17 / 39
目撃情報
しおりを挟む「……今、なんて」
「捜して連れてきて欲しいの。あの子を。今、目撃情報が出ているわよね」
「いや、でも五月さんは……」
「黒谷君」
言い募ろうとしたところを、横から伸びてきた手で制される。
「菖蒲さん、ご依頼の件は聞き取り調査を始めています。足跡は近いうちに探し出せますよ」
「ありがとう、お願いするわ。このままじゃあの子が可哀想だもの……きっと、見つけて欲しいはずよ」
俺は依頼者に空恐ろしい感情を抱きながら、隣の探偵を盗み見る。
白王は相変わらず感情の読めない瞳をしながら、滔々と流れる清流のように言葉を紡ぎ出した。
「ええ、お約束します」
************
場所は変わり、昨日聞き取り調査をした公園付近。
聞き取りで引っ掛かった、コンビニエンスストアの店員に目撃情報を確認する事にした俺達は、言葉少なに目的地へと歩いていた。
人がまばらに歩く通りを、影が二つ、付かず離れず静かに進んでいく。
「あんな約束して良かったのか」
爪先の汚れを数えながら白王に問い掛ける。
コイツの考えていることは理解出来ようもない。
何故まだ被害者が生きているかの様な口ぶりで会話をするのか……もうとっくに遺体となって発見されているのに。
「黒谷君。未だに出る目撃情報を信じようと思ったら、結論は自ずと導かれていると思わないか?」
「そうは言っても、事実死体は見つかってるんだ。死んだ人間を連れてくるなんて、無理があるだろ」
「だからこそ、だよ。きっと私達がまだ辿り着いていない真相がある」
「へえへえ、漫画の読みすぎじゃないと良いな……ん?」
タッタッ、と遠くからこちらへ一直線に向かう足音が聞こえてくる。
(……背後、右斜め後)
バッと勢いよく音源へと振り返ると、遠くの方で女性が「キャッ」と小さく叫んで急停止した。
「あれ、昨日ご協力くださった方ですよね」
「き、急に振り返るから、びっくりしましたぁ……!探偵さん、耳がいいんですね」
「それが取り柄なんですよ。で、そんなにお急ぎでどうされたんですか」
息を整えていた協力者は、俺の言葉を聞き届けると目をカッと開き話し出した。
「そ、そうだ!思い出したんです。昨日の……あの写真の人!」
「え、本当に?こんなに早くですか?」
「私、その日の出来事を日記につけているんです。それで昨日お話を聞いてから、見返してみたんです……これ、このノートです」
「拝見します」
手渡されたB5サイズのノートの表紙には『2022年』と小さな文字で書かれていた。
恐らく数冊、つまり数年間に渡って記録をつけ続けているのだろう。
(かなりマメなタイプらしい)
ガサツな部分がある俺は、こうして日々記録を続けられる人を本当に尊敬している。
自分が欠かさず書けるのは事件毎の調書や報告書ぐらいなものだ。
「昨日探偵さんが探してたのは6月13日の情報でしたよね?ちょうど真ん中くらいのページです」
「えっと……あ、コレだ」
「黒谷君、これは……」
思わずノートを握る手に力が籠る。
棒人間の様なイラストと共に、上品な文字が綴られていた。
『この公園はいつも綺麗で静かで、活気もあっていい。
でも、今日は面倒なことがあった。
昨日の大雨で電気が止まってしまったみたい、通り道のそこかしこで点検をしてた。入れない場所も多くて困るな』
「立ち入れない場所?停電って事は、電気設備に関係する場所か……まさか」
「もしかすると、当たりを引いたかもしれないな」
「ああ」
ふと、白王と目を合わせると、その考えが流れ込む様に鮮明に浮かび上がる。
不思議そうにこちらを見る協力者を尻目に、軽く頷きあう。
恐らく白王も同じ場所に引っ掛かり、そして同じイメージを頭に描いている。
確信めいた思いが生まれた俺は、日記の文字列をさらに追った。
『立ち入り禁止のテープの前で立ち尽くしてた男の人も、多分同じ気持ちだったんだと思う。なんだか好きな公園が変わってしまったようで、ちょっと寂しかった』
「立ち尽くしていた男の人……」
まさか、そんな都合がいい事はあり得ないか。
そうは思っていても、経験則から成り立つ頭は勝手に点と点を結びつけていく。
(立ち入り禁止の区画の前で立ち尽くす、か。被害者は何かを思い詰めていたのか?)
大の大人が、バリケードテープの前で理由もなく立ち尽くすだなんて事はまずないだろう。相当な暇人でもない限り。
そうなると、一層自死の線が濃くなってくる。
「ここに書いてある男の人、というのは写真の男性に間違いないですか?」
「う~ん、昔すぎて正直覚えていないのだけど、似ていた気もするわ。でも、ラフな格好だったような、そうじゃないような……」
「そうですか、ご協力ありがとうございました。このノートの写真を撮影しても大丈夫ですか?」
「ええ、もちろん。お仕事頑張ってくださいね」
朗らかに笑った協力者は、ぺこりと軽くお辞儀をすると公園を後にする。
── 砂漠から、小さな金の粒を見つけ出した。
「さて。仕切り直して、コンビニエンスストアに向かおうか」
「……おう」
霧に隠れた事件の金脈をようやく掴んだ。
これから、全てを日の下に引き摺り出す。
そう決意して、先を行く白王を追うべく踵を返した。
12
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
【完結】獣王の番
なの
BL
獣王国の若き王ライオネルは、和平の証として差し出されたΩの少年ユリアンを「番など認めぬ」と冷酷に拒絶する。
虐げられながらも、ユリアンは決してその誇りを失わなかった。
しかし暴走する獣の血を鎮められるのは、そのユリアンただ一人――。
やがて明かされる予言、「真の獣王は唯一の番と結ばれるとき、国を救う」
拒絶から始まった二人の関係は、やがて国を救う愛へと変わっていく。
冷徹な獣王と運命のΩの、拒絶から始まる、運命の溺愛ファンタジー!
【完結】君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした
鳥居之イチ
BL
————————————————————
受:久遠 酵汰《くおん こうた》
攻:金城 桜花《かねしろ おうか》
————————————————————
あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。
その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。
上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。
それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。
お呪いのルールはたったの二つ。
■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。
■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。
つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。
久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、
金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが…
————————————————————
この作品は他サイトでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる