僕のおつかい

麻竹

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第二章【旅路編】

21.南の大地で大物を釣ります!

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「さて、次の目的地は南の大地、なのですが……。」

雷皇山を無事下山した後、マクレーン達は思わぬ事で足止めを喰らっていた。
なんと、アランが元の姿に戻らなかったのである。
とりあえず小さいままのアランを連れて転柱門へ行ってみたのだが、そこで門番である教会の役人に、このままの状態では駄目だと言われてしまったのであった。
曰く、通行証に記載されている情報と差異がある場合、通すことはできないのだという。
しかも、アランは何かしらの呪いみたいなものにかかっているらしく、このまま転柱門を通ると呪いの作用で何が起こるかわからないので許可できないのだそうだ。

「害はありませんし数日経てば元に戻りますので、その時にまたお越しください。」

営業スマイルで門番にそう言われてしまったマクレーン達は、アランが元の姿に戻るまで移動できないという事態に見舞われたのだった。



「まあ、置いて行っても良かったんですけどね……。」

「そんなツレナイ事言うなよ~、旅は道連れ世は情けって」

「それ、もう聞き飽きましたから……。」

マクレーンの呟きに、三日後にしてやっと元の姿に戻れたアランが抗議の声を上げるが、マクレーンにぴしゃりと遮られてしまい肩を落としていたのだった。
そんなアランを二コルが宥めている姿を横目に、転柱門を抜けるとマクレーンは眩しそうに目を細めた。
四つの大陸一、日差しの強い南の大地に、ようやくマクレーン達は辿り着けたのであった。







「さてと~、次に集める物は何だ~?マクレーン!」

あっという間に復活し、やる気満々のアランがマクレーンに問いかけてきた。
ちなみに、火の精霊カーラは『水は苦手なのよね』と言って、詰まらなそうな顔をしながらカーラ山へと帰ってしまったのだった。

そして、張り切るアランにマクレーンは

「海です。」

「は?」

「次の探し物は、海の中にあります。」

と、簡潔に答えてきたのだった。
その言葉に暫し考え込むアラン。
相変わらず察しが悪くて頭が痛くなる。
などとマクレーンが考えていると、アランはポンと手を打つと得意げな顔をしながら言ってきた。

「海と言えば釣りか!」

「…………。」

目をキラキラさせて自信満々に言ってくるアランに、マクレーンは可哀そうな子を見る様な目を向けてくる。
そんな様子に気づきもしないアランは、更に得意そうな顔をしながら続けてきた。

「ふふふ、自慢じゃないが俺は釣りは得意なんだ♪」

「……そうですか。」

顎に手を置き誇らしげに言ってくるアランを置いて、マクレーンはスタスタと歩き始める。
そんなマクレーンを追いかけながら、アランはめげる事無く話しかけてきた。

「で、何を釣ればいいんだ?瑠璃怪魚か?それともスターフィッシュ?まさか、オドガローンか!?」

わくわくと楽しそうに聞いてくるアランに、マクレーンはやれやれと溜息を吐いた後、目的の物の名を告げたのだった。

「南の大地の海で、最も捕獲が難しいと言われている桃色人魚の鱗です。」

「……え?」

マクレーンの回答に、アランは絶句するのであった。







人魚――その名の通り人の姿をした魚のことである。
この南の大地の海にしか生息しないと言われている海洋生物で、その姿は上半身が人間で下半身が魚という変わった姿をしていた。
しかも女性種のみしか存在せず、容姿は人に近く見目はかなり美しいそうだ。
その中でも桃色人魚は、その容姿の美しさから人魚の姫とも呼ばれ、海の男達の間ではアイドル的な存在でもあった。
一目見ただけで恋に落ち人魚を求めて日夜、海に出る男達が後を絶たないのだという。

しかも殆ど人前には現れない人魚の鱗は、その希少性と形状の美しさから高値で取引される。
そして、通常の人魚の尾は瑠璃色をしているのが殆どなのだが、その中でも桃色の尾を持つ者は珍しく、その鱗は家一軒買える程の値段で取引されるほどであった。



「で、そんな高級な鱗をどうやって探すんだ?」

アランは何故かジト目でマクレーンを見ながら、そんな事を聞いてきていた。
マクレーン達は今、レンタルした一般用の船で海に出ていた。
もちろん船の下には、動力源の瑠璃怪魚が指示を待ちながら大人しくしていた。

「もちろん”餌”で釣るんですよ。アランさん得意だって言っていましたよね?」

マクレーンは、何故か己を睨んでくるアランに無表情で答える。

「ああ、言ったさ……言ったけど……これはどういう事なんだよぉぉぉぉぉ!?」

何故か顔を青褪めさせて叫んできたアランの体は、ロープで縛られ船の先端に立たされていた。
しかもロープの手綱はマクレーンが握っている。
この流れはまさか?と、つい最近同じような目に遭ったアランは青い顔で頬を引き攣らせながらマクレーンに縋るような目を向けてきた。

「な、なあ、もしかしなくてもこれって……。」

「珍しく察しが良いですね。今回も”餌”になって貰いますから。」

「やっぱりいぃぃぃぃぃ!!」

なんで俺ばっかり!?と滝のような涙を流しながらアランが嘆いていると、マクレーンが面倒臭そうに説明してきたのだった。

「仕方ないじゃないですか、人魚はイケメンの男じゃないと釣れないんですから……。」

「え?」

マクレーンの言葉に、アランは涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔のまま驚いた表情で見てきた。
呆けた顔で見下ろしてくるアランに、マクレーンは「なんですか?」と嫌そうに聞き返す。

「い、いやだって、イケメンって……。」

「ああ、この中で『長身でイケメンの大人の男性』が、貴方しかいないから仕方ないじゃないですか。だから諦めて人魚の餌になってください。」

マクレーンがそう言った途端アランは、ぱあっと顔を輝かせてきた。
その変化にマクレーンが訝し気にアランを見ていると、彼は何故か嬉しそうな声で言ってきたのだった。

「そうかそうか~俺の事イケメンって思ってたのか~♪しょうがないな~マクレーンは~♪」

「何言ってるんですか?」

変なものでも食べたんですか?と眉間に皺を寄せて気持ち悪がるマクレーンを他所に、アランは何故か上機嫌でニコニコしていたのだった。

「まあいいですけど……じゃあ、このまま海を泳いで貰って人魚がかかるのを待ちましょう。あと、これを口に入れててください、水の中でも息ができるようになります。」

「おっけ~♪」

マクレーンはそう言って、姉達から渡されていた”試作品”をアランに渡したのだった。
アランは飴玉のようなそれを口の中に入れると、嬉しそうに返事をした後躊躇いなく海へと飛び込んだのだった。
「あ、あの……本当に大丈夫なんでしょうか?」

その様子を離れた所で見ていた二コルが、恐る恐るマクレーンに訊ねてきた。

「大丈夫ですよ、危なくなったらすぐ引き上げますから。」

そんな二コルにマクレーンは笑顔で答える。

「で、でも人魚って確か魔物で……。」

笑顔で答えるマクレーンに、二コルは何故か青褪めた顔をしながら海に浮かぶアランを見下ろしながら呟いてきた。

「アランさん、食べられたりしないですよね?」

「ああ、食べられはしませんよ。人魚はイケメンの男が好きってだけですから。」

「そ、そうなんですか。」

「ええ、彼女たちも女性ですからね。格好良い男性を好むらしいです。」

「な、なんだ、そういう事だったんですね……僕はてっきり、取って喰われてしまうんじゃないかと思ってました。」

「まあ、餌として食べられたりはしませんねぇ。でも……。」

マクレーンの説明に二コルは、ほっと安堵の息を吐く。
しかし、その後に続いたマクレーンの言葉に、二コルは青褪めたのであった。
そして船の下のアランを見下ろす。

「ほ、本当に大丈夫なんですか!?」

「まあ、とりあえずは。」

しれっと答えるマクレーンの言葉に、二コルは不安そうな声を漏らすのであった。







そして時を待たずして、アランの周りには人魚が集まっていた。
さすがは腐ってもイケメンである。
この時期、生きの良い男を求めて人の住む島の周りを回遊する人魚たちは、アランをすぐ見つけると嬉々として近付いてきたのであった。

「何処から来たの?」

「あなたに番はいる?」

「名前は?」

美しい人魚たちに囲まれて、質問攻めに合うアラン。
人魚とはいえ、想像以上に綺麗な女性に囲まれて満更でもないらしい。
アランは、だらしなく鼻の下を伸ばしながら人魚たちと楽しそうに話をしていた。

「こんな可愛い子達と話ができるなんて嬉しいなぁ~。」

「あら、じゃあ二人きりになれる良い場所があるから、そこでゆっくり話をしましょうよ。」

「あら駄目よ。ねえ、すっごく綺麗な場所があるの、よかったらそこに一緒に行きましょうよ!」

アランの呟きに、人魚たちが代わる代わる誘ってくる。
そんなモテモテな状態に、アランはデレっとした顔をしながら、うんうんと頷いていた。

「アランさん。目的を忘れないでくださいね。」

そんなアランにマクレーンは船の上から釘を刺す。
そう言って見下ろすマクレーンの視線の先――アランの周りに集まってきた人魚たちが、時折海面から出す尾の色は瑠璃色だった。
アランは今の今まで目的を忘れていたようで、バツが悪そうな顔をしながら人魚たちに訊ねてきた。

「あ~悪いんだけど、ここにピンク色の尻尾を持つ人魚の娘っていないかな?」

「あら、チェリー姫様の事?」

「え?ああ、チェリー姫って言うんだその子。ここにはいないの?」

「あら、姫様なら確か……」

アランの質問に人魚が答えようとした時、海の中から何かが飛び出してきた。

「やだ、みんないないと思ったら、こ~んなイケメン見つけてたの~?ずるいわ私に内緒で!」

ばしゃんと水飛沫をあげながら、海上に顔を出してきたのはピンクの髪と瞳を持つ、それはそれは美しい人魚だった。
そして、その人魚のすぐ横の海面から、ぴょこりと飛び出た尾ひれの色もピンク色をしていた。

「あ、桃色人魚!!」

二コルが思わず声を上げる。
その声に、キョトンとした顔をして見上げてきたピンク色の人魚は、二コルを見た途端「あら、こっちの子も可愛いわね」と嬉しそうに言ってきた。
その台詞に、二コルは思わず船の中に隠れてしまう。

「ぼ、僕は魔女の使徒ですから……。」

と、完全に怯えた様子で人魚から隠れるように小さくなりながら呟いていた。
そんな二コルを背後に隠しながら、マクレーンはアランに声をかける。

「その人魚さんが、桃色人魚です。」

マクレーンの言葉に、アランは改めてピンク色の人魚を見た。

海面から出ている肌は、陶器のように白く透き通っており、波の上に浮かんだ豊かな胸が、彼女のスタイルの良さを強調している。
小さな顔には、スッと通った鼻梁とプルンと瑞々しい形の良い薄紅色の唇がバランスよく並び。
そして、滑らかな肌を彩るピンクブロンドの長い髪には、白く輝く真珠が散りばめられ、髪と同じ色の円らな瞳は、アランを見つめながら嬉しそうに弧を描いていた。

絶世の美女と言っても過言ではない少女を、しげしげと眺めていたアランは徐に口を開いた。

「あのさ、お願いがあるんだけど。」

「なあに?」

アランの言葉に、チェリー姫と呼ばれていた桃色人魚は嬉しそうに聞き返してくる。

「鱗分けてくれないか?」

アランは、そんな人魚にストレートに言ってきたのであった。
チェリーはアランの言葉に、目をぱちくりと瞬かせた後、「いいわよ」とあっさりと承諾してきたのだった。

「え、ええ!?」

その返答に、先に驚いたのはアランでは無く船上にいた二コルだった。
二コルはマクレーンの背中を盾にしながら、恐る恐る人魚たちを見下ろす。

「いいのか?」

そんな二コルを背後に、アランはチェリーに再度聞き返してきた。

「いいわよ。鱗なんてまた生えてくるし。」

「本当か!?ありがとう!!」

チェリーの気前の良い返事に、アランは嬉しそうに感謝の言葉を口にする。

「その代わりに……」

そんなアランに、チェリーはにっこりと笑顔を向けながらそう言ってきたのであった。
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