それ、どんなチケット?~売られたチケットは、50%オフでした~

ハル*

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…うへぇ ※加筆修正あり



「は? どうって」

スノウの問いかけに応えている余裕がない、というのが正直なとこ。

チャリンチャリンとけたたましく鳴り続けるコイン音が、耳鳴りとかのレベルじゃなく不快すぎる。

「なにか欲しいもんあれば、手にしてくるって言ったろ」

「手にしてくる、って」

とか会話してる間も、いつまでもチャリンチャリンと…。

「って、さっきから様子おかしいけどよ。何か起きてんのか?」

この状況を話して伝わるのか、話してもいい相手なのか。ほぼ一方的に契約を結ばされた相手ではあるが、だからってすぐに信用できるとはいえない。

(魔法も勝手に体を誘導した格好で使わされたもんだし。どこまで距離を詰めていいんだか)

口を開きかけて、キュッと噤む。

「なんもいらねーんなら、手にしてこねぇけど。…いーのか?」

チャリンチャリンとやかましい音にイラつきつつ、さっきから交わされている会話の中の違和感に気づく。

出かけてくるが、欲しいものはないか。まではいい。

俺が気にしていたのは、何かを持ち帰ってくれるのはいいが、物を手にする時は金なり物なりの対価ってもんが必須だろ?

(先立つものがないからってステータス画面をいじってたら、こんなことになってんだけどよ)

手にしてくる、と。

買ってくる、とは一言も言ってない。俺の記憶違いじゃなきゃ。

自力で状況をどうにも出来ないのなら、耐えるかなかったことにするかの二択だ。

現状で選ぶのなら、俺は前者を選ぶ。

(耐えるのだけは得意だったからな)

社畜だったあの場所を思い出し、諦めたようなため息をこぼす。

例の音はひとまず喧しいBGMの扱いにして、話を終わらせてしまおう。

「欲しい物がない訳じゃない。ただ、何もなしに手に入れられると思ってないから、頼むとは言えない」

俺にしてはハッキリと言ったつもりだ。

俺のその返しに、スノウは(多分)小首をかしげたように上半身を斜めにしてから返してきた。

「んなもん、俺の体ひとつでどうにかなるから気にするな」

とか、引っかかりのある言葉で。

「……聞き間違いじゃなきゃ、スノウの体ひとつでどうにかなるって言ったか?」

どういう意味だ。

「そのまんまだ。俺の体ひとつで、交渉が可能だってこと」

「え? まさか」

蛇だけに、身を切るとかじゃねえよな。

想像しただけで、ゾッとする。自分が欲しいもののために、他の誰かの体を切り売りするつもりなんかないぞ。

「あ。なんか悪い方に想像してんだろ? 顔に出やすいよな、ナギーって」

顔に出やすいと言われて、手のひらで顔をペタペタと触れる。なんだか気恥ずかしい。

「違うから、安心しろよ。俺の体ひとつっていっても、頬ずりされたり舐められたりする程度だから」

「……は?」

まさかのワードが出てきて、驚きを隠せない。そっちの方かよ。

「頬……舐め…?」

どういう取引なんだよ、それ。

「ただの変態魔女だから、相手」

「は?」

「俺を蛇のまんまで固定しやがってよ」

「…ん?」

よくわからないぞ、固定って。それと、さっきと話がすこし違うような。

どこぞの村だかで、今はもうおばあさんになった子どもに結ばれたって言ってなかったか?

どこまでが嘘で本当なんだ。

「そのリボンって」

と言いかけて、本当に答えが欲しいのかわからなくなる。

「いや、やっぱいい」

「なんなんだよ、もう」

どこまで踏み込んでいいのかわからないし、聞いて答えを知れて、それで? とも思う。

まだ出会ってからの時間が足りなすぎてか、距離感が掴めない。

「なーんか、さっきから…アレコレ考えてることでいっぱいいっぱいになってんじゃね? 大丈夫かよ、おい」

さっきの言葉通りなら、また顔に出ていたんだな。

「あー…。獣人ってわかるか? ナギー」

そのものは元の世界じゃいなかったが、異世界だとかのファンタジーな小説やマンガの中にはいたよな。

「知らないわけじゃない。が、正確な知識はないし会ったこともない」

アゴに手をあてて唸るようにそう言うと、スノウが頭を上下させる。うなずいているみたいな感じだ。

「じゃあ説明するけど、俺は見たまんまの蛇の獣人で。人型にも蛇の姿にも、それこそ自由自在に変化できたんだ」

できたんだ、と、過去形で話すスノウ。

「俺の尾についてるリボンあるだろ? それをつけたのが、変態魔女」

「装飾品として?」

リボンと聞き、イメージはそれだったんだけど。

「んなわけねーだろ。……可愛いからって理由ひとつで、俺に蛇の姿の時にこのリボンを寝てる間につけやがって。そっから人型になれなくなっちまったんだ」

じゃあ、この話の前に聞いた子どもの話は嘘だった? それとも、その子どもと魔女が関係ある? どうなんだ?

それはそれとして、今聞いたワードに「ん?」と思わずもらす。

「可愛い、から?」

目の前の白蛇をか? ってのと、それだけでそんなことを出来ちゃう魔女ってのを疑う。思わず言葉をそのまま復唱してしまった。

「そ。可愛いから、ってだけ」

ハハ…ッとオマケっぽく笑ったスノウだが、やはり納得はいっていないよう。

「そのことと、さっき言ってた欲しいものが手に入るってのがつながらないんだけど」

とりあえず疑問を感じたことを聞いてみれば「そのままだ」と彼は言う。

「俺の体を好きなようにいじらせて、俺は欲しいものを得る。対価を払う…に近いな。なんせ、この姿だと買い物も何も出来ない。俺の姿に怯えない相手ならいいけど、誰もが平気ってんでもないだろ? 会って話してみなきゃ、大丈夫かどうかもわかりやしない。困ったことがあったら、いつでも遊びに来てねって言っといて、そういう対価を俺に払わせる方に仕向けて、魔女自身は堂々と俺を愛でられるっつー関係だな」

謀られたというか、なんというか。

「魔女って、んな強いのかよ」

大した大きさじゃない蛇ではあるが、弱そうには感じられないんだよな。何となくの感覚的に。

「俺と変わんねえと思うけどよ、さすがに寝込みを襲われちゃあ」

「寝込み…」

確かにそうなんだが、なんだか不穏な言葉を使わないで欲しい。

「ま、結果だけでいえば、俺は欲しいものを得られている。無事に過ごせている。慣れれば楽だぜ」

納得はしてないけど、折れたって感じだな。

「……魔女に対して好意って?」

そういう関係に慣れてくると、好意を抱くってのがあるんじゃなかったか? 他人の色事にそこまで詳しくはないが。

「んー……。持ちつ持たれつって感じで言えば、嫌いじゃないな。好きにもなれないけどよ。…なんせ、俺の体をこんな風にしちまったんだから」

「って、言い方! 誤解を生むぞ」

「えー? めんどくせえな。……なら、好き…でいーんじゃね?」

俺の反応が、スノウにとっては心底めんどくさそうにそう呟いた。

「はぁ? なんだよ、それ。スノウの女の趣味、悪すぎないか?」

その返しに、んな返しをしたって…いいよな? 別に。

「俺なら好きになることはないな」

これも、なんとなく、だけど。

「じゃあ、どんな奴なら好きになんの」

俺の言葉に、今度はスノウの方がなにか引っかかったよう。即座に聞いていた。

「え? あー…どんな? どんな、ねえ」

いざ、改まって聞かれてみると、答えに困る。

「普通の人?」

「なんで疑問形」

「いや、だって」

「付き合ったことは」

「ないわけじゃない」

ないわけじゃないけど、デートらしいデートの記憶もかなり曖昧。

(って、もしかして俺って、ちゃんと恋愛らしい恋愛してこれたのか? 気づけば仕事ばっかしていた記憶しかないんですが?)

人としてどうよ? と自問自答しながら、うーん…と唸る俺。

「ま、どうでもいいけど」

正解っぽくない答えしか出せない俺を待ちきれずか、スノウが会話を切った。

「結局、欲しいもんあれば? って話が進んでねぇの。…わかってる? なんかいるの? いらねぇの?」

欲しいものと言われてから、アレがあればとか思っていたものを思い出そうとした。

けれど、信用に足る足らない別にして、誰かの犠牲の上に得るものがあるのは精神衛生上よくない。

「別にいいよ。そのうちどうにかなるだろ…多分」

素っ気なく言い返すと、やや間があった後に「………そ」とだけ返事をし。

「なら、ちょっと行ってくるから」

と言って、窓の方へと進んでいく。

「…………行かないのか?」

窓のところへ行ったわりに動かないスノウに声をかけると、ため息っぽいのが耳に入る。

「どうかしたの?」

ベッドの方からそう聞けば、チラ…っとこっちを見てまたため息。そしてドアの方へと近づき、開けてくれと無言で伝えてくる。

何をしたいんだ? と首をかしげつつ、ドアの方へ向かい開けてやる。

無駄に長い螺旋階段は、上から覗きこむもんじゃないなと半歩後ずさる。

スノウは俺の足元から同じように覗きこんでから、なぜかまた部屋の方へと戻っていく。

「…何したいの?」

なんて感じのやりとりをあと二回くらいしてから、塔の下に下ろしてくれと言われるんだけど。

「寂しくって泣くなよ?」

なんて。

言われても嬉しくもなんともない言葉をもらってまで、塔から出さなきゃよかった。

無駄に怒りの感情を出すのが、俺で言うところの対価みたいなもんか。

あっという間に小さくなっていくスノウの姿を見送りながら、「誰が泣くかよ」とひとりごちる。

「ホントのところ、塩でもいいから調味料は欲しかったけどな」

そうこぼしながら、もう一度、上へと戻るために怒りの感情をと思った時。口から出てきたのは、こんな言葉。

「……だぁれが、寂しいかよ! バァーカ!」

本音か、真逆か。今はまだ答えが見えない、そんな言葉だった。




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