黄金色の君へ

わだすう

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12,解決

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 レン…どこへ…。

 国境付近。例の断崖絶壁の下。シオンは蓮の気配を探り、疾走していた。
 蓮を強奪した者がこの辺りに向かったのはわかっているが、何しろ範囲が広い。林や岩場など隠れられる場所も多い。今いる10名の護衛たちで手分けをしても、全て捜索するのに何日かかるか。もし、この崖を上がられてしまっていたら、発見はさらに難しくなる。一刻も早く探しださなければ。
 沈着冷静なシオンだが、少し焦りも感じ始めていた。



「探しモノか?」
「っ?!」

 背後から突然声が聴こえ、シオンは驚いて振り向く。そこには汚れ乱れた衣装の金髪金眼の王子…ではなく、蓮がいた。シオンは驚きと安堵でくずおれそうになるが、すぐ冷静さを取り戻す。

「気配を消すのがお上手になりましたね」

 と、くっと口角を上げた。

「彼は…」

 蓮が片手で引きずっている男に気づく。気絶しているようだ。

「ああ、俺を抱えてったヤツ。あと、向こうの穴ん中にふたりいる」

 蓮はリーダーの男をシオンの前に出して離し、後方の藪の中を指す。

「…そうですか」
「もうコレ取るぞ。痛ぇ」

 半分呆れているシオンに、カツラとコンタクトレンズを乱暴に取って投げ渡した。生来の黒髪、黒い瞳になった蓮をシオンは懐かしむように見つめていた。





 シオンの迅速な連絡で護衛たちが集結し、重傷をおって気絶していた3人の男たちは数時間後には拘束、連行されていた。どうやら彼らは隣国に居を置く窃盗グループで、『金眼』のことはもちろん知っていた。ウェア王の死後、王子が継承式などで城の外に出るのではと予想して誘拐計画を立てたらしい。約2年かけて隣国から長々とトンネルを掘り、あの断崖絶壁下の藪に出たという。シオンの結界は森の中に張ってあるため、引っかからなかったのだ。今日、継承式(仮)が行われることを知り、計画を実行出来たのはただの偶然と言える。
 すぐにトンネルは埋められ、背後に大きな組織があるわけでもなかったので、国務大臣たちはひと安心していた。





 そして、護衛たちと共にウェア城に戻っていた蓮は。

「ご苦労だったね、レン君。君のおかげで早い解決が出来た」

 ウォータ大臣はにこやかに蓮を労う。

「俺が死ねばもっと良かったな」
「…っもう少し素直に受け取れんのかね…!」
「まあまあ」

 悪態をつく蓮にイラッとし、それをザイル大臣がなだめた。

「まぁ良い。君にはまだ仕事が残っておる」
「あ?」

 何のことかと顔をしかめていると、蓮は使用人たちに囲まれ、あっという間に汚れた衣装を新しいものに着替えさせられる。

「継承式はまだ途中だ。王子の消失に街は混乱している。早く行って安心させてきたまえ」

 金髪のカツラを付けられ、金のコンタクトレンズを手渡された蓮は再び馬車に揺られるはめになった。










「お疲れさまでした」

 すっかり日も暮れた頃、継承式(仮)は無事終了し、ようやく蓮は自室に戻れていた。

「…」

 お茶を淹れるシオンに労われても、ぐったりとベッドに伏せて動きもしない。

「レン」

 シオンはポットを置くと、さっと片膝を着けて頭を下げる。

「この度の失態はすべて私の責任です。あなたを危険な目に合わせてしまったことを深くお詫びします。申し訳ありませんでした」
「あ、そ…」

 嘘くせーと思いながら、蓮はちらっとだけシオンを見る。

「お許しいただけるのですか」
「別に、お前のせいじゃねーし」
「ありがとうございます。では、今回の件でご指摘したいことがあるので言わせていただきます」
「あ?」

 シオンの口調が強くなり、蓮は顔を上げる。

「あなたは人気のない場所に出た時点で、彼だけでも捕らえて戻るべきでした。あなたなら出来たはずです」
「…」

 謝罪より、これを言いたかったのかと思う。

「彼の拠点を突き止めたかったのでしょうけど、もしもっと大きな組織だったらどうするおつもりだったのですか。いくらあなたでも数百人を相手には出来ないでしょう。王子ではないとバレてもバレなくても、犯され、目をえぐり取られ、最終的には命も奪われるのです。そこまで考えていなかったのではありませんか」

 膝を着いたまま顔を上げたシオンの表情はわからないが、蓮の深追いと言える行動を怒っているのは伝わった。今考えると、死んでもいいくらいの自暴自棄になっていたのかもしれない。今回の継承式はあくまで『仮』で、本番は1年後。その前に死んでは『身代わり』護衛の意味がなくなる。

「ん…ワリ」

 蓮は寝そべったままだが、素直に謝った。

「謝罪くらいでは許されません」
「あ?」

 シオンは言い切ると立ち上がった。

「怪我はないとおっしゃっていましたが、本当ですか。ロープで縛られたのでしょう?どこも触れられていないのですか」
「…」

 今さら何を言っているのかと、蓮はあっけにとられてシオンを見上げる。

「隅々まで確かめさせていただきます」

 シオンは言いながらサングラスと青布を取り、黒コートを脱ぎ捨てる。

「は…?な、何…っ!?」

 嫌な予感しかせず、身体を起こした蓮を反転させてベッドへ仰向けに押し倒す。

「これがば、罰…ってか?」

 男にのしかかられる恐怖に耐え、蓮はシオンをにらみつけるが

「はい。ご褒美にならないよう努めます」

 返された微笑に青ざめた。





「ひ…っあ、んんーっ!!」

 シオンの手で自身をしごかれ、後孔に突き入れられた指で前立腺を執拗に押される。絶頂に達しようとしていたが、直前に強く自身を握られてそれは叶わず、腰が跳ね上がる。

「んぅ、うあ…ぁ…っ」

 吐き出せなかった熱さが逆流したかのように身体中がびくびくと痙攣する。これを十数回繰り返され、蓮は激しく呼吸を乱し嗚咽しながらシーツを握りしめていた。絶頂を何度も抑えられる苦痛は身体的にも精神的にもつらい。

「少しは反省されましたか」
「う…っふ、うぅ…」

 やはりシオンの口調は落ち着いていて、蓮はただただ震えて涙をこぼす。

「もう、おひとりで無茶はしませんね?」
「うぁ…っ!?」

 後孔をかき回す2本の指をグイっと開き、濡れてほぐれたそこが拡がる。身体の中が外気に触れたようで、びくんと身体が大きく跳ねる。

「どうなのですか?」
「んん…ぅん…っ」

 蓮にはもう羞恥や悔しさといった理性はほとんど残っていない。寸止めではなく、イカせて欲しい一心でコクコクとうなずく。

「わかりました。罰は終わりにしましょう」

 シオンは微笑み、指を引き抜く。代わりに熱くはち切れんばかりの自身をそこに勢いよく突き入れた。

「…っ!!ああぁーっ!!」

 同時に蓮は激しく絶頂し、悲鳴をあげる。

「あ、あぁ!ぅあ…っ!」

 シオンに突かれるたびに白濁が吹き出す長い絶頂に、気を失うことも出来ない。びくびくと身体を震わせ、その快感にまた涙があふれ出る。シオンはもだえる蓮を突き上げながら、その涙を舌で拭う。

「レン…」

 彼に対し、これほど感情的になるなんて。この感情はとても懐かしく、甘く、そしてひどく苦しい。蓮の乱れた黒髪を指ですき、深く唇を重ねた。










 翌日。
 蓮はここに来た時と同じロンTにジーンズ姿で城のエントランスホールにいた。ひとまず役目を終えたので、元の世界へ帰ることになったのだ。国務大臣や王室護衛、使用人たちも彼の見送りに多数集まっている。大臣たちは蓮の帰省にほっとしているが、護衛や使用人には残念がる者が多いようだった。

「ではレン君。帰省しても鍛練を忘れず、我が王国のことを常に念頭に…」

 特に機嫌の良いウォータ大臣が蓮に講釈を垂れるが

「あーはいはい」
「く…っ!本当に、君は…っ」

 やはり明後日を見て適当な返事をされ、ギリギリと歯ぎしりする。

「まあまあ。レン君、帰路気をつけて。シオン、お願いしますね」

 ささっと寄ってきたザイル大臣がなだめ、背後に控えていたシオンへ声をかける。

「はい。参りましょう、レン様」

 シオンは頭を下げ、蓮を扉の方へ促す。

「…ああ」

 大臣や片膝を着ける護衛と使用人たちを見回してから、蓮は彼らに背を向ける。すると

「…ちください!!」
「王子!いけません!!」

 奥の方からバタバタと走る音と必死に叫ぶ声が聴こえてくる。

「…レン!!」

 あわてて避けた使用人たちの間から現れたのはティリアス王子だった。はあはあと息を切らし、潤んだ金色の瞳が蓮を見つめる。

「レンーっ!!」

 そして、驚いて振り向いた蓮に勢いよく抱きついた。蓮はよろけるがなんとか受け止める。

「ごめんね…っレンが、来るなって…!僕のためだってわかったけど、でも…っ!レンがいなくなったって聞いて…っ心配で、怖くて…っ」

 王子はしゃくり上げながら、会えなかった間のまとまらない気持ちを訴える。

「ほ、本当に、帰ってきてくれて、良かった…!ごめんね…っ」

 涙を流して謝る王子に蓮はふっと息を吐いてから、軽く背に手を回す。
 もう遅かったのだ。いくら突き離そうと、会わなかろうと、今さらなかったことには出来ない。俺たちは『友達』なのだから。

「俺も、悪かった…ティル」
「っ!レン…!」

 愛称で呼ばれ、王子は嬉しくてさらに強く蓮を抱きしめた。

「王子、レン様。お名残惜しいでしょうが、お時間です」

 お付きの護衛も大臣たちも止めるに止められず、見守るしかなかったふたりに、シオンが声をかける。蓮は王子にわからないように舌打ちし、王子は嫌々と首を振る。

「ティル」

 仕方なくシオンが殺気だつ前にと、蓮は肩をつかんで王子を少し離す。そして、そっと唇にキスをした。

「?!!」

 まさかの光景に皆、真っ白になって絶句する。

「レン…」

 驚きで涙も止まり、顔を真っ赤にする王子に蓮はにっと笑う。

「またな」

 と、背を向け、扉に向かって行った。我に返った大臣たちの怒号をしり目にシオンと共に城を出る。

「うん、またね」

 王子は金色の瞳を輝かせて笑い、友達との再会を誓う言葉をつぶやいた。






「大臣たちへの印象は最悪ですね」

 国境の森に向かう送迎車の中、助手席のシオンが後部座席の蓮に言う。

「ああ」

 車窓を見る蓮の表情は笑みが浮かんでいて、シオンは安堵して口角を上げた。


 過去、自分たちの先祖が築いてきたこの関係。お互いのため、一線を引かなくてはならないのは当然かもしれない。でも、いいじゃねぇかと蓮は言ってやりたくなる。簡単なことだ。死ななきゃいい。拐われようが、犯されようが、目をえぐり取られようが、生きて帰ればいいのだ。次会った時、王子にそれを誓おう。

 蓮は1年後の再会を胸に、流れる車窓の景色を眺めた。
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