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50,禁忌
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王子のまとっていた覇気が一気に吹き出し、足元の床がへこみ、医務室の窓にヒビが入る。
「ひぃ…っ?!」
その力に皆、青ざめ、頭を抱え、悲鳴を上げる。
「メンバル王国、だな」
王子はつぶやくと、いっそう輝く両眼を扉の壊れた医務室の出入口に向ける。
「!!」
そこにいたノームとライカは反射的に避けて道を開ける。
「…っ」
まずい…!
それを見て、シオンは王子にかけ寄った。王子が何をしようとしているかなど知りもしない新人護衛に、彼を止めろとは言えない。自分の力でも止められる可能性は低いが、やるしかなかった。
「王子、お待ちください!!」
出入口をふさぐように、王子の前に立つ。
「どけ、シオン」
「どうか、私の話を聞いていただけませんか」
「我がどけと言っているのが聴こえぬのか」
「王子のお気持ちは重々承知しております。ですが、あなたのためにも、レン様のためにも、どくことは出来ません」
恐ろしい威圧感に耐え、シオンは王子に語りかける。
「レンのため…?護衛として付いて行きながら、レンをこの様にした己が言うか」
ギロリと向けられる金色の眼。まともに見てしまったら、何も言えなくなる。シオンはさっと片膝をつき、頭を下げる。
「はい、それは否定いたしません。罰を受け、一生をかけて償います。しかし、それはレン様をお救いしてからです。その方法をお聞きください」
「レンは…っレンは我の身代わりとなって、このような、ことに…!何人も許すことは出来ぬ…!」
王子は怒りで拳を握り、声を震わす。こちらの声が届かない。シオンはぐっと歯を食いしばる。王子は蓮を瀕死に追いやった全てが憎く、復讐することしか考えられなくなっているのだ。
「命じるのは最後だ、シオン」
「王子…!」
今は怒りで『金眼』の力を『戦闘』に振り切っている王子が、『権力』に少しでも力を使えば従わざるをえない。シオンはもう終わりかとあきらめかける。
「お待ちください、王子!!シオンの話をお聞きください!!」
そこへクラウドがかけ寄り、シオンの隣で片膝をつく。恐ろしくて仕方ないが、同志ひとりに押し付けるような薄情なことはしたくなかった。
「クラウド、己も我に逆らうか」
「ち、違います!レンを、レン様を救いたいのは我々も同じです!ですから…っその方法を聞いていただきたいのです…!!」
息も止まるような恐怖を感じながら、クラウドは言葉を絞り出す。
「…っ」
ふたりの様を見て、ノームとライカも震える身体を叱咤してかけ寄り、後方で片膝をつく。理由はわからないが、とにかく王子をここから出してはならないことはわかった。王子付きの王室護衛としての使命感だけで、行動していた。
「…もうよい。邪魔をするなら、排除するまでだ」
王子は彼らを見下ろし、右手を頭上に振りかざす。
「く…っ王子…!」
「…っ」
その手のひとふりで首をはね落とされる。護衛たちは死を覚悟し、やってくるであろう衝撃に身構えた。次の瞬間。
「ティル…?」
かすかに聴こえた、王子の愛称。この名で呼ぶことが許されているのはひとりしかいない。ベッド上に横たわったまま、何の反応もなかった蓮が目を開けていた。皆、はっとして彼を見、王子も手を下ろして振り向く。
「も…部屋、出れたんか…良かった、な」
「レ、ン…」
蓮の弱々しい声に王子の覇気が急激に弱まり、金眼の輝きも治まっていく。シオンたちは死の恐怖と威圧感から解放され、息を乱しながら顔を上げる。
「あ、コレ…。貸す、約束、だったよな…」
蓮は首に着けているチョーカーを取ると、血で染まった手を王子の方へ伸ばす。王子はふらつきながら蓮の寝るベッドに歩み寄り、両手を差し出す。その手のひらに、そっとチョーカーが渡された。
「明日、頑張れよ。そばにいる、から…な…」
蓮はにっと笑うと、また目を閉じて意識を失った。
「あ…」
手のひらのチョーカーを見つめる王子の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
「ありがとう…っレン!ありがとう…!!」
チョーカーを握りしめ、泣きながら叫ぶのは普段の彼だった。そして、気が抜けたかのように床に膝をつくと倒れこんだ。
「王子…!」
シオンはばっと立ち上がり、そばにかけ寄る。
「…眠っておられるだけです。急激に力を解放されたのでお疲れになったのでしょう。このままお休みになれば、明日の戴冠式に影響はないと思います」
王子の穏やかな呼吸を確認し、大臣と医師たちに向けて話す。
「ノーム、ライカ。王子をお部屋へ」
「は、はい」
「はい…!」
シオンの指示にノームとライカは立ち上がり、王子を抱きかかえる。
「…」
ノームはシオンに色々と聞きたかったが、目を合わせない彼を見て今は従うことにした。
「ふぅ…じゃあ、聞かせてもらうぞ、シオン」
王子たちが医務室を出ると、クラウドは大きく息を吐き、立ち上がる。
「はい」
王子の登場で中断していた、シオンの考える蓮を救う方法とは何なのか。皆、シオンに注目する。
「レン様の世界へ行くのです」
「は…っ?!」
「あちらの世界はこちらより、はるかに医療技術が進んでいると聞きます。レン様の治療も出来るはずです」
突拍子もない提案で、皆、目を丸くする。
「ま、待ちたまえ、シオン…!それは禁忌とされている…っ」
腰を抜かしていたウォータ大臣はまだ立ち上がれないまま、シオンに訴える。
はるか昔から繋がりのあるふたつの世界。しかし、あくまでもウェア王国の王室と城野家との間でだけのこと。関係のない者は存在すら知らず、行き来出来る者も限定し、それ以外の干渉はお互い一切しない。それが何百年と守られてきた暗黙のルールだった。
「もちろん、我々があちらの技術に頼ることは出来ません。ですが、レン様はあちらの世界の方です。怪我を負ったのがこちらでだとしても、治療を受ける権利があるはずです」
その理屈は理解出来る。だが、禁忌に触れているのではと、ウォータ大臣は口ごもる。
「ウォータ大臣、一刻も早い治療がレン様には必要です。あちらの世界へ行く許可をいただけますか」
シオンは再び片膝をつけ、頭を下げる。
「クラウド」
名を呼ばれ、呆けていたクラウドははっとする。
「あなたも行きますよね」
「あ、当たり前だろ!ウォータ大臣、許可を!!」
クラウドもばっと片膝をつき、頭を下げる。ウォータはベッド上の蓮を見つめ、皆からの期待の眼差しを受け、大きくため息をついた。
「…わかった。途中まで車を手配しよう」
と、使用人に目配せする。待ち構えていた使用人はうなずき、送迎車を用意しに出入口を出て行く。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!!」
シオンとクラウドは更に頭を低く下げる。
「…レン君を頼んだぞ」
「はい」
ウォータがぼそっとつぶやき、シオンはうなずく。そして、蓮を抱き上げたクラウドと共に医務室を後にした。
日が落ち、暗くなった国境の森をふたりは走っていた。いつもは苦にもならない異世界までの道のりが、今はひどく長く、もどかしい。
「なぁ、もっと血を分けてやらなくていいのか?今なら、俺も…っ」
先を行くシオンにクラウドが聞く。腕の中の蓮はただ眠っているかのように静かに呼吸している。出血は止まっていたが、この間にも出来ることはしてやりたかった。
「血気はもう必要ないと思います。急ぎましょう」
シオンはそんなクラウドの気持ちをわかっているのか否か、走るスピードを速める。
「…ああ」
クラウドはぎゅっと蓮の冷たい身体を抱く力を強め、シオンの後に続いた。
「…ここが、レンの世界…」
長い通路を走り、城野家の蔵を出たクラウドは周りを見渡しつぶやく。すでに日は落ちて辺りは真っ暗だが、城野家の日本風の家屋や庭は十分異世界を感じる。
「初めてではないでしょう」
「あんなの来たうちに入らないだろ」
実習というかたちで前護衛長とシオンと共にあの通路を通ったことはあるが、蔵の外に出たことはなかった。
「ここで待っていてください。ミノル様をお呼びしてきます」
暗がりの中、母屋に向かうシオンを懐中電灯の光が照らす。
「ミノル様!」
「やはりシオン君か。一体、何が…」
懐中電灯を手にしていたのは蓮の父親、実だった。シオンの気配に気づき、母屋から出てきたのだ。
「詳しくは後でお話いたします。レン様を助けていただきたいのです」
「蓮を…?」
「拳銃で胸を撃たれました。どこか、治療出来るところをご存じありませんか」
蓮に命の危機が迫り、苦肉の策でこちらにやってきたのかと実は察する。
「わかった。私の車で行こう。来なさい」
「ありがとうございます。クラウド、こちらだそうです!」
シオンは車庫へと促す実にうなずき、蔵前にいるクラウドに声をかける。
「は…っへ、陛下!!」
クラウドは実の姿を見たとたん、蓮を抱いたまま膝をついていた。蓮の父親なのだから、先代ウェア王と同じ顔なのは当然で。
「君は初めて会うね。懐かしいな、そう呼ばれるのは」
「こちらはレン様のお父上のミノル様です」
初対面で驚くのは仕方ないが、シオンは半分あきれて実を紹介する。
「…っ急ごう。こっちだ」
実はクラウドの腕の中の息子を見て一瞬言葉を失い、歩を速める。
「はい」
「はい!」
シオンとクラウドはそれに従った。
薄暗い、病院の待ち合い室。シオンは長椅子に姿勢よく座って目を伏せ、クラウドは落ち着きなくその前をうろうろしていた。
実の自家用車でこの病院にやって来た蓮は緊急手術を受けるべく、30分ほど前に手術室へと運びこまれていた。
「待たせたね」
「陛下!」
実が待ち合い室に現れ、クラウドはさっと片膝をついて頭を下げる。
「ミノル様ですよ、クラウド」
シオンはまたあきれつつ椅子から立ち上がり、同様に膝をついて頭を下げる。
「はは…それはやめてくれないか。私はもうあの国の護衛ですらない。普通に座りなさい」
実はそんなふたりに苦笑いし、頭を上げさせた。
「ひぃ…っ?!」
その力に皆、青ざめ、頭を抱え、悲鳴を上げる。
「メンバル王国、だな」
王子はつぶやくと、いっそう輝く両眼を扉の壊れた医務室の出入口に向ける。
「!!」
そこにいたノームとライカは反射的に避けて道を開ける。
「…っ」
まずい…!
それを見て、シオンは王子にかけ寄った。王子が何をしようとしているかなど知りもしない新人護衛に、彼を止めろとは言えない。自分の力でも止められる可能性は低いが、やるしかなかった。
「王子、お待ちください!!」
出入口をふさぐように、王子の前に立つ。
「どけ、シオン」
「どうか、私の話を聞いていただけませんか」
「我がどけと言っているのが聴こえぬのか」
「王子のお気持ちは重々承知しております。ですが、あなたのためにも、レン様のためにも、どくことは出来ません」
恐ろしい威圧感に耐え、シオンは王子に語りかける。
「レンのため…?護衛として付いて行きながら、レンをこの様にした己が言うか」
ギロリと向けられる金色の眼。まともに見てしまったら、何も言えなくなる。シオンはさっと片膝をつき、頭を下げる。
「はい、それは否定いたしません。罰を受け、一生をかけて償います。しかし、それはレン様をお救いしてからです。その方法をお聞きください」
「レンは…っレンは我の身代わりとなって、このような、ことに…!何人も許すことは出来ぬ…!」
王子は怒りで拳を握り、声を震わす。こちらの声が届かない。シオンはぐっと歯を食いしばる。王子は蓮を瀕死に追いやった全てが憎く、復讐することしか考えられなくなっているのだ。
「命じるのは最後だ、シオン」
「王子…!」
今は怒りで『金眼』の力を『戦闘』に振り切っている王子が、『権力』に少しでも力を使えば従わざるをえない。シオンはもう終わりかとあきらめかける。
「お待ちください、王子!!シオンの話をお聞きください!!」
そこへクラウドがかけ寄り、シオンの隣で片膝をつく。恐ろしくて仕方ないが、同志ひとりに押し付けるような薄情なことはしたくなかった。
「クラウド、己も我に逆らうか」
「ち、違います!レンを、レン様を救いたいのは我々も同じです!ですから…っその方法を聞いていただきたいのです…!!」
息も止まるような恐怖を感じながら、クラウドは言葉を絞り出す。
「…っ」
ふたりの様を見て、ノームとライカも震える身体を叱咤してかけ寄り、後方で片膝をつく。理由はわからないが、とにかく王子をここから出してはならないことはわかった。王子付きの王室護衛としての使命感だけで、行動していた。
「…もうよい。邪魔をするなら、排除するまでだ」
王子は彼らを見下ろし、右手を頭上に振りかざす。
「く…っ王子…!」
「…っ」
その手のひとふりで首をはね落とされる。護衛たちは死を覚悟し、やってくるであろう衝撃に身構えた。次の瞬間。
「ティル…?」
かすかに聴こえた、王子の愛称。この名で呼ぶことが許されているのはひとりしかいない。ベッド上に横たわったまま、何の反応もなかった蓮が目を開けていた。皆、はっとして彼を見、王子も手を下ろして振り向く。
「も…部屋、出れたんか…良かった、な」
「レ、ン…」
蓮の弱々しい声に王子の覇気が急激に弱まり、金眼の輝きも治まっていく。シオンたちは死の恐怖と威圧感から解放され、息を乱しながら顔を上げる。
「あ、コレ…。貸す、約束、だったよな…」
蓮は首に着けているチョーカーを取ると、血で染まった手を王子の方へ伸ばす。王子はふらつきながら蓮の寝るベッドに歩み寄り、両手を差し出す。その手のひらに、そっとチョーカーが渡された。
「明日、頑張れよ。そばにいる、から…な…」
蓮はにっと笑うと、また目を閉じて意識を失った。
「あ…」
手のひらのチョーカーを見つめる王子の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
「ありがとう…っレン!ありがとう…!!」
チョーカーを握りしめ、泣きながら叫ぶのは普段の彼だった。そして、気が抜けたかのように床に膝をつくと倒れこんだ。
「王子…!」
シオンはばっと立ち上がり、そばにかけ寄る。
「…眠っておられるだけです。急激に力を解放されたのでお疲れになったのでしょう。このままお休みになれば、明日の戴冠式に影響はないと思います」
王子の穏やかな呼吸を確認し、大臣と医師たちに向けて話す。
「ノーム、ライカ。王子をお部屋へ」
「は、はい」
「はい…!」
シオンの指示にノームとライカは立ち上がり、王子を抱きかかえる。
「…」
ノームはシオンに色々と聞きたかったが、目を合わせない彼を見て今は従うことにした。
「ふぅ…じゃあ、聞かせてもらうぞ、シオン」
王子たちが医務室を出ると、クラウドは大きく息を吐き、立ち上がる。
「はい」
王子の登場で中断していた、シオンの考える蓮を救う方法とは何なのか。皆、シオンに注目する。
「レン様の世界へ行くのです」
「は…っ?!」
「あちらの世界はこちらより、はるかに医療技術が進んでいると聞きます。レン様の治療も出来るはずです」
突拍子もない提案で、皆、目を丸くする。
「ま、待ちたまえ、シオン…!それは禁忌とされている…っ」
腰を抜かしていたウォータ大臣はまだ立ち上がれないまま、シオンに訴える。
はるか昔から繋がりのあるふたつの世界。しかし、あくまでもウェア王国の王室と城野家との間でだけのこと。関係のない者は存在すら知らず、行き来出来る者も限定し、それ以外の干渉はお互い一切しない。それが何百年と守られてきた暗黙のルールだった。
「もちろん、我々があちらの技術に頼ることは出来ません。ですが、レン様はあちらの世界の方です。怪我を負ったのがこちらでだとしても、治療を受ける権利があるはずです」
その理屈は理解出来る。だが、禁忌に触れているのではと、ウォータ大臣は口ごもる。
「ウォータ大臣、一刻も早い治療がレン様には必要です。あちらの世界へ行く許可をいただけますか」
シオンは再び片膝をつけ、頭を下げる。
「クラウド」
名を呼ばれ、呆けていたクラウドははっとする。
「あなたも行きますよね」
「あ、当たり前だろ!ウォータ大臣、許可を!!」
クラウドもばっと片膝をつき、頭を下げる。ウォータはベッド上の蓮を見つめ、皆からの期待の眼差しを受け、大きくため息をついた。
「…わかった。途中まで車を手配しよう」
と、使用人に目配せする。待ち構えていた使用人はうなずき、送迎車を用意しに出入口を出て行く。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!!」
シオンとクラウドは更に頭を低く下げる。
「…レン君を頼んだぞ」
「はい」
ウォータがぼそっとつぶやき、シオンはうなずく。そして、蓮を抱き上げたクラウドと共に医務室を後にした。
日が落ち、暗くなった国境の森をふたりは走っていた。いつもは苦にもならない異世界までの道のりが、今はひどく長く、もどかしい。
「なぁ、もっと血を分けてやらなくていいのか?今なら、俺も…っ」
先を行くシオンにクラウドが聞く。腕の中の蓮はただ眠っているかのように静かに呼吸している。出血は止まっていたが、この間にも出来ることはしてやりたかった。
「血気はもう必要ないと思います。急ぎましょう」
シオンはそんなクラウドの気持ちをわかっているのか否か、走るスピードを速める。
「…ああ」
クラウドはぎゅっと蓮の冷たい身体を抱く力を強め、シオンの後に続いた。
「…ここが、レンの世界…」
長い通路を走り、城野家の蔵を出たクラウドは周りを見渡しつぶやく。すでに日は落ちて辺りは真っ暗だが、城野家の日本風の家屋や庭は十分異世界を感じる。
「初めてではないでしょう」
「あんなの来たうちに入らないだろ」
実習というかたちで前護衛長とシオンと共にあの通路を通ったことはあるが、蔵の外に出たことはなかった。
「ここで待っていてください。ミノル様をお呼びしてきます」
暗がりの中、母屋に向かうシオンを懐中電灯の光が照らす。
「ミノル様!」
「やはりシオン君か。一体、何が…」
懐中電灯を手にしていたのは蓮の父親、実だった。シオンの気配に気づき、母屋から出てきたのだ。
「詳しくは後でお話いたします。レン様を助けていただきたいのです」
「蓮を…?」
「拳銃で胸を撃たれました。どこか、治療出来るところをご存じありませんか」
蓮に命の危機が迫り、苦肉の策でこちらにやってきたのかと実は察する。
「わかった。私の車で行こう。来なさい」
「ありがとうございます。クラウド、こちらだそうです!」
シオンは車庫へと促す実にうなずき、蔵前にいるクラウドに声をかける。
「は…っへ、陛下!!」
クラウドは実の姿を見たとたん、蓮を抱いたまま膝をついていた。蓮の父親なのだから、先代ウェア王と同じ顔なのは当然で。
「君は初めて会うね。懐かしいな、そう呼ばれるのは」
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「…っ急ごう。こっちだ」
実はクラウドの腕の中の息子を見て一瞬言葉を失い、歩を速める。
「はい」
「はい!」
シオンとクラウドはそれに従った。
薄暗い、病院の待ち合い室。シオンは長椅子に姿勢よく座って目を伏せ、クラウドは落ち着きなくその前をうろうろしていた。
実の自家用車でこの病院にやって来た蓮は緊急手術を受けるべく、30分ほど前に手術室へと運びこまれていた。
「待たせたね」
「陛下!」
実が待ち合い室に現れ、クラウドはさっと片膝をついて頭を下げる。
「ミノル様ですよ、クラウド」
シオンはまたあきれつつ椅子から立ち上がり、同様に膝をついて頭を下げる。
「はは…それはやめてくれないか。私はもうあの国の護衛ですらない。普通に座りなさい」
実はそんなふたりに苦笑いし、頭を上げさせた。
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