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本編
3. 私は許さないっ!
しおりを挟む(あの子は、盛んに乙女ゲームの主役だと語っていたみたいだから、この舞台が自らの生き死にすら賭けていることを真に理解できていないんでしょうね)
未来を摘み取っていることを哀れむような目になってしまった。
その視線から馬鹿にされたような不愉快さを感じたらしいメアリーが、髪を撫でる王子に気付かれぬように舌打ちを行う。
踏み台となるはずの悪役令嬢が、立場が負けている王子から叱責されているというのに青ざめるでもなく、余裕綽々に構えているところも腹立たしいのかもしれない。
ちなみに、彼女達が知る乙女ゲームにおいて、アルフォンス・ロンドベルト王子は攻略対象者の一人であり、メアリー・プリア男爵令嬢が聖女を目指す物語の主役であったことは確かなことだ。
その事実までは、乙女ゲームを遊んだ記憶のあるエリザベートは否定しない。
「不慣れな学院生活に困っていた、健気で可愛らしいメアリーと親しくなっていくことに、お前が嫉妬してしまう気持ちは理解できなくもない。何故なら、俺様は魅力に溢れているからな!」
「アルフォンス様、素敵ですぅ~」
金髪を華麗に振り乱し叫び上げるような王子の演説に、取り巻き達が一斉にさすがですと合いの手を入れた。
高笑いを残しながら、涼しげな青の瞳を隠した前髪を払う動きまで、自意識過剰なほどに流れるような所作があった。
「だが、しかしっ! 婚約者として親睦を深めるようなことを一切せず、嫉妬に狂いメアリーを害したこと、あることないことを吹聴して回る愚かさ、これまでの全ての行動が俺様の、王子の婚約者として相応しくないことは疑いようがないっ!!」
最後の台詞に合わせて右腕を振り上げた王子が、再び犯人はお前だと言わんばかりに渾身のポーズを決めた。
しかし、罪状を並べられて指差されたはずの彼女は、相変わらず平然とした様子のまま微笑んでいる。
(誰かが考え出した台詞を覚えているのでしょうけど、こういうときには難しい言い回しも出てくるのねぇ)
感心するわと涼しい顔をしたエリザベートがのんびりしていられるのは、一生懸命頭を突き合わせて問答の文言を捏ね回していたとの目撃情報が各方面から届けられていたから。未だに、想定内のやり取りでしかないからだ。
その上で、最大数の観衆に見守られる大広間ではなく、誰かが怖じ気づいたのだろうか、卒業生の控え室を舞台に選んでいることも中途半端な覚悟で、お遊びの延長上くらいに考えているのだろうと受け取れてしまう。
「アルフォンス様ぁ~、悪役令嬢が睨んできます、メアリー怖いですぅ~」
メアリーのその言葉に、胸を押し付け媚びるような仕草に、それぞれの顔を見回していたエリザベートが本気で目を細めて嫌悪感を滲ませた。ドスの利いた声が漏れなかっただけ、褒めてほしいくらいである。
一瞬、本当に恐怖を感じて身震いした彼女に、大丈夫だと抱き寄せる腕に力を込めて、王子が睨み返しながら唾を飛ばす。
「お前は侯爵令嬢だから好き勝手できると考えていたようだが、聖女とは王族に並ぶほど敬われて然るべき存在だ!」
「ええ、そうですね。教会の総本部から認定されていれば、リグレット王国ではそうなるのでしょうねぇ」
アルフォンス王子の言う聖女が敬われる存在だということは、エリザベートも否定はしない。
だが、全面的に肯定していないのは、彼女が未だ候補者を抜け出せぬまま魔法学院の卒業まで迎えてしまったからだ。
ちなみに、主張にほぼ言い返されていないこの段階で、様子見していた学院生達も王子やメアリーと正対するような位置取りへ動いている。泥船に乗るようなことは、当然避けたい。
非難されているエリザベートを後押しするような状況になっていること、こっそりと四隅に騎士が増えていることに、愚か者達はまだ気付いていない。
「アルフォンス様ぁ~、あの悪役令嬢は、やっぱり男爵令嬢だと見下してくるですぅ~」
「聖女を敬えないとは愚かなことだ! それも、王族になれると思い上がっているからだろうが、そんなことを私は許さないっ!」
お互いを見詰め合い、二人はいよいよクライマックスだと気持ちを高ぶらせているのだろう。
ちなみに、魔法学院全体から見れば、決して多いとは言えない男爵家の令息令嬢達は、必死に努力する姿を示すことで新たな縁を紡いでいる。それは、爵位を継いだときに、領地を治めるときに活きる縁となるからだ。
仲良くなる努力の仕方を間違えているから、媚びを売る彼女は同級生に認められていない。それは、本人の自業自得と言わざるを得ない。
転生者達が知る乙女ゲームのメアリーは、弛まぬ努力を重ねることで、聖女として認められる過程で絆を深めていたのだから。
「皆のもの、しっかりと聞いておくのだぞ!」
一拍空けて、胸を張って王子が叫ぶ。
「アルフォンス・ロンドベルトはリグレット王国王子の名を以て、性根が腐り王妃に相応しくないエリザベート・リルフレアに婚約破棄を叩き付ける。そして、我が妃に相応しい聖女、可愛らしく純真なメアリー・プレア男爵令嬢と改めて婚約することをここに宣言する!」
華麗に決まっただろうと、言い終わった王子が達成感に浸りながら広間を見渡していく。
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