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モブ王子、悪役令嬢に出会う。
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しおりを挟む乙女ゲーム『トリステア王国と精霊王の愛子』は、平民として育ったヒロイン マリアンが14歳の時、子爵家の娘だった事が発覚し、引き取られる所から物語はスタートする。
子爵は歓迎し、14年間を埋める様に溺愛する。子爵の妻子には疎まれたが、マリアンは強い心で耐えた。
翌年、貴族の子供が通う王立アカデミーの門をくぐった。
第1王子カルロ・トリステア、公爵家の長男ルシル・バルロー、近衛騎士団長の三男ロイター・グラシヴィル、宰相の次男サリエル・トスマン。
アカデミーの人気者達から愛され、自分の幸せを手に入れるシンデレラストーリー!
そして、マリアンは伝説とされる精霊王の愛子という事実まで発覚し、精霊界まで巻き込んだ騒ぎになってーー!?
「あー、素敵。私がマリアンだったらね゛!!」
ヒロインなんてどうでもいいのよ。悪役令嬢を思い出せ、私!
このままじゃ、破滅どころか死ぬ!
嫌よ、私はレティアとは違うのに。とにかく今から軌道修正しなきゃっ。
え~と、レティア・ヴォストラ。
第1王子の婚約者で、公爵家の娘。同年代の公女はレティアただ1人。
幼少期からワガママ放題で、第1王子に近づく令嬢を悪どいやり方で排除してきた、正真正銘の悪女。
数ヶ月前まで平民だっただけでも気に食わないのに、カルロがヒロインを気に入った事から、レティアの日常が狂い始める。
嫉妬に駆られた彼女は、アカデミー内の小さな嫌がらせから、最後は毒殺まで企てたが、カルロに糾弾され罪に問われる。
攻略対象のルートによって死に方は様々。まあいずれも殺されるけどなっ!
ギロチン、盗賊、餓死etc。やってられっか。しかも公爵家もお取り潰し、公爵はレティアと一緒に死罪。
もう~っ! 娘の言う事何でも聞いちゃうからイケナイのよ。バカなのっ?
「とにかく!
破談よ、破談。向こうから婚約破棄したがる様に仕向けるの、ヒロインが登場するのは3年後の高等部から。
それだけあれば、余裕よっ!」
第1目標は使用人達との関係修復!
**********
{15歳のレティア}
どうして? どうして殿下は、私には微笑んで下さらないの?
あの女がどんなに優れていると言うの。生まれも育ちも下賤な平民じゃない。
マナーや貴族の常識だって分からない。そんな女が私より良いわけないわ!
だって私は、殿下の婚約者として相応しくある様に努力してきた。
同い年の令嬢達が遊んでる時だって、私はずっと勉強して、自由な時間なんてなかった!
全ては殿下の為。そして期待してくれるお父様とお母様の為。
何がイケナイの、何が足りないの。
私もあの子みたいに、無礼にも身分の高い方に友人の様に話しかければいい?
それとも人前で、惨めに泣けばいい?
殿下。マリアンを婚約者にしたって、王妃にはなれませんのよ。
ただ笑っているだけで愛される、あの子に、王妃なんて務まりませんわ。
好きなだけじゃ、どうにもなりませんの。
それなのに、どうして? どうして私を認めて下さらないのっ?
ああ、憎い。マリアンが憎い! みんなみんな、マリアンの味方をする。
私には誰も居ないのに。友人を作る暇さえ与えなかったのは、王家なのにっ!
…そうよ、マリアンさえ居なくなれば、元に戻るわ。
全て私の元に帰ってくる。殿下も、羨望も、群がるハイエナでさえも。
私は、この国で最も高貴な女性になる女、レティア・ヴォストラなのだからーーーー
**********
「アベルト。今日の訪問はなくなった。
ヴォストラ嬢が倒れたらしい。見舞いも来週以降にしてくれと断られた」
「見舞いまでって、そんなに重症なの?」
「さあ、知らん。向こうがそう言うなら仕方ないだろう。無理に行って悪化でもしたら、それこそ一大事だ」
「ふ~ん。じゃあ、兄様。今日は僕に剣術教えてよ」
「いいぞ。 どれだけ成長したか見てやろう」
「わーい! アイリーンに言ってくる~」
「あ、こら、走ると危ないぞ。
ーーーったく。それにしてもアイリーンとかいうメイドに懐き過ぎじゃないか?」
アベルトは、ヴォストラ邸訪問がなくなり、カルロに剣術の稽古をつけてもらう事になったとメイドに報告しに行った。
専属メイドの中でも、1番仲が良いのがアイリーンという18歳の娘だ。
アイリーンは有名な商家の生まれで、結婚するのが嫌で16の時に家を出た。
当時、アベルトの乳母であったギル夫人と交流があり、その伝で城へ上がった。
そして1年後、ギル夫人の第2子の妊娠を機に、入れ違いでアベルト付きのメイドに昇格したのだ。
何故新人の彼女が、王子の信頼を得られたかというと、単純に胃袋を掴んだにすぎない。
本来、専門外の使用人が作った食べ物を王族が食すなど有り得ないが、暗黙の了解で見逃されているのであった。
元々は、アイリーンが自分用に料理やおやつを作っていただけだった。次第に、その味がメイド達の中で評判になり、それを聞いたアベルトが「食べたい」とごねたのだ。
結果、アベルトの執拗なおねだり光線に負けた家令が王妃の許可を渋々取り、料理長監視の元作られたもののみ、アベルトに提供する事が許され、今に至る。
アイリーンが作るのはどれも独特で、料理長を驚かせる様なものばかりだと言う。
本人曰く、サクラという曾祖母さんのレシピを真似したものらしいが、調味料が分からず、まだ再現出来ない料理も多いのだとか。
とにかく、完全に餌付けされたアベルトは、アイリーンが大のお気に入りなのだ。
「アイリーン! 今日出かける予定なくなったから、稽古着に着替える」
「あらそうなんですか? かしこまりました。お着替えの用意をしますね~」
「うん」
「今日のおやつは、タルトタタンですよ」
「やった、頑張らないと。
ねぇ、兄様にもあげたらだめかな」
「そりゃ無理ですよ、殿下。殿下が私の手作りお菓子を食べてるのだって、普通有り得ませんからね。
アイリーンはまだ死にたくありません。だから間違っても、第1王子に差し上げちゃダメですよ?」
「美味しいのにな~」
「ありがとう存じます、殿下。さっ、こちらに着替えちゃいましょう」
「…うん」
特に何事もなく日々は過ぎ、いよいよ明後日に訪問を控えていた。
「兄様。この間お見舞い品を贈ってたけど明後日はどうするの」
「あ~、とりあえず花でいいか」
「とりあえずって。婚約者になったのに……」
「国のために婚約しただけだからな。正直、特に交流もないのに心配出来ない。
プライドが高いと聞くし、あまり刺激しない方がお互いの為だろう」
事もなげに言う兄に、アベルトは寂寥感をおぼえる。
「僕は兄様に許される範囲で幸せになって欲しいよ」
「アベルトお前……ジジくさいぞ」
「むぅ。本気なのに」
「すまない。でも面白い話があるぞ。
ヴォストラ嬢が人が変わった様に、穏やかになったらしい」
「ーーは? あのヴォストラ嬢が!?」
あの一件を見たせいか、俄かには信じがたい。
噂は噂に過ぎないという顔でカルロを見やる。
「もちろん、デマの可能性もあるし、あるいは公爵家が態と流した可能性もある。
婚約の公表前に評判を高めたいだろうからな」
「うわ~、だったら嫌な感じ。
でも本当だったら、どんな心境の変化があったのか気になるなぁ」
「そうだろう?」
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