所詮、狗。

はちのす

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警告

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「再会を祝して」

掲げられたグラス同士で軽く音を鳴らす。
黄嶋先輩の家は人1人で住まうには十分な広さで、大きなサイズのベッドと、それを囲むようにサイドテーブルや生花、観賞植物が配置されているのが特徴的な部屋だった。

テーブルの真ん中に鎮座する宅配ピザだけが生活感を醸し出している。

(さすが先輩、部屋もおしゃれだな……)

「で、どうよ。白王とは仲良くやってるの」

「というか、なんで2人は知り合いなんですか?白王は警察関係者じゃないですよね」

「それは白王に聞いて欲しいところだけど……まぁいいか。昔馴染みなんだよね、彼とは」

(昔馴染み……?)

俺が不思議そうな顔をしているのを見てか、プッと少し噴き出して説明を続ける。

「彼が学生の時、俺に何度か尋ねモノをしてきてね。そこからの縁だよ」

「へぇ、それにしては随分と長く関係を築いているんですね」

頼まれごとの多い職種だから、普通は諸問題が解決したら、そこで関係性も終わりだ。
癒着などを防ぐためにも、その方が良いと思っているのだが……白王は特例らしかった。

「まあ、そこそこの理由もあったし」

意味ありげに言葉を濁すと、黄嶋先輩は
コトリ、とグラスをテーブルに置いた。

そして、流れるような動作で、その無骨な指を首に這わせてくる。
プツリ、プツリとボタンが外され、少しずつ呼吸が楽になる。
気にも留めていなかったが、やはり襟元の圧迫感はあったらしい。

締め付ける感覚が無くなった途端、黄嶋先輩の眼光が鋭くなった。

「……こりゃひどいね、白王がやったの?」

(……そういえば、昼間も俺がきっちりと着込んでいることを気にしてくれていたな)

「まぁ、そうですね。経緯は色々とありますけど」

「ふぅん、こんな事されるんだったら、返したくなくなっちゃうな」

にこり、と笑みを浮かべてはいるが瞳の奥が真っ暗だ。

(こ、これは……滅茶苦茶怒ってる)

「実はね、昨日青野が血相変えてウチの課に来てさ。そこで黒ちゃんの現状を知ったんだよね」

「は?青野が?」

「『黒谷先輩が大変です!』ってね。青野は今日は別件で来られないからね、先に俺が来たの」

絞められて変色した痕をするりと撫でられ、自然と身体が緊張する。

「白王も下手だなぁ、独占欲を昇華させるの」

どうしてやろうか、なんて物騒な独り言を呟きながら、俺の首元を眺める。

……きっと、俺が置かれた境遇を苦く思ってくれているんだろう。

(突如として連絡を絶った不義理な俺にも、こんなに目を掛けてくれるのか)

と、恵まれた環境を噛み締めていると、ふと目の前の先輩の影が消えた。
いや、消えたというよりも近づき過ぎて焦点が合わなくなったんだ。

何事かと慌てるが、首元に感じた熱い吐息でこの珍妙な事態を把握した。

── 黄嶋先輩に、首を舐められている。

「え?黄嶋せ……ッん」

「しずかに、ね」

「まっ……ひっ、ん」

首の筋をざらりとした舌の感触が往復して、皮膚を喰らうかのように歯を立てられる。
喉仏に硬い歯が擦れて、思わず悲鳴が漏れ出た。

「いっ、先輩なにして……」

「上書き。これで戒めになるでしょ」

オマケとばかりに、ちゅっ、と鎖骨あたりを吸い上げられ顔が熱くなる。

(キスマーク、だよな……今の)

「ちょっと、先輩どういうつもりで」

「白王にお灸を据えてやろうと思ってね。他意は無いから」

「いやお灸って……言葉で十分でしょ、それにキスマークは意味不明っていうか、やり過ぎっていうか」

驚きのあまり、敬語も何もかもを忘れ愚痴を溢すが、先輩はどこ吹く風。
あっさりと身を引いてグラスを傾けた。

出会って10年ほどになるが、今日ほど先輩の考えが読めないのは初めてだ。

「白王に伝えといて『警告』だって」

「俺を介さないで、直接言ってくださいよ……」

弱りきった細い声は、グラスの中に溶けて、先輩の耳に届くことはなかった。
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