黄金色の君へ

わだすう

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32,確信犯

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 ノームは蓮の上着をつかみ、力任せに引き裂いた。

「鍛えているのに、キレイな肌ですね」
「ひ…っ」

 あらわになった上半身に顔を寄せ、胸元に唇を当てる。

「ん…!や、やめ、ろ…っ」

 蓮はびくんと身体を震わせるが、のしかかられる恐怖をこらえ、押し退けようと抵抗する。

「く…っまだ観念しないんですか?往生際が悪いですよ…!」

 ノームは身体を押し返され、思ったより力のある蓮にイラつく。蓮の左腕をつかんでぐいっと引くと、勢い良く上へ押した。

「あっ?!が、あぁぁあっ!!」

 ゴキンという嫌な音をたて、肩が外れる。その激痛に蓮はたまらず悲鳴を上げる。

「おとなしくしてくださいね」
「ぐ…ぁ、ああぁっ!!」

 ノームはさらに右腕もねじり曲げながら背中に回し、外れた左腕と共に破いた蓮の上着で縛りあげた。

「…っは、あ、あぁ…っ」

 蓮は激痛で全身が震え、もう抵抗などしたくても出来ない。顔は青ざめ、見開いた黒い瞳からは涙が流れ落ちる。

「ふ…っいい表情ですよ」

 ノームは笑み、蓮のズボンを下着ごと脱がす。

「あれ。ここもキレイですね」
「う…っ」

 片足を持ち上げ、後孔を親指でぐっと押し拡げる。

「これ、使ってみましょうか」

 と、黒コートのポケットからボールペンを取り出す。

「なめてください」
「ぐ…っぅえ…っ」

 そのペンを蓮の口に無理やり突っ込み、嗚咽するほど奥へ入れる。唾液と血を滴らせるそれを蓮の後孔に当て、ぐっと押しこんだ。

「ひ、あぁっ?!」

 身体の中に入れられた冷たい異物。ぐるぐるともてあそぶように回され、びくんと身体が跳ねる。

「ふぅ…っん、う…!」

 ノームはペンをぐちぐち動かしながら、蓮の胸に手のひらを這わせ、突起を指先でつぶす。

「胸も感じるんですね」

 びくびく反応する蓮に笑み、反対側の突起に吸い付き歯をたてた。

「い…っああぁーっ!!」

 そこを食い千切られるかと思うほどの強さで噛まれ、蓮は腰を跳ね上げて悲鳴を上げる。

「うぁ、あ…っ」

 にじみ出た血をねっとりなめとられ、過敏な部分の痛みにまた涙がこぼれて身体が震える。

「全然、慣れていませんね。この程度のこと、耐えないといけないんじゃないですか?こんなザマでは『身代わり』など務まりませんよ」

 ノームは言いながら、ペンをさらに奥へと突き入れる。

「くあっ!んん…っ!」

 身体中が痛い。けれど、中の感じる部分を固いもので突かれて自身は起ち上がり、濡れそぼる。悔しくて、つらくて、血のにじむ歯を食い縛る。
 その時、ぎぃっと音をさせて闘技場の扉がゆっくりと開いた。

「!!」

 ノームは扉が開ききる前にペンを引き抜き、素早く蓮から離れる。

「残念です。また今度、レン様」

 走って行き窓を開けると、そこから飛び出ていった。

「だ、誰かいらっしゃるんですか…?」

 おずおずと闘技場内をのぞくのは新人護衛カンパ。彼も蓮のことがどうしても気になり、説明会を抜け出していた。誰もいないはずの闘技場から物音が聴こえたため、確かめようとしたのだ。

「どわっ?!れ、レン様ぁっ?!」

 床に倒れている蓮に気づき、あわててかけ寄る。

「な、何で…っ!!どうなさったのですか?!」

 ほぼ全裸で両腕を縛られ、怪我もしている。カンパは訳がわからなくておろおろと脇に膝をつく。

「は…はぁ…っ」

 蓮はカンパの存在に気づいているのかいないのか、やっと呼吸をし、黒い瞳を潤ませ、汗のにじむ身体を震わせている。

「…っ!」

 カンパはその姿に思わず息を飲む。惚れこんでいる蓮が肌をさらし、目の前にいる。頭の中では早く誰かに報告を!と急かす天使と、添え膳食わぬは何とやらと笑う悪魔が戦っている。

「レン、様…っ」

 震える手を蓮に伸ばそうとした時

「レン!!いるか?!」
「?!」

 扉が勢いよく開き、大声で呼びかけるのはクラウドだった。午前中非番だった彼は説明会をのぞきに行き、蓮がいないことに気づいて探し回っていたのだ。

「!!お前、何してやがる?!」

 蓮が倒れており、そばにカンパがいることがわかると怒鳴って走り寄る。

「クラウドさんっ!わ、私は、何もっ!!」

 カンパは焦って何も知らないことを伝えようとするが、他に誰もおらず、この光景を見ては通じる訳がない。

「…歯ぁ食い縛れ」
「えっ?!ちょっ…クラウドさ…待って…っ」

 顔をひきつらせて拳を鳴らすクラウドに迫られ、青ざめて後ずさるが思いは伝わらなかった。








「クラウド君、背を抑えてやってくれ」

 と、王室お抱え医師のひとり、老医師のセツがクラウドに指示する。

「おう」
「我慢してくだされ、レン様」

 クラウドが椅子に座った蓮の背を支え、セツが左腕をつかんで上げ肩を入れる。

「ぐ…っ」

 ガクンという衝撃と痛みに、蓮はうめく。

「大丈夫か、レン」
「ん…」

 心配して顔をのぞきこむクラウドに、なんとかうなずいた。

 クラウドに抱かれて医務室に運ばれた蓮は治療を受けていた。左肩の脱臼を治して三角巾で固定し、右腕は捻挫していたため氷のうで冷やしている。

「この程度なら自然に治るだろう」

 老医師は切れた口内を見てそう診断し、腕以外の怪我は大したことはなかった。

「舌は入れていいか?」
「何の話をしているのかね」

 真面目な顔で聞くクラウドにあきれる。

「腕は?ちゃんと治るか?」
「ほっほ…もちろん。全治2週間といったところだな。なるべく動かさないようにしてくだされ」

 セツは笑って言い、右腕に湿布を貼って包帯を巻いていく。

「あと、そこの彼は診なくていいのかね」
「うぅ…っレン様ぁ…っ!お助けするのが遅く、すみませんでしたぁ…っ!!」

 付いてきたカンパは治療の様子をずっと泣きながら、正座して見ていた。しかも、クラウドにしこたま殴られて鼻血を垂らし、ほほが腫れ上がっている。

「あーしなくていい、いい」

 聞いてきたセツに手を振って断り、クラウドは蓮の肩に上着をかけてやった。






「失礼いたします…っ」

 少しして、珍しくあわてた様子でシオンが医務室に入ってくる。蓮の負傷のことは報告を受けていた。

「チッ、もう来たか。お前、仕事は?」
「先ほど終わりました」

 世話役の登場で嫌そうに聞くクラウドを見もせず、シオンは蓮の前に真っ直ぐ行く。

「先生、レン様の怪我の程度はどうですか」
「心配なかろう。全治2週間ほどだ」
「ありがとうございます」

 片付けをするセツに頭を下げ、蓮の前で膝をつく。

「レン様、一体何があったのですか」
「…」

 痛々しい姿を見上げ、優しく両手に手を添えて聞くが、蓮は口を開かない。

「言わないんだよ。そばにいたこいつは何も知らないって言うしな」

 と、クラウドがカンパを指す。クラウドも誰にやられたのか散々蓮を問い詰めたが、全く話そうとしなかった。

「カンパ、どのような様子だったのですか」
「は、はいっ。私が闘技場に入った時にはレン様は縛られ、おひとりで床に倒れておりまして…っ。何もわからず…っ申し訳ありませんっ!!」

 カンパはばっと立ち上がり、膝に額がつきそうなほど頭を下げる。

「お前、本当に何もしていないのか?」
「しておりません!」

 疑うクラウドにはっきり言う。

「クラウド、彼にレン様をこのように出来る力はありませんよ」
「わかってるって」
「く、クラウドさん…っわかっていらしたのなら、何故この仕打ち…!」
「何か『しようと』しただろが」
「申し訳ありません!レン様のお姿を見たら、ついムラムラとっ!!」
「へぇ…もう一回、歯ぁ食い縛れ」
「ひぃい?!」

 バカ正直なカンパに、再びクラウドは拳を鳴らして迫る。

「レン様、お話ししてはいただけませんか」
「…」

 シオンが改めて聞くが、やはり蓮は口を結んだまま。

「…わかりました。クラウド、レン様をよろしくお願いいたします。午後の勤務はどなたかと交代してください」
「え?あ、ああ、わかった」

 クラウドはてっきり追い払われると思っていたので、その指示を意外に思う。

「お大事にしてください、レン様」

 シオンは蓮の手の甲にそっとキスをして立ち上がると、「失礼いたしました」と医務室を出て行った。

「何だ、あいつ…」

 いつもと様子の違うシオンを、クラウドは首をかしげて見送った。









「すみません」

 シオンは廊下を自室に向かって歩いているであろう、新人護衛に声をかける。

「はい」

 振り向いたのはノームだ。

「あなたは先ほどの説明会の途中、会議場を抜け出していましたね。どうしたのですか」
「あ、すみません。恥ずかしいのですが、今朝からお腹の調子が悪くて…」

 シオンの質問にノームは腹部に手をやり、はにかむ。

「そうは見えませんでしたが」
「もう治りましたから、大丈夫です」
「実は説明会の最中、レン様が何者かに襲われたようなのです。何かご存知ではありませんか」
「そうなんですか。残念ながら、私は何も見ていませんね」

 動じることなく、答える。

「本当に、何も見ていませんか」

 シオンはもう一度聞く。蓮を襲った者はおそらく単独。ひとりで蓮を組み敷き、あそこまで痛めつけられるのは、自分とクラウドをのぞけばノームしかいない。彼の仕業だとシオンは確信していた。

「私を疑っているんですか?それとも、レン様が私にやられたと?」

 ノームはそれに気づいたのか、すっと表情を無くす。

「レン様は何もおっしゃっていません」
「なら、私は何も知りませんよ。それに、もし私がやったとして、罰せられるんですか?レン様はこの世界の方ですらないのに、一体何の罪になるんでしょう」

 普段の物静かな雰囲気からは想像出来ない口調でまくし立てる。

「法律上の罪にはあたりません」

 国を閉じているウェア王国では、暴行罪などは基本ウェア人に対してだけ適応される。

「ですよね。ああ、でも城内の規則にありましたね。『身代わり護衛に対する、集団暴行の禁止』でしたっけ。『集団』としたのは個人も禁止してしまうと、実力ある護衛の特権である『身代わり護衛との職務としての性交』が出来なくなってしまうからですね」
「ええ」

 シオンが肯定し、ノームは勝ち誇ったかのような笑みを浮かべる。

「でしたら、犯人探しなんて意味のないことやめませんか。では、失礼します」

 そして、普段のはにかんだ表情に戻って頭を下げ、また廊下を歩いて行った。

「…」

 確信犯、でしたか。

 彼は王室の都合を知っていた上で、蓮を襲った。シオンはこれ以上何も出来ないもどかしさに天を仰いだ。
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