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魔塔の狂人編
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しおりを挟む「お帰りなさいっす。ちょうど迎えに行こうとしてたんすよ」
魔塔に戻ったサシャを、助手のトーイが笑顔で出迎えた。
迎えに行く手間が省けて、ご機嫌な様子でお茶を注ぐ。
「うん、ただいまー」
「早かったっすね」
「帰れって言われちゃったからさ~」
すると、トーイの顔はみるみる青くなり、手元が震えだした。
お茶がティーカップから溢れても気にならないのか、注ぐ手は止まらない。
机の書類にまでシミを作り、床には茶色の水溜りが出来た。
「……まさか、また備品を壊したり、偉い人を侮辱したりして、怒らせたんじゃないでしょうね」
「今回はしてない。ねえ、お茶溢れてる。それ魔道具なんだから、ずっと出続けるよ~」
「良かった。本当に良かったっ!」
「なんか、邪魔されたからちょっとマナ弄っただけ。ねえ、お茶」
「はあっ?!」
ーーガッチャーン
「あっ、ちょっと、割れてんじゃーん」
驚きのあまり、トーイはティーポットを落とす。
不幸が幸いか、盛大に割れたおかげで魔道具としての機能が終わり、もうお茶が出続ける事はなかった。
「いや、いいんすよ! こんなもんっ。
何してくれちゃってるんすか! 最悪ですよ。ただでさえ、精霊の件断られて、上の爺さん達カンカンなのに!」
「ん~、ま、よくない? 第3騎士団を良く思ってないんなら、今日の事も許してくれしそう」
「こんの、ウルトラバカ上司ーっ!!
やだ、もう辞める。俺、田舎帰るー!」
なんだかんだ言いつつ、魔塔内でサシャに文句を言える人間は少ない。トーイはかなり貴重な人物と言えた。
ちなみに、サシャの二つ名が「魔塔の狂人」であるならば、トーイの二つ名は「狂人のお守り係」である。
ーージリジリジリジリ
「ハッ! ヤバイっすよ、通信機鳴ってます。コレ絶対、上からのお叱りですよー」
「え~大丈夫だって」
「だったら出て下さい」
「や~だ」
「もぉーっ!
ーーはい、第1研究室トーイです。この度は、誠に申し訳ありませんっっ」
サシャが出掛ける度にかかってくる苦情の電話に、トーイは恐怖に震えながら出る。
そして、お決まりの謝罪の文言を、相手が話し出す前に叫んだ。
「……え、はい。はい、はい?
いや、それとは関係なく室長が……はい、かしこまりました。はい、失礼致します」
「誰だったぁ」
「クレマン卿です」
「あー、何だって?」
電話の内容は、やはり第3騎士団の事だった。
重軽傷者含めて5名も出した件で、直ぐ報告しに来いというものだ。
クレマンは、謂わば「魔塔の主人」である。
主人になって120年。
実質的なトップの座には、150年に亘って座り続ける怪傑な男だ。
「3分以内に来いと」
「……爺のとこ、転移魔法使えないじゃん。あと2分強しかない」
「逝ってらっしゃいませー」
「あとで泣かす」
「げっ」
ーーコンコン
サシャにしては珍しく額に汗を滲ませ、魔塔の最上階の部屋を叩いた。
「遅い」
「すみませ~ん。どっかの爺さんが結界張ったせいで転移出来なかったんですう」
クレマンは、部屋の奥でソファーにダラリと座っていた。
更にその見た目は、20~30代ぐらいの若い青年だ。
「人を老人扱いするな。私はまだ若い」
「爺、200歳超えてんでしょ~」
「若いだろう。エルフで200は、まだ年寄りではない」
「基準を一緒にしないで下さい。で、話って何ですかぁ」
穏やかな様子で始まるかに思われたが、違った。
着席を促されたサシャが座った途端、怒濤の説教&嫌味ラッシュが始まる。
「ーーーーっ、ーーーー!
ーーーーー! ーーーーーーだ。
はあ~。ほんと君、毎度毎度やってくれるよね。
どうするつもりだい。私は件のノームの研究がしたいんだ。なのに、邪魔してくれたな」
「え~、そもそも断られましたよね?
だったら、僕が邪魔したわけじゃないと思うんですけどぉ」
「君の所為で交渉の余地がなくなったんだ。解るだろ、痴れ者がっ!」
クレマンの怒鳴り声に、耳がキーンとしたサシャは、両耳を人差し指で塞ぎ、苦悶の表情を浮かべる。
「~~っ、その顔をしたいのは、私の方だ!
ええい、今直ぐ約束を取り付けて来い! さもなくば、研究室の使用を禁ずる」
「はあっ?」
「第3騎士団が応じなければ、魔道具及び、薬品の価格も吊り上げる!」
「……問題になりますよー。第1と第2もそうですしぃ、王家だって~」
「だから何だ」
サシャが魔塔入りして以来、人々には忘れられていたが、本来魔塔とはそういう者達の集まりだ。
その筆頭であるクレマンが、常識人であるはずがない。
「え~っと……爺さん?」
「私は、研究がしたい。ダリオとかいう奴も興味がある。何か精霊との契約に条件が隠されているやも知れん。嗚呼、調べたい。早く調べたい!」
「あーはいはい、分かった。行って来ます。脅してくりゃ良いんでしょお~?」
「分かってるじゃないか。早く行け」
恐らく、この場にトーイが居たら倒れていることだろう。
だが、どちらにせよトーイは間もなく倒れる。
2時間後。
サシャは、トーイを連れて再び官舎に侵入した。
「帰りたいっす」
「直ぐ帰れるよ~」
「え、死にますよ。俺、嫌なんすけど」
「あー無理無理ぃ。ほら、前見て」
トーイが前を向くと、ディオンやクリスをはじめとする精鋭メンバーが殺気を放って道を塞いでいる。
「ヒェッ、騎士団長ーーあ、間違えた。あの人副団長か。いやもう何で団長じゃないんだよ。怖い。怖ずぎるっす!」
「僕もそう思う~」
「ぎょえっ、目が合ったあぁぁ…………うっ」
ーーバタリ
「ええ~、僕おぶって帰るの嫌だよぉ? ほら、起きて」
殺気に当てられたトーイは、カチンコチンに固まり、泡を吹いて倒れた。
「お~い、ねぇ。助手く~ん」
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