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8話「幸せの崩壊VIII」
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――ああ、そうか
胸の奥で小さく閃光が走る。自然は人間の悲しみなどお構いなしに巡っていく。四季は移ろい続けるし、花は遅かれ早かれ咲くものなのだ。
私だって同じだ。傷つき、打ち拉がれようとも、季節は勝手に春に向かうように。そしてその先に次の季節がある。
まだ凍えそうなほど寒い冬でも、大地の下では生命が蠢いている。蕾を抱えた枝は確かにそこに存在しているのだ。
指輪のケースを強く握りしめる。指先が痺れるほどの力だったが、それは苦痛ではなく意志の表れだった。
「……捨てましょう」
そっとケースを開き、指輪を掴む。蝋燭の灯に翳せば、ダイヤモンドが一瞬だけ鈍く煌めいた。かつてあの青い瞳と同じ輝きに魅せられていた日々。
だが今、ミレーナが見るべきものは別の光なのだ。
振りかぶり、バルコニーの手摺りの向こう――芝生の上に指輪を投げ捨てた。弧を描いて落下した金属は芝に触れる音さえ立てず、闇の中に吸い込まれる。
静寂が戻った。
同時に、胸の中で重かった鎖が断ち切られたような開放感が生まれた。
深呼吸。夜気が肺を満たす。
それまでの鬱屈した空気が一掃され、清々しい冷気が体内を循環していく感覚がある。
振り返り、部屋に入る。ベッド脇の棚には母の遺した日記帳が置かれていた。ページを捲れば、いつも書き出される言葉がある――『大切なのは自分を信じること』。
その文字が今夜だけは一層濃く、鮮明に映った。
ミレーナは日記を手に取り、ペンを握る。インク壺の蓋を開けながら、心に決めた。
明日からの自分を決めるのは自分自身だ。グレンの評価でも侯爵家の目でもない。傷つき、恐れようとも前に進むしかないのだと。
――もし次があるのなら、その時は誰かの目を気にするのではなく、自分の心に従おう。
最初の一行を書き終えたところで、不意に涙が零れた。しかし以前のような自己嫌悪の涙ではない。夜明け前の星々が東の空に微かに光を放つように、涙の奥にはかすかな希望が宿っていた。
部屋の隅では木蓮の木が風に揺れている。闇の中でもその輪郭がぼんやりと浮かび上がり、まるで応援するかのようにそっと枝葉を揺らしている。
夜はまだ深いけれど、確実に朝はやって来る。季節は移ろい、蕾はいずれ花開く。
ミレーナは窓辺で立ったまま、しばらくの間ただ静かに暗がりを見つめていた。
頬を伝う涙もそのままに。
深い後悔の中で見つけたのは小さな光明だった。その光はまだ弱々しくとも、彼女にとっては闇を照らす最初の一筋となったのだ。
胸の奥で小さく閃光が走る。自然は人間の悲しみなどお構いなしに巡っていく。四季は移ろい続けるし、花は遅かれ早かれ咲くものなのだ。
私だって同じだ。傷つき、打ち拉がれようとも、季節は勝手に春に向かうように。そしてその先に次の季節がある。
まだ凍えそうなほど寒い冬でも、大地の下では生命が蠢いている。蕾を抱えた枝は確かにそこに存在しているのだ。
指輪のケースを強く握りしめる。指先が痺れるほどの力だったが、それは苦痛ではなく意志の表れだった。
「……捨てましょう」
そっとケースを開き、指輪を掴む。蝋燭の灯に翳せば、ダイヤモンドが一瞬だけ鈍く煌めいた。かつてあの青い瞳と同じ輝きに魅せられていた日々。
だが今、ミレーナが見るべきものは別の光なのだ。
振りかぶり、バルコニーの手摺りの向こう――芝生の上に指輪を投げ捨てた。弧を描いて落下した金属は芝に触れる音さえ立てず、闇の中に吸い込まれる。
静寂が戻った。
同時に、胸の中で重かった鎖が断ち切られたような開放感が生まれた。
深呼吸。夜気が肺を満たす。
それまでの鬱屈した空気が一掃され、清々しい冷気が体内を循環していく感覚がある。
振り返り、部屋に入る。ベッド脇の棚には母の遺した日記帳が置かれていた。ページを捲れば、いつも書き出される言葉がある――『大切なのは自分を信じること』。
その文字が今夜だけは一層濃く、鮮明に映った。
ミレーナは日記を手に取り、ペンを握る。インク壺の蓋を開けながら、心に決めた。
明日からの自分を決めるのは自分自身だ。グレンの評価でも侯爵家の目でもない。傷つき、恐れようとも前に進むしかないのだと。
――もし次があるのなら、その時は誰かの目を気にするのではなく、自分の心に従おう。
最初の一行を書き終えたところで、不意に涙が零れた。しかし以前のような自己嫌悪の涙ではない。夜明け前の星々が東の空に微かに光を放つように、涙の奥にはかすかな希望が宿っていた。
部屋の隅では木蓮の木が風に揺れている。闇の中でもその輪郭がぼんやりと浮かび上がり、まるで応援するかのようにそっと枝葉を揺らしている。
夜はまだ深いけれど、確実に朝はやって来る。季節は移ろい、蕾はいずれ花開く。
ミレーナは窓辺で立ったまま、しばらくの間ただ静かに暗がりを見つめていた。
頬を伝う涙もそのままに。
深い後悔の中で見つけたのは小さな光明だった。その光はまだ弱々しくとも、彼女にとっては闇を照らす最初の一筋となったのだ。
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