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ある夏の日
しおりを挟む「すみませ~ん、病院まで行きたいんですけど、道どっちですか?」
「はいはい、この道を抜けて貰って、公園の方に進めば見えてきますから!」
夏の暑い日差しを受けて、汗がだらりと背中を伝う。
10ヶ月のカリキュラムを経て警察学校を卒業し、すぐに配属されたのがこの詰所。
治安も良く、閑静な住宅街と中学校、高校とが並び立っている良い土地だ。
事件など早々起きず、あるとしたら自転車や自動車の自損事故くらいなものだ。
「今日も良い天気だなぁ」
「黄嶋先輩、さっきもファンが来てましたよ。良い加減顔を見せてあげたらどうっすか」
「うーん、貰い物とかしても困っちゃうからなあ」
朗らかに微笑んだ先輩は、奥様方に大人気で、いつも世間話をしに訪れている。
人たらしな先輩らしく、来るもの拒まずを実践していたらファン化してしまったらしい。
配属初年度にしては中々癖のある先輩に当たった気がするが、嫌な上下関係は一切無く、それだけでも俺にとっては万々歳だった。
きっとこのメンバーで過ごす日々も、振り返れば良い思い出になるんだろう。
「って事で、俺は巡回行ってきます!」
「お~、黒ちゃんよろしくね」
が、張り切って漕ぎ出した自転車は、比較的早めに停車させる事になる。
「……あれ、子供?」
公園に差し掛かって見えたのは、ブランコに座る制服の男子学生だった。
今は平日の昼前、学校が休校にでもならない限り、こんな時間に制服で暇を潰す子供なんて発生しない。
自転車を止め、その子に近寄ってみると特徴的なブロンドヘアーが風に靡いていた。
「君、ひとり?」
「……警察」
声掛けが初めてだったから、どこぞのナンパ師のような質問をしてしまった。
幸いにも、目の前の少年の瞳には警察の制服しか映っていないようだ。命拾いしたな、俺。
「いや、実はお巡りさんも暇でね。少しだけお話ししようか」
「いや、結構です」
(めちゃくちゃ大人な断り方をされてしまった)
どちらかと言うと、幼いと言う印象が強いこの子の口から大人びたワードが出た事に些か驚く。
「それじゃ、隣座るな」
「……話聞いてましたか」
もう片方のブランコに腰掛けると、ユラユラと揺らし始めた。
久しぶりに乗ったけど、これ意外と酔うかもしれない。
そんなどうでもいい事を想像しながら、お互い無言でブランコを揺らし続けていた。
「……あの、お巡りさんっていつも何してるんですか」
「え?ああ、今みたいにパトロールしたり、交通事故の処理をしたり、道を聞かれたり、落とし物を管理したり……かな」
「なんか、意外と普通な感じですね」
「それ、お巡りさんは傷ついた方が良いやつか?」
「……事件とか、ないんですか」
そう問われて、初めてしっかりと顔を合わせた。
心底つまらなさそうな瞳をしている、そんな第一印象だった。
「ここ最近は全くないな。いいだろ?」
こて、と小首を傾げた少年は、それがいい事なのかは分からないですと答えた。
「事件が表面化していないだけかも、しれないじゃないですか」
「……それもそうだな」
子供に諭されてしまった、最近の子は侮れないなと社会人スイッチを入れていると、隣からポツリポツリと呟く声が聞こえてきた。
「学校に、馴染めなくて。見た目が特殊だから何となく皆が違う物を見てる目をしてる」
俺の思い過ごしかも知れないけど、そう付け加えられた言葉は少しだけ震えていた。
髪、瞳の色で、無意識のうちに自分達とは違う物だと判断している。
態度には出さないが、どこかでそんな雰囲気が現れている。
そう言ったところだろう。
自分でもやってしまっていないか、少し不安になる繊細な問題だ、そう感じた。
「君は、他の皆と同じだと思われたい?」
「え、どういう……」
「お巡りさんはこうやってブランコに乗っているけど、普通のお巡りさんに見えるか?」
「いいや、全く、少しも」
「なんかそこまで言われると自信無くすけど……そういうお巡りさんがいてもいいだろ」
「……うん」
「お巡りさんは、親に"出来損ない"って言われ続けて、どうしても家に馴染めなかったけど……家を出て、こうして好きな警察の仕事をしてる」
ふと、子供相手にそんな身の上話が飛び出した。
自ら話題に出したことのない記憶だが、何故かこの子には話しておこうと思った。
「ちなみに、お巡りさんはかなり鼻が効く。目も結構良いぞ」
「へぇ、犬みたい」
「いや、人間ではあるからな」
「ぷ、ふふ……なんかスッキリした。学校、行こうかな」
「おーそうしろそうしろ、学校もタダじゃないからな」
「犬のお巡りさんも仕事しなよ」
「結構言うな、君。その童謡みたいな渾名は一刻も早く忘れてくれ」
ブランコから降りると、意外にも少年がスラリと高い背をしていた事に驚く。
足が長すぎて座高が低く見えていたんだろう。
「……将来、警察になろうかな」
「あんまりオススメしないぞ、寝れないから。きちんと寝れる仕事に就きなさい」
「そう言うのは夢を見させた方がいいんじゃないの」
それでもまだ低い位置にある頭を撫でくり回すと、自転車に跨る。
「警察もいいけど、探偵とかいいんじゃないか?シャーロック・ホームズとかのアレ」
ポカン、という顔をした少年は「寝れるから?」と声を上げた。
「……それもあるけど。表面化していない事件を掬い上げられるから、かな。じゃ、またその辺で会おうな」
無線で黄嶋先輩の呼び出しを受けた俺は、少年の返事を待たずその場を後にした。
「……うわ、完全に思い出した!!」
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