黄金色の君へ

わだすう

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34,同棲(風)

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 やっぱり、こいつもか。

 何を言っても戻らせてはくれない。立ち上がったシオンに抱きしめられ、蓮は目を閉じる。されるがまま、こぼれた涙をなめて拭われ、唇に優しくキスをされる。

「レン…お願いがあるのですが、よろしいですか」
「ん…?」
「私の役目を他の者は知りません。今は『あなたと性交できる』という権利すら知らない者が多いです。よって、ノームの行為が許されたことであっても認めない者が大半でしょう。特にクラウドは」
「…だろーな」

 アイツはアイツで権利以上のことをしたクセになと、蓮は同意しつつ1年前のことを思い出す。

「彼がノームの仕業に気づくかわかりませんが、どうかしばらくクラウドのそばにいてやっていただけませんか」

 おそらくクラウドとノームの戦闘の力量は同等。クラウドがノームの仕業に気づけば逆上するのは確実で、大きな揉め事となるのは避けたいのだ。

「ああ」

 それを察し、蓮はうなずく。

「ありがとうございます」

 シオンは安堵してまたキスをした。






 蓮は中庭にいた。ついさっき、クラウドの自室に戻ると、彼はどうしても休めない仕事があると言って黒コートを羽織りながら行ってしまった。部屋から出るなと言われたが、じっとしていられる性分ではないので早々に部屋を出たのだ。

 手入れのされたきれいな芝生に寝転ぶ。空は抜けるように青く、太陽に照らされた花木が風に揺れ、聴こえるのは噴水の心地よい水音と小鳥のさえずり。

「…痛」

 右腕を持ち上げ、痛みにうめいてすぐに下ろす。2週間もこのままかとため息が出た。

 王子はどうしているのだろうか。ふと、会うことすら出来ないほど多忙の王子を思う。食事はとれているのか。きちんと眠れているのか。

「ティル…」

 会いたい。

 こみ上げる涙をこらえた。

「…!」

 ここに近づく者の気配を感じ、蓮は身体を起こす。中庭に続く外階段を降りてくるのはノームだった。

「おはようございます、レン様」

 蓮の正面に来ると、さっと片膝をついて頭を下げる。

「腕のお怪我はいかがですか?」
「おかげサマで」
「ふふっ、面白い人ですね」

 嫌みっぽく言い返す蓮に、愉快そうに笑う。

「何か用か」
「私のことを誰にも言っていないそうですね。何故ですか?」
「言ったって無駄だろ。それに、お前は間違ってねーし」
「はい?…は…っレン様はああいう行為がお好みなんですか?意外ですね」

 まさか肯定されるとは思わず、ノームは驚く。

「…何だ、お前も知らねーんか」

 彼は護衛長の役目も知っていた上で行為におよんだと思っていたが、そうではないらしい。蓮は拍子抜けする。

「え?どういう意味…」
「おい!レン!!すぐ終わるから、部屋にいろって言っただろ?!」

 聞き返そうとしたノームをさえぎるように、クラウドが外階段を飛び降りてくる。仕事を終わらせて自室に戻る途中、中庭に蓮の姿が見えてあわてて来たのだ。

「おはようございます、クラウドさん」

 と、ノームは先輩に礼儀正しくあいさつをする。

「おう、おはよう。何話してたんだ?まさか、お前もレンに気があるのか?」
「そんな、おそれ多い。ごあいさつをしただけですよ」

 クラウドにじろっとにらまれ、苦笑いして手を振る。

「まぁ話すくらいかまわないけどな。今度から俺に許可とれよ」
「…」

 お前は俺(彼)の何なんだと、蓮もノームも思った。同時に、蓮の怪我がノームの仕業だと気づきそうもないとも思う。

「レン、部屋戻るぞ。もうひとりで出歩くなよ」

 クラウドは蓮の腰を支えて立ち上がらせる。

「お疲れさまです」
「おう、じゃあな」

 ノームは頭を下げてから、外階段に向かって歩いて行くふたりの背をふっと表情を無くして見ていた。







「すげーハズイんだけど」
「いいから、食えよ。口移しの方がいいか?」
「死ね」

 蓮とクラウドは食堂にいた。城に住み込みの護衛や使用人のためのビュッフェスタイルの食事処だ。蓮は今まで自室で食事をすることが多かったので、ここには初めて来た。
 真ん中の席を陣取り、両腕負傷中の蓮に、クラウドがいわゆる「あーん」をして食べさせてやっていた。食べるくらい出来るのだが、クラウドは頑としてさせてくれない。人目があり、クラウドはご機嫌でも、蓮は恥ずかしくてしょうがなかった。

「お前の親、しつけ厳しかったろ」
「はぁ?!何だ、急に…っ」

 唐突に蓮が言い、クラウドは面食らう。

「別に」

 隣に座るクラウドは姿勢が良く、皿への盛りつけ方も食べ方もきれいで、食べさせる時も丁寧に手を添えたりとマナーがきちんとしていて、育ちの良さがうかがえた。

「お、親なんてどうでもいいだろ」

 顔を赤らめたクラウドを見て、蓮は図星かと思う。普段がさつに振る舞うのはそれを隠したいからだろう。蓮の両親も似たようなもので、気持ちはわかる。それほど育ちの良さが蓮の行動に出ないのは、性格のせいか。

「変なこと言ってないで食え。ほら」
「それ、口ん中痛ぇ」
「お、そうか。これは平気か?」
「何の肉だそれ」
「好き嫌いするなよ」

 他の食堂利用者はバカップルにしか見えないふたりに「いい加減にしろ」と思いつつ、見ないふりをしていた。







「ちゃんと手入れしていないだろ?きれいな髪なのにもったいない」

 食事の後、クラウドは蓮の身体をシャワーで洗ってやり、ドライヤーで髪を乾かしていた。基本、蓮の髪は洗いざらしなので、手入れなどしていないに等しい。

「ほら、きれいだ」

 クシでとかし、さらさらになった黒髪をクラウドは満足げになでる。

「はっ!でもあんまりきれいにすると、お前を狙う奴が増えるかもな…」
「バカじゃね」

 本気で心配をしているらしいクラウドに、蓮はあきれた。

「なぁ」
「んー?」
「お前は何で護衛やってるんだ?」
「おっ!知りたいのか?俺に興味が出てきたのか?どうしようかな~」

 めったにない蓮からの質問に、クラウドは嬉しくなる。

「じゃあ、いい」
「なっ?!あきらめ早いぞ!もっと食いつけよ!」

 あっさり食い下がり、クラウドの方があせる。

「お前とシオンは護衛になってからの付き合いか?」
「またシオンかよ…。いいや。学校の同級生。初等部の時からだな」
「シオンはその時、もう護衛やってたんか?」
「何だよ、シオン、シオンって。いや、14の時からだってよ」

 蓮の口からシオンの名が出ることが気に入らないクラウドだが、律儀に答える。

「ふーん…。お前はシオンに負けたくなくて、護衛になったんか」
「そう…って、違う!!あいつは関係ない!護衛になったのは俺の意思だ!!自分の力を試したかったんだよ!」

 思わずうなずいてしまい、あわてて否定する。

「チョロ」

 稚拙な誘導尋問に引っかかったことに蓮はへっと嘲笑う。クラウドがシオンをライバル視しているのは、聞かなくてもなんとなくわかっていたが。

「クソー…今夜覚えていろよ、レン!」
「今夜からシオンとこ行く」
「だっ?!嘘!嘘だって!!」

 クラウドとの会話は疲れると思っていたけれど。実際疲れることもまだあるが、蓮の性格の悪い言い方にも彼は好意を持って全力で応えてくれる。身体を求められることがなければ、『友達』と言えたかもしれない。

「バーカ、行かねーよ」
「本当か?」
「ん」
「レン…」

 クラウドは安堵して蓮をそっと抱きしめた。




 蓮とクラウドの同棲しているかのような生活は、食堂でのいちゃつきが原因で一時食堂利用者が減ったり、勤務中にふらふらと出歩いている蓮を勤務明けに血眼で探すクラウドに皆恐れたり、怪我の治りが思ったより良くないと医師に首をかしげられたりと周りにも少々の影響が出ていた。







 そして、2週間後。

「もう完治と言ってよいですな。色々ご不便でしたろう、レン様」

 医務室にて、老医師のセツは蓮の両腕と肩を診て、そう診断した。

「3日も我慢したかいがあったな、レン!」

 クラウドは喜んで蓮の肩に手をやる。怪我の治りが悪いのは夜の営みのせいではとクラウドがやっと気づき、3日止めてみたのだ。

「死ね」

 気づくも何もふざけんなと蓮は思っていた。

「何の話かね」

 セツはあきれて言った。





「なあ、レン」

 医務室を出、ふたりは蓮の自室に向かって廊下を歩いていた。

「あ?」
「部屋、戻らなくていいだろ。ずっと、俺のそばにいろよ」

 言うと思った。蓮はため息をつく。この同棲のような生活は蓮の怪我が治るまで。そう決めていても、彼は最終的にごねるだろうと思っていた。

「断る」
「なっ?!」

 キッパリ拒否され、クラウドはショックを受ける。

「少しは迷えよ、クソー…っ」
「一生の別れじゃねーし。いつでも来りゃいいだろ」

 悲観する意味がわからないと、蓮はあきれる。すると、クラウドの表情がぱぁっと笑顔になっていく。

「そっ、そうだよな!じゃあ、今から行くか!」
「今日くらい来んな。仕事しろ」

 抱きしめてきたクラウドの顔を、ぎゅっと押し退けた。
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