僕のおつかい

麻竹

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第一章【出会い編】

52.誘惑には勝てません

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目の前に現れたのは紛う事なき自分の姉であった。

鮮やかな瑠璃色の長い髪。
コバルトブルーの海を模したような瞳。
陶器のような白い肌。
鼻梁はすっと通り薄い唇は淡い薄紅色に彩られている。

他の姉たち同様美人の類に余裕で入るこの姉は、ただちょっと人とは感性がずれているらしい。
先程の登場の仕方でもわかるように、この姉は目立つ事が大好きだ。
人前に出たがらない自分とは真逆だなと思いつつ、マクレーンは母からのお使いの品を忘れる事無く手渡した。

「まあ、お母様のチェリーパイ!自家製のワインまで!わざわざありがとうマクレーン。」

そう言いながら、にっこりと微笑む姉は文句無く美しかった。
海の女神然とした様相の姉は、にこにことマクレーンに世間話をしだした。

「お母様は元気?」

「はい相変わらずお元気ですよ、最近では世界各国の物語に嵌っているようです。」

そう言ってマクレーンは、旅に出るとき母に着せられた赤いマントを苦笑交じりに摘んで見せる。

「うふふ、よく似合っているわよ。」

マクレーンの姿に負けず劣らずな格好をしているのを気づいているのかいないのか、姉がそのマントの意味を察し苦笑しながら褒めてきた。
そんな姉にマクレーンは全然嬉しくないですよという表情をしながら嘆息する。
ふと気づくと地平線に朝陽が昇ろうとしているのに気づいた。

そろそろ帰らないと村の人に見つかってしまうな。

日の出と共に起き出す村人の習慣を思い出し、マクレーンは内心焦りだした。

「姉様、そろそろ戻らないと……。」

マクレーンは申し訳なさそうにそう言うと姉は「あらもうそんな時間?」と白んできた空を見上げた。

「あの場所・・・・に行くまでに、まだ時間はあるでしょうに?」

「ええ、まあ……。」

名残惜しそうにする姉にマクレーンは歯切れの悪い返答を返す。

「彼にはそんなに教えたくないの?」

どう言って帰ろうかと言い訳を考えていると、姉から突然切り出された。
驚いて見上げると、訳知り顔の姉の笑顔があった。

「あまり知られたくないんです。」

それにプライベートな問題ですし、とゴニョゴニョ言うマクレーンに、姉はくすりと笑うと口を開いた。

「では暫くの間、あなたを隠してあげましょうか?」

「え?」

「私の家ならあの青年も追って来られないでしょう?」

返答に困っているマクレーンに姉の更なる追い討ちが投げかけられた。

「ここのところ、ずっと監視されていたんじゃないの?たまには息抜きも必要でしょう?」

「う……。」

それは確かに魅力的な提案だった。
出会ってからというもの、なんだかんだでアランがずっと側にいる状態だった。
しかも、今は二コルまで居る。
監視されているわけでは無いのだが、人と接するのが苦手なマクレーンには、少々息の詰まるような日々だった。

少し位なら、でもどうしよう……。

マクレーンが悩んで唸っていると、姉が「決まりね」と勝手に決めてしまった。
驚いて顔を上げたときには遅かった。
姉が指をぱちんと鳴らした瞬間。

ざぶん。

その場にいたマクレーンと、姉の乗っていた巨大な貝が忽然と消えたのだった。
そこに残っていたのは、波と共に消えていく水泡だけであった。





窓に取り付けられた鎧戸の隙間から、昇ったばかりの朝日が差し込んでくる。

朝か……。

己の顔にかかる暖かな日差しを感じて、部屋の住人はゆるゆると眠りから覚醒していった。
ふっと大きな瞼を開ければ、まだ部屋の中は薄暗く、窓の隙間から差し込んだ光が、辛うじて部屋の中を照らしているだけであった。
部屋の主は大きく伸びをすると、艶やかな蜜色の髪をかき上げながら寝台から起き出す。
クローゼットにかけていた自身の服に袖を通すと、閉まり切っていた窓を開け、新鮮な空気を室内へと招き入れた。
そして、朝陽に向かって祈りを捧げる。
毎朝欠かさず行ってきた祈りを終えると、蜜色の髪の主は、旅の共を待たせてはいけないと、階下の食堂へと降りていくのであった。
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