それ、どんなチケット?~売られたチケットは、50%オフでした~

ハル*

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会話って…どうやるんだっけ



外っ面ってのは、大事。

それと、第一印象はミスるな。ファーストインプレッション、大事。

んなことを俺にクドクド教えてくれたのは、どの先輩だったっけな。

「…ほんとにいた」

相手は一人で、小さめの馬車でやってきていた。

絵本で見たことがある、幌とかいうのは無し。荷台を覆う屋根のようなアレのことだ。

塔の下にあった柵に、手綱を括りつけている背後から声をかけてみる。

「こんにちはー」

極力明るい声で、ハキハキと。顔は笑顔をキープ。

振り向いた顔は、初めて見る顔だ。うん。肩甲骨くらいまでの明るい茶髪で、後ろでゆるく縛っている。目の色は、キレイな蒼だな。青じゃなく。

「は」

疑問形でもなきゃ、驚きでもない声。たった一文字。

「どうも」

ちゃんとした言葉が欲しくて、もう一度だけ声をかけてみた。

「………え、…あ……ど、ぉも」

戸惑うように目がすこしだけ大きくなり、視線は左右に揺れる。

(でもこれだけで、この場所での言葉が理解可能だってわかった)

右手の人差し指を立てて、上を示す俺。

「この上で暮らすことになりました、ナギーと申します」

まるで引っ越しあいさつかよ! と言われそうなチョイスに、俺って会話のセンスないなと苦笑う。

「え? は? この塔、に? え?」

これはどう取ればいい? こんな場所に? なのか、それとも違うものか?

読み切れない感情に、ひとまず質問を投げかけた。

「もしかしてこの塔は、あなたが管理している場所でしょうか?」

この質問は、俺にしては上出来じゃないか?

「管理といいますか、その……一定の日数の間隔で確認に訪れているだけです。正式な管理者は、別な場所に」

「そう、ですか」

と返してから、管理者がいるのならば、俺がここに勝手に住んでいるのはマズいのかもしれない。

「ということは、先ほどこちらで暮らすようになりましたと伝えましたが、無許可で住むのはよくはないですよね」

伺うように呟けば、「そうかもしれませんが」と切り出してからチラッと俺を上から下へと二往復ほどみて。

「愚者の塔に住まう者が誰であろうとも、管理者は口を出せませんので。念のためで報告はさせていただきます。なにかあれば、国の方から使者が訪れるかもしれませんが」

そういや、んな名前だったな。

『愚者の塔』

その名を思い出しついでで、それについてスノウから聞いた情報も思い出す。

「…俺、罪を犯した魔法使いでも何でもないのに?」

「え」

即答で、反応があった。

「というか、俺以外に誰もいないのに、俺がここに来る前よりも前からこの場所に来てましたよね? 多分。誰もいなくてもここに来て、誰かが来たら報告。…この塔に住まう人間に監視が必要ということ? それとも」

それなりの家具はあった。けれど、直近で誰かがいた気配はなかったと思う。

高い高い塔。無駄に長い螺旋階段。上るのも下りるのも大変そうだし、めんどくさそう。

「ここに住む対象者は、なにか意味のある人間……で合ってます?」

「…え」

今度は、わずかな間があった。

近からず遠からず、かな。

一部分でもかすっていたのかもしれない。

「ちなみにいつもどのくらいこちらで過ごします? それと、いつもここを訪れてからなにかすることがありますか?」

こうなったら質問攻めだ。

「や」

や、ってなんだ。や、って。

「なにかするのなら、他人の手を借りても許される作業なら、是非ともお手伝いをさせてください。何が出来るかはわかりませんが、お力になれたらと」

「ちょ…っ」

「ああ、そうだ。その話の前に、この馬に採ってきた木の実をあげてもいいでしょうか? この木の実なんですけど」

ナッスィという、梨っぽい果物を差し出す。空間魔法のバッグから取り出して。念のためでその手のアイテムとバレないように。

(貴重品とかだったら、アレだし)

「あ、あぁ」

ん。すこしだけ気が緩んだか?

「ナイフが無いもので、芯や種が取り除けないのだけが申し訳ないですけれど」

そう言いつつ、三つばかりを手渡す。

「助かります」

なんて呟いて、踵を返し馬の方へ。

どこから取り出したのか、木で出来た桶っぽいものにその木の実を入れていく。

ポケットからナイフを取り出し、半分に割り、芯の部分を取り外していった。

「うわぁ。ナイフ! いいですね、ナイフ!」

「え? ナイフがどうかしましたか」

お。返事かあった。

「実は自分はナイフを持っていなくてですね、ものすごく不便な暮らしを強いられておりまして。魚も木の実も、そのままの形で食することばかりなんです。こんな時にナイフがあればと、何度思ったことか」

塔の暮らしは暮らしにくい、と、あえて伝える。

快適ですと言えば、逆に何かを疑われそうな気がしたんだ。

(そもそもで、実際のところ、快適ではない)

元の世界を比べたらというまでもなく、物が足りなすぎて出来ることの幅が狭すぎる。

魚の捌き方は知らないけれど、それでもズバッと切ってから川で洗えば、そのまま焼いて食べられそうじゃないか?

腸の部分を避けようとして、結果的に身が結構残るとかはもったいない。

「古いものでもよろしければ、差し上げましょうか」

目の前の誰かの言葉に、心の中でガッツポーズだ。やるな、俺! とも言ってやりたい。

元の世界でもまわりから褒め言葉なんかもらった試しがないから、自分が自分に言ってやるしかなかったもんなー。

『今日もがんばってる俺、エライ』

とかなんとか。

何度となくあったその瞬間を思い出し、顔を歪める。

「あの…?」

俺の様子が変だったのか、差し出されかけたはずのナイフが引っ込みかける。

「いやいやいや…待ってください。嬉しすぎて思わず言葉を失っていただけですよ」

胡散臭い笑みを浮かべているなと自覚しつつも、なんとかナイフを手に入れたくて引き止める。

「そう、なんですか? それならいいんですが」

俺の様子を見て、おずおずとナイフを横向けに差し出してくれる彼。

「ところでなんですが、お名前をうかがっても?」

そのついでといった感を醸し出しつつ、一つでも多くの情報とコミュニケーションのキッカケにもと名を訪ねてみたものの。

「申し訳ありません。名は名乗れないことになっているんです」

と、彼。

拒絶かなと、口角だけをわずかにあげて笑う俺。

「その代わりに、なにか呼び名をつけてくださってもいいですよ? 当方、月に二度、15日おきにこちらを訪問することになっていますので。今のところ他の担当者もおりませんので、自分と会う機会があるかと」

「…俺が、ですか?」

「ええ。諸事情がありまして、名前は簡単に名乗れないんです。といっても、この場所限定でのルールですが」

そんな条件があるのか、この場所は。

(スノウが名前を付けてくれって言ったことに、その条件は関係あったのかな)

なんて、出かけててこの場所にいない蛇のことを思い出す。

「それじゃ、また会う機会があったら声をかけてもいいのですか?」

緊張をのせて、彼に問いかける。

「…………問題ないかと思いますよ、多分」

「確定じゃないんですね」

残念ですという体でそう言うと、また「申し訳ありません」と返された。

これ以上はどうしようもないのだろう。

本当の管理人は別の人物で、それが彼の雇い主なのだろうから。

ふ…と、さっきのことを思い出す。

怒りの感情以外でも、塔から下りることが出来た。

「…あの」

「はい?」

「お名前、なんですが」

と言いかけてから、彼の瞳をたしかめる。

「アザーというのは、いかがでしょう。その…瞳が、澄んだ空のような青い色だったので、自分が昔いた場所で耳にしたことがあるのですが」

「アザー、ですか。自分の目の色で付けられた名前なのですね? …そう、ですか」

「ダメでしょうかね。一応、キレイな空のことなので、褒め言葉だと取っていただければ」

さっきの拒絶とも何とも形容しがたいやりとりを思い出すと、すこしだけためらいが表に出る。

と、目の前の彼がふわりと微笑みうなずいた。

「それではありがたく、その名をちょうだいいたしますね。…ナギーさまでよかったでしょうか」

「ああ、いえいえ、ナギーでかまいません。もしくは、せめてさん付けで」

「そうですか。では、ナギーさん…で」

(ここまでのやりとりで、さっきの気持ちのだいたいは払拭できたとして)

んんっ…と小さく咳払いをしてから、さっき頭に浮かんだことを口にした。

「塔の中というか、上に…興味はありませんか? 何もない場所ではあるんですが、よかったこの機会に…どうでしょう」

若干の胡散臭さがある、お誘い文句を。




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