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告白
しおりを挟む今年の冬は心身ともにつらい季節になった。
まず受験を控えていることが前提にあるんだけど、勉強どころじゃなくなることが重なった。
11月のはじめに棗と彰孝叔父さんの関係に終止符を打つための話し合いがあった。もちろんふたりきりにさせるわけにはいかない。落ち着きのあるカフェに呼び出し、俺を含めての話し合いをした。
約束の時間から少し遅れて席に着いた彰孝叔父さん。親戚として会った時の印象と違って見えた。久しぶりに会ったからかもしれないけど……俺の棗を傷つけたクズ男にしか見えなかったなぁ。
ボイスレコーダーで録音することの許可を得て彰孝叔父さんから口を開いた。開口一番は謝罪、これから先冠婚葬祭での親戚同士の顔合わせ以外での接触はしないことを約束する、と。そんなことは当たり前なんだ。棗が切りたい、聞きたいのはそういうことじゃない。
「彰孝にいさんはどうして俺を抱いたの?俺の事好きだった?それとも……ただの性欲のはけ口だった?」
「棗……それは……わた……私は――」
本当は聞きたくなかったけど……答えは「愛してしまっていた」だった。
はじめは贔屓されていた優秀な兄に対しての嫌がらせ程度のつもりだったらしい。それもそれでどうなんだとは思ったけど、少しずつキレイになり、成長していく棗の姿と自分に対しての従順な態度に抑えていたはずの感情が溢れ一線を越え、さらに愛おしい存在として己の中で大きくなっていき、兄の葬儀で再会したことで自分のモノにできると感情が暴走してしまったと。
「今こんなことを言ってもただの言い訳で、保身に聞こえてしまうかもしれない。愛し方を間違えていたけれど……棗が大切な存在になっていたことは本当だ」
「もう……過去形なんだね」
「ここでまだすがるように思いを伝えたところで棗を苦しめるだけだろう?私に関係を断ち切る意志があるかどうかを確認するためにあえて好意があったかを聞いたのだろう?……ズルい子だよ……響くんが隣にいる理由も――」
彰孝叔父さんは察していた……というか飛んでた記憶が少し戻ってたのかもしれない。俺がただ単に棗から話を聞いて家族として同席しているだけじゃないってこと。
「そう……響にも直接ちゃんと聞いておいてほしかったから」
「……ああ」
「彰孝にいさん……さようなら」
棗が別れを告げてすぐに席を立ったから慌てて後を追い……置いていくのはほんの少しだけ申し訳ないとは思ったけど、これが棗と彰孝叔父さんとのケジメなら俺がとやかく言う事はしちゃいけない。
大人の男の人があんな風に泣き崩れる様を初めて見た。涙声で「さようなら」と「すまない」を繰り返してしばらく泣いていた。
「ひとこともしゃべらなかったな?」
「……言いたい事はそりゃあったけど言える雰囲気でもないし。で……これで終わり?」
会話を思い出しながらなぜか少しモヤっとして、ムスッとした表情になっていたらしい。棗はそんな俺をみて嬉しそうに笑っている。
「拗ねるといつも――あ、違うか?ヤキモチか?」
「は、はぁ?!なんであんな奴に!」
「はいはい……大丈夫。もう本当に終わり……帰ろ?」
これがヤキモチってやつなんだ。
あれこれと理由を言うことなく、お互いにしかわからないような含みを持っていたとおもう『ひとこと』で終わったことに……なんだかんだ距離が違っていたことに気付いてしまったからなんだろうな。でも……あんな晴れやかな顔をしてるなら俺がへんに引きずるのは良くないはずだし……この後の事もあるから切り替えないと。
家に帰ると母が夕食の準備をしていた。今日は鍋らしい。食材を切る音と鼻歌がリビングに響いている。「ただいま」と「おかえり」を済まし、棗と手伝いをしながら食後に時間をくれと母に聞き……良い返事をもらって安心したはずだったけど、あまり鍋の味はわからなかった。
「それでお話ってなぁに?」
片づけを終えてソファに腰かけ、お茶をすする母。
事前の話し合いで「ここは俺が!」と宣言していたものの……なかなか言葉が出てこなかった。しびれを切らして声をあげたのは……母だった。
「ふう……あなたたちふたりのことじゃないの?」
棗も俺もすごい顔してたと思う。驚いてふたりして母の顔を凝視して固まる。
「お母さんはふたりのことちゃーんとわかってます。もちろん宗一郎さんも。ひびきもなつめちゃんも……そんなに身構えないでいいのよ?」
なんでこんなに前向きに冷静に話ができるんだろう?それに義父もわかっていたってどういうことだ?戸惑っている俺たちに母は続けて言ってくれた。
「ずっとあなたたちを見てきたんだもの!母さんをなめないでちょーだい!……宗一郎なんかね?なつめちゃんの変化に鋭いからすぐわかってたみたい。一応夫婦で話したけどお互いに意見は一致――だから……困ったことがあったら相談しなさい?」
なんともあっさり拍子抜け……とはこのことなんだろうな。身内に話すことが一番の壁だと思っていた。ケンゴさんもそれを心配してくれていたから。でもなんだか応援してくれる雰囲気?
「父さんも?いつから?」
「それはなつめちゃんが一番わかってるでしょ?」
優しく笑う母。すこし照れくさそうな棗。この間言ってくれた一目惚れの話の時から知られていたらしい。
「でもなつめちゃん……ほんとにこいつでいいの?落ち着きない子だしすぐ拗ねるし――」
「ちょ!母さん!そんなことないだろ!……最近は!」
「あははっ!……そんなところも大切に想ってますから。」
「あらやだ!のろけられちゃった?もーーお風呂行くわね!あらららら!」
慌ててリビングを出ていく母……俺も恥ずかしくて逃げ出したくなったけど、隣に座る棗にぎゅっと手を握られた。
「響……俺からも話があるんだ。」
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