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日本三大悪妖怪
しおりを挟む家まであと少し、家が見えてくる道の途中で、母親が楽しそうに何事かを話している声が耳に入る。曲がり角の塀で聞き耳をたてると、どうやらお客さんと井戸端会議をしているらしい。
(俺の隣を転がるスーパーボール、っていうのも怪奇現象になっちゃうよな。)
「猫又さん、これ、ちょっと貸してくださいね。」
「にゃに!!柳も遊びたくなったか」
何を勘違いしたのか、興奮して俺の周りをグルグルと回り足にじゃれついている猫又には申し訳ないが、母親に見つかると面倒なのでスルーさせていただく。
ちなみに、俺の周りには妖怪が見える人間は一人もいない。バレないようにしている可能性もゼロでは無いが、少なくとも我が家では見える人間はいないだろう。この間も食卓の上で鬼ごっこの様な遊びをしていた小さな妖怪さえも、母親の目線が追うことはなかったから。
母親は、玄関に近づく俺を見つけると、おしゃべりを中断して声を掛けてきた。
「あら、お帰り。今日は遅かったのね、夕飯出来てるわよ。自分で支度して食べてね。」
「はぁい、ありがと」
「世話になるぞっ」
「……そう、それでね~! 」
母親はまだ会議を白熱させる気らしいし、猫又は陽気に挨拶しながらずんずんと家の中に入っていく。みんな自由だなぁ、なんて思いながら俺は部屋に引っ込んだ。
「中々住み心地が良さそうじゃないか。室内猫はいつも退屈そうだと思っていたが、そんなこともない様だにゃ」
ふたたび俺から奪還したスーパーボールをバシバシと叩きながら、部屋を物色する猫又は、押入れが気に入った様で出たり入ったりを繰り返している。
頼まれたから連れて帰ってきたけど、これからどうするべきか。自然と口から出て行く空気の塊を、成り行きのまま吐き出す。猫又にもその音が聞こえた様で、押入れからひょっこりと顔を出した。
「どうしたんだにゃ柳、そんな溜息ついて。不景気か? 」
「妙におっさんらしいコメントするのやめて下さいよ…いや、明日から大丈夫かなって思って。」
猫又と商店街に向かう前、最後に店主とは明日の暗くなる前、つまりは黄昏時によろずやに集合となったのだ。そこで初めての依頼が渡される。
「俺、今まで妖怪は避けてきたんです。見えてない、見えてない……って感じで。」
「まあ、そうだろうな。吾輩とて、悪妖怪どもに積極的に関わろうと言う気はない」
「その悪妖怪って、どのくらい悪なんですか?言い方はおかしいですけど、店のものくすねる位なら人間もやる人居ますし。」
「そんなチンケなものと一緒にするにゃ!!そうだな、この日本には三大悪妖怪なる物がいる。常に争いあっているから、入れ替わりもあるんだが、今は酒呑童子、玉藻前、大嶽丸あたりだな。」
「特殊な名前すぎて全然聞き取れなかったんですけど……え、しゅてんどうじ、たまものまえと……おまる?」
「お、おまるっ!! 」
俺の発言を聞くなりブニャハハハ!と、腹を抱えて笑い出した猫又。え、やっぱり間違ってた?
ヒーヒー言いながらも、なんとか持ち直した猫又は、気持ちを落ち着かせるためか、毛繕いを始めた。
「はー、笑った笑った。おまるではなく、“おおたけまる”だ。彼奴らは人を呪い殺せるからにゃ、おまるなんて言われたと知ったら……プ、プフッ」
「そんな危ない妖怪なんですか!」
「まあ、妖怪の力も様々だからにゃ。吾輩には、取り憑く能力、無精者には神通力、柳が救ったと言う烏は、人に見えるという力を持っていたんだろうな。……にしても、烏か。」
猫又がなにかをぶつぶつと言っているのが聞こえるが、俺はもうそれどころじゃなかった。人を呪い殺せるとか、本当に天災レベルでヤバイやつだ。
「まあ、兎にも角にも依頼内容を聞いてみないことにはな。明日の依頼を楽しみにしておこう。」
そう嬉しそうに宣った猫又は、きっと俺の不遇を楽しんでいるんだろう。刺激のない毎日だったんだろうとは思うが、俺で楽しもうとするのは本当にやめて欲しい。
(……そうか、そっちがそのつもりなら、依頼解決に協力してもらおう)
なんとなく光明が見えた気がして、既にスヤスヤと眠り始めた猫又を眺めていた。
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