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8.婚約者様の世話係を放棄してしまいました
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数週間後――
わたくしは研究室に通う気力が出ず、ぐずぐずと部屋に籠っておりました。
突然、ジークハルト様の世話を放棄したわたくしに、お父様やジークハルト様のご両親たちが、理由を聞きに何度か足を運んでくださいましたが、わたくしは明確な理由も言えず、ただただ行けなくなったと頭を下げるばかりでした。
さすがのわたくしも、あの二人の様子を見て、図々しく通えるわけがありません。
なんの根拠も無い御令嬢達の嫌がらせならば、いくらでも対応できますが、好き合う二人の間に割って入れる程、厚顔無恥でも身の程知らずでもありません。
ただ……せめて、この想いは実らずとも、好きな人の前でだけは醜態を晒したくないと思ったのでございます。
「もういい加減、諦めなくては駄目ね……。」
わたくしは、自分に言い聞かせるように呟きます。
そして、ようやく意を決してお父様を呼ぶことにしたのでした。
わたくしの部屋に久しぶりに入ったお父様は、心配そうな顔をしながら、わたくしを見てきました。
「一体どうしたというんだい?」
優しいお父様は、我儘なわたくしに優しく訪ねて来られました。
「お父様……わたくし、ジークハルト様との婚約を破棄させて頂きたいと思います。」
わたくしの一世一代の告白に、お父様はこれでもかという程、目を見開いてきました。
「そ、それは……いや、どうしてそんな事を思ったんだい?」
お父様は、わたくしの真剣な表情に何かを察したのか、我儘な娘の言い分に怒る事もせず、困ったように眉根を寄せて訊ねてくださいました。
わたくしは、そんなお父様に申し訳なく思いながら理由を話しました。
「実は……ジークハルト様には、想いを寄せる方がいらしたのです……。」
わたくしは痛む胸を抑えながら、お父様に話します。
その話を聞いたお父様は、予想外の答えに瞠目しておりました。
無理もありません、研究にしか興味が無いと思っていたジークハルト様に好きな人がいたなどと、誰が想像できましょうか?
わたくしですら、驚いたのですから。
驚くお父様を見ながら、わたくしは言葉を続けました。
「できれば、ジークハルト様には好きな人と結ばれて欲しいと思っております。あの方には幸せになって欲しいのです。ですから無理を承知でお願いです、お父様!」
わたくしはそう言うと、父に深々と頭を下げました。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、アマリー。」
お父様もだいぶ混乱しているのでしょう、わたくしの幼少時の愛称を呼び青褪めながら声をかけてきたのでした。
「か、彼が、そう言ったのかい?」
「い、いいえ……でも、あの方たちが仲睦まじくしている姿を見ました。」
「そ、そうか……。」
お父様は「そんなばかな」と何やら色々ブツブツ言って認めたくないようでしたが、事実なので仕方が無いのです。
もうここは潔く諦めて、ジークハルト様の幸せを願って欲しいのですが……。
わたくしが、お父様の様子をじっと見ていると、お父様は、わたくしに向かって「少し待ってくれ」と申されました。
ええ、そうですわね、国王陛下がお決めになった婚約ですもの、そう簡単には破棄できませんものね。
わたくしは、お父様の申し出に快く頷きました。
でも、ジークハルト様がお決めになったお相手ならば、国王陛下もきっと承認してくださるでしょう。
婚約者を変えるにしても、手続きやら何やらを考えても、すぐには出来ない事はわたくしも重々承知しております。
ですから、正式に婚約破棄が受理されるまで、時間がかかる事は仕方ないと思っておりました。
「はい、簡単な事では無い事はわかっております。無理を言って申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。」
わたくしはそう言って、迷惑をかける父に向かって頭を下げました。
そんなわたくしに、お父様は「そうじゃないんだが……」と何やら不満げです。
しかし、こうなっては、もうどうすることも出来ません。
わたくしは再度頭を下げると、婚約破棄の件については、お父様にお任せすることにしたのでした。
わたくしは研究室に通う気力が出ず、ぐずぐずと部屋に籠っておりました。
突然、ジークハルト様の世話を放棄したわたくしに、お父様やジークハルト様のご両親たちが、理由を聞きに何度か足を運んでくださいましたが、わたくしは明確な理由も言えず、ただただ行けなくなったと頭を下げるばかりでした。
さすがのわたくしも、あの二人の様子を見て、図々しく通えるわけがありません。
なんの根拠も無い御令嬢達の嫌がらせならば、いくらでも対応できますが、好き合う二人の間に割って入れる程、厚顔無恥でも身の程知らずでもありません。
ただ……せめて、この想いは実らずとも、好きな人の前でだけは醜態を晒したくないと思ったのでございます。
「もういい加減、諦めなくては駄目ね……。」
わたくしは、自分に言い聞かせるように呟きます。
そして、ようやく意を決してお父様を呼ぶことにしたのでした。
わたくしの部屋に久しぶりに入ったお父様は、心配そうな顔をしながら、わたくしを見てきました。
「一体どうしたというんだい?」
優しいお父様は、我儘なわたくしに優しく訪ねて来られました。
「お父様……わたくし、ジークハルト様との婚約を破棄させて頂きたいと思います。」
わたくしの一世一代の告白に、お父様はこれでもかという程、目を見開いてきました。
「そ、それは……いや、どうしてそんな事を思ったんだい?」
お父様は、わたくしの真剣な表情に何かを察したのか、我儘な娘の言い分に怒る事もせず、困ったように眉根を寄せて訊ねてくださいました。
わたくしは、そんなお父様に申し訳なく思いながら理由を話しました。
「実は……ジークハルト様には、想いを寄せる方がいらしたのです……。」
わたくしは痛む胸を抑えながら、お父様に話します。
その話を聞いたお父様は、予想外の答えに瞠目しておりました。
無理もありません、研究にしか興味が無いと思っていたジークハルト様に好きな人がいたなどと、誰が想像できましょうか?
わたくしですら、驚いたのですから。
驚くお父様を見ながら、わたくしは言葉を続けました。
「できれば、ジークハルト様には好きな人と結ばれて欲しいと思っております。あの方には幸せになって欲しいのです。ですから無理を承知でお願いです、お父様!」
わたくしはそう言うと、父に深々と頭を下げました。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、アマリー。」
お父様もだいぶ混乱しているのでしょう、わたくしの幼少時の愛称を呼び青褪めながら声をかけてきたのでした。
「か、彼が、そう言ったのかい?」
「い、いいえ……でも、あの方たちが仲睦まじくしている姿を見ました。」
「そ、そうか……。」
お父様は「そんなばかな」と何やら色々ブツブツ言って認めたくないようでしたが、事実なので仕方が無いのです。
もうここは潔く諦めて、ジークハルト様の幸せを願って欲しいのですが……。
わたくしが、お父様の様子をじっと見ていると、お父様は、わたくしに向かって「少し待ってくれ」と申されました。
ええ、そうですわね、国王陛下がお決めになった婚約ですもの、そう簡単には破棄できませんものね。
わたくしは、お父様の申し出に快く頷きました。
でも、ジークハルト様がお決めになったお相手ならば、国王陛下もきっと承認してくださるでしょう。
婚約者を変えるにしても、手続きやら何やらを考えても、すぐには出来ない事はわたくしも重々承知しております。
ですから、正式に婚約破棄が受理されるまで、時間がかかる事は仕方ないと思っておりました。
「はい、簡単な事では無い事はわかっております。無理を言って申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。」
わたくしはそう言って、迷惑をかける父に向かって頭を下げました。
そんなわたくしに、お父様は「そうじゃないんだが……」と何やら不満げです。
しかし、こうなっては、もうどうすることも出来ません。
わたくしは再度頭を下げると、婚約破棄の件については、お父様にお任せすることにしたのでした。
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