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16 お休み
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「うーん、今日はちょっと休まなきゃだめかな?」
「え……」
朝の診察に来た僕の担当の先生が、少し困った顔で言った。
「疲れが出ちゃったのかな? いつもよりちょっと熱が高いんだよね」
「でも、僕いつもとそんなに変わらないし……。ゲーム内なら、走っても大丈夫なんですよね?」
「そうなんだけど……。今日の検査の数値もね、いつもより良くないんだよ」
先生は手元のカルテを見て、小さく息を吐いた。
「キミが思うよりも、VRゲームというのは、疲れるのかもしれないね」
目を閉じて体は休んでいるように見えるけど、脳は覚醒した状態だから、たった1時間のゲームでも相当負担がかかる。そんな話を聞いたことがある。
1時間と言っても、ゲーム内時間は約1日だし、疲れるのは当然かもしれない。
先生は、僕がVRゲームをどれだけ楽しみにしてるのかを知っているから、伝えるのをためらったんだと思う。
でも主治医だから、時には厳しいことも言わなければならない。だから心を鬼にして、ドクターストップをかけたのかもしれない。
それは僕にだってわかる。……わかるから、もう僕は高校生だし、もうこれ以上はわがままは言えないんだ……。
「わかり……ました……」
僕は、消え入りそうな声で返事をした後は、もう何も言葉を口にすることはできなかった。
「また夜に様子を見に来るからね」
先生は、またすぐにゲームができるようになるよ……とか、慰めみたいな言葉はかけなかった。それも、先生の優しさなんだ。
中学生の時からの主治医だから、僕のことはよくわかってくれている。
僕は返事の代わりに、無言で小さく頷いた。
コンコン
先生が病室を後にしてから、僕はしばらくぼーっと窓の外を眺めていた。
大きくため息をついた後、窓から視線を外したタイミングで、病室のドアがノックされた。
いつもこの時間に来るから、このノックの主が誰なのかわかる。
「はい、どうぞ」
「こんにちは」
ドアを開けて入ってきたのは、いつもこの時間にやってくる昴さんだった。
紙袋を持った昴さんは、いつものように入ってきて、いつものようにパイプ椅子を持ち出してきた。
そして、おもむろに紙袋の中をガサガサと探ると、中から白くてふわふわしたものを取り出した。
「……?」
僕が首を傾げると、昴さんはにっこり微笑んで「はい」と言って、僕の手の上に白いもふもふを乗せた。
「……あ! ユキ!」
僕の手の上に乗せられたぬいぐるみは、間違いなくユキだ。
メプさんのところで触った、サポートキャラのぬいぐるみと全く同じ。大きさも重さもふわふわとした手触りも。
でもなんで、現実世界にあるの? なんでそれを昴さんが持ってきたの? わからないことばかりだ。
「これね、リベラリアに出てくるサポートキャラなんだけど、今試作品を作ってるんだ」
「試作品……? このうさぎ、僕がリベラリアの世界で、2番目に友達になった子なんです!」
「そうだったね、この前話してくれた子かな」
「嬉しい! 今日は会えないと思ってたから。……この子、撫でてもいいですか?」
「これは、真白にあげたくて持ってきたから、たくさん可愛がってあげて」
「昴さん、ありがとう!」
僕は思いがけないプレゼントに、さっきまで沈んでいた心がぽっと温かくなるのを感じた。
昴さんは、僕が寂しかったり、辛い時だって、いつもそばにいてくれる。僕にとってヒーローと同じなんだ。
「今日は、会えないって言ってたけど……」
「……先生から止められちゃいました。僕はいつもと変わらないつもりだったけど、先生の言うことなので、休むのが正解なんです。だから今日はゆっくりします」
「そうなのか……。じゃあ今日は、僕にリベラリアの話を聞かせてくれないか?」
「ふふふ。……昴さんは、しっかり休めって言うのかと思いました」
僕は、昴さんも看護師さんたちと同じように、しっかり休んでって言うのかと思ってた。なのに、リベラリアの話をしてって言うから、思わずクスッと笑ってしまった。
でもこれが、昴さんの優しさ。昴さんのそばにいると心が休まるし、温かい気持ちになるし、ずっと一緒にいたいと思える人……。
この気持ちを言葉にするなら、なんと言うのだろうか。
……今の僕には、うまく当てはまる言葉を見つけることはできなかった。
その日はベッドに横になりながら、リベラリアでの出来事を、昴さんにたくさん話した。
ログインはできなかったけど、こうやって他の人に話すことで、また楽しかった日々を思い返すことができる。そして、次にログインした時に、ラパンやユキにもこの話をしてあげたいなって思った。
しょげていた気持ちが、昴さんのおかげで前向きに考えられるようになった。
「昴さんは、製作者側なんですよね? ログインしないんですか?」
僕はいつも気になっていたことを聞いた。
「製作中とか、テスト中はログインして動作確認したけど、今の体験版はまだログインしてないんだ」
「そうなんですね。今度一緒にプレイできたら楽しいのに」
「うん……そうだね」
昴さんの返事が、なんとなく歯切れが悪いような気がしたけど、忙しくて無理なのかな……と、僕は思った。
「え……」
朝の診察に来た僕の担当の先生が、少し困った顔で言った。
「疲れが出ちゃったのかな? いつもよりちょっと熱が高いんだよね」
「でも、僕いつもとそんなに変わらないし……。ゲーム内なら、走っても大丈夫なんですよね?」
「そうなんだけど……。今日の検査の数値もね、いつもより良くないんだよ」
先生は手元のカルテを見て、小さく息を吐いた。
「キミが思うよりも、VRゲームというのは、疲れるのかもしれないね」
目を閉じて体は休んでいるように見えるけど、脳は覚醒した状態だから、たった1時間のゲームでも相当負担がかかる。そんな話を聞いたことがある。
1時間と言っても、ゲーム内時間は約1日だし、疲れるのは当然かもしれない。
先生は、僕がVRゲームをどれだけ楽しみにしてるのかを知っているから、伝えるのをためらったんだと思う。
でも主治医だから、時には厳しいことも言わなければならない。だから心を鬼にして、ドクターストップをかけたのかもしれない。
それは僕にだってわかる。……わかるから、もう僕は高校生だし、もうこれ以上はわがままは言えないんだ……。
「わかり……ました……」
僕は、消え入りそうな声で返事をした後は、もう何も言葉を口にすることはできなかった。
「また夜に様子を見に来るからね」
先生は、またすぐにゲームができるようになるよ……とか、慰めみたいな言葉はかけなかった。それも、先生の優しさなんだ。
中学生の時からの主治医だから、僕のことはよくわかってくれている。
僕は返事の代わりに、無言で小さく頷いた。
コンコン
先生が病室を後にしてから、僕はしばらくぼーっと窓の外を眺めていた。
大きくため息をついた後、窓から視線を外したタイミングで、病室のドアがノックされた。
いつもこの時間に来るから、このノックの主が誰なのかわかる。
「はい、どうぞ」
「こんにちは」
ドアを開けて入ってきたのは、いつもこの時間にやってくる昴さんだった。
紙袋を持った昴さんは、いつものように入ってきて、いつものようにパイプ椅子を持ち出してきた。
そして、おもむろに紙袋の中をガサガサと探ると、中から白くてふわふわしたものを取り出した。
「……?」
僕が首を傾げると、昴さんはにっこり微笑んで「はい」と言って、僕の手の上に白いもふもふを乗せた。
「……あ! ユキ!」
僕の手の上に乗せられたぬいぐるみは、間違いなくユキだ。
メプさんのところで触った、サポートキャラのぬいぐるみと全く同じ。大きさも重さもふわふわとした手触りも。
でもなんで、現実世界にあるの? なんでそれを昴さんが持ってきたの? わからないことばかりだ。
「これね、リベラリアに出てくるサポートキャラなんだけど、今試作品を作ってるんだ」
「試作品……? このうさぎ、僕がリベラリアの世界で、2番目に友達になった子なんです!」
「そうだったね、この前話してくれた子かな」
「嬉しい! 今日は会えないと思ってたから。……この子、撫でてもいいですか?」
「これは、真白にあげたくて持ってきたから、たくさん可愛がってあげて」
「昴さん、ありがとう!」
僕は思いがけないプレゼントに、さっきまで沈んでいた心がぽっと温かくなるのを感じた。
昴さんは、僕が寂しかったり、辛い時だって、いつもそばにいてくれる。僕にとってヒーローと同じなんだ。
「今日は、会えないって言ってたけど……」
「……先生から止められちゃいました。僕はいつもと変わらないつもりだったけど、先生の言うことなので、休むのが正解なんです。だから今日はゆっくりします」
「そうなのか……。じゃあ今日は、僕にリベラリアの話を聞かせてくれないか?」
「ふふふ。……昴さんは、しっかり休めって言うのかと思いました」
僕は、昴さんも看護師さんたちと同じように、しっかり休んでって言うのかと思ってた。なのに、リベラリアの話をしてって言うから、思わずクスッと笑ってしまった。
でもこれが、昴さんの優しさ。昴さんのそばにいると心が休まるし、温かい気持ちになるし、ずっと一緒にいたいと思える人……。
この気持ちを言葉にするなら、なんと言うのだろうか。
……今の僕には、うまく当てはまる言葉を見つけることはできなかった。
その日はベッドに横になりながら、リベラリアでの出来事を、昴さんにたくさん話した。
ログインはできなかったけど、こうやって他の人に話すことで、また楽しかった日々を思い返すことができる。そして、次にログインした時に、ラパンやユキにもこの話をしてあげたいなって思った。
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