【完結】君を知らないまま、恋をした

一ノ瀬麻紀

文字の大きさ
3 / 59

02 新しい仲間

しおりを挟む
「……ん?」

 僕の視線に気付いたラパンは、僕の言葉を待つように、じーっと見つめてきた。
 そんなに見つめられたら、僕の心臓は勝手にドキドキと心拍数を上げていく。
 
 さっきの言葉が気のせいじゃなかったら、ラパンは僕と一緒に冒険に出たいと思ってくれているのかもしれない。
 それは、ただ単に僕が危なっかしいからだけかもしれないけど、それでもよかった。
 現実世界で友達がいない僕は、いつもひとりぼっちだったから――。

 もし僕の勘違いだったらとても恥ずかしいけど、僕は思い切って聞いてみることにした。

「あ、あの……」
「どうした?」
「さっき、仲間として一緒に冒険するんだし……って」
「ああ、そのつもりだったんだが――。迷惑か?」
「そ、そんなことない! 迷惑じゃない! すごく嬉しい!」

 ああ、やっぱり聞き間違いじゃなかったんだ!
 ラパンは、僕とこの世界で一緒に過ごしたいと思ってくれたんだ。
 僕は嬉しくなって、思わずラパンに抱きついてしまった。

「ゲームの世界で、早速友達ができるなんて! 本当に嬉しい!」
「まずは、友達から……か」

 抱きついた僕を、きゅっと抱きしめ返してくれたラパンの声が、少し残念そうに聞こえた。
 え? いきなり友達って図々しかったのかな。……じゃあ、冒険の仲間?
 僕たちの関係は、なんていうのが正しいんだろう? なんて考えていたら、頭上からラパンの声がした。

「いい相棒になれそうだ。よろしくな」
「相棒? そっか、相棒なんだね! うん、よろしくね」

 僕はラパンに抱きついたまま、嬉しくて、耳がぴくぴく、尻尾はふりふり――自然と動いてしまっていた。
 
 現実世界の僕だったら、初対面の人にこんな風にいきなり抱きついたりしない。
 でも、ここは違う自分になれるんだ。遠慮しないで、素直に甘えてもいいんだ。

 優しく僕の頭を撫でてくれるラパンの胸の中が、とても心地よくて、僕はふにゃふにゃっと力が抜けてしまった。
 初めて会ったはずなのに、なんでこんなに安心するんだろう……。

「いきなりモンスターに襲われたしな、もう疲れちゃったか? 今日はログアウトにするか?」

 ラパンの胸の中でふわふわと夢見心地になっていた僕に、心配そうにラパンが声をかけてきた。

「ん……? あ、ごめんなさい。なんかすごく安心しちゃって」

 僕はラパンの胸から離れて顔を上げた。
 せっかく自由に動けるゲームの世界に来たのに、すぐログアウトするなんてもったいない。

「せっかくなんで、もう少しこの街のこと知りたいです」
「なんだまた敬語に戻ってるぞ?」
「あ! ご、ごめん」
「いい、気にするな。徐々に慣れていこう」
「うん、ありがとう」

 ラパンは、ポンポンっと頭を撫でてくれた。
 ――あれ? なんだろう、この懐かしい感じは……。

 ラパンに会ってから、なぜか胸がザワザワする。
 初めてなのに初めてじゃないような、懐かしくて安心するような、そんな感覚に何度も陥る。

 僕は、自分の胸に手を当ててみた。何か大切なことを忘れているのではないだろうか。
 ラパンと一緒に冒険を続ければ、何かを思い出すのかもしれない。
 それがなんなのかはわからないけど。

「動画だけじゃわかりにくいところもあるだろうし、この街を散策しながら、少しずつ説明するか」
「うん!」

 僕が元気よく返事をすると、いつの間にか肩に移動していたユキも一緒になって、「うん!」と元気に返事をした。
 いや、ユキはサポートキャラだろ? ってツッコミを入れたかったけど、嬉しそうにしているのが伝わって来たから、まぁいいか。



「動画でも説明があったと思うけど、今回ログインしているこのゲームは、体験版なんだ」

 僕がログイン前に見た動画は、製品版のチュートリアルの代わりのものだと言っていた。
 動画だけじゃなく、AIアシスタント機能もついていて、わからないところを補足で説明してくれた。

 でもやっぱり一度で覚えるのは無理で、僕はとりあえず冒険の始まりの街である、グリーンヒルで情報を集めればいいかなって、呑気に考えてたんだ。

 そしたら、なぜか街じゃなくて草原の真ん中に立ってるし、ベアウルフに襲われちゃうし。
 ラパンが助けに来てくれなかったら、今頃僕はゲームオーバーになって、何もしないまま現実世界に戻されてしまうところだった。

「体験版だから、難易度は控えめになっていて……」

 ラパンの話によると、初めからある程度装備や魔法やアイテムが揃っている。体験版用のシナリオで、製品版に引き継ぎはできない。
 体験版は、このゲームの世界観を楽しんでもらうのが主目的とされている。
 そして体験版を実際にプレイしてもらって、発見されるバグやユーザーの声が、製品版にフィードバックされるらしい。

「だから本来は安全な街からのスタートで、モンスターレベルも低めのはずなんだけど……」
「ラパンはすごく詳しいね」
「もうすでに何度もこの体験版をプレイしているからな」
「そうなの!?」
「ちょっと知り合いに頼まれて……」
「じゃあ、ラパンがいれば安心だね!」

 僕がニコニコしながら言ったら、ラパンはちょっと照れたように「ああ、そうだな」と少し視線を外してしまった。
 あれ? 僕変なこと言ったかな?
 でもなんか、視線を外したままのラパンの頬が、少し赤いような気がした。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。 勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。

姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)

turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。 徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。 彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。 一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。 ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。 その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。 そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。 時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは? ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ? 読んでくださった方ありがとうございます😊 ♥もすごく嬉しいです。 不定期ですが番外編更新していきます!

どうか溺れる恋をして

ユナタカ
BL
失って、後悔して。 何度1人きりの部屋で泣いていても、もう君は帰らない。

ラベンダーに想いを乗せて

光海 流星
BL
付き合っていた彼氏から突然の別れを告げられ ショックなうえにいじめられて精神的に追い詰められる 数年後まさかの再会をし、そしていじめられた真相を知った時

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

君さえ笑ってくれれば最高

大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。 (クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け) 異世界BLです。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

処理中です...