婚約破棄が成立しない悪役令嬢~地理歴史は大事よ~

鷲原ほの

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本編

6. 非常に滑稽なだけです

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 さすがにそれくらいは、そう思った学院生達の予想を裏切る反応がそこにはある。

「「「な、な、なあー……」」」

 改めて指摘されるまで誰も理解していなかったと王子達が口をパクパクさせているのだ。置いてきぼりだったメアリーだって、乙女ゲームの舞台は違う国だったのかと驚いた表情をしているほどだ。
 各方面へ話題の広がる学術都市で、王国の恥を撒き散らしていたと少しだけ理解したかもしれない。

「その様子ですと、リグレット王国よりリルフレア公国は領土が広いこともご存じなさそうですね。国力にも相応の差があり、異教徒に攻め込まれているリグレット王国には、ずいぶんと支援をしているはずなのですけどね」

 嘆いてみせたエリザベートがいずれ治めることになるリルフレア公国の始まりは、バルトガイン王国に併呑された一つの王国から袂を分かつことになった独立勢力にある。
 だが、安定した気候の未開地に囲まれていたため、古の大公家を名乗り続けたまま旧王国領土に並ぶほどに拡大していた。最初が分割統治から始まった他の侯爵家より、影響力が抜きん出ていることは間違いない。
 また、覇王の溺愛していた一人娘が嫁いでいることから、初代皇帝の血筋を途絶えさせていないことを敬われているほどだ。確実に入れ替わった侯爵家や怪しい侯爵家が多い現状だから。
 正直な話、最大任期が十年間と決められている現皇帝より、その機嫌を伺わないといけない影響力ありありの女傑なのだ。

「それから、さらにもう一つ、勘違いされていることを指摘しておきましょうか」

 そう言った彼女が余韻の空白を生み出した瞬間、メアリーにはゴクリと誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。

「わたくしとリグレット王国の第三王子である、あなたが婚約しているという事実はございませんよ」
「何だとっ!?」
「わたくしが名前を呼ぶことを承諾していないはずの相手、その程度の関係性でしたから、このような場で、何の意味も持たない婚約破棄を高らかと宣言なされるのは、非常に滑稽なだけです」
「なにを! ふざけるなーっ!!」

 滑稽だと馬鹿にされて、言い負かされた気分になっていた王子の怒りが再び燃え上がった。

「わたくしは、本当のことを申しただけですよ。この場にいるほぼ全ての方が告げたことを事実だと、そう認識されていると思いますわ」
「今更取り縋りたいからと、そんな戯れ言を言い出したか!」

 この期に及んで、自分が選べる立場にいるかのような発言が出てくるアルフォンス王子に周囲が疲労感を見せ始めた。

「おおかた、リグレット王国の関係者がわたくしのことを殿下の婚約者と発言されるから勘違いなされたのでしょうね」
「どうだ、その通りではないか!」

 何故か自信を取り戻した王子の胸を張る姿勢に、醜態を何度も晒して可哀想にと、憂いや哀れみが空間を埋め始める。
 見ていられないと、顔を背ける令嬢まで出てきてしまう。
 ちなみに、同腹の兄である第一王子がすでにロンドベルト王家の後継者と指名されている現状、甥っ子まで産まれている状況なのに、メアリーが王妃になれるかのような言い方をするなど、そんなところまで甚だしい思い込みを抱えていることはお伝えしておこう。
 あのような発言を繰り返しているとすれば、王位簒奪の疑いありと危険視されてもおかしくない立場のはずなのだが。

「そうですねぇ……、リグレット王国の有力貴族出身であるアイリーン・アーガイン侯爵令嬢なら、情報として確かなことをご存じですよね?」

 エリザベートが騎士の後ろへ一歩下がり、右後ろに控えていた黒髪の学院生を指名した。

「はい、もちろん存じ上げていることですわ。エリザベート様とノクトクール殿下がご婚約なさったときは、王国中が祝福しましたもの」

 前にいる騎士と被らない位置へ進み出て、アイリーンが良く響く美声で第四王子、アルフォンスの弟王子の名前を告げた。

「なっ!? ノクトクールのヤツだとーーーっ!!」
「有名なお話ですから、皆様ご存じのことと思っておりましたわ」

 そうですわよねと黒髪を広げて確認する彼女に、周囲の令嬢達も当然ですわと頷きを返していく。リグレット王国以外の紋章を身に付けた学院生だって、そんなことは常識だろうと囁き合う。
 本当に知らなかったのですかと、アイリーンはリグレット王国の恥部に蔑みの視線を向けることも忘れない。

「ば、馬鹿な……」
「さすがにここまでの反応があれば、第三王子殿下をお相手にして、わたくしが婚約者らしい行動を取る必要がないことはご理解いただけましたね」

 リグレット王国からリルフレア公国へノクトクールが婿入りする婚約。その契約は、エリザベートが魔法学院へ入学する前に結ばれた。
 遊び呆けていたアルフォンス王子が、顔見せのパーティーへ勝手に出席しなかったことは彼女に知られてはいない。
 しかし、その後の両家交流の場、婚約発表の場から閉め出されていた王子と、必要以上に親しくしようとするはずもないだろう。

「当然、あなた方の行動にわたくしが嫉妬するなど、そんなことあり得ないわけですよ」

 勘違い甚だしいと吐き捨てて、エリザベートが続けて爆弾を投げ付ける。

「さらに、わたくしが知っていることを付け加えるならば、殿下には特定の婚約者がいらっしゃらないはずですよ」
「はぁ……? 何を馬鹿なことを……」
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