黄金色の君へ

わだすう

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13,非常事態

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 残暑厳しい季節。時刻は深夜だが、生暖かい風が吹き、秋の訪れはまだ遠そうである。

 某繁華街にある雑居ビルの裏口に、黒塗りの車が横付けされていた。裏口から出てきたのはスーツ姿で強面ばかりの男が数人。裏社会に名を馳せる、ある組の幹部や構成員だ。彼らに囲まれ、その組の重鎮が姿を現す。それと同時に、隠れて機会を狙っていたらしい敵対する組の者たちが走り出てくる。手には拳銃。何か叫ぶこともなく、全員が彼を狙い発砲した。
 しかし、ひとつくらいは当たってもおかしくなかった数発の弾丸は、すべて壁やアスファルトにめり込んでいた。重鎮とその部下たちは皆、伏せて避けていたのだ。奇襲だったのに、何故予想したかのように避けられたのか。そう思う間もなく、彼らの目の前にひとりの少年が飛んできたかのように現れた。

「ぎゃっ?!」
「ぐあ…っ!!」

 そして、拳銃を叩き落とされ、ついでにアゴや腹に一撃をくらわされ、全員地面に突っ伏していた。





 翌朝。

「見事だった、城野」

 今回の報酬だと、分厚い封筒を手渡される。

 異世界の国、ウェア王国より帰省してから半年。城野蓮は起業していた。ボディーガードと言えば聞こえがいいが、警察にもどこの警備会社にも所属していないフリーで、依頼先は正式な警備を頼めないワケありがほとんど。反社会的な団体のいわゆる用心棒が主な仕事だった。いつ命を狙われるか知れない彼らを守ることは蓮にとって都合が良かった。『護衛』としての実践訓練にうってつけだ。

「本当にそれだけでいいのか?」
「ああ」

 蓮は手渡された封筒をジーンズの後ろポケットにねじ込む。

「若いのに欲がないな。俺がお前くらい力があったら3倍は要求するぞ」
「こんな汚ぇ金、そんなにいらねーし」
「ははっ、言うな。また頼むぞ」
「気が向いたらな」

 幹部の男に対して物怖じしない口の聞き方に、周りの部下たちの方が緊張していた。

「ああ、それでいい。おい、見送りだ」

 彼は気にせず笑い、蓮が背を向けると部下たちにアゴで命じる。

「は…はいっ」
「来んな。ウゼー」

 あわててついて来ようとする彼らに蓮はうっとうしげに言い、ドアを閉めた。

 この組はお得意様とまではいかないが、何度か依頼を受けていた。見た目がかわいらしい蓮はボディーガードとしての信用を得づらく、初めはお駄賃くらいの報酬でからかい半分で依頼された。しかし、蓮の並外れた腕っぷしと気配を感じ取れる力に彼らが惚れ込むまで、そう時間はかからなかった。今ではその評判が裏社会で噂になりつつある。


 事務所のある雑居ビルから出た蓮は異質な気配を感じ、ビルとビルの狭間に目をやった。

「探しましたよ、レン」

 そこにいたのは半年ぶりに見る暑苦しい黒いロングコートをまとい、スキーゴーグルのようなサングラスをかけた長身の男。後ろでひとつにまとめた薄紫の長髪をなびかせ、ウェア王国護衛長シオンが蓮にかけ寄る。

「早くねーか」

 次、ウェア王国に行くのはもう半年後のはず。何のあいさつもなしに蓮は聞く。

「非常事態になったため、急遽お迎えに参りました。これからすぐ、ウェア王国に来ていただきます」

 いつも冷静なシオンがあわてているのがわかり、用件も聞けずに異世界への入り口になっている自宅の蔵まで急ぐことになった。




「ミノル様には許可をいただいています」
「あ、そ」

 自宅の門をくぐるのはほぼ半年ぶり。直接、敷地内にある蔵へ走る。両親が在宅かわからないが、蓮は複雑な気持ちでちらりとだけ自宅を見る。

 「高校くらいは出ておけ」という父親を無視し、蓮は通っていた低辺高校を中退していた。
 蓮の父親、実は警察庁に勤める警視長である。その息子が裏社会の人間と関わっていることが世間に知れたらかなりのスキャンダルだが、今のところその様子はない。それにお互い情報をリークする気は微塵もなく、未だ親子は付かず離れず気まずい関係のままだった。



 半年前はゆっくりと歩いた薄暗い通路を走り、ふたり分の足音が騒がしく反響する。

「ごあいさつもせずに急がせてしまい、申し訳ありません。簡単にご説明します。3日前、王室護衛のひとりが遺体で発見されました。ウェア城内の中庭で、です」
「ああ?」
「全身を殴打された他殺と見られています」
「…仲間割れじゃねーの」

 あのこれでもかというほどの防御策のとられたウェア城で殺人。城に出入り出来る者…例えば護衛同士の仲違いによる犯行としか思えない。

「その可能性も捨てきれませんが、それだけではあなたにお声がかかることはありません」

 シオンは一呼吸おき、やや後方を走る蓮を見る。

「彼の遺体には両目がありませんでした」
「!」
「王子への殺害予告、と我々は捉えています」

 王子をこのように出来る、というメッセージ。蓮はぞくりと背筋が凍りつきそうになる。

「レン、あなたに来ていただくことに私は反対でした。まだ犯人が不明の今、あなたに頼るのは短絡的なうえ負担が大き過ぎます。ですが、議会での賛成多数となり…。本当に申し訳ありません」
「バーカ、お前護衛長だろ。真っ先に賛成しろよ」

 謝るシオンを蓮はにらむ。

「そーいう時のために俺はいるんだろ」
「しかし、危険性が高く…」
「るせーな。前と言ってること違くねーか」

 王子に命の危機が迫ったら、代わりに命を捧げる。『身代わり』護衛である蓮の使命だと告げたのは、他ならぬシオンだ。

「ティルが…王子が困ってんなら俺が何だってやってやる」

 半年前の別れの日から完全に使命を受け入れ、そのために過ごしてきた蓮に迷いはない。憔悴しているであろう友達に早く会いたかった。

「…わかりました」
「っ?」

 シオンはつぶやくと突然足を止め、蓮も驚いて止まる。

「では、確かめたいことがあるのでよろしいですか」
「あ?」

 サングラスを外しながら、蓮の肩をつかみコンクリートの壁に押し付ける。少し怒っているような端正な顔が迫り、呆けていた蓮のぷっくりとした唇にキスをする。

「ん…っ?!」

 唇を舐め、歯列をなぞり、深く重ねる。蓮はキスに弱い。拒絶出来ず、されるがまま舌をからめ取られる。

「はぁ…っな、に…っ」

 ようやく唇が離れた時には足が震え、シオンに腰を支えられてやっと立っていた。もう抵抗など出来そうにない。

「帰省されている間、戦闘訓練は積まれたようですが…こちらはどうですか」
「ぃ…っ!」

 カチャカチャとジーンズのボタンを外され、下着の中に手を突っ込まれる。

「全くされてないようですね。こんなに固くなってしまって」

 尻の谷間をなでた指が後孔に触れたかと思うと、何の施しもなく中指を第2関節まで押し込む。

「あぁっ!つ、ぅ…っ」

 乾いた場所に無理やり入れられる痛みに、蓮の身体がびくんと強ばる。

「ああ、でも少し慣らせば…すぐ弛んできました」
「く、んん…っ」

 ぐるぐるとかき回すように指先を動かされ、蓮は痛みと羞恥で大きな目に涙を浮かべてシオンを見上げる。

「ふふ…扇情的ですね」

 シオンは満足げに笑い、指を抜くと蓮に見せつけるように自らの口に含み湿らせる。そして、再び蓮の後孔へ突き入れた。唾液のぬめりですんなりと2本の指が根元まで埋まる。

「ふぅ…っう、んう…!」

 卑猥な水音をさせて指をうごめかし、後ろを拡げられる。時々前立腺を指先がかすめて身体がびくびくと跳ね、蓮は歯を食い縛ってシオンの胸元で拳を握り、耐える。

「もう、前が苦しそうですね」
「んあっ!!」

 ジーンズの中で張り詰め、先走りを垂らし始めていたものをぐっと握られて大きく身体が跳ねる。シオンの言うとおり、この半年、蓮は自分でなぐさめることすらほとんどしておらず、あっという間に自身は限界近くなっていた。

「まだ少しキツいかもしれませんが、入れます」
「っ?!」

 シオンは指を引き抜き、黒コートの前をはだける。そして、蓮のジーンズと下着を下ろし片足だけ抜くと、膝裏を持って押し上げる。

「や、やめ…っ」

 やっと濡れた程度の孔に熱く猛ったシオンのものが当てられ、蓮は恐怖でもがくが腰を抱えられてしまう。

「無理です」
「くぁっ、ああぁっ!!」

 シオンはふっと微笑み、潤んだ目を見開いた蓮に腰を打ちつけた。勢いよく身体の中に押し込まれた熱さと鈍痛に上がった悲鳴が、通路に響き渡る。

「ひ…あぁっ!あっ!」

 すぐに亀頭を残して引き抜くとまた突き入れるを、蓮が休む間もなく繰り返す。壁に背はついているが持ち上げられていない方の足も地に着いておらず、ほとんど浮いた状態で突き上げられる。体重が全部後孔にかかっているようで苦しい以上に怖く、蓮は必死にシオンの首にしがみつく。

「かわいらしいですね…レン」

 シオンは顔を真っ赤にして震える蓮の涙を舌でぬぐい、また深く唇を重ねながら揺さぶり続ける。

「あっ!あ…も、イカせ…っ!」
「まだ、です…っ」
「んあぁっ?!あぁー!!」

 限界を訴えるものをぎゅっと握りこまれ、蓮は背を反らせて悲鳴を上げる。

「はぁ…っ一緒に、イキましょう」

 そのまま突き上げるスピードを速め、シオンは泣きながらしがみつく蓮のものをしごく。

「くぅん、んんーっ!!」
「ん…レン…っ」

 蓮はシオンの手の中に吐き出し、シオンはキツイ締め付けにうめいて中へ注いだ。
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