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1章 ようこそ魔法の世界!
4 腹の探り合い
しおりを挟むー目が覚めたら魔法の世界、しかも若返っていました、なんてそんなのアリですか…
衝撃により半ば魂が飛びかけたまま、校長のセシルさんに学校の紹介をしてもらった。
このマジナス?茄子?学院とやらは、魔法指導関係では有数の学校らしく、
世界各国から未来ある魔法使い見習いが集うらしい。
なんでも、この学院を卒業すれば魔法使用の国際免許も取得とのこと。
魔法に馴染みのない俺は、そんなに魔法と言うものが一般的である事に驚いたり
魔法使うのにも免許いるのか、と感心しきりだった。
「その昔は、特に制約もなく魔法を使えていたそうだけどね。
持たざる者にその力が露見してしまったんだよ。
それから先は事実としても語り継がれていると思うけど、魔女狩りなんてものが横行してしまった。
この免許制度は、いわば自己防衛なんだ。」
セシルさんの鎮痛な面持ちに、いつもお気楽な俺でも感じるものがあった。
過ぎたる力は排除すべし、って事だ。
「暗い話をしてしまったね。
だから、ここに君が迷い込んでしまった事は一大事とも言えるんだ。
親御さんが見つかった時には、その、記憶は消去させて貰うことになるよ。
持たざる者との境界は清く保たれなければいけないからね。」
セシルさんに放り出されないよう、自身の年齢や境遇を偽っている罪悪感。
更に追い討ちをかけるかのような、状況の悪さ。
でもここで諦めるわけにはいかない。
きっと、ここで放り出されれば俺は明日の朝日を拝めない。
森を駆け抜けた時は混乱と興奮でスルー出来たが、「ギョロロロロ」なんて聞いた事もない恐ろしげな鳴き声も聞こえたいたのだ。
大人しく奴らの腹に収まる気はない。
「あの、セシルさん。良くしていただいた上でこんな事を頼むのは気が引けるのですが…私、帰るところがなくて…」
「そうだよね…ここの学院はご覧の通り寮制をとっているんだ。
ただ、学院生が入学するたびに部屋を作り出すので空き部屋がないんだ…困ったね」
入学時に寮の部屋を作る…?!
ここの学院生はそんな贅沢が許されているのか!
ーう、羨ましい…
まあそれはさておき、やはり部屋を借りるほどの好待遇は望めないか。
先程は先の見えなさから手放しに喜んでしまったが、素性を調べることについては学院側は当然自主的に調べることになるだろう。
ド素人の俺でも、警備に穴がないか心配になる事は考えつく。
結果的に、俺は相手に徹底的に調べ上げるための口実を与えただけだった訳だ。
はっきり言って糠喜びだ。
しかも、それをこちらが感謝してしまうような言い回しをしてくる。
やはりこの校長、腹に一物ある。
(この人好きのする微笑みにコロッと騙された)
俺が不安そうな表情を作りつつ衣食住の確保方法について考えている間、
セシルさんはじっとこちらを見つめ続けていた。
その視線は、まるで此方の全てを見透かそうとするかのようだった。
気のせいかもしれないが、先程から纏わり付くような冷気を感じる。
「…カンザキくん。本当はご両親が見つかるまで、寮に住んでもらいたいんだ。
けれど、学院関係者でもない君のために部屋を作り出すことは難しくて。ごめんね。」
「そう…ですよね。」
こちらのことは信じられない、と。
でも、そりゃそうだよな。
ポッと湧き出た怪しげな記憶喪失の子供なんて俺でも関わりたくない。
教育者として、今いる子供達を守る義務もある。
そこまで考えると、それまで感じなかった恐怖が心を覆い、自然と手が震えた。
ー俺は今、一人だ。
震えを抑える術も分からず、俯いていた俺の手に温かなものが重ねられた。
「…ぇ…」
「ここまではマジナス学院校長としての私の意見だ。
でもね、セシルと言う一人の魔族としては震える子供を放っておけない。
学院の外、あの森であれば私は一人の魔族として君を庇護下に入れることができる。
日中は学院で君を保護しよう。
どうだい?」
「い、いいんですか?」
「勿論。二言はないよ。森の中に離れがあるんだ。衣食住については私が保障しよう。」
ーごめんセシルさん!!あんたは良い人だった。疑いまくってた俺が恥ずかしい!
光明だ。結果的にあの森に逆戻りしてしまうわけだが、それでも庇護下に置かれると言う誘いは魅力的だった。
ここで調子付いた俺は、あることに気付く。
ーもしや、長期休暇どころか、念願のアレになれるのでは…?!
大学を出たあたりから願望があった。
それは、労せず衣食住を得られる境遇。
そう…ヒモだ。
忙しない日々に、忘れかけていた欲望が俺はここにいるぞと語りかけてくる。
先程まで生死の境をホップステップしていたとは思えない立ち直りの速さに、
自分でも呆れる。
でも、人生楽しんだもん勝ちでしょ。
(ここは一丁セシルさんに媚び売って、当面の生活は保障してもらいながら
学院で生きる術を身につけよう。)
羽より軽い真面目アピールをしながら
目からうるうる光線を発射する
イメージはペットショップで目が合った小型犬だ。かわいかろう。
「セシルさん…あなたには何とお礼を言ったら良いか…。私にできることがあれば、お手伝いします!」
「ふふ、元気になってよかった。
離れの方は防御魔法をかけてあるんだけど、掃除はしてないんだ。
後で清掃員の人にお掃除して貰うから、ここで待っててもらってもいいかい?」
「勿論です!何だったら自分でやります!」
俺に尻尾がついていたら、今千切れんばかりに降りまくっているだろう。
「本当?でも今は休んだほうがいいよ。
色々あってきっと疲れてる。」
ホラ、と言いながらセシルさんは俺を抱き上げベットに下ろした。
頭を数回撫でられてしまえば、
大きな安堵感から直ぐに目蓋が落ちてきた。
「おやすみ。良い夢を。」
意識が落ちる瞬間、そんな優しい声が耳をくすぐった。
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