俺TUEEEに憧れた凡人は、強者に愛される

豆もち。

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森の民編

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 トニーとアレックが出会ってから、2ヶ月あまりが過ぎた頃、関係にも変化が訪れる。

 アレックの傷が完治し、家の外に出た時、彼は初めて『森の民』について知った。


 アレックの本名、アレッシオ・カヴァリエーレの正体は、デメテル国の公子である。
 父、マール・カヴァリエーレ公爵は、腹心として活躍してきたサザン伯爵に謀られ、罪人の汚名を着せられた。公爵と弟は、塀の中に囚われ、カヴァリエーレ家に連なる貴族達も粛清されていった。
 辛くも逃げ延びたアレッシオは、妹のミーニャと側近のアレックと共に追っ手を振り切っていた。
 しかし、ミーニャの婚約者の裏切りにより、潜伏先を知られ、やむなく二手に別れる。そして、手酷くやられながらも森の中に逃れ、トニーに助けられたのだ。

 

「ーーにしても、本当にすごいな。トニー達は」
「何が?」
「それだよ。今だって、チビ達と話してるんだろ?
普通はテイムしないと会話出来ないはずなのに、村の全員が話せてる。信じられない事だ」


 アレッシオが逃げ込んだ森は、ランクの高い魔物が数多く生息する事から「ついの森」と恐れられていた。追っ手が深追いしなかった原因は、そこにある。
 そんな森で、ひっそり村をつくったのが『森の民』だった。
 彼等は精霊の血が流れる、稀少な民族でもある。
森の魔物と会話が出来る能力は、その血の恩恵に他ならない。
 森の民は、悪用を恐れ森に隠れ住んだ。程なくして、魔物達との共存を始め、現在いまに至る。


「そうかな~。僕からしたら“テイム”って能力の方が不思議だけど」
「トニーは、外の世界を知らないんだよな?」
「うん。森から出るなって、言われてるからね。
興味はあるけど。外の人は皆んなアレックみたいに、カッコいいのかなぁ」
「……褒められるのは、嬉しいが、まあ、人それぞれだ。それにトニーほど美人な人は居ない」 


 肩まで伸びた、アンバーの艶やかな髪と、キラキラ光るシャンパンゴールドの瞳。白く吸い付く様な肌は、アレッシオを魅了してやまない。  


「嘘だぁ。だって村1番の美人はマキネさんだもん。彼女と僕じゃ、違いすぎるよ。
それに僕も、アレックみたいな綺麗な黒髪が良かった」


 毛先を摘み、少しむくれて話すトニー。
 アレッシオには、その姿でさえ、可愛らしく感じられる。
 実際、マキネという女性は、たいそう美しく、森の外に出れば大変な騒ぎになるだろう。
 一般的な髪色で、顔立ちも平凡なトニーとは大違いだった。


「黒髪のトニーも見てみたいが、この髪色が1番だと思うぞ。トニーの柔らかい雰囲気に合ってる」
「ん~、アレックがそう言うなら、そうなのかも」
「そうなんだよ」
「わっ。ちょっと、頭ぐしゃぐしゃにしないでよ!」


 わしゃわしゃと頭を撫でられ、サラサラの髪が乱れた。トニーは抗議するが、楽しそうなアレックの顔を見て、大人しくなるしかなかった。


「ねぇ、アレック。アレックが気にしてた女の子と騎士だけど……まだ情報はないって」
「そうか」
「うん。でも武装した連中が森の周りをうろちょろしてるみたい」
「何っ?! 鎧に紋章はついていなかったかっ!」


 目を覚まして間もなくの頃。アレッシオは、詳細を伏せながら、逸れた仲間について話していた。
 トニーの母親に協力してもらい、村の青年団に探ってもらっていたのだ。


「そこまでは聞いてない。夜になれば戻って来るから、聞きに行こう」
「ああ。ありがとうっ。アンさんは知ってるのか?」
「さあ? 母さんは相変わらず、治療所で寝泊まりしてるし……うーん、どうだろ」
「大変そうだな。今月はまだ1回も帰って来てないだろ」
「面倒くさがり屋だからね。家の行き帰りするなら、職場に住んだ方が楽なんでしょ」
「(普通、そうはならないと思うが。息子も居るし)」




ーーーー
ーーー


 夜。青年団の集会所を2人は訪れた。


「団長、アレック連れて来たよー」
「おうトニー、来たか。
悪いが、治療所にコレ届けてくれるか。アンさんにもよろしくなぁ」
「いいけど…アレック行こ」
「いや。アレックは置いてってくれ」


 青年団長の一言で、場は一瞬で深刻な空気に切り替わる。
 トニーは、良くない予感がした。心配になって、アレックの袖を掴むが、スッと手で外されてしまう。


「アレック?」
「後で説明するから、アンさんの所に先行ってくれ」
「……ちゃんと教えてね」
「ああ」


 トニーの足音が遠ざかったのを確認し、団長は調査の収穫を話し始めた。



「まず、森の周りを彷徨うろついている奴等だが。
どこかの貴族に雇われた傭兵だった。確認出来た人数は8人。何れも森の友人達に追い返してもらった」
「(友人……魔物の事か。確かにそれなら深読みされる恐れも少ないな。少なくとも、人間が関与していなければ、私が生きているとは思うまい)」
「で、次に水晶のペンダントをつけた黒髪の少女と、白髪の騎士についてだ。
だが、それを話す前に聞きたい事がある」


 深妙な面持ちで切り出された話題は、アレッシオの予想通りだった。
 妹と側近の行方を探す様、依頼した日から、必ず明るみになる日が来るとは想定していた。
しかし、彼にとってトニーの隣は居心地が良すぎた。
 全てを捨てても良いと思うぐらいには、入れ込んでいたのである。


「カヴァリエーレ公爵家のアレッシオ・カヴァリエーレで間違いないんだな」
「……ああ」
「はぁ~やっぱりか。探していたのは、妹と部下で、追っ手がお前の安否を確認したがってるーーと」
「そうだ」
「訳有りだとは思っていたが、まさか公爵家とはな。
トニーも厄介な奴を拾って来たもんだ」


 ここまでか、とアレッシオは感じた。
 団長の声色と、団員達の険しい表情。苛立った、ため息。言葉にせずとも、全てが「出て行け」と言っている。
 当然だ。彼等は隠れ住んでいるのだから。
 

「…………」
「ーーお前の妹達は無事だ。公爵家を支持する奴等が匿っているらしい」
「っそうか! 良かった……本当にっ」
「世間の動きも、公爵家に味方している様だぞ。
だから、アレッシオ・カヴァリエーレを敵も味方も血眼になって探している」


 世間の動きと聞いて、察しの良い彼は直ぐに気付く。
自分を旗印にして反撃する気だ、と。


「公爵の罪状にも疑惑があちこちで出回っていて、冤罪だと言う考えが半数近く居る。
公爵と弟の処刑も一旦ストップだ」
「父の汚名が晴らせる…」
「そう言うこった。良かったな。
妹と合流出来る様に手伝ってやる。そしたら何も言わず、家に帰れ。在るべき場所に戻るんだ」
「(トニー……) 感謝する。勿論、森の民については誰にも口外しないと約束する。この恩は必ず返す」


 合流の手助けを持ちかけたという事は、数日の猶予もないと同義だ。
 トニーに何か残せるだろうか。むしろ、何も残さない方が良いのか。
 アレッシオの頭はぐちゃぐちゃだった。
家族の無事を確認出来た喜び。味方をしてくれる貴族に対する感謝、希望。己のプライドを取り戻せるチャンス。
 最高の知らせであるはずだった。
 それなのに、どうしようもない感情が押し寄せる。


「トニーには言うな。俺達だけの話にしよう。良いな?」
「それは……」
「アレック、いや、アレッシオ殿。トニーの為なんだ。俺達は、外では生きて行けない」
「(攫ってしまえたら、どんなに良いだろう……) 承知した」


 公子の彼から了解を得た青年団は、安堵する。
その一方で、初々しくも愛を育む若者を引き裂く事に、言い知れない空しさをおぼえた。






「あっ、アレック! どうだった?」


 治療所に着くと、トニーが待ち構えていた。
 明るく、優しい笑顔に、アレッシオの気持ちは揺らいだ。


「仲間が見つかった」
「ほんとっ!? 良かったあ~。元気だって?」
「いや、そこまでは分からなかった。けど、無事だそうだ」
「そっか、そっかあ。今日はお祝いしなきゃ」
「そうだな」
「あとは?」
「それだけだよ」


 自分の事の様に、トニーは喜んでくれる。それがどれだけ嬉しい事なのか、本人は知っているのだろうか。
 勝手に消えたら、悲しんでくれるだろうか。


「嘘。それだったら、僕を外す必要ないもん。
ちゃんと説明するって言ったでしょ」


 プンプンと効果音がつきそうな程、分かりやすくトニーは不貞腐れる。
コロコロと変わる表情はが、アレッシオは愛おしくてたまらない。 


「そうだな、どうしても知りたいのか」
「当たり前でしょ」
「分かった。私達の事だ」
「へ?」
「団長がな、進展の具合はどうなんだって、うるさかったんだ」
「なっ、なっ! 進展って、そんなっ」


 彼の意地悪そうな顔に、トニーはすっかり騙された。
そして、団長に対しての恨み節を炸裂させている。


「……なぁ。だからってわけじゃないが、もっと触れたい。近付きたい。熱を感じたい」
「あ、あれっく?」
「トニーを愛したい。そろそろ、ダメか?」
「うえっ?! やっ、でも心の準備が……」
「この間も、そう言われた」


 アレッシオはどんどん距離を縮めていく。


「あうっ、わ、分かった。でも今日はダメっ! 明日…なら、良いよ」
「っ! 本当か?」
「うん。てっ、手加減してよ。でないと怒るからっ」
「勿論だ。ありがとう、楽しみにしてる」


 グイッと自分に引き寄せ、彼はトニーを強く抱きしめた。そして、が合った瞬間。どちらからともなく、口づけた。



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