59 / 68
2章 新生活スタート
55 優しいひと(side グリム)
しおりを挟む「あ~、終わった終わった。模擬とはいえ、疲れるよな」
「あぁ、そうだな」
「この試験、結果が当日に分かるってのも怖いよな…優秀者誰になるかなあ」
模擬試験が終わって、軽口で盛り上がるクラスメイトたち。
とは言っても、錆色の彼はいつも通りクールな対応をしている。
そんな彼の優しげな眼差しを思い出すと、心臓の奥底がギュッと切なく絞られるようだった。
彼と交流できた回数は多くはなかった。
だが、そんな少ない会話の中からも彼はヒントを得て、自分の正体を見破ったのだから末恐ろしい。
(魔王だと名乗る瞬間は汗が止まらなかったなぁ…だって、いくらカンザキでもあんなにすんなりと受け入れてくれるとは思ってなかったから)
彼はオレの身の上話を聞いた上で、異世界から来たと明かしてくれた。
しかも、それはオレとカンザキ2人だけの秘密。
「んふふぅ」
「…」
隣に座るザックに白い目で見られた気もするが、気にしていない。
この喜びに比べれば、些細な事だ。
(復活した時は、こんなに生きることが楽しくなるとは思わなかったなぁ)
……そうだ、今でこそこの安泰を手に入れているが、目を覚ました時は酷かったんだ。
魔王は、暗闇に横たわっていた。
墓のように周りを埋められ、出入り口が塞がれていた洞窟内は、真っ暗で冷え切っていた。
「どこ…ここ」
痛む全身を無理矢理に動かして、あたりを見回す。
魔王は特化した属性はあるものの、一応全属性を使用することができる。
指に火を灯し、あたりを細い火で照らすと、悍ましい光景が広がっていた。
封印の儀か何かが行われたのであろう。描き連ねられた魔法陣や、周辺に落ちている夥しい数のナイフや染みがそれを証明している。
だが、それは何に対して施された封印なのか?
当時記憶を失っていた魔王は自分に向けられたものだとは、直ぐに理解出来なかった。
封印は既に術者が死に絶えた事で解けていたようで、そこには魔力の残滓しか感じられない。
ということは、封印は今、無効になっているはず。
(ここにいるのは自分だけ、そして、この空間は塞がれたまま…)
冷静になって考えてみるとこの状況の意味が一つの事実を指し示していた。
その意味を理解して、魔王は声を上げて泣いた。
自分は封印されるような事をしでかしたのか、この全身の痛みは自分の生み出した生命によって刻まれたのか。
魔王は、生来優しい性質だった。
この様な状況になっても、魔族を恨む事をせず、自戒の念を抱いて洞窟を脱した。
そして、比較的中立と呼ばれるこの学院に腰を落ち着けたのだ。
木属性の剣技クラス所属の"グリム"として。
学院に入学してからは、自分の身に何が起きたのかを理解するために、魔王部に入部した。
だが、掘り返せば出てくるのは悪辣な過去ばかり。
(オレ、もう使徒の魔人とは名乗れないかも…しれないなぁ)
そう思って落胆していたところに、カンザキという光が差し込んだ。
彼は異世界から来たと言っていたから、魔王がどの様な悪行をしたのか、知らないのかもしれない。
でも、今の自分にはその無知な優しさも嬉しかった。
仄暗い過去に蓋をして、彼と友人になろう。
「では、模擬試験の結果を返します…このクラスから、座学、実技でそれぞれ1人ずつ優秀者が出ました」
担任のハイルが少し綻んだ表情を浮かべ、カンザキを見る。
(まさか…カンザキって、異世界から来たんじゃ)
「おめでとう、カンザキ君。魔獣学では、満点の解答でした…他の科目はさておき、編入してから努力されたんですね」
「…はい、ありがとうございます」
(え、魔獣学…?)
魔獣学、ということは、使徒の魔人の話も必ず関わってくる。
それに、あの試験問題は暴走の果てに封印された魔王として、自分の過去の行いが詳細に書かれていたのに…
(それなのに、オレを学院の生徒の"グリム"として、あの優しげな眼差しで見つめてくれたの?)
カンザキの奥に潜む、泥沼のように底知れぬ優しさに、身を震わせた。
(彼なら、オレをこの暗闇から引き上げてくれるかも知れない…)
その苦しいほどの優しさに身を焼かれたい、そう願わずにはいられなかった。
8
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています
七瀬
BL
あらすじ
春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。
政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。
****
初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m
風紀委員長様は王道転校生がお嫌い
八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。
11/21 登場人物まとめを追加しました。
【第7回BL小説大賞エントリー中】
山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。
この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。
東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。
風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。
しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。
ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。
おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!?
そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。
何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから!
※11/12に10話加筆しています。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる