所詮、狗。

はちのす

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目撃情報

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「……今、なんて」

「捜して連れてきて欲しいの。あの子を。今、目撃情報が出ているわよね」

「いや、でも五月さんは……」

「黒谷君」

言い募ろうとしたところを、横から伸びてきた手で制される。

「菖蒲さん、ご依頼の件は聞き取り調査を始めています。足跡は近いうちに探し出せますよ」

「ありがとう、お願いするわ。このままじゃあの子が可哀想だもの……きっと、見つけて欲しいはずよ」

俺は依頼者に空恐ろしい感情を抱きながら、隣の探偵を盗み見る。
白王は相変わらず感情の読めない瞳をしながら、滔々と流れる清流のように言葉を紡ぎ出した。

「ええ、お約束します」


************


場所は変わり、昨日聞き取り調査をした公園付近。
聞き取りで引っ掛かった、コンビニエンスストアの店員に目撃情報を確認する事にした俺達は、言葉少なに目的地へと歩いていた。

人がまばらに歩く通りを、影が二つ、付かず離れず静かに進んでいく。

「あんな約束して良かったのか」

爪先の汚れを数えながら白王に問い掛ける。
コイツの考えていることは理解出来ようもない。
何故まだ被害者が生きているかの様な口ぶりで会話をするのか……もうとっくに遺体となって発見されているのに。

「黒谷君。未だに出る目撃情報を信じようと思ったら、結論は自ずと導かれていると思わないか?」

「そうは言っても、事実死体は見つかってるんだ。死んだ人間を連れてくるなんて、無理があるだろ」

「だからこそ、だよ。きっと私達がまだ辿り着いていない真相がある」

「へえへえ、漫画の読みすぎじゃないと良いな……ん?」

タッタッ、と遠くからこちらへ一直線に向かう足音が聞こえてくる。

(……背後、右斜め後)

バッと勢いよく音源へと振り返ると、遠くの方で女性が「キャッ」と小さく叫んで急停止した。

「あれ、昨日ご協力くださった方ですよね」

「き、急に振り返るから、びっくりしましたぁ……!探偵さん、耳がいいんですね」

「それが取り柄なんですよ。で、そんなにお急ぎでどうされたんですか」

息を整えていた協力者は、俺の言葉を聞き届けると目をカッと開き話し出した。

「そ、そうだ!思い出したんです。昨日の……あの写真の人!」

「え、本当に?こんなに早くですか?」

「私、その日の出来事を日記につけているんです。それで昨日お話を聞いてから、見返してみたんです……これ、このノートです」

「拝見します」

手渡されたB5サイズのノートの表紙には『2022年』と小さな文字で書かれていた。
恐らく数冊、つまり数年間に渡って記録をつけ続けているのだろう。

(かなりマメなタイプらしい)

ガサツな部分がある俺は、こうして日々記録を続けられる人を本当に尊敬している。
自分が欠かさず書けるのは事件毎の調書や報告書ぐらいなものだ。

「昨日探偵さんが探してたのは6月13日の情報でしたよね?ちょうど真ん中くらいのページです」

「えっと……あ、コレだ」

「黒谷君、これは……」

思わずノートを握る手に力が籠る。
棒人間の様なイラストと共に、上品な文字が綴られていた。

『この公園はいつも綺麗で静かで、活気もあっていい。
でも、今日は面倒なことがあった。
昨日の大雨で電気が止まってしまったみたい、通り道のそこかしこで点検をしてた。入れない場所も多くて困るな』

「立ち入れない場所?停電って事は、電気設備に関係する場所か……まさか」

「もしかすると、当たりを引いたかもしれないな」

「ああ」

ふと、白王と目を合わせると、その考えが流れ込む様に鮮明に浮かび上がる。

不思議そうにこちらを見る協力者を尻目に、軽く頷きあう。
恐らく白王も同じ場所に引っ掛かり、そして同じイメージを頭に描いている。

確信めいた思いが生まれた俺は、日記の文字列をさらに追った。

『立ち入り禁止のテープの前で立ち尽くしてた男の人も、多分同じ気持ちだったんだと思う。なんだか好きな公園が変わってしまったようで、ちょっと寂しかった』

「立ち尽くしていた男の人……」

まさか、そんな都合がいい事はあり得ないか。
そうは思っていても、経験則から成り立つ頭は勝手に点と点を結びつけていく。

(立ち入り禁止の区画の前で立ち尽くす、か。被害者は何かを思い詰めていたのか?)

大の大人が、バリケードテープの前で理由もなく立ち尽くすだなんて事はまずないだろう。相当な暇人でもない限り。

そうなると、一層自死の線が濃くなってくる。

「ここに書いてある男の人、というのは写真の男性に間違いないですか?」

「う~ん、昔すぎて正直覚えていないのだけど、似ていた気もするわ。でも、ラフな格好だったような、そうじゃないような……」

「そうですか、ご協力ありがとうございました。このノートの写真を撮影しても大丈夫ですか?」

「ええ、もちろん。お仕事頑張ってくださいね」

朗らかに笑った協力者は、ぺこりと軽くお辞儀をすると公園を後にする。

── 砂漠から、小さな金の粒を見つけ出した。

「さて。仕切り直して、コンビニエンスストアに向かおうか」

「……おう」

霧に隠れた事件の金脈をようやく掴んだ。
これから、全てを日の下に引き摺り出す。

そう決意して、先を行く白王を追うべく踵を返した。
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