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本編
5. お分かりになりましたか?
しおりを挟むもはや蒼白と言えるほど血の気の引いた宰相令息を除いて、王子達は言われていたことが分からないと同じような阿呆面を揃えた。
「魔法学院のようなバルトガイン帝国所属の国々から王侯貴族が集まるような場所において、普通の感性を持つ王族は帝国貴族として振る舞います。ですから、わたくしも侯爵家を名乗っていたわけです」
「「「…………」」」
「リグレット王国における王家と侯爵家の関係とは全然意味合いが違うのですけど、お分かりになりましたか?」
国立リルフレア魔法学院での呼び方には、各王国由来の爵位とその上位に位置する帝国由来の爵位が入り乱れている。
些細な失態から未来を閉ざしてしまいかねない環境で、魔法学院へ入学するまでに家名や家紋、親族関係を頭に叩き込んでおくことは最低限の礼儀と言える。そして、帝国の構成国以外から留学を望む場合も、当然失礼をせぬよう肝に銘じている。
それぞれの立場を混同しないようにと、入学前に同学年の注意書きが渡されるくらいなのだから。
家庭教師や執事の言葉を素直に聞き入れていれば、本日のような掛け違いは起こらないはずのことだ。
「だ、だが、お前はたかが侯爵家だろうが!」
しかし、アルフォンス王子は実家の義務教育からも逃げ続けていた。だから、何故王族の自分より偉そうにしていると無知を晒す。
急に王国だ、帝国だと言われても、この場で自分が一番偉いということを疑うだけの知識がないのだ。
「リルフレア侯爵家はバルトガイン帝国の成立時より皇帝を決定する選帝侯を担っております。歴史の重みが違うのですよ」
呆れたエリザベートの言い分は、ほぼ全ての学院生が共通認識にしているはずだ。歴史の講義で詳しく履修することになるのだから。
語られるバルトガイン帝国の歴史は、小競り合いを繰り返す三カ国を呑み込み弱小バルトガイン王国を強国へ押し上げた覇王が、引き継ぐ子供達に一つの王家直轄領と六つの侯爵領に領地を分割したことから始まる。
そこへ協力関係にあったリルフレア公国を一つの侯爵家として迎え入れることで、バルトガイン帝国という枠組みは動き出した。
その後、帝国領域の拡大と王家直轄領を治めていた長男家系の断絶により、現在のような七つの侯爵家と九つの構成国王家から代表者が集う、帝国議会によって重大な方針を話し合う形式へ変化していった。
「どういう意味だ!」
「本当にご存じないのですねぇ……。後々構成国に加わったリグレット王国の王家、ロンドベルトは帝国の伯爵家となりますから、リルフレア帝国侯爵家は上位の立場であるとお伝えしているのです。さすがに、同じ価値観で比べられる伯爵家と侯爵家の上下関係くらいはお分かりですね?」
ゆっくりと言い聞かせるように、各人の表情を見ながらエリザベートが理解を押し付けた。
現在のバルトガイン帝国皇帝とは、外周にあたる九つの構成国王家から選出され、王家直轄領改め皇帝直轄領の統治と帝国議会の議長を担う。
その任期は最大十年間であり、選ぶ側が侯爵家であり、選ばれる側が伯爵家なのである。基本的には、それぞれの国王が即位に合わせて帝国の伯爵位を継承している。
当然、好き勝手できるほどの決定権は有しておらず、帝国内外に平等な関係を印象付けるお飾りに近いかもしれない。
「お、俺様は王族だぞ!」
往生際が悪い王子は身分に縋り付く。意味が無いと伝えられたところなのに。
そんなアルフォンス王子に抱き寄せられたまま、メアリーは内容を追い切れないと不思議そうな表情で周囲の反応をきょろきょろと眺めている。リグレット王国の話に、突然出てきたどこぞの帝国がどうして関係あるのか、彼女もまだ分かっていないようだ。
私の踏み台になる悪役令嬢と決め付けていた相手から、一番偉いはずだった王子がやり返されていることを認識できているのかいないのか。
「ええ、そうですね。しかし、わたくしもリルフレア公国君主の娘ですから、国家の統治者となる立場は変わりませんよ。むしろ、正式な後継者と指名されていますからね、王太子指名されていないただの第三王子、そんなあなたより上位の扱いを受けると思いますわ」
「な、なんだと……」
誰かさんの不確実な思い込み、あやふやになった記憶から悪役令嬢としてご指名を受けた、エリザベート・ノイス・ティル・リルフレアにはいくつもの肩書きが存在している。
バルトガイン帝国リルフレア侯爵令嬢、リルフレア公国君主の大公令嬢、国立リルフレア魔法学院の副学院長。そして、エリザベート・フィオ・アリステラと名乗る、公国の後継者が受け継いでいる帝国貴族のアリステラ伯爵もその一つである。
リグレット王国国王と挨拶を交わすような場面で、すでに国王側から遜るほどの立場を有している。後継者と指名された段階から、他国の王族であろうと彼女を格上と扱うべき肩書きなのだ。
魔法学院を巣立ち大人の世界へ飛び込めば、格上の扱いになるかもしれない程度ではない。それが、バルトガイン帝国におけるリルフレア公国の、彼女の存在価値だ。
「そもそも、魔法学院の所在地はあなた方の出身であるリグレット王国ではございません。国境を越えたリルフレア公国となっているのですが、三年間過ごしている学術都市のこと、多少は理解されていましたか?」
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