15 / 59
14 バリアを張る
しおりを挟む
街中は人もいるし危ないのでゆったりと進んでいく。そして街を出たところでユキが言った。
「街を出たらちょっとスピード上げるから、振り落とされないようにしてよ~」
ユキの宣言通り、街を出て草原に一歩踏み出した途端、ギュイーンとスピードが上がった。
「すごーい!」
自分の足で走るのも感動したけど、ユキの背中で風を切って走るのも、とても爽快で気持ちがいい。
巨大化したうさぎの背に乗って草原を駆け抜けるなんて、ゲームの世界だからこその貴重な経験だ。
カゴの中のうさぎさんは、真正面から浴びる風に、耳が完全に倒されぺたんとなっていた。
「あと少し~」
ユキはそう言った瞬間、急ブレーキをかけて止まった。
はずみで、前のめりになりそのまま振り落とされそうになってしまった。
「わっ! ユキ、危ないじゃないか!」
「しっ」
僕が抗議したら、ユキは大きな耳をピンっと立ててあたりの様子を伺った。ユキは耳と鼻をピクピクさせ、何かを感じ取ったようだ。
「モンスターの気配を感じる。あそこの木の根本に荷台ごと下ろすから、シロはバリアを張って」
「え? 僕、バリアなんて張れないよ?」
「大丈夫。シロはバリア魔法習得済みだから、念じれば張れるから」
ユキは、いつものふわふわした感じではなく、周りにピンとアンテナを張り巡らせ、警戒したように僕に言った。
「う、うん……。僕、頑張ってみる」
ちょっと不安だったけど、荷物もうさぎさんも守らなきゃいけない。それに、僕がちゃんと守らないと、ユキは思い切り戦うことができないんだ。
「シロ、大丈夫だから。そっちは頼んだよ」
ユキがそう言うと、僕が座っている椅子と荷台がふわりと宙に浮いた。そしてゆっくり木の根本まで移動すると、静かに地面に着地した。
僕は、バリアの呪文なんて使ったことがない。魔法自体も、初心者の部屋でちょこっとユキにバフをかけたくらいだ。
そういえばあの時も、詠唱なしでただひたすら念じたら成功したっけ……。
それならきっとバリアもできる。同じ感じで念じればいいんだ。
「ユキが、近くにモンスターの気配を感じたようです。僕が今からバリアを張るので、ここから出ないでくださいね」
何が起きているのかと、不安そうなうさぎさんに状況を説明してから、僕は両手を祈るように合わせた。
大丈夫、初心者の部屋の時と同じように念じればいい。平常心、平常心――。
皆を守ってください、お願いします……。
僕が念じ始めてまもなく、僕たちの周りに光の壁が現れ始めた。そして、ドーム型に形成されていく。
僕の想いが移ったのか、マジックバッグに付けた、うさぎのキーホルダーも、輝き出した。
「よし、これで大丈夫だ」
何重にも重なり合ったバリアの層が出来上がった。外側に衝撃があっても、中には響かないようにしたつもりだ。
振り返ったユキに、僕はうさぎのキーホルダーをゆらゆらと揺らしながら、片方の手でVサインをして見せた。
僕のサインを確認したあと、ユキは大きく首を縦に振った。大きな耳がブンブンっと揺れる。
ユキにバフもかけたいけど、バリアのキープで精一杯な気がする。自分の力量がわからないから、余計なことをしないのが一番だ。
「来た!」
ユキの緊張した声が聞こえた。バリア越しだけど、ユキの声だけはちゃんと僕に届いたのは、サポートキャラとして契約しているからだろうか。
ユキの目の前に、ネズミくらいのサイズのアリが、群をなして現れた。ユキは、難なく切りつけて倒していく。けど、倒しても倒しても、次から次へとやってくるので、キリがない。
ユキはどこからともなく大剣を取り出し、天高くかざした。その瞬間、大剣が氷で覆われ強い冷気を放つ。
ユキは大剣を持ち直すと、豪快に横に薙ぎ払った。広範囲にわたって地面から氷の刃が突き出て、アリを凍らせていく。そのそばから次々と氷が割れ砕け散った。
この周辺のアリは全てやっつけたかな。もう安心だ、そう思った矢先。
「えっ? オオアリクイ!?」
突如、ユキの困惑した声が聞こえてきた。
ユキの放った技によって、僕たちの周りは、空中に舞う氷の粒がまるでスモークのように視界を遮っていた。
やっと目の前がひらけてきた……と思ったその先には、オオアリクイがいた。
「うわぁ……。なんでこんなところにいるんだよ……」
ユキのめんどくさそうな声からすると、このオオアリクイも『本来ならばこのあたりにいないモンスター』なのかもしれない。だとすると、アリより強いってことだよね……。
どうしよう、バフかけた方がいい? でもバリアが……。
僕は想像していた事態よりも、悪化していることを感じ取り、平常心が保てなくなっていた。
入念に張ったはずのバリアも、時々チカチカと蛍光灯の球切れ直前のように、不安定な光を放ち始めた。
(僕は大丈夫だから。シロは、僕が強いの知ってるよね? 任せといてよ! こんなオオアリクイ、あっという間にやっつけちゃうんだから!)
不安になっている僕の心に、直接ユキの声が聞こえてきた。
ユキだって動揺しているのに、僕のことを気遣ってくれる。……僕も、精一杯のことをしなきゃ!
僕は両手で頬をパンパンと叩くと、気合いを入れ直した。
「ったく、どこに行ったと思ったら、こんなところで何やってんだよ?」
気合いを入れ直した僕の耳に、突然馴染みのある声が飛び込んできた。
え……?
僕は驚いて顔を上げた。
「街を出たらちょっとスピード上げるから、振り落とされないようにしてよ~」
ユキの宣言通り、街を出て草原に一歩踏み出した途端、ギュイーンとスピードが上がった。
「すごーい!」
自分の足で走るのも感動したけど、ユキの背中で風を切って走るのも、とても爽快で気持ちがいい。
巨大化したうさぎの背に乗って草原を駆け抜けるなんて、ゲームの世界だからこその貴重な経験だ。
カゴの中のうさぎさんは、真正面から浴びる風に、耳が完全に倒されぺたんとなっていた。
「あと少し~」
ユキはそう言った瞬間、急ブレーキをかけて止まった。
はずみで、前のめりになりそのまま振り落とされそうになってしまった。
「わっ! ユキ、危ないじゃないか!」
「しっ」
僕が抗議したら、ユキは大きな耳をピンっと立ててあたりの様子を伺った。ユキは耳と鼻をピクピクさせ、何かを感じ取ったようだ。
「モンスターの気配を感じる。あそこの木の根本に荷台ごと下ろすから、シロはバリアを張って」
「え? 僕、バリアなんて張れないよ?」
「大丈夫。シロはバリア魔法習得済みだから、念じれば張れるから」
ユキは、いつものふわふわした感じではなく、周りにピンとアンテナを張り巡らせ、警戒したように僕に言った。
「う、うん……。僕、頑張ってみる」
ちょっと不安だったけど、荷物もうさぎさんも守らなきゃいけない。それに、僕がちゃんと守らないと、ユキは思い切り戦うことができないんだ。
「シロ、大丈夫だから。そっちは頼んだよ」
ユキがそう言うと、僕が座っている椅子と荷台がふわりと宙に浮いた。そしてゆっくり木の根本まで移動すると、静かに地面に着地した。
僕は、バリアの呪文なんて使ったことがない。魔法自体も、初心者の部屋でちょこっとユキにバフをかけたくらいだ。
そういえばあの時も、詠唱なしでただひたすら念じたら成功したっけ……。
それならきっとバリアもできる。同じ感じで念じればいいんだ。
「ユキが、近くにモンスターの気配を感じたようです。僕が今からバリアを張るので、ここから出ないでくださいね」
何が起きているのかと、不安そうなうさぎさんに状況を説明してから、僕は両手を祈るように合わせた。
大丈夫、初心者の部屋の時と同じように念じればいい。平常心、平常心――。
皆を守ってください、お願いします……。
僕が念じ始めてまもなく、僕たちの周りに光の壁が現れ始めた。そして、ドーム型に形成されていく。
僕の想いが移ったのか、マジックバッグに付けた、うさぎのキーホルダーも、輝き出した。
「よし、これで大丈夫だ」
何重にも重なり合ったバリアの層が出来上がった。外側に衝撃があっても、中には響かないようにしたつもりだ。
振り返ったユキに、僕はうさぎのキーホルダーをゆらゆらと揺らしながら、片方の手でVサインをして見せた。
僕のサインを確認したあと、ユキは大きく首を縦に振った。大きな耳がブンブンっと揺れる。
ユキにバフもかけたいけど、バリアのキープで精一杯な気がする。自分の力量がわからないから、余計なことをしないのが一番だ。
「来た!」
ユキの緊張した声が聞こえた。バリア越しだけど、ユキの声だけはちゃんと僕に届いたのは、サポートキャラとして契約しているからだろうか。
ユキの目の前に、ネズミくらいのサイズのアリが、群をなして現れた。ユキは、難なく切りつけて倒していく。けど、倒しても倒しても、次から次へとやってくるので、キリがない。
ユキはどこからともなく大剣を取り出し、天高くかざした。その瞬間、大剣が氷で覆われ強い冷気を放つ。
ユキは大剣を持ち直すと、豪快に横に薙ぎ払った。広範囲にわたって地面から氷の刃が突き出て、アリを凍らせていく。そのそばから次々と氷が割れ砕け散った。
この周辺のアリは全てやっつけたかな。もう安心だ、そう思った矢先。
「えっ? オオアリクイ!?」
突如、ユキの困惑した声が聞こえてきた。
ユキの放った技によって、僕たちの周りは、空中に舞う氷の粒がまるでスモークのように視界を遮っていた。
やっと目の前がひらけてきた……と思ったその先には、オオアリクイがいた。
「うわぁ……。なんでこんなところにいるんだよ……」
ユキのめんどくさそうな声からすると、このオオアリクイも『本来ならばこのあたりにいないモンスター』なのかもしれない。だとすると、アリより強いってことだよね……。
どうしよう、バフかけた方がいい? でもバリアが……。
僕は想像していた事態よりも、悪化していることを感じ取り、平常心が保てなくなっていた。
入念に張ったはずのバリアも、時々チカチカと蛍光灯の球切れ直前のように、不安定な光を放ち始めた。
(僕は大丈夫だから。シロは、僕が強いの知ってるよね? 任せといてよ! こんなオオアリクイ、あっという間にやっつけちゃうんだから!)
不安になっている僕の心に、直接ユキの声が聞こえてきた。
ユキだって動揺しているのに、僕のことを気遣ってくれる。……僕も、精一杯のことをしなきゃ!
僕は両手で頬をパンパンと叩くと、気合いを入れ直した。
「ったく、どこに行ったと思ったら、こんなところで何やってんだよ?」
気合いを入れ直した僕の耳に、突然馴染みのある声が飛び込んできた。
え……?
僕は驚いて顔を上げた。
78
あなたにおすすめの小説
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―
綾波絢斗
BL
この世界には、二つの特別な称号を持つ者たちが存在する。
一つは、絶対的な権力を持つ王の称号――ルガル(lugal)。
もう一つは、ルガルと対をなし、その力を補う「番」――ムル(mul)。
ルガルは生まれながらに選ばれし存在。
国家からエリート教育と地位を与えられ、能力に応じて厳格なランク分けが行われる。
最上位のルガルは、政治さえも動かす絶対者だ。
一方で、ムルは生まれた瞬間にはその正体がわからない。
遺伝子検査や学力テストを経て候補が絞られるが、
最終的に「真のムル」かどうかを見極められるのは――ルガルだけ。
ムルが覚醒したとき、同じ場所に「紋章」が現れ、その瞬間から、ルガルとムルの力は共鳴し始める。
ムルの能力はルガルの力を最大限に引き出す。
ゆえにルガルたちは、自らのムルを求め、時には他人のムル候補を奪い合う。
そして、すべての出生データと遺伝情報を管理するのは、
巨大企業イルジオン――国家をも超える存在。
その頂点に立つ社長、一条レイ。
冷徹なルガルの頂点に君臨する彼が「自分のムル」と出会った。
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
【完結】みにくい勇者の子
バナナ男さん
BL
ある田舎町で農夫をしている平凡なおっさんである< ムギ >は、嫁なし!金なし!の寂しい生活を送っていた。 そんなある日、【 光の勇者様 】と呼ばれる英雄が、村の領主様に突然就任する事が決まり、村人達は総出で歓迎の準備をする事に。 初めて会うはずの光の勇者様。 しかし、何故かムギと目が合った瞬間、突然の暴挙に……? 光の勇者様 ✕ 農夫おっさんのムギです。 攻めはヤンデレ、暴走ロケット、意味不明。 受けは不憫受け(?)だと思いますので、ご注意下さい。ノリよくサクッと終わりますm(__)m 頭空っぽにして読んで頂けると嬉しいです。
王子様と一緒。
紫紺
BL
田中明夫は作家を目指して10年、全く目が出ない男だ。
ある日、書店の前で金髪青い目の青年が突然話しかけてきた。最初は胡散臭く思っていたのだが……。
南の国の第2王子アスラン、その護衛トーゴー、田中が住むアパートの大家や住人の奨励会員などなど。
様々な人間模様と恋模様が織りなすBL多めのラブコメ開幕です!
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
【本編完結済】神子は二度、姿を現す
江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結
ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。
死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが
神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。
戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。
王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。
※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。
描写はキスまでの全年齢BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる