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1.婚姻の儀
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その日、第一王子の婚姻の儀が、ひっそりと行われた。
参列者は必要最低限の者達だけで、民たちへの御披露目も無かった。
それは、第一王子からの強い要望があった為である。
できるだけ人目につかず、気付かれないうちに式を終わらせたい。
そんな要望だった。
はてさてそれは、あまりの花嫁の美しさに、誰にも見せたくないという独占欲からか……
それとも、式の最中、他の男に目移りされては困ると心配したのか……
真相は、そのどちらでもなかった。
「なんっで、あいつは、あんなにも醜いんだ!!」
廊下に響き渡る第一王子の声。
その後を追従する従順な側近達は、またか、と小さく溜息を吐いていた。
「そもそも、なんで俺が、あんな女と結婚しなきゃならないんだ!!」
第一王子は自室の扉を勢いよく開けると、身に着けていた婚礼用の衣装を乱暴に床へと叩きつけた。
その姿に怯えながらも、侍女たちはテキパキと床に落ちた衣装を拾っていく。
給仕係の侍女が青褪めた顔で、テーブルに紅茶を用意すると、第一王子はどかりとソファに座り、出されたお茶を一気に呷った。
そこへ、見目麗しい豪華なドレスを身に纏った、美しい少女が部屋へと入ってきた。
その少女を見るや、周りにいた側近や侍女たちは恭しく一礼すると、部屋の隅へと移動していく。
「おお、フリージア!会いたかったぞ。」
「私もでございます。婚姻の儀、お疲れ様でございました。」
入ってきた女性はそう言うと、優雅にカーテシーをして第一王子の側へと寄った。
侯爵令嬢フリージア――第一王子の幼馴染であり、小さい頃から一緒になることを約束している、王子の恋人である。
「ああ、本当に疲れた。これで、あの女と夫婦になってしまったと思うと、ぞっとする。」
「まあ、そんなこと、例え本人がこの場に居ないとはいえ、悪口など良くありませんわ。」
「お前は、相変わらず優しいな。」
「そんな、私など……ただ、あの方が不憫でならないだけですわ。」
「うむ、お前は本当に心根も優しく、素晴らしい女性だ。」
「お褒めに預かり光栄ですわ。」
「ああ、もう少しこっちへ来て、お前の顔を見せておくれ。」
「仰せのままに。」
フリージアと呼ばれた女はそう言うと、第一王子の隣に腰かけ、彼の頬にそっと手を添えてきた。
王子はその手に擦り寄る様に甘えると、ほお、と息を吐く。
「ああ、お前といると癒される。」
「ふふふ、存分に甘えてくださいまし。」
「ああ。」
そう言って、第一王子は心ゆくまで、恋人に甘えるのだった。
この日、この国の第一王子は兼ねてよりの盟約に従い、隣国の第一王女と婚姻の儀を交わしたのだった。
そもそも王子は、この結婚に反対だった。
それは、幼馴染であり婚約者でもある侯爵令嬢と結婚したいと思っていたからである。
しかし二年前、突然父である王が倒れた。
その時、病床で苦しむ父王から、その昔親友だった隣国の王と、とある約束をしていたという話を聞かされた。
その約束とは、『自分たちの子供に男女が生まれたら、互いの国の結束のために結婚させよう』という政略的なものだった。
そんな話を聞かされた第一王子は、父王に反発した。
幼い頃から想い合っている幼馴染と結婚したいと申し出たが、それは突っぱねられてしまった。
どうしても結婚したければ、側妃として迎えろと言われてしまったのだ。
くだらない盟約で、引き裂かれる恋人たち。
第一王子は、その理不尽さに腹を立てたが、これも王子の務めと割り切り、我慢することにした。
しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だったのである。
参列者は必要最低限の者達だけで、民たちへの御披露目も無かった。
それは、第一王子からの強い要望があった為である。
できるだけ人目につかず、気付かれないうちに式を終わらせたい。
そんな要望だった。
はてさてそれは、あまりの花嫁の美しさに、誰にも見せたくないという独占欲からか……
それとも、式の最中、他の男に目移りされては困ると心配したのか……
真相は、そのどちらでもなかった。
「なんっで、あいつは、あんなにも醜いんだ!!」
廊下に響き渡る第一王子の声。
その後を追従する従順な側近達は、またか、と小さく溜息を吐いていた。
「そもそも、なんで俺が、あんな女と結婚しなきゃならないんだ!!」
第一王子は自室の扉を勢いよく開けると、身に着けていた婚礼用の衣装を乱暴に床へと叩きつけた。
その姿に怯えながらも、侍女たちはテキパキと床に落ちた衣装を拾っていく。
給仕係の侍女が青褪めた顔で、テーブルに紅茶を用意すると、第一王子はどかりとソファに座り、出されたお茶を一気に呷った。
そこへ、見目麗しい豪華なドレスを身に纏った、美しい少女が部屋へと入ってきた。
その少女を見るや、周りにいた側近や侍女たちは恭しく一礼すると、部屋の隅へと移動していく。
「おお、フリージア!会いたかったぞ。」
「私もでございます。婚姻の儀、お疲れ様でございました。」
入ってきた女性はそう言うと、優雅にカーテシーをして第一王子の側へと寄った。
侯爵令嬢フリージア――第一王子の幼馴染であり、小さい頃から一緒になることを約束している、王子の恋人である。
「ああ、本当に疲れた。これで、あの女と夫婦になってしまったと思うと、ぞっとする。」
「まあ、そんなこと、例え本人がこの場に居ないとはいえ、悪口など良くありませんわ。」
「お前は、相変わらず優しいな。」
「そんな、私など……ただ、あの方が不憫でならないだけですわ。」
「うむ、お前は本当に心根も優しく、素晴らしい女性だ。」
「お褒めに預かり光栄ですわ。」
「ああ、もう少しこっちへ来て、お前の顔を見せておくれ。」
「仰せのままに。」
フリージアと呼ばれた女はそう言うと、第一王子の隣に腰かけ、彼の頬にそっと手を添えてきた。
王子はその手に擦り寄る様に甘えると、ほお、と息を吐く。
「ああ、お前といると癒される。」
「ふふふ、存分に甘えてくださいまし。」
「ああ。」
そう言って、第一王子は心ゆくまで、恋人に甘えるのだった。
この日、この国の第一王子は兼ねてよりの盟約に従い、隣国の第一王女と婚姻の儀を交わしたのだった。
そもそも王子は、この結婚に反対だった。
それは、幼馴染であり婚約者でもある侯爵令嬢と結婚したいと思っていたからである。
しかし二年前、突然父である王が倒れた。
その時、病床で苦しむ父王から、その昔親友だった隣国の王と、とある約束をしていたという話を聞かされた。
その約束とは、『自分たちの子供に男女が生まれたら、互いの国の結束のために結婚させよう』という政略的なものだった。
そんな話を聞かされた第一王子は、父王に反発した。
幼い頃から想い合っている幼馴染と結婚したいと申し出たが、それは突っぱねられてしまった。
どうしても結婚したければ、側妃として迎えろと言われてしまったのだ。
くだらない盟約で、引き裂かれる恋人たち。
第一王子は、その理不尽さに腹を立てたが、これも王子の務めと割り切り、我慢することにした。
しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だったのである。
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