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オレンジジュースをストローで飲むのが好きな侯爵令嬢である私を舐めている婚約者様
後編
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「はあ、我ながら迂闊でしたわ。」
「何がだい?僕の奥さん。」
新しく建てられた離宮のサロンで、アイリーンは好物のオレンジジュースをストローで飲みながら溜息を零していた。
その呟きに、その横で同じくソファーに座って寛いでいた相手が顔を上げて聞き返してくる。
こちらを見る、その端正な顔を見ながらアイリーンはまた溜息を吐いた。
「だって……まんまと貴方の策略に引っかかっちゃったんですもの……。」
アイリーンはそう言うと、むすっとした顔をしながらオレンジジュースを吸うのだった。
その様子に、隣の夫はくすくすと笑いだした。
「ふふふ、策略だなんて心外だなぁ。」
「だって……私と結婚することが王位継承の条件だったなんて……。」
「まあ、条件というわけでは無かったんだけどね。」
「条件みたいなもんでしょ!序列1位と2位が不正を働いていて、爵位剥奪はわかっていたんだから。」
「まあ、そうなんだけど……。」
機嫌を直さない妻に夫は困ったように眉根を下げる。
その様子を盗み見ながら、アイリーンはフンとそっぽを向いた。
あの後、クリスティオとの婚約はそのまま継続され、あれよあれよという間に結婚までいってしまった。
そして、婚約破棄したモルディオはというと。
アイリーンと婚約破棄したその足で、父親である皇帝に子爵令嬢との婚約を報告しに行ったのだが……。
そこで、皇帝から意外な言葉をかけられることになる。
「そうか……。息子よ、予は残念である。お前がシュナウザー家との婚約を継続し結婚していたら、お前に王位は渡っていたかも知れんのにのう……。」
「ど、どういう意味ですか、父上!?」
皇帝の言葉に、第二皇子が詰め寄ると皇帝は溜息を吐きながら説明してきた。
皇帝の話によれば、そこの子爵令嬢は、どちらが王位についても良い様に、第一皇子にもアプローチをしていたらしというのだ。
「クリスティオから相談を受け、密偵に探らせたのじゃ。」
そしたら出るわ出るわ、子爵令嬢の不貞行為が。
驚いたことに子爵令嬢は、他の男子生徒達とも親密な関係を結んでいたというのだ。
皇帝の話にモルディオは絶句する。
ジュリエラを見ると、青褪めた顔でぶるぶると震えていた。
「その様な者に国は任せられん。それを見破れぬ、お前にもな。」
そう言って眼光鋭く呟いた皇帝に、第一皇子は真っ青な顔になりながらその場に膝をついた。
そして、皇帝はホールの方に目を向ける。
「この際だから丁度良い。予が決めた序列1位と2位の侯爵家は、この時を以て序列から外し爵位を剥奪する。」
「なっ、それはどうしてですか!?」
皇帝に宣言された侯爵家の当主二人は、血相を変えて国王の元に飛んできた。
焦りながら理由を訊ねてくる侯爵家に、皇帝は不正の証拠を突き付ける。
言い逃れできないと判断した侯爵家の当主たちは、床に手を付いて項垂れたのであった。
子爵令嬢の不貞行為と、侯爵家の不正が暴かれるという怒涛の急展開に、途中、爵位剥奪を言い渡された侯爵家の娘たちが、その場に倒れて運ばれていく姿があったりなどしたが、それ以外は何事もなく舞踏会は恙無く終わった。
そして、王位継承権は第一皇子が受け継ぎ、アイリーンはその妃となった。
そして余談ではあるが、序列1位と2位の席が空き、そのまま繰り上がりでアイリーンの実家であるシュナウザー家が序列1位に君臨したのだった。
更に驚くことに、宰相も務めていた侯爵家が没落したことで、なんとその後釜にシュナウザー家が抜擢されたのであった。
元々人当たりも良く真面目で勤勉だったアイリーンの父は、他の貴族からの人望もあったため特に反対される事無く宰相の任に就けたのであった。
今では激務を熟す父を助けるべく、兄も宰相見習いとして王宮で奔走しているそうだ。
何もかも上手くいっている日常に、アイリーンは少しだけ不安になり、思わず夫に不安な気持ちを零した。
「何もかも上手くいって嬉しいのだけど、でも、本当に私でよかったのかしら?」
妻の呟きに、それまで笑っていた夫が「え?」と驚いた顔でアイリーンを見てきた。
「だって、私なんかより綺麗なご令嬢は沢山いるわよ?顔だって平凡だし、髪や瞳だって地味な色でちっとも美しくないわ。」
そう言いながら自らの髪の束を摘まんで溜息を吐くアイリーン。
そんな妻に、夫であるクリスティオは彼女の手を握りながらこう言ってきた。
「何を馬鹿な事を言っているんだい?君は髪や瞳の色が地味だというけれど、僕にはその瞳は琥珀のように美しくて、髪は夕日のように輝いて見えるんだよ。」
「そ、そう……ありがとう……。」
そう言って、相変わらずの蕩けた瞳で見つめてくる夫に、アイリーンは真っ赤になって俯いてしまった。
「それに僕は、派手な女性はあまり好まないんだ。そういう女性は、話をしていてもキーキー煩いし香水もきつくて、いつも頭痛が起こって悩みの種だったんだよ。その点、君は大人しくて話し方も静かで、でも話すと楽しいし、それになんか良い匂いがするんだよね。」
クリスティオはそう言うと、アイリーンの首筋に鼻先を近づけて匂いを嗅いできた。
「ちょ、恥ずかしいわ。」
夫の突然の行動に更に顔を赤くするアイリーン。
そんな夫に向かって溜息を吐くと、アイリーンはようやく降参することにした。
「もう、わかったわ。要するに相性が良かったって事でしょ?」
「うん。君を一目見た時から、気が合いそうだなって思っていたんだ。」
「それはどうして?」
初めて聞く夫の自分への評価に、アイリーンは興味津々で耳を傾ける。
「だって、僕もこうするのが好きだから。」
クリスティオはそう言うと、テーブルに置かれていたグラスを手に取る。
そして、ストローからオレンジジュースを飲みながら、にこりと微笑んできたのだった。
「ふふ、そうね。」
アイリーンはクスリと笑うと、同じようにオレンジジュースの入ったグラスを手に取り、二人仲良くストローで飲みながら呟くのであった。
「本当に、どこにでもある平凡な婚約破棄ね。」
おわり
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【どこにでもある平凡な婚約破棄】
最後までお読み頂きありがとうございました。
お題を決めて、シリーズとして連載できればいいなーと思っております。
今回のテーマは『相性』でした。
また何か思いついたら投稿します。
お茶請け程度に楽しんで頂ければ幸いです。
それでは!
「何がだい?僕の奥さん。」
新しく建てられた離宮のサロンで、アイリーンは好物のオレンジジュースをストローで飲みながら溜息を零していた。
その呟きに、その横で同じくソファーに座って寛いでいた相手が顔を上げて聞き返してくる。
こちらを見る、その端正な顔を見ながらアイリーンはまた溜息を吐いた。
「だって……まんまと貴方の策略に引っかかっちゃったんですもの……。」
アイリーンはそう言うと、むすっとした顔をしながらオレンジジュースを吸うのだった。
その様子に、隣の夫はくすくすと笑いだした。
「ふふふ、策略だなんて心外だなぁ。」
「だって……私と結婚することが王位継承の条件だったなんて……。」
「まあ、条件というわけでは無かったんだけどね。」
「条件みたいなもんでしょ!序列1位と2位が不正を働いていて、爵位剥奪はわかっていたんだから。」
「まあ、そうなんだけど……。」
機嫌を直さない妻に夫は困ったように眉根を下げる。
その様子を盗み見ながら、アイリーンはフンとそっぽを向いた。
あの後、クリスティオとの婚約はそのまま継続され、あれよあれよという間に結婚までいってしまった。
そして、婚約破棄したモルディオはというと。
アイリーンと婚約破棄したその足で、父親である皇帝に子爵令嬢との婚約を報告しに行ったのだが……。
そこで、皇帝から意外な言葉をかけられることになる。
「そうか……。息子よ、予は残念である。お前がシュナウザー家との婚約を継続し結婚していたら、お前に王位は渡っていたかも知れんのにのう……。」
「ど、どういう意味ですか、父上!?」
皇帝の言葉に、第二皇子が詰め寄ると皇帝は溜息を吐きながら説明してきた。
皇帝の話によれば、そこの子爵令嬢は、どちらが王位についても良い様に、第一皇子にもアプローチをしていたらしというのだ。
「クリスティオから相談を受け、密偵に探らせたのじゃ。」
そしたら出るわ出るわ、子爵令嬢の不貞行為が。
驚いたことに子爵令嬢は、他の男子生徒達とも親密な関係を結んでいたというのだ。
皇帝の話にモルディオは絶句する。
ジュリエラを見ると、青褪めた顔でぶるぶると震えていた。
「その様な者に国は任せられん。それを見破れぬ、お前にもな。」
そう言って眼光鋭く呟いた皇帝に、第一皇子は真っ青な顔になりながらその場に膝をついた。
そして、皇帝はホールの方に目を向ける。
「この際だから丁度良い。予が決めた序列1位と2位の侯爵家は、この時を以て序列から外し爵位を剥奪する。」
「なっ、それはどうしてですか!?」
皇帝に宣言された侯爵家の当主二人は、血相を変えて国王の元に飛んできた。
焦りながら理由を訊ねてくる侯爵家に、皇帝は不正の証拠を突き付ける。
言い逃れできないと判断した侯爵家の当主たちは、床に手を付いて項垂れたのであった。
子爵令嬢の不貞行為と、侯爵家の不正が暴かれるという怒涛の急展開に、途中、爵位剥奪を言い渡された侯爵家の娘たちが、その場に倒れて運ばれていく姿があったりなどしたが、それ以外は何事もなく舞踏会は恙無く終わった。
そして、王位継承権は第一皇子が受け継ぎ、アイリーンはその妃となった。
そして余談ではあるが、序列1位と2位の席が空き、そのまま繰り上がりでアイリーンの実家であるシュナウザー家が序列1位に君臨したのだった。
更に驚くことに、宰相も務めていた侯爵家が没落したことで、なんとその後釜にシュナウザー家が抜擢されたのであった。
元々人当たりも良く真面目で勤勉だったアイリーンの父は、他の貴族からの人望もあったため特に反対される事無く宰相の任に就けたのであった。
今では激務を熟す父を助けるべく、兄も宰相見習いとして王宮で奔走しているそうだ。
何もかも上手くいっている日常に、アイリーンは少しだけ不安になり、思わず夫に不安な気持ちを零した。
「何もかも上手くいって嬉しいのだけど、でも、本当に私でよかったのかしら?」
妻の呟きに、それまで笑っていた夫が「え?」と驚いた顔でアイリーンを見てきた。
「だって、私なんかより綺麗なご令嬢は沢山いるわよ?顔だって平凡だし、髪や瞳だって地味な色でちっとも美しくないわ。」
そう言いながら自らの髪の束を摘まんで溜息を吐くアイリーン。
そんな妻に、夫であるクリスティオは彼女の手を握りながらこう言ってきた。
「何を馬鹿な事を言っているんだい?君は髪や瞳の色が地味だというけれど、僕にはその瞳は琥珀のように美しくて、髪は夕日のように輝いて見えるんだよ。」
「そ、そう……ありがとう……。」
そう言って、相変わらずの蕩けた瞳で見つめてくる夫に、アイリーンは真っ赤になって俯いてしまった。
「それに僕は、派手な女性はあまり好まないんだ。そういう女性は、話をしていてもキーキー煩いし香水もきつくて、いつも頭痛が起こって悩みの種だったんだよ。その点、君は大人しくて話し方も静かで、でも話すと楽しいし、それになんか良い匂いがするんだよね。」
クリスティオはそう言うと、アイリーンの首筋に鼻先を近づけて匂いを嗅いできた。
「ちょ、恥ずかしいわ。」
夫の突然の行動に更に顔を赤くするアイリーン。
そんな夫に向かって溜息を吐くと、アイリーンはようやく降参することにした。
「もう、わかったわ。要するに相性が良かったって事でしょ?」
「うん。君を一目見た時から、気が合いそうだなって思っていたんだ。」
「それはどうして?」
初めて聞く夫の自分への評価に、アイリーンは興味津々で耳を傾ける。
「だって、僕もこうするのが好きだから。」
クリスティオはそう言うと、テーブルに置かれていたグラスを手に取る。
そして、ストローからオレンジジュースを飲みながら、にこりと微笑んできたのだった。
「ふふ、そうね。」
アイリーンはクスリと笑うと、同じようにオレンジジュースの入ったグラスを手に取り、二人仲良くストローで飲みながら呟くのであった。
「本当に、どこにでもある平凡な婚約破棄ね。」
おわり
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【どこにでもある平凡な婚約破棄】
最後までお読み頂きありがとうございました。
お題を決めて、シリーズとして連載できればいいなーと思っております。
今回のテーマは『相性』でした。
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それでは!
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