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お手つき
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公園から徒歩数分の場所にあるコンビニエンスストアは、子供の遊びに纏わる商品も多く陳列されていた。
広々とした店内をぐるりと回り、店員に話を聞くも、当時雇われていた人物とは連絡すらもつかないと判明した。
「はあ、やっぱりか。期待はしてなかったけど」
「ただでさえ、コンビニエンスストアの従業員は入れ替わりが激しいからな」
「ってことは、辿る先ももうないか」
話だけ聞いて帰るのも悪い気がして、購入したアイスに齧り付く。
個体とも液体ともつかない甘ったるい物体が口の中を満たす。
「そういや、このタレコミの写真を撮ったカメラマンには当たったのか?当時の状況は見てるだろ」
「聞いてみたが、めぼしい情報は出てこなかった。被害者が発見され、その時に公園に居合わせたから撮影が出来たらしい」
「とんだ野次馬根性だよね?」
突然、会話のキャッチボールに第三者の声が参入してきた。
かなり遠くから投げ掛けられた声を辿ると、ポケットに手を突っ込みながら怠惰な足取りで近寄ってくる男性を視界に捉えた。
途端に、ぐわりと俺の血が沸き立ち、男性の元へと駆け寄る。
「え、き、黄嶋先輩ッ……どうしてこんなところに?!」
「よぉ、黒ちゃん。元気してた?」
ぽふりと頭を撫でられ、少し落ち込んでいた気持ちが高揚する。
スマートフォンを解約して以来、久しぶりに黄嶋先輩の声を聞いた。
落ち着いていて、脳を直撃するような甘い声質だ。
人目を惹く相貌や退廃的な雰囲気も相まって、銀幕の中の人ようだといつも思う。
黄嶋先輩は、交番勤めをしている頃からマダム達を始めとして地域みんなから人気の巡査で、俺は新人ながらもその姿を誇りに思っていた。
「今はそこの白王の探偵業を手伝ってるんです」
「あぁ、白王くん。そっちも元気してた?最近見ないと思ったら……そういうことね」
「はい、おかげさまで」
「……は?」
頭上で交わされる会話に、雷に打たれたような衝撃を受けた。
(この2人が、知り合い?なんで、そんなわけ……)
混乱した頭で必死に2人の共通点を探すが、何も思い当たらない。
すると、俺の状態を悟ったのか、先輩はくすりと笑って俺の頬を擽った。
「黒ちゃん、不自由な事はない?ま、彼の家なら大丈夫だとは思うけど」
「い、いや、あの。2人はどういう知り合いで……」
「……もしかして、気付いてないの?」
今度は先輩が目を皿のようにして驚く。
そして、白王をそろりと見ると、眉間に皺を寄せて深い溜息を吐いた。
「全く……世話が焼けるよね」
「???」
「俺んちに泊まっていかない?黒ちゃんの好きなピザとって就職祝いしたげる」
「え!いいんすか?!」
黄嶋先輩はにこりと微笑むと、顔を寄せて耳打ちしてくる。
「たぁいせつな黒ちゃんのお祝いだし。一日中甘やかしてあげるよ」
「……ッ!」
するりと腰に回された手が、横っ腹を擽る。
異常な距離の近さに狼狽えていると、黄嶋先輩の指先が顎の下を撫で、いつも以上にピッチリと着こなした襟元のボタンを緩め始めた。
「……ここ、何隠してるの?」
「黄嶋さん」
冷や水を打ったかのように、一声で場が静まる。
「いくら貴方でも、それは許容できない」
「白王くんがモタモタしてるからでしょ。そんなに悠長にしてるなら、俺が囲っちゃうよ」
「……」
「優柔不断な上司を持つと辛いねぇ?黒ちゃん」
「え?あ、はい?」
訳もわからず返事をすると、白王から発される威圧感が増す。
「そういえば、黒ちゃんはどうしてこのコンビニに?探偵社からはちょっと遠くない?」
「仕事で、この人物の聞き取りをやってます」
ぴらりと写真を見せると、合点がいったと頷いた。
「ああ、この男性ね。見たことあるよ、何回か」
「へ?」
「俺、この公園もテリトリーでね?たまに情報収集に来んの」
黄嶋先輩は、地域からの信頼も厚く、様々な場所を自陣としてこのエリアの情報を集めている。
この公園も、その一つなんだろう。
……確かに、先ほどから通り掛かるマダム達の熱い視線を感じる。
「そ、それ最後に目撃したのはいつですか?」
「彼が亡くなる前だね。だから、ポスターが出た時は流石に驚いたよ……あ、でも一月前に似た後ろ姿は見た気がする。流石に勘違いだと思って、追いかけはしなかったけど」
「ッ、本当ですか!」
「刑事が言ってるんだから、ホント」
「黄嶋さん、ご遺体は確認済みですか?貴方が所属する組織のご担当のはずですが」
「そうだよ、事実確認はしてる。死は紛れもない事実だ……けど、一つ面白い情報を渡してあげるよ」
職務上あんまり言えないけど、これだけはね。と前置きしてポツリと呟いた。
「出生の記録がチグハグなんだ、その男性」
「出生の、記録……?」
「そう、ちょっと普通じゃない。君達では謄本の閲覧は無理だろうから、関係者をあたってみるといい」
真面目なトーンで語られた事実は、興味を引くには十分な内容だった。
考え込む白王を他所に、笑みを深めた先輩は俺の手を引いて颯爽と歩き出す。
「じゃ、黒ちゃんは俺の家に行こうか。心配しないで、明朝には送り届けるよ」
「ッ、黒谷君……」
「今日の会議はパスで!朝飯ちゃんと食うんだぞ!」
「ふは、何だか親みたいだね。黒ちゃん」
覇気のない白王の声に、少しだけ……ほんの少しだけ後ろ髪を引かれる。
が、この驚きの邂逅で一杯になった俺の心中には、振り向くなんて選択肢はなかった。
広々とした店内をぐるりと回り、店員に話を聞くも、当時雇われていた人物とは連絡すらもつかないと判明した。
「はあ、やっぱりか。期待はしてなかったけど」
「ただでさえ、コンビニエンスストアの従業員は入れ替わりが激しいからな」
「ってことは、辿る先ももうないか」
話だけ聞いて帰るのも悪い気がして、購入したアイスに齧り付く。
個体とも液体ともつかない甘ったるい物体が口の中を満たす。
「そういや、このタレコミの写真を撮ったカメラマンには当たったのか?当時の状況は見てるだろ」
「聞いてみたが、めぼしい情報は出てこなかった。被害者が発見され、その時に公園に居合わせたから撮影が出来たらしい」
「とんだ野次馬根性だよね?」
突然、会話のキャッチボールに第三者の声が参入してきた。
かなり遠くから投げ掛けられた声を辿ると、ポケットに手を突っ込みながら怠惰な足取りで近寄ってくる男性を視界に捉えた。
途端に、ぐわりと俺の血が沸き立ち、男性の元へと駆け寄る。
「え、き、黄嶋先輩ッ……どうしてこんなところに?!」
「よぉ、黒ちゃん。元気してた?」
ぽふりと頭を撫でられ、少し落ち込んでいた気持ちが高揚する。
スマートフォンを解約して以来、久しぶりに黄嶋先輩の声を聞いた。
落ち着いていて、脳を直撃するような甘い声質だ。
人目を惹く相貌や退廃的な雰囲気も相まって、銀幕の中の人ようだといつも思う。
黄嶋先輩は、交番勤めをしている頃からマダム達を始めとして地域みんなから人気の巡査で、俺は新人ながらもその姿を誇りに思っていた。
「今はそこの白王の探偵業を手伝ってるんです」
「あぁ、白王くん。そっちも元気してた?最近見ないと思ったら……そういうことね」
「はい、おかげさまで」
「……は?」
頭上で交わされる会話に、雷に打たれたような衝撃を受けた。
(この2人が、知り合い?なんで、そんなわけ……)
混乱した頭で必死に2人の共通点を探すが、何も思い当たらない。
すると、俺の状態を悟ったのか、先輩はくすりと笑って俺の頬を擽った。
「黒ちゃん、不自由な事はない?ま、彼の家なら大丈夫だとは思うけど」
「い、いや、あの。2人はどういう知り合いで……」
「……もしかして、気付いてないの?」
今度は先輩が目を皿のようにして驚く。
そして、白王をそろりと見ると、眉間に皺を寄せて深い溜息を吐いた。
「全く……世話が焼けるよね」
「???」
「俺んちに泊まっていかない?黒ちゃんの好きなピザとって就職祝いしたげる」
「え!いいんすか?!」
黄嶋先輩はにこりと微笑むと、顔を寄せて耳打ちしてくる。
「たぁいせつな黒ちゃんのお祝いだし。一日中甘やかしてあげるよ」
「……ッ!」
するりと腰に回された手が、横っ腹を擽る。
異常な距離の近さに狼狽えていると、黄嶋先輩の指先が顎の下を撫で、いつも以上にピッチリと着こなした襟元のボタンを緩め始めた。
「……ここ、何隠してるの?」
「黄嶋さん」
冷や水を打ったかのように、一声で場が静まる。
「いくら貴方でも、それは許容できない」
「白王くんがモタモタしてるからでしょ。そんなに悠長にしてるなら、俺が囲っちゃうよ」
「……」
「優柔不断な上司を持つと辛いねぇ?黒ちゃん」
「え?あ、はい?」
訳もわからず返事をすると、白王から発される威圧感が増す。
「そういえば、黒ちゃんはどうしてこのコンビニに?探偵社からはちょっと遠くない?」
「仕事で、この人物の聞き取りをやってます」
ぴらりと写真を見せると、合点がいったと頷いた。
「ああ、この男性ね。見たことあるよ、何回か」
「へ?」
「俺、この公園もテリトリーでね?たまに情報収集に来んの」
黄嶋先輩は、地域からの信頼も厚く、様々な場所を自陣としてこのエリアの情報を集めている。
この公園も、その一つなんだろう。
……確かに、先ほどから通り掛かるマダム達の熱い視線を感じる。
「そ、それ最後に目撃したのはいつですか?」
「彼が亡くなる前だね。だから、ポスターが出た時は流石に驚いたよ……あ、でも一月前に似た後ろ姿は見た気がする。流石に勘違いだと思って、追いかけはしなかったけど」
「ッ、本当ですか!」
「刑事が言ってるんだから、ホント」
「黄嶋さん、ご遺体は確認済みですか?貴方が所属する組織のご担当のはずですが」
「そうだよ、事実確認はしてる。死は紛れもない事実だ……けど、一つ面白い情報を渡してあげるよ」
職務上あんまり言えないけど、これだけはね。と前置きしてポツリと呟いた。
「出生の記録がチグハグなんだ、その男性」
「出生の、記録……?」
「そう、ちょっと普通じゃない。君達では謄本の閲覧は無理だろうから、関係者をあたってみるといい」
真面目なトーンで語られた事実は、興味を引くには十分な内容だった。
考え込む白王を他所に、笑みを深めた先輩は俺の手を引いて颯爽と歩き出す。
「じゃ、黒ちゃんは俺の家に行こうか。心配しないで、明朝には送り届けるよ」
「ッ、黒谷君……」
「今日の会議はパスで!朝飯ちゃんと食うんだぞ!」
「ふは、何だか親みたいだね。黒ちゃん」
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が、この驚きの邂逅で一杯になった俺の心中には、振り向くなんて選択肢はなかった。
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