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本編
1. 言い逃れはできないだろう
しおりを挟む大陸南東部を国土とするステファント王国は、季候も良く恵まれた国家だ。
天然の要害に守られた王都ステファード、大陸公路の分岐点にある商業都市グランフィア、穏やかな内海に面した港湾都市ウリヒャール。
そして、同盟国から多くの王侯貴族が学びに訪れる文化都市マギステラまでが都市として安定している。
耕作地も多く穀物の実りも豊か、周辺諸国の仲介役を務めながら長く繁栄を続けてきた。
「ふふふ、物語のフィナーレももうすぐね」
怪しげな笑い声が聞こえてきたのは、落ち着いた雰囲気に包まれた文化都市にある最高学府、国立マギステラ高等学院にある一つの空き教室。
そこは建物として古く日常的に使われていない、他者の気配も遠く静かな空間だ。
王侯貴族のみ通うことを許される学び舎にいること、女子学院生の制服を着用していることから、青髪の彼女は貴族の令嬢であると思われる。
「ああ、俺の婚約者として相応しくない行動、学院で犯した悪事の証拠も揃えておいた。これなら、いかに名家の侯爵令嬢といえども言い逃れはできないだろうさ」
切り刻まれた女子学院生の制服や、水浸しになり波打ったり背表紙からズタズタに断たれたりした教科書を挟んで、男子学院生の制服を着用している緑髪の彼も笑みで答えた。
「あの悪役令嬢も転生者だったのか、婚約破棄から破滅する流れを変えようと必死に無駄な抵抗をしていたみたいだけど、……ぷふふ」
「ああ、婚約者として俺様と仲良くなれるようにすれば良いものを……、ずっと他人のような素っ気ない対応で通しやがったからな」
物語の筋書き通りに事を進めるのは我々だと、楽しそうに頷き合う。
「まぁ、選択を間違えた自業自得ってことね、ちょっと日常会話をするだけで気付くでしょうにねぇ」
「そうなるよなー。こちらに協力するなら、いろいろと待遇も考えてやったものをなぁ……、……くふふ」
男子学院生の脳裏に浮かぶものは、極上のドレスを着熟していた美しい侯爵令嬢の立ち姿。
そして、その実っていく麗しい中身。
婚約者なのだからとそれとなく肉体関係を迫ってみれば、あっさりと断られて距離を空けた応対をされるようになった。高位の者である自分の頼みを無下にして、恥をかかされたとしてずっと可愛がる機会を窺っていたようだ。
優しくなどと生ぬるいことはしない、あの貼り付けたような貴族の微笑みを激しく剥がしてやりたいと、女子学院生から持ち掛けられた悪役令嬢を貶める計画に乗り気となったのだ。
お互い協力関係にはあるが、そこに真実の愛があるなどと嘯くつもりもない。
将来に対する利害の一致と向こうの物語で美男美女と描かれている通り、見た目も悪くないのだから遊ぶ相手には丁度良かったという程度にしか考えていない。
「味方も十分よね?」
「ああ、宰相の孫、騎士団長の孫、魔術師団長の孫といった伯爵家連中から、マークシア侯爵家の失態を望む連中まで上手く取り込めているからな」
「ふふ、さすがに未来の国王様には逆らわないわよね~」
「くふ、そういうことだな」
同学年の主立った者達を腰巾着にしていた余裕が表情に出ている。
「あとは、逆転劇の小道具として使われやすい、学院内の映像を残すようなアイテムはないのよね?」
「そこら辺は、魔術師団などにも確認したから間違いない。そんな便利な魔法は聞いたことないから、魔道具として開発したくらいだとさ」
「なら安心ね」
「マークシア侯爵家は技術畑ではないからな、そういう最新の技術などに関わりそうなところは疎いはずさ。単独で極秘に開発している、なんてこともないはずだ」
逆らいにくい立場を活用して、開発途中の魔道具なども仕組みを聞き出したくらいだ。
今日のような大事な相談事を話し合っているところを流されては敵わないから。
もっと酷いことになれば、学院内にて行われた不貞の場面を流して問い質すなんて辱める展開もあるらしいから。
ただし、自ら出向くなどはせず、使用人に命令して情報を集めさせただけだけど。
「私が意地悪されているという証拠も十分、怪我をさせられた診断書やお休みしたこともみ~んなが知っていること」
悪役令嬢が関わる相手から暴行を受けたという怪我の診断書を用意させたり、治療を必要とすることや怖い思いが払拭できないことを理由に十数日間の休学届を提出してみたり。
相手に言い逃れさせないための事実をここまで積み上げてきたのだ、成り上がるための計画が失敗するはずがない。
「あとは、当日の演技も重要だからね、大事なところを噛んだりしないでよ~」
「ふっふっふ、高校の演劇部に所属していた俺様を舐めるなよ~」
不敵に立ち上がった男子学院生は、それよりこっちを舐めてくれと言わんばかりに腰を突き出した。
やや呆れた表情を見せながら、女子学院生が制服へ手を伸ばす。
成功を確信して享楽に耽り始めた二人の企みは、国立マギステラ高等学院の卒業式を大いに騒がせるわけだが、果たして――
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