黄金色の君へ

わだすう

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7,金眼

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「君は一体何を考えているのだ!!」

 日が落ち、夕暮れに包まれたウェア城。大会議場ではウォータ大臣の怒鳴り声が響き渡っていた。
 先ほど蓮と王子は城に連れ戻され、王子はシオンと共に自室に行っている。国務大臣たちに囲まれ、痛烈な説教を受けているのは蓮だけだった。

「王子を無断で外に連れ出すとは正気かね?!」
「あいつをこっから出さねー方が正気じゃねーし」

 イライラと怒鳴りつけるウォータに、蓮は心底面倒くさげに悪態をつく。

「レン君!君は何も知らないからそのようなことを…っゲホ!ゴホっ!」
「まあまあ、ウォータ大臣。絡んできた若者をレン君が追い払ったそうではないですか」

 余計に怒りを煽られて咳き込むウォータを、そばにいるザイル大臣がにこやかになだめる。

「…っ外出などしなければ、絡まれることもなかったろう…!」
「態度は問題だが、王子を思う気持ちはあるようだ。『あのこと』を話してもよいのでは?」
「うむ。知れば馬鹿なことをしたとわかるだろう」

 他の大臣が提案し、ウォータは息を整えながらうなずいた。

 ウォータ大臣の話す内容は蓮にとって信じがたいものだった。
 金色の目は『金眼』と呼ばれ、ウェア王国に住むウェア人にのみ、時折持つ者が生まれる。保有者は千人にひとりほどの割合で、非常に稀少なものだ。普通片目だけだが、王とその位を継ぐ者だけが両目ともそれを持つという。
 『金眼』はその美しさゆえに宝石としての価値があり、昔は外国人による略奪行為が頻発していた。それを憂いだ先々代の王が国を閉じ、現在は略奪行為はなくなったが、今でも他国では過去に奪われた『金眼』が莫大な金額で取り引きされている。しかも新たな『金眼』を狙う犯罪組織もいまだ無数に存在するらしい。

「最も価値があるといわれるのが王の『金眼』だ。外国人は通常入国出来ないとはいえ、いつ何時侵入され、狙われるか気を抜けないのだよ」
「ふーん…」

 確かに王子の目はキレイだと蓮は思う。あの厳重過ぎる防御策は外国人から『金眼』を、王子を守るためのもの。一応それで納得出来なくもない。しかし、街で絡んできた男たちの態度はそれでは説明出来ない気がする。他にも何かあるなと蓮はふんでいた。

「わかったかね?王子にそのような危険が及ばないようにするために君はいるのだ。その君がこんなことをされては…」
「あーはいはい」
「…っ!!まったく、君は…っ」
「まあまあ」

 適当な返事をする蓮にウォータはまた頭に血がのぼり、ザイルがなだめた。

「あ、つーか、あいつは何で『王子』なんだ?」
「何?」
「俺が必要なのは『王』なんだろ」

 蓮は隣にいる別の大臣に疑問のひとつを聞いてみる。

「先代の王は2年前に亡くなられた。しかし、王子が王位を継げるのは18歳になられてからと決まっている。それが1年後だ」
「ふーん、で?」
「君のその態度はどうにかならんのかね」

 大臣はあきれつつ、通常より早い蓮の呼び出し理由を話した。

 先代の王が亡くなってから2年。何とか国務大臣たちが国政を預ってきたが、やはり王不在の不安感、不信感が徐々に国民に募り、治安の悪化が懸念され始めた。そこで苦肉の策として、仮の王位継承式を行うことを決定した。たとえ仮でも次期国王の存在をアピールすれば、国民の不安感を払拭出来ると考えたのだ。しかし、先の理由により危険が伴うため、王子は国民の前に姿を見せることが出来ない。

「ここまで話せばあとはわかるだろう」
「…『身代わり』護衛、か」

 ようやく蓮は自分が今ここに来た理由を知った。王子に代わり蓮が仮の王位継承式で国民に姿を見せれば、もし不測の事態が起きても王子には危害が及ばない。確かに厳重な警備だ何だと気を揉むよりは手っ取り早い。

「レン君」

 ざわざわと大臣たちが継承式の話をし始め、皆の蓮への関心が反れた時、後方にいた大臣がそっと話しかけてくる。

「護衛に関する話も聞きたいだろう。あの護衛について行くといい」

 大臣の指した先にいる黒コートが頭を下げた。






 その護衛に連れられ、やってきたのは城の裏手にある建物だった。渡り廊下で繋がっているが離れの建物になる。

「ここは闘技場です。我々護衛が主に訓練を行う場所です」

 彼は説明しながら扉を開けた。体育館に近い建物だが、ドーム球場並みの規模だ。

「初めまして、レン様」

 と、広さに呆ける蓮に片膝を着くのはまた別の護衛。立ち上がると蓮より少し高いくらいの背で、青布はハチマキのように頭に巻かれている。赤い短髪と鋭く茶色い目が印象的だ。

「私はクラウドといいます。彼はハレ。よろしくお願いします」

 そう自己紹介をし、蓮を案内した護衛ハレがコップについだ飲み物を「どうぞ」とふたりに手渡す。

「何か警戒してます?心配しないでください。私たちは大臣たちと違って小難しい話はしませんから」

 クラウドは無表情のままの蓮に笑顔で言い、飲み物を一口飲む。気さくな兄貴分といった雰囲気で、同じ護衛でもシオンとはだいぶ違うなと思いながら、蓮もコップに口をつけた。甘ったるい変わった味。これも何で出来ているんだと顔をしかめる。

「聞きましたよ。あの王子を外に連れ出すなんて!でも、怒られるの私たちなんでほどほどにお願いしますね」

 クラウドはにこにこと表情豊かに話をする。

「私たち王室護衛なんて名がついてますが、大臣の外出にもついて行くんですよ。あいつらなんか誰も襲わないっての。なぁ?」
「はい!」

 いたずらっぽくハレに話を振り、彼も笑ってうなずく。

 2年前まで戦闘訓練をしていたとはいえ、蓮は護衛としては素人同然。一瞬だが王子を危険にさらしてしまったし、これから彼らに色々学ばなければならないだろう。蓮はあんなに拒絶していた自分の使命を受け入れ始めていた。

「あ、文句を言っていたなんて大臣たちにばらさないでくださいね」
「…ああ」

 話を聞きながら、蓮は急に身体のダルさを感じだした。異世界に来た疲れだろうか。そんなにヤワではないと思っていたが。

「…っ」

 さらにひどい目眩に襲われ、立っているのもつらくなってくる。

「…どうしました?」
「な、何でもな…っんぅ?!」

 異変に気づいたであろうクラウドが背に触れると、それだけで蓮はびくっと飛び上がるほど強い刺激に感じた。コップを落とし、こぼれた飲み物が床に広がる。身体がおかしい。立っていられず、がくんと膝をついてしまう。

「やっと効いてきた」
「…!」
「さすが、だな。普通数秒で足腰立たなくなるのに。一瞬効かないかと思ったよ」

 クラウドの表情と口調が変わる。彼の目線にはこぼれた甘ったるい飲み物。それで蓮は一服盛られたことに気づく。一応警戒していたはずなのに、まんまと飲んでしまった自分を呪う。

「は、はぁ…っ」

 身体が熱くなり、呼吸が乱れる。蓮は訓練の一貫として薬物、毒物への耐性を鍛えていた。にも関わらずこの即効性。かなり強い薬物を飲まされたようだ。

「おや、まだ始まっていないのか」

 闘技場の扉が開き、白いコートの国務大臣が数人入ってくる。先ほど大会議場で蓮に話しかけ、ハレに案内させた大臣もいた。

「もうすぐですよ」

 クラウドはニヤリと笑い、ハレに目配せする。

「ぐ…っ!」

 ハレはうなずくと膝をついていた蓮を後ろから羽交い締めにする。

「ふ…ざけっ…なっ!」

 触れられるだけでキツい身体の力を振り絞り、蓮は背後のハレの顔に思い切り後頭部で頭突きをくらわせる。

「がっっ?!」

 ハレはたまらず蓮を離し、蓮は床に転げた。

「へぇ、やるね」

 クラウドは楽しげに笑い、激しく肩で息をする蓮の前に歩み寄る。動けばそれだけ薬物の回りも早くなる。蓮はもう動くことも出来ず、仰向けに倒れこんだ。

「痛ー…」
「こんなヘロヘロの奴にやられるなよ」

 血の滴る鼻を抑え、よろけるハレをクラウドは叱咤する。

「すみません…」
「手を押さえろ」

 ハレは命じられて蓮の両腕を頭上で押さえつけた。

「ここ、特にキツいだろ」
「いぃ…っ!」

 クラウドは蓮の足の間に座り、股間を膝で押す。薬物により痛いほど張り詰めたそこを押され、蓮の腰が跳ねる。じわりと先走りが漏れ、羞恥と男にのしかかられる恐怖でガチガチと身体が震えた。

「さぁ、早くしないか!」

 待ちきれないといった様子で、大臣のひとりが急かす。他の大臣たちもそわそわと蓮の様を見つめている。

「はい、わかってますよ」

 クラウドは蓮の上着を握ると真ん中から力任せに引き裂いた。

「ひ…っ?!」

 蓮の火照る上半身がさらけ出され、大臣たちから「おお」と感嘆の声がもれる。

「お、鍛えてるな」
「あ、ぁ…っ!」

 クラウドの手のひらが引き締まった腹筋をなで、その刺激だけで喘ぐ声が出てしまう。
 また、犯されるのか。しかも、観衆の面前で。何故なのか問うことも出来ず、潤む瞳から涙がこぼれた。
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