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1.婚約者様の世話係を頼まれてしまいました
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皆様、はじめまして。
突然ですが、わたくしには婚約者がおります。
その婚約者様のお名前は、ジークハルト様とおっしゃられまして、紫がかった銀糸の髪を持つ大変美しいご尊顔をお持ちのお方です。
歳は20歳になったばかりの方ですが、若くして宮廷魔術師長という肩書を持つ、エリート中のエリートでございます。
そんな見目麗しく力も権力もあり、国王の覚えもめでたい期待の星であるお方の”婚約者”という名誉を賜ったのは何を隠そう、わたくし――公爵令嬢のアマーリエでございました。
権力だけはある公爵家に生まれたわたくしは、生まれた時からジークハルト様の婚約者になる事が決まっておりました。
そして、この縁談は国や王様、その他諸々の権力者たちの『大人の事情』とやらで決められたそうです……。
まあぶっちゃけ簡単に言えば、『王族と縁のある公爵家と結婚させてしまえば、国一番の最強魔術師の力を国に繋ぎ止めておけるだろう』という考えからだそうです。
かくいうわたくしも、そんな恐ろしいお方を敵に回す事には賛成できませんでしたので、お父様たちの判断は間違っていないと思っております。
ええ、思っております、思っております、が……。
その件の魔術師様は、そう簡単に思い通りにいかない御仁でいらしたのでありました。
この魔術師様、研究以外にはちっとも興味を示さないド変態だったのでございます。
どの程度かといいますと……まあ、これからゆっくりお話することにいたしましょう……。
「おはようございます。ジークハルト様。」
「…………。」
「ご機嫌はいかがですか?ジークハルト様。」
「…………。」
「こんばんは。ジークハルト様。」
「…………。」
「それでは、お休みなさいませ。ジークハルト様。」
「ああ。」
本日の会話――二言。
もうお判りいただけたと思いますが、この魔術師様、喋りません。
強いて言えば、殆ど動きもしません!
ほんっとうに日がな一日、研究机に齧り付いて一日を過ごされる御方なのです。
わたくしも初めてお会いした時は、びっくりいたしました。
何せ、お顔が見れないのですから。
この習慣は子供の時からだそうで、ジークハルト様は物心つく頃から研究に明け暮れ、実の御両親でさえも、なかなか話をする機会が無かったそうです。
かくいうわたくしも、初めてお会いしたのは10歳の頃でした。
しかしそこから約6年間、ジークハルト様のお顔を拝見できたのは、数える程しかありませんでした。
しかもジークハルト様は、一度研究を始めると昼夜逆転はもちろんのこと、三度の食事も忘れてしまう程の熱心振りで研究に没頭してしまうのです。
ある日、それが祟って栄養失調が原因で倒れられたことがありました。
その時は国中が大騒ぎとなり、一時期城下を賑わす大ニュースとして取り上げられた程でありました。
その為ジークハルト様には、身の回りのお世話をする監視役が付けられる事になったのですが、その時もひと悶着ありました。
この魔術師様、超が付くほどの人嫌いだったのです。
その中でも、他人が仕事場に入る事を特に嫌がったので、最初ジークハルト様のお母様が対応することになりました。
しかし、お世話を初めて一週間という早さで、お母様が根を上げてしまったのでした。
「あの子、声をかけても返事はしてくれないし、何やっても反応しない……ご飯も食べてくれないの……。」
と、母親としてのショックを受けながら、寝込んでしまわれたのです。
そこで困った大人たちは、ならばと婚約者である、わたくしに白羽の矢を立てたのでありました。
はっきり言って、自信はありませんでした。
というか、わたくしがジークハルト様の周りを、うろちょろしていて良いものかと不安でした。
しかし、お父様をはじめ周りの大人たちは大丈夫だと口々に言ってくる為、わたくしは渋々承諾したのでございます。
あんなに必死にお願いしてくるなんて……お父様たちも藁にも縋る思いだったのでしょう……。
思った通り、初日は惨敗でした。
部屋に入れはしたのですが、その先へは進めませんでした。
別にジークハルト様が入室を断ったわけでもなく、魔法で何かされたわけでもありません。
単に、入り口から先が研究材料や本で埋め尽くされていて通れなかったのです。
とりあえずその日は、挨拶だけ済ませて退室させて頂きました。
そして次の日――
昨日よりも更に増えた気がする研究材料たちに、わたくしは辟易してしまいましたが、とりあえず食事だけは運ばなければなりません。
入り口の横の壁側にあるサイドテーブルに、食事の乗ったトレーを置き、取り敢えず声をかけてから部屋を出ました。
もちろん、ジークハルト様は振り返る事も返事をすることも無く、研究机に向かっておられました。
とりあえず、その日はそれを3度繰り返し、わたくしは家に帰ったのでありました。
突然ですが、わたくしには婚約者がおります。
その婚約者様のお名前は、ジークハルト様とおっしゃられまして、紫がかった銀糸の髪を持つ大変美しいご尊顔をお持ちのお方です。
歳は20歳になったばかりの方ですが、若くして宮廷魔術師長という肩書を持つ、エリート中のエリートでございます。
そんな見目麗しく力も権力もあり、国王の覚えもめでたい期待の星であるお方の”婚約者”という名誉を賜ったのは何を隠そう、わたくし――公爵令嬢のアマーリエでございました。
権力だけはある公爵家に生まれたわたくしは、生まれた時からジークハルト様の婚約者になる事が決まっておりました。
そして、この縁談は国や王様、その他諸々の権力者たちの『大人の事情』とやらで決められたそうです……。
まあぶっちゃけ簡単に言えば、『王族と縁のある公爵家と結婚させてしまえば、国一番の最強魔術師の力を国に繋ぎ止めておけるだろう』という考えからだそうです。
かくいうわたくしも、そんな恐ろしいお方を敵に回す事には賛成できませんでしたので、お父様たちの判断は間違っていないと思っております。
ええ、思っております、思っております、が……。
その件の魔術師様は、そう簡単に思い通りにいかない御仁でいらしたのでありました。
この魔術師様、研究以外にはちっとも興味を示さないド変態だったのでございます。
どの程度かといいますと……まあ、これからゆっくりお話することにいたしましょう……。
「おはようございます。ジークハルト様。」
「…………。」
「ご機嫌はいかがですか?ジークハルト様。」
「…………。」
「こんばんは。ジークハルト様。」
「…………。」
「それでは、お休みなさいませ。ジークハルト様。」
「ああ。」
本日の会話――二言。
もうお判りいただけたと思いますが、この魔術師様、喋りません。
強いて言えば、殆ど動きもしません!
ほんっとうに日がな一日、研究机に齧り付いて一日を過ごされる御方なのです。
わたくしも初めてお会いした時は、びっくりいたしました。
何せ、お顔が見れないのですから。
この習慣は子供の時からだそうで、ジークハルト様は物心つく頃から研究に明け暮れ、実の御両親でさえも、なかなか話をする機会が無かったそうです。
かくいうわたくしも、初めてお会いしたのは10歳の頃でした。
しかしそこから約6年間、ジークハルト様のお顔を拝見できたのは、数える程しかありませんでした。
しかもジークハルト様は、一度研究を始めると昼夜逆転はもちろんのこと、三度の食事も忘れてしまう程の熱心振りで研究に没頭してしまうのです。
ある日、それが祟って栄養失調が原因で倒れられたことがありました。
その時は国中が大騒ぎとなり、一時期城下を賑わす大ニュースとして取り上げられた程でありました。
その為ジークハルト様には、身の回りのお世話をする監視役が付けられる事になったのですが、その時もひと悶着ありました。
この魔術師様、超が付くほどの人嫌いだったのです。
その中でも、他人が仕事場に入る事を特に嫌がったので、最初ジークハルト様のお母様が対応することになりました。
しかし、お世話を初めて一週間という早さで、お母様が根を上げてしまったのでした。
「あの子、声をかけても返事はしてくれないし、何やっても反応しない……ご飯も食べてくれないの……。」
と、母親としてのショックを受けながら、寝込んでしまわれたのです。
そこで困った大人たちは、ならばと婚約者である、わたくしに白羽の矢を立てたのでありました。
はっきり言って、自信はありませんでした。
というか、わたくしがジークハルト様の周りを、うろちょろしていて良いものかと不安でした。
しかし、お父様をはじめ周りの大人たちは大丈夫だと口々に言ってくる為、わたくしは渋々承諾したのでございます。
あんなに必死にお願いしてくるなんて……お父様たちも藁にも縋る思いだったのでしょう……。
思った通り、初日は惨敗でした。
部屋に入れはしたのですが、その先へは進めませんでした。
別にジークハルト様が入室を断ったわけでもなく、魔法で何かされたわけでもありません。
単に、入り口から先が研究材料や本で埋め尽くされていて通れなかったのです。
とりあえずその日は、挨拶だけ済ませて退室させて頂きました。
そして次の日――
昨日よりも更に増えた気がする研究材料たちに、わたくしは辟易してしまいましたが、とりあえず食事だけは運ばなければなりません。
入り口の横の壁側にあるサイドテーブルに、食事の乗ったトレーを置き、取り敢えず声をかけてから部屋を出ました。
もちろん、ジークハルト様は振り返る事も返事をすることも無く、研究机に向かっておられました。
とりあえず、その日はそれを3度繰り返し、わたくしは家に帰ったのでありました。
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私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
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