様子でひとりの護衛が大会議場に飛び込んでくる。
「どうしました?」
彼は大臣たちに頭を下げてから、シオンに耳打ちする。
「…はい、わかりました」
「何かあったのかね」
護衛の顔は心なし青ざめており、ウォータは何事かとシオンに聞く。
「はい、王子のお姿が見えないとのことです」
「全くあのお方はいまだに子ども気分で…。城内をくまなく探したまえ」
王子がお付きの護衛たちを撒き、かくれんぼのように城内を逃げ回るのはよくあること。ウォータはあきれて言う。
「それから」
そんな大臣に、シオンは話を続ける。
「城の塀周辺を見回っていた者からの報告で、黒髪の男が王子らしき人物を抱き、森に入って行ったのを目撃したとのことです」
「何ぃ?!」
まさかの報告にウォータを始め、大臣たちは驚きを通り越して激昂する。
「黒髪の男といったらジョウノレン以外いないではないか!」
「あやつ、王子を拐おうとは何のつもりだ!」
「シオン、至急王子を保護し、ジョウノレンを確保、連行したまえ…!」
大臣たちの怒号が飛び交う中、ウォータが拳を震わせながら命じる。
「承知しました」
シオンはさっと頭を下げて大会議場を出ると、報告に来た護衛に元の持ち場に戻るよう告げ、廊下の窓を開ける。
「最悪な結末になるかもしれませんよ、レン」
そこから飛び降り、つぶやいた。
王子は本当に飛び上がりそうなくらい、まくし立てて話す。
「それで…あの…城には僕と同じ年齢の人はいなくて。あなたに会ったら、お願いしたいことがずっとあって…」
そして、急に伏し目がちになり、もじもじと話す。表情コロコロ変わるヤツだなと、蓮は無表情で思う。
「僕と、友達になってほしいんだ!」
意を決したように、王子は蓮の目を見つめ訴える。
「友達…」
「うん、僕この城から出たことがなくて、友達がいないんだ。あなたのことを知った時から、もしかしたら、友達になれるんじゃないかなって」
まさかの要望に、蓮はあっけにとられて王子を見る。
王子、という身分ゆえに友達を作ることは困難だったのだろう。蓮も理由は違えど友達を作る機会がなかった。住む世界が文字通り違い、顔以外の共通点など皆無だと思っていた王子が自分と同じく友達というものに憧れ、飢えていたのだ。
王子は蓮の存在を知り、その希望を芽生えさせた。蓮は逆に絶望に近い感情を抱いてしまっていた。
どうせ逃れられないことに絶望するくらいなら、王子の希望に乗っかる方がいいかもしれない。
「あ、ごめんね。僕ばかり話してしまって。迷惑、かな…」
王子は黙っている蓮に申し訳なさそうに言い、うつむく。
「いや」
「え?」
「友達になってやる」
王子が顔を上げ、蓮は照れくさくて目線を反らす。
「ほ、本当に?」
「ああ」
「あ…ありがとう!!ありがとう!!」
蓮の返事に王子はぱあっと金色の目を輝かせ、勢いよく抱きついた。
「うわ…っ」
蓮は驚いて突き飛ばすわけにもいかず、よろけて受け止める。
「僕はティル!ティルって呼んで!」
父様と母様が付けてくれた愛称なんだと嬉しそうに言う王子をどうしたら良いかわからず、触れられない手を震わす。
「あなたは?」
「…蓮」
少し身体を離して顔を見つめる王子から目線だけ反らし、ぼそっと言う。
「レン!!」
王子はいっそうにっこりと笑い、またぎゅうっと抱きしめた。
なかなか離れない王子を蓮はやっとで引きはがしてぐったりとベッドに座り、王子はパタパタと足を振って嬉しげに隣に座る。
「あれ、レン。お昼食べてないの?」
「ん、ああ」
テーブル上のお弁当箱を見て、王子が聞く。昼食のことなどすっかり忘れていた。
「僕もまだだけどね」
「食うか?」
「えっ!いいの?!」
「あ、つーか、お前これ食っていいのか?」
何気なく言ってしまったが、王子ともなれば食事管理も厳しいのではと思う。
「ひとりで食べたっておいしくないもの。レンと一緒に食べたい」
王子はにっこりと言った。
ふたりは揃ってテーブルに着き、ひとつのお弁当をつついて食べていた。王子は椅子、蓮はベッドに座り、ひとつずつしかないスプーンとフォークを分け、お茶はバスルームに備え付けのコップを持ってきて…。と、やや食べづらくはあったが、蓮も誰かと食事をすることは久しく、何より王子が嬉しそうなのが悪くない気分にさせた。
「おいしいね、レン」
「ああ…」
ただ、お弁当の中身は肉や野菜ということはわかるが、蓮は見たことがない食材ばかりで。まずくはないが、異世界であることをここでも実感した。
「あのさ、レンは城に来るまでに街の様子は見た?」
「ああ…」
お茶を飲みながら聞く王子に、蓮は何で出来ている茶だろうかと思いながらうなずく。
「どうだった?みんな幸せそう?」
「んー…たぶん」
送迎車から風景の一部として見たが、後半寝ていたためあいまいに返事をする。
「僕はもうすぐ国王になる」
王子の顔が次期国王のそれになり、蓮ははっとする。
「でも、自分の治める国の街を実際に見たことがないんだ。聞いたり、読んだりしただけじゃわからないこともあるのにね」
おかしいよねと、王子は自嘲した。
「わかった」
「えっ?」
蓮はコップを置くと、立ち上がった。
「着替えろ」
不思議そうに見上げる王子をよそに、クローゼットに向かう。
「レン?何で?」
この国の一般的な服のそろったクローゼット内から適当に服を引っ張り出し、立ち上がった王子に投げ渡す。
「街に行く」
蓮はにっと笑う。
「…ええぇーっ?!」
王子はワンテンポ置いてから、驚きの声を上げた。
「れ、レン…本当に?」
「ああ」
着替え終わった蓮は窓を全開する。王子も戸惑いながらも着替えを済ませ、蓮に改めて聞く。
「行きたいんだろ、街」
「そうだけど…っどうやって…」
エントランスホールからはもちろん、例え他の出入り口があったとしても、今まで城から出たことのない王子が普通の出入り口から出るのは不可能だろう。ならば。
「ここから飛び降りる」
「えぇえ?!」
シンプルかつ大胆な脱出方法に王子は驚愕する。蓮の部屋があるのは5階。と言っても、城は1、2階部分の高さがあるため、実質10階の建物から飛び降りるようなもの。王子ははるか下の地から吹き上げる風に恐怖で身震いする。
「ホラ、来い」
窓枠に足をかけた蓮が手を差し出すが、王子はぶんぶん首を横に振る。
「む、無理無理!すっごい高いよ!外に行くなら中庭があるから…っ」
「ティル」
涙目の王子の訴えを蓮はさえぎった。
「俺はお前の何だ」
「えっ、と、友達…」
きょとんとして王子は答える。
「友達といりゃ、何だって出来んだよ」
蓮はもう一度手を差し出した。
「来い、ティル」
蓮の力強い言葉と黒い瞳。王子は恐怖心を抑えるようにぎゅっと手を握りしめる。
「…うん」
そして、おそるおそる出された震える手を蓮はつかむやいなや、王子を引き寄せて胸に抱きかかえる。
「しっかり掴まってろ」
と、言い終わらないうちに蓮は窓枠を蹴っていた。城の壁を背に落下していく速さは目をつぶっていても風で感じてしまう。王子の声にならない悲鳴が、晴れた空に吸い込まれていった。
「…よっ、と」
国境近くの断崖絶壁に比べたら何てことのない高さ。蓮は王子の重さも関係なく、余裕で地上に着地した。
「ひぃ、いぃぃ…っ」
「ティル、着いたぞ」
蓮の首もとをぎゅうぎゅう抱きしめ、悲鳴の止まない王子の背をぽんと叩くが、王子は嫌々と首を振る。このまま止まっていては誰かに見つかるかもしれない。蓮は軽くため息をつくと、王子を抱いたまま芝生を走り抜け、見上げるほど高い塀を飛び越えていった。
城を囲む深い森を抜ける頃には王子もようやく落ち着いていた。
「降りるか?」
「うん、ごめんね」
照れくさそうにほほを染め、蓮から離れた。
「ホラ、見ろ」
蓮は自分の方ばかり見る王子の顔を反対方向へ向ける。
「わぁ…」
城からではなく、初めて地上から見る街の風景。
王子は感嘆の声をもらす。そんな王子を眺めてから、蓮は後ろの森を振り返る。念のため来た時に通った車道を避けたのだが、王子を抱えていたとはいえ抜けるのに骨が折れた。国境の森、シオンの結界、絶壁の崖、城を囲む高い塀に広い堀、そしてこの森。こうまでして守っているものは…。
蓮は金色の目を輝かせる王子をまた見つめた。
ウェア城内、2階にある大会議場。白いコートの国務大臣ほぼ全員と、黒コートの王室護衛たちが数人集まっていた。国務大臣のひとり、ウォータのいら立ちを隠せない声が響く。
「レン君が我々のことを全く知らなかったというのは本当かね?!」
「はい」
「国の内情も知らず、王子への忠誠心すらもないということになる!!」
「はい」
ウォータは恰幅の良い身体を揺らし、頭を下げるシオンに詰め寄る。
「先代はどうしたのだ!あんなに真面目な彼の子息が何故だ?!」
「レン様の戦闘の腕前はかなりのものです。我々護衛の中でも敵う者は少ないでしょう。ミノル様からのご指導をしっかり受けていらしたたまものだと思われます」
さすがに実と蓮のいざこざを話すわけにはいかず、シオンは当たり障りなくフォローするが
「余計悪いではないか。『あのこと』を知ったら王子に危害を加えるかもしれん。それを防げる者がおらぬということになる」
別の大臣がそれを更に危惧する。ウォータは大きくため息をついた。
「最悪、彼を抹殺しなければならない。シオン、その時は頼むぞ」
「…はい」
予想以上に大臣たちの蓮への印象は悪い。シオンはこれ以上のフォローは逆効果だと思い、頭を下げるしかない。
「護衛長!!ご報告が!」
そこに、慌てた様子でひとりの護衛が大会議場に飛び込んでくる。
「どうしました?」
彼は大臣たちに頭を下げてから、シオンに耳打ちする。
「…はい、わかりました」
「何かあったのかね」
護衛の顔は心なし青ざめており、ウォータは何事かとシオンに聞く。
「はい、王子のお姿が見えないとのことです」
「全くあのお方はいまだに子ども気分で…。城内をくまなく探したまえ」
王子がお付きの護衛たちを撒き、かくれんぼのように城内を逃げ回るのはよくあること。ウォータはあきれて言う。
「それから」
そんな大臣に、シオンは話を続ける。
「城の塀周辺を見回っていた者からの報告で、黒髪の男が王子らしき人物を抱き、森に入って行ったのを目撃したとのことです」
「何ぃ?!」
まさかの報告にウォータを始め、大臣たちは驚きを通り越して激昂する。
「黒髪の男といったらジョウノレン以外いないではないか!」
「あやつ、王子を拐おうとは何のつもりだ!」
「シオン、至急王子を保護し、ジョウノレンを確保、連行したまえ…!」
大臣たちの怒号が飛び交う中、ウォータが拳を震わせながら命じる。
「承知しました」
シオンはさっと頭を下げて大会議場を出ると、報告に来た護衛に元の持ち場に戻るよう告げ、廊下の窓を開ける。
「最悪な結末になるかもしれませんよ、レン」
そこから飛び降り、つぶやいた。
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