【完結】VRゲームの世界でキミを待つ

一ノ瀬麻紀

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14 バリアを張る

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 街中は人もいるし危ないのでゆったりと進んでいく。そして街を出たところでユキが言った。

「街を出たらちょっとスピード上げるから、振り落とされないようにしてよ~」

 ユキの宣言通り、街を出て草原に一歩踏み出した途端、ギュイーンとスピードが上がった。

「すごーい!」

 自分の足で走るのも感動したけど、ユキの背中で風を切って走るのも、とても爽快で気持ちがいい。
 巨大化したうさぎの背に乗って草原を駆け抜けるなんて、ゲームの世界だからこその貴重な経験だ。
 カゴの中のうさぎさんは、真正面から浴びる風に、耳が完全に倒されぺたんとなっていた。

「あと少し~」

 ユキはそう言った瞬間、急ブレーキをかけて止まった。
 はずみで、前のめりになりそのまま振り落とされそうになってしまった。

「わっ! ユキ、危ないじゃないか!」
「しっ」

 僕が抗議したら、ユキは大きな耳をピンっと立ててあたりの様子を伺った。ユキは耳と鼻をピクピクさせ、何かを感じ取ったようだ。

「モンスターの気配を感じる。あそこの木の根本に荷台ごと下ろすから、シロはバリアを張って」
「え? 僕、バリアなんて張れないよ?」
「大丈夫。シロはバリア魔法習得済みだから、念じれば張れるから」

 ユキは、いつものふわふわした感じではなく、周りにピンとアンテナを張り巡らせ、警戒したように僕に言った。

「う、うん……。僕、頑張ってみる」

 ちょっと不安だったけど、荷物もうさぎさんも守らなきゃいけない。それに、僕がちゃんと守らないと、ユキは思い切り戦うことができないんだ。

「シロ、大丈夫だから。そっちは頼んだよ」

 ユキがそう言うと、僕が座っている椅子と荷台がふわりと宙に浮いた。そしてゆっくり木の根本まで移動すると、静かに地面に着地した。

 僕は、バリアの呪文なんて使ったことがない。魔法自体も、初心者の部屋でちょこっとユキにバフをかけたくらいだ。
 そういえばあの時も、詠唱なしでただひたすら念じたら成功したっけ……。
 それならきっとバリアもできる。同じ感じで念じればいいんだ。

「ユキが、近くにモンスターの気配を感じたようです。僕が今からバリアを張るので、ここから出ないでくださいね」

 何が起きているのかと、不安そうなうさぎさんに状況を説明してから、僕は両手を祈るように合わせた。
 大丈夫、初心者の部屋の時と同じように念じればいい。平常心、平常心――。

 皆を守ってください、お願いします……。

 僕が念じ始めてまもなく、僕たちの周りに光の壁が現れ始めた。そして、ドーム型に形成されていく。
 僕の想いが移ったのか、マジックバッグに付けた、うさぎのキーホルダーも、輝き出した。

「よし、これで大丈夫だ」

 何重にも重なり合ったバリアの層が出来上がった。外側に衝撃があっても、中には響かないようにしたつもりだ。

 振り返ったユキに、僕はうさぎのキーホルダーをゆらゆらと揺らしながら、片方の手でVサインをして見せた。
 僕のサインを確認したあと、ユキは大きく首を縦に振った。大きな耳がブンブンっと揺れる。

 ユキにバフもかけたいけど、バリアのキープで精一杯な気がする。自分の力量がわからないから、余計なことをしないのが一番だ。

「来た!」

 ユキの緊張した声が聞こえた。バリア越しだけど、ユキの声だけはちゃんと僕に届いたのは、サポートキャラとして契約しているからだろうか。

 ユキの目の前に、ネズミくらいのサイズのアリが、群をなして現れた。ユキは、難なく切りつけて倒していく。けど、倒しても倒しても、次から次へとやってくるので、キリがない。
 ユキはどこからともなく大剣を取り出し、天高くかざした。その瞬間、大剣が氷で覆われ強い冷気を放つ。
 ユキは大剣を持ち直すと、豪快に横に薙ぎ払った。広範囲にわたって地面から氷の刃が突き出て、アリを凍らせていく。そのそばから次々と氷が割れ砕け散った。

 この周辺のアリは全てやっつけたかな。もう安心だ、そう思った矢先。

「えっ? オオアリクイ!?」

 突如、ユキの困惑した声が聞こえてきた。
 ユキの放った技によって、僕たちの周りは、空中に舞う氷の粒がまるでスモークのように視界を遮っていた。
 やっと目の前がひらけてきた……と思ったその先には、オオアリクイがいた。

「うわぁ……。なんでこんなところにいるんだよ……」

 ユキのめんどくさそうな声からすると、このオオアリクイも『本来ならばこのあたりにいないモンスター』なのかもしれない。だとすると、アリより強いってことだよね……。
 どうしよう、バフかけた方がいい? でもバリアが……。

 僕は想像していた事態よりも、悪化していることを感じ取り、平常心が保てなくなっていた。
 入念に張ったはずのバリアも、時々チカチカと蛍光灯の球切れ直前のように、不安定な光を放ち始めた。

(僕は大丈夫だから。シロは、僕が強いの知ってるよね? 任せといてよ! こんなオオアリクイ、あっという間にやっつけちゃうんだから!)

 不安になっている僕の心に、直接ユキの声が聞こえてきた。
 ユキだって動揺しているのに、僕のことを気遣ってくれる。……僕も、精一杯のことをしなきゃ!

 僕は両手で頬をパンパンと叩くと、気合いを入れ直した。

「ったく、どこに行ったと思ったら、こんなところで何やってんだよ?」

 気合いを入れ直した僕の耳に、突然馴染みのある声が飛び込んできた。
 え……?
 僕は驚いて顔を上げた。
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