どこにでもある平凡な婚約破棄

麻竹

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選ばれた私と婚約者達

中編

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リーリエは、相変わらず学園では取り巻き達と楽しく過ごしていた。
それから数日ほど経ったある日、エドワードがまたしても結婚について打診をしてきたのだった。

「リーリエ。やはり卒業後は、すぐにでも結婚をしよう。このままだと、君の体裁も悪くなってしまうかもしれないよ。」

「何を言っているの?そんなの嫌だって言っているでしょう?」

「これは、国王陛下からも勧められているんだよ。」

「あら、貴方は私の幸せよりも誰かに勧められたから結婚するの?」

「いや、そういうわけじゃないよ。ただ、このままだと、君にも僕にもあまりいい結果にはならないと思うんだ。」

「考え過ぎよエドワード、私達は今まで上手くいっていたじゃない。何も変わらないわ。それに私は聖女なのよ?ゆくゆくは正式な聖女になって、国のために力を使わなきゃいけないのよ。それに、それまでの間は好きにして良いって、国王様は約束してくださったのよ。それなのに、何の不安があるのか私にはさっぱりだわ。」

そこまで言うと、エドワードは力なく溜息を吐くと「もういいよ」と言ってきたのだった。
その返事にリーリエは、やっとわかってくれたのかと満足する。

「さ、この話はもうおしまい!そうだ、今度のデートで行きたい所があるの♪」

「ああ。」

リーリエは嬉しそうに手を合わせながら、エドワードに次のデートの話しを振ってきたのであった。
そんな婚約者の途切れる事のない話を、エドワードは大人しく聞いている。
そして、彼の表情に気づかないリーリエは、そのままその場の温度差に気づかないまま、相変わらず楽しそうに話をしていたのであった。







リーリエは自宅に帰った後、エドワードのしつこさに、うんざりしていた。

「まったくエドワードったら、独占欲が強くて困るわ。」

リーリエは帰宅後に散々侍女達に持て囃され、ようやく機嫌が治った所でベッドに潜り独り言ちていた。
静まり返った部屋の中で、リーリエの独り言が誰に聞かれるでも無く紡がれていく。

「私は未来の聖女よ。そんな私が、一人のものになるなんて有り得ないのに、なんでわからないのかしら?」

誰にも聞かれていないという安心感からか、リーリエはエドワードに対して不平不満を零し始めたのだった。
リーリエにとって、エドワードの発言は受け入れられないものだった。
自分は周りから愛されるべき存在で、誰のものでもないのだと思っていた。

しかも自分は聖女なのだ。
近い将来、聖女の力で王国を導き助けていく存在なのだ。
そして、皆平等に愛し慈悲を与え、そしてそれに対して相応の対価を与えられる存在なのだ。
そうリーリエは、自分こそが国にとって大事な存在であり、国中の民が自分に感謝をし平伏すのが当たり前で、全ての人から愛されるべき存在なのだと思っていた。

その為、リーリエはエドワード以外の貴族の令息たちとも結婚の約束をしていたのだった。

うふふ、私は選ばれた存在。
そして私は一人のものではなく、皆のもの……。

王様のように一夫多妻……ううん、一婦多夫を実現してやるのよ!!

リーリエは胸中で呟きながら、ベッドの中で不敵に笑っていたのであった。





それからもリーリエは、いつもの様に取り巻き達と面白おかしく学園生活を過ごしていた。
そしてこの頃から、楽しく談笑しながら学園の中を歩いていくリーリエ達とは対照的に、中庭のベンチで淋しく項垂れている婚約者の姿が、よく見かけられるようになった。
しかしそんな婚約者の事を、自分の事で忙しいリーリエは気づくことなく、いつも素通りしていたのであった。



そして、月日は流れ――
とうとう卒業式の日がやってきたのであった。

「え、今なんて?」

この日、美しく着飾ったリーリエは信じられないという顔をしながら、目の前の相手を見ていた。

「リーリエ、君との婚約を破棄したい。」

そう言いながら、悲しそうな顔でリーリエを見下ろしてくるのは、婚約者であった筈のエドワードであった。

「ど、どうして?」

リーリエは、驚いた顔で理由を聞いてくる。

「すまない。もう君と婚約を続けていける自信が無いんだ……。」

しかし、エドワードは苦しそうな顔をしながら、それだけを言うと俯いてしまったのであった。

「な、何を言っているの?婚約は、お、王様が決めた事なのよ!?」

リーリエは、思い出したようにそう言ってくる。

「すまない……でも、この事は、既に国王陛下には了解を得ているから……。」

「そ、そんなの……ゆ、許さないんだから!!」

そう言ってリーリエは、ここがどこだかも忘れて、エドワードに詰め寄ったのだった。
握り締めた礼服の襟元が、リーリエの手で皺が寄る。
それでもエドワードは、リーリエと視線を合わせようとせず、俯いたまま「すまない」と繰り返すばかりだった。
そんな婚約者に、リーリエは憤慨する。

なんで?どうして?貴方が私を振る様な事を言うのよ!!

リーリエは己が振られたことに対して、有り得ないと思った。

私はみんなに愛されるべき存在なのよ、なのにこの男ときたら、そんな私に……私をあっさり捨てるなんて許さないんだから!!

リーリエは、ギリギリと俯くエドワードを睨んだ後、あっさりと掴んでいた手を離した。

「リーリエ?」

突然胸元を拘束する手が離れた事に、エドワードは俯いていた顔を少しだけ上げ、リーリエを見てきた。
そして、そんな彼にリーリエは勝ち誇ったような顔で宣言する。

「いいわ、婚約破棄しましょう。貴方がそんな人だったなんて……がっかりだわ。」

リーリエはそう言うと、ふんとそっぽを向いてしまった。
その反応に、エドワードは少しだけ悲しそうな表情を見せてくる。

「そうか、ありがとう。」

最後の賭けも見事に粉砕したエドワードは、落胆しながらそう呟いていると、隣に誰かが立った。
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