所詮、狗。

はちのす

文字の大きさ
18 / 39

お手つき

しおりを挟む
公園から徒歩数分の場所にあるコンビニエンスストアは、子供の遊びに纏わる商品も多く陳列されていた。

広々とした店内をぐるりと回り、店員に話を聞くも、当時雇われていた人物とは連絡すらもつかないと判明した。

「はあ、やっぱりか。期待はしてなかったけど」

「ただでさえ、コンビニエンスストアの従業員は入れ替わりが激しいからな」

「ってことは、辿る先ももうないか」

話だけ聞いて帰るのも悪い気がして、購入したアイスに齧り付く。
個体とも液体ともつかない甘ったるい物体が口の中を満たす。

「そういや、このタレコミの写真を撮ったカメラマンには当たったのか?当時の状況は見てるだろ」

「聞いてみたが、めぼしい情報は出てこなかった。被害者が発見され、その時に公園に居合わせたから撮影が出来たらしい」

「とんだ野次馬根性だよね?」

突然、会話のキャッチボールに第三者の声が参入してきた。
かなり遠くから投げ掛けられた声を辿ると、ポケットに手を突っ込みながら怠惰な足取りで近寄ってくる男性を視界に捉えた。

途端に、ぐわりと俺の血が沸き立ち、男性の元へと駆け寄る。

「え、き、黄嶋先輩ッ……どうしてこんなところに?!」

「よぉ、黒ちゃん。元気してた?」

ぽふりと頭を撫でられ、少し落ち込んでいた気持ちが高揚する。

スマートフォンを解約して以来、久しぶりに黄嶋先輩の声を聞いた。
落ち着いていて、脳を直撃するような甘い声質だ。

人目を惹く相貌や退廃的な雰囲気も相まって、銀幕の中の人ようだといつも思う。

黄嶋先輩は、交番勤めをしている頃からマダム達を始めとして地域みんなから人気の巡査で、俺は新人ながらもその姿を誇りに思っていた。

「今はそこの白王の探偵業を手伝ってるんです」

「あぁ、白王くん。そっちも元気してた?最近見ないと思ったら……そういうことね」

「はい、おかげさまで」

「……は?」

頭上で交わされる会話に、雷に打たれたような衝撃を受けた。

(この2人が、知り合い?なんで、そんなわけ……)

混乱した頭で必死に2人の共通点を探すが、何も思い当たらない。
すると、俺の状態を悟ったのか、先輩はくすりと笑って俺の頬を擽った。

「黒ちゃん、不自由な事はない?ま、彼の家なら大丈夫だとは思うけど」

「い、いや、あの。2人はどういう知り合いで……」

「……もしかして、気付いてないの?」

今度は先輩が目を皿のようにして驚く。
そして、白王をそろりと見ると、眉間に皺を寄せて深い溜息を吐いた。

「全く……世話が焼けるよね」

「???」

「俺んちに泊まっていかない?黒ちゃんの好きなピザとって就職祝いしたげる」

「え!いいんすか?!」

黄嶋先輩はにこりと微笑むと、顔を寄せて耳打ちしてくる。

「たぁいせつな黒ちゃんのお祝いだし。一日中甘やかしてあげるよ」

「……ッ!」

するりと腰に回された手が、横っ腹を擽る。
異常な距離の近さに狼狽えていると、黄嶋先輩の指先が顎の下を撫で、いつも以上にピッチリと着こなした襟元のボタンを緩め始めた。

「……ここ、何隠してるの?」

「黄嶋さん」

冷や水を打ったかのように、一声で場が静まる。

「いくら貴方でも、それは許容できない」

「白王くんがモタモタしてるからでしょ。そんなに悠長にしてるなら、俺が囲っちゃうよ」

「……」

「優柔不断な上司を持つと辛いねぇ?黒ちゃん」

「え?あ、はい?」

訳もわからず返事をすると、白王から発される威圧感が増す。

「そういえば、黒ちゃんはどうしてこのコンビニに?探偵社からはちょっと遠くない?」

「仕事で、この人物の聞き取りをやってます」

ぴらりと写真を見せると、合点がいったと頷いた。

「ああ、この男性ね。見たことあるよ、何回か」

「へ?」

「俺、この公園もテリトリーでね?たまに情報収集に来んの」

黄嶋先輩は、地域からの信頼も厚く、様々な場所を自陣としてこのエリアの情報を集めている。
この公園も、その一つなんだろう。

……確かに、先ほどから通り掛かるマダム達の熱い視線を感じる。

「そ、それ最後に目撃したのはいつですか?」

「彼が亡くなる前だね。だから、ポスターが出た時は流石に驚いたよ……あ、でも一月前に似た後ろ姿は見た気がする。流石に勘違いだと思って、追いかけはしなかったけど」

「ッ、本当ですか!」

「刑事が言ってるんだから、ホント」

「黄嶋さん、ご遺体は確認済みですか?貴方が所属する組織のご担当のはずですが」

「そうだよ、事実確認はしてる。死は紛れもない事実だ……けど、一つ面白い情報を渡してあげるよ」

職務上あんまり言えないけど、これだけはね。と前置きしてポツリと呟いた。

「出生の記録がチグハグなんだ、その男性」

「出生の、記録……?」

「そう、ちょっと普通じゃない。君達では謄本の閲覧は無理だろうから、関係者をあたってみるといい」

真面目なトーンで語られた事実は、興味を引くには十分な内容だった。
考え込む白王を他所に、笑みを深めた先輩は俺の手を引いて颯爽と歩き出す。

「じゃ、黒ちゃんは俺の家に行こうか。心配しないで、明朝には送り届けるよ」

「ッ、黒谷君……」

「今日の会議はパスで!朝飯ちゃんと食うんだぞ!」

「ふは、何だか親みたいだね。黒ちゃん」

覇気のない白王の声に、少しだけ……ほんの少しだけ後ろ髪を引かれる。
が、この驚きの邂逅で一杯になった俺の心中には、振り向くなんて選択肢はなかった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

【完結】獣王の番

なの
BL
獣王国の若き王ライオネルは、和平の証として差し出されたΩの少年ユリアンを「番など認めぬ」と冷酷に拒絶する。 虐げられながらも、ユリアンは決してその誇りを失わなかった。 しかし暴走する獣の血を鎮められるのは、そのユリアンただ一人――。 やがて明かされる予言、「真の獣王は唯一の番と結ばれるとき、国を救う」 拒絶から始まった二人の関係は、やがて国を救う愛へと変わっていく。 冷徹な獣王と運命のΩの、拒絶から始まる、運命の溺愛ファンタジー!

【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした

鳥居之イチ
BL
———————————————————— 受:久遠 酵汰《くおん こうた》 攻:金城 桜花《かねしろ おうか》 ———————————————————— あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。 その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。 上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。 それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。 お呪いのルールはたったの二つ。  ■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。  ■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。 つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。 久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、 金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが… ———————————————————— この作品は他サイトでも投稿しております。

処理中です...