救世主くん!君の推しと裏ボス、付き合ってますよ!(…なんだけど、ウチの弟と青春始まってる?)

末野みのり

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本編

1-1 推しの生存ifでオタクが大変

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 そりゃ俺も、オタクの端くれとして異世界モノぐらいは嗜みますよ。
 でもトラックじゃなかった。トラックには轢かれなかった。
 轢かれたいわけじゃないけど、平々凡々の俺の人生、あらゆる定番を踏んでいくんじゃないかと思ってたから、落とし穴タイプとは思わないじゃん。
 バイトが終わって、新作ゲームの発表配信見るぞ~!って、ウキウキで帰ろうとしたら突然の落とし穴。
 マジ?ってなるよ。なるだろ。
 その上落ちた先。廃墟、と美青年二人。最近はこういうの、美少女じゃないんだ。

「ようこそ。はじめまして、救世主。いきなり異世界で驚いたことと思いますが……よかったら、ひとまず、気楽なスローライフでも」

 なんか全部説明された。ジャンルまで指定された。
 そんなこんなで俺の異世界トラベル、スローライフものだったらしい。





 第一村人発見、ではなく、ドドドファンタジー異世界で俺を迎えてくれたのは二人の青年だった。
 赤毛に青い目の優しそうな青年はアーウィンと、銀髪に赤い目のヤンチャしてそうな青年はルドガーと名乗った。
 そこからもう嫌な予感はしていた。
 見覚えが、ありすぎる……。

「アーウィン坊っちゃん! その方は……」

 連れて行かれた先には馬車があった。そこで馬の世話をしていた人が驚いた顔をしていた。御者さんって言うんだっけ、こういう場合。

「うん、僕たちが待っていたお客様。とりあえずうちにお連れするから、よろしく頼むね」
「かしこまりました。お任せを」

 馬車、乗るの初めてだなぁ……。とか、感慨深くなってる場合ではない。アーウィンって絶対偉い人じゃん!貴族とかのやつじゃん!

「で、どうするよ。全然段取り考えてなかったろ」
「まあフィーリングで~」

 そっちも行き当たりばったりなんかい。逆に安心したけど。
 なんせバイト帰り、何の準備もしてない。リュックサック!財布!スマホ!バスで読む暇つぶしの本!なんかあとごちゃごちゃもろもろ!カバンの底にぐしゃぐしゃになってる、のど飴とポケットティッシュと給与明細!汚い!ごめん!

「とりあえずお腹減ってないですか?」
「あ、と、ええと、ちょっと小腹は減ってますね……」

 三人で馬車に乗り込んで、腰を落ち着かせたところで、アーウィンが尋ねてきた。
 名前もそうだけど、やっぱり見覚えあるんだよな。リアルじゃなくて、ゲームだけど……。
 もしかしてそういうジャンルでもあるのか?俺の異世界トラベルって。

「ちょうどよかった。家の物が昼食を持たせてくれたので、食べ物の確認がてら、早めの昼食にしましょう。苦手なものがあったら、全部ルドガーに回していいので」
「お~い、お前すぐオレのこと便利扱いすんなよ」

 仲良しか。仲良しだな。うん。
 でも良かった。異世界転移ジャンルの初期スポーン地点って、たいてい神殿とか王宮とかの厳かな場所だった気がするし……。
 それに比べたら、廃墟っぽいところ開始とはいえ、友達同士のやんややんやに挟まれてスタートなのは、気楽かもしんない。

「食べれそうなものあるか?」
「あ~……うん、見た目は俺のとこの食べ物と、同じかな……」

 アーウィンがバスケットを開けば、ルドガーが尋ねてくる。
 美味しそうな塩パンっぽいパンとサンドイッチ、それからレモネードっぽい飲み物が入っていた。
 あれ俺、陽キャ仲良しコンビのピクニックに挟まれている?

「良かった。食べれそうだったら全部食べてしまっていいので」
「どうも……。あの、その前にいいですか」
「どうぞ」

 にこ、と笑ってアーウィンが答えた。いいとこのお坊ちゃんの上品な笑い方すぎる。
 その顔に、やっぱり見覚えがありすぎる。ルドガーの顔にも。

「……アーウィン、さんの、フルネームって、アーウィン・フォン・ユーノヴェルト……?」

 言った途端、ぴり、と馬車の中の空気が緊張、した気がした。こわい。穏やかな人たちがマジになった時が一番怖いの、オタク知ってます!

「はい。……それ、救世主の特殊能力ですか?」
「いや、多分、違くて……。ルドガーさんは、ルドガー・ フォン・ラドウィン」
「おお……」

 こっちも当たり、だったようだ。
 だったら、ほぼ確じゃないのか。

「どうしてご存知なのか、お伺いしても?」
「ゲ……………………………ゲームで………………………」

 あれそういや異世界転移ものの定番って、こういうの言っちゃだめなんだったっけ!?
 まあいいや!押し通す!いける!いけると信じる!

「ゲームで……?」
「その……あの……アーウィンさんとルドガーさんが出てくるゲームが……俺の世界にはありましてぇ……」

 オタク、こういう時にしどろもどろになるのよくない。わかってるけど、なっちゃうよなぁ!?

「名前呼び捨てでいいですよ。ええと……救世主殿の世界の架空の物語に、僕たちがキャラクターとして登場する、と、そういうことですね?」
「はい……」

 た、たすかる。アーウィン、ゲームと同じで聡明すぎる。俺の知ってるアーウィンと、性格ちょっと……いやかなり違うけど。

「……う~ん……ユリウスさん呼んだ方がいいかな、これ」
「兄貴呼ぶか。だるいけど」
「えっ!!??」

 思わずデカい声を出してしまった。
 ユリウスって。ルドガーのお兄さんって。

「い、生きてんの!? ユリウスが!?」
「急な呼び捨てかよ」
「あっ、あっ、ごめんッ! ゲームの時の勢いで」

 ほんとにごめんってぇ!!
 生ぬるい笑みで微笑ましく笑わないで!!そういうの、オタク一番傷つくから!!

「別にいいけど。っていうか兄貴死んでんの? そのゲームの話だと」
「……そ、それもあるんだけど……」

 い、言いにくすぎる。
 あとアーウィンはもっと陰気キャラだし、ルドガーはもっと冷徹キャラとか、そういうのもあるけど、あの、そもそも、そもそもさぁ……。 

「その~……まず国が、滅んでますね……」
「わぁ」

 アーウィン……この場合の反応、『わぁ』でいいんだ……。いいのか?え?いいの?
 っていうか、ルドガーの兄のユリウスが生きている。で、なんかめちゃくちゃ平和そう。
 ってことは、ってことは…………………。

「あの~~~~~~~~~、ところで、アーウィンって、お兄さん、い、いる、います、よ、ね……」
「はい。その様子だと、ゲームの中では生きてはなさそうですけど」
「あのー、あの、あの……お……俺の推し、その、お兄さんでして……」
「推し」

 ど、動悸がしてきた。マジ?マジ?生きてる?あの白花の勇者が?生きてる?

「あ、あの、そ、そのぉ~……あ、会えたり、とか、します、かね……」
「はい、まあ。いますよ。家に」
「ワッッッッッッッッ」
「おもしれ」

 お、お、お、お、面白がるな~~!!
 ルドガー!!こっちは推しにリアルで会えるかもで大変なんだよ~~~オタクで悪かったな~~~~~!!!

「え、え、え、あの、その、と、遠く、遠くから見るだけでいいんでぇ……」
「いや変だろそれは。あんた救世主なんだから、ちゃんと会っとけって」
「いや無理ですけど!!?? 呼吸止まる!!」
「止まらすなよ」
「っていうか救世主呼びやめてくれません!? なにその大層な呼び名!?」
「名前をお伺いしても大丈夫ですか? 文化が違うかもと、こちらからは聞かずにいたのですが……」

 あっ。
 俺のせいじゃん。
 名乗ってもらった時に名乗り返さなかったからダメなんじゃん。

「す、すいませ……名取夕なとりゆう、です……」
「呼んでいい名前は?」
「ユウでいいです……」
「おー、ユウな。じゃあついでに年。オレとアーウィンは十七」
「お、同じ」
「じゃあ敬語なし遠慮なしで行こうぜ」
「は……、う、うん……」

 うわ~、ルドガーって、国が滅んでないとこんな感じなんだ。こんなんオタクに優しいヤンキーじゃん。

「ルドガーの距離の詰め方怖いよ。……嫌だったら言ってくださいね、殴って止めるんで」
「う、うん。大丈夫、その、アーウィンも、敬語とか、なしでいいから」
「う~ん……、うん。そうだね、じゃあそうしよっか」

 お、オタクに優しい学級委員じゃん……。アーウィン、ゲームではあんな……あんなやさぐれボーイなのに……。

「それじゃ、家に着く前に食べておいた方がいいよ。その様子だと兄上に会った時に保たなそう」
「ヒャッ」
「おもしれ~」
「オ、オ、オ、オタクをからかうな……ッ!!」

 こわい!突然の供給が怖すぎるんだけど!?ゲーム内の過去編しか供給のなかった推しが、突然原液で供給されまくる可能性だけでもビビってるのに!?

「いや~気持ちはわかるわかる。クロードさんだからな~。かっけーだろ、オレの師匠」
「人の兄でドヤんないでくれない?僕の兄上ですけど」

 うお~!!陽キャの仲良しおふざけだ~ッ!!
 気まずいッ!オタクは気まずいッ!挟むな、オタクを!挟むな、推しを!気になるだろ!

「おっやるか?」
「やるよ~。ここはひとつ」

 なになに、なにをやるの。何が始まんの。
 異世界陽キャのおふざけ、何が出てくんの。

「叩いて被ってジャンケンポンで」
「被るものねーだろ」

 あるんだ。異世界に。叩いて被ってジャンケンポン。




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