それ、どんなチケット?~売られたチケットは、50%オフでした~

ハル*

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本当に何もありませんが


「今まで、塔の中に入ったことはありますか?」

そう問いかけると、「中というか…」といい、視線を彷徨わせる彼。

「それでは、上階には?」

と言いながら、人差し指を上へ向けて立て、わかりやすく示してみた。

「…いいえ」

わずかな間の後に、上がったことはないと答えをもらう。

「ならば、いつも確かめに来ているんですか?」

その聞き方だと、彼からの返事はない。

「…あぁ、そうか。存在る存在していないかの確認ですね」

半ば、確定事項のような物言いでいえば、ギリギリ聞こえる程度のため息ついでっぽい「えぇ」が漏れ出た。

ジッと彼と目を合わせてみれば、片方の口角だけを上げ、無理に笑って見せたような不格好な表情をする。

「そう、ですか」

と返してから、彼を真似て片方の口角だけ上げて不格好な表情をした。

こちらがしている事が理解できたのか、「まいったな…」と呟いてからフゥと息を吐く。

その呟きに聞かなかったふりをして、「それでは」と切り出す俺。

「何のおもてなしも出来ませんし、何もない面白みのない部屋でよければ、なかなかない機会ですし…入ってみませんか?」

と、また指を立てて、上を示した。

わずかな逡巡をみせてから、「では」とだけ言い、俺の方へと一歩近づいてくるアザー。

「本当に少しだけ…少しの時間だけ、お邪魔しても?」

距離にして、30センチあるかどうかまでったら、結構近いよな?

急に距離詰めてき過ぎで、一瞬、後ずさりそうになる。

彼に対して恐怖感があるわけじゃないはずなのに、人に対しての警戒心だけだろうか。

元の世界での弊害なのか?

動揺はしたものの、彼に上に行くのに自分の服でも何でもいいから触れててほしいとだけ伝え、ボソッと呟いた。

――そう。

怒りの感情を初対面の彼の前で出すのは悪策な気がしたのと、思いのほかメンタルにダメージが来ることもあって、さっきと同じ方法で上へと転移をすることにした。

静かに。…ほんの少しの寂しさを混ぜこんで。

「上に戻らせてくれ」

そんな、まるで願うような呟きを。

「…え」

彼の声がしたと同時に、塔のあの部屋に転移が完了される。

「は…」

ため息なのか違うのかわからないものを吐き、抓まれていた袖から彼の指先が離れる。

よろ…よろ…よろ……と一歩、また一歩と部屋の中を歩き出すアザー。

そのまま彼を放置して、自分はベッドに腰かけてその様子を見ていた。

1分したかどうかのあたりで、こちらを振り向き彼が目を見開いてこう言った。

「てっきり…あの階段で上がるのかと、足がガクガクする覚悟をしていたんですがね」

どうやら驚いていたよう。

「ああ、ビックリしたなー。もう」

転移してくるよりも前の彼より、若干だが口調がくだけた感じになっていることにホッとする。

固い口調のままだと、どうにも緊張感が自分にはキツすぎて。

「んなの無理でしょ。足どうこうの前に、体力がもちませんって」

彼の口調に合わせる格好で、こっちもすこしくだけた感じで返してみた。

ハハハッと笑いながら。

その俺を見て、彼も同じように笑いながら「たしかに」と返す。

そして彼へと、元々の仕事をと思い、伝える。

「特に変わったことも変わったものもないかと思いますが、なかなかない機会でしょうし。じっくり見ていってください。報告が必要なものがあれば、お好きに伝えてくださってかまいませんよ?」

「あ、そうでしたね。一瞬、忘れてました」

「忘れちゃダメなじゃないですか」

「いやぁ…驚きすぎて」

などといくつかの会話を交わしてから、手のひらを上へ向けて”どうぞ”と示してみれば軽く会釈をして部屋の中をうろつき出した。

「あ、そこのドアが例の螺旋階段です。落ちないようにだけ気をつけてくださいね」

念のためで注意事項を伝えることも忘れない俺。

上から覗きこんだら、吸い込まれそうだもんな。落ちたら死ぬだろう、どう考えても。

俺が誘っておいて目の前で彼が落ちていったら、ずっと夢に出てきそうじゃないか。

(そんなの、嫌だ)

ソロソロとドアを開け、チラッと螺旋階段を覗きこんでは、肩先をビクッと揺らしてからすぐに部屋の中に戻ってきた。

見ていて面白い。

「あ、そういえば」

とアザーが言いながら、俺が腰かけているベッドの方へと近づいてきて。

「申し訳ありません。すっかり忘れてました、これを」

彼が羽織っているマントっぽいものと腰の間あたりで、手をモゾモゾ動かしてすぐにナイフを出してみせる。

俺が持っているバッグタイプじゃない空間魔法とか、その類のアイテムだろうか。

どんな仕様になっているのか見てみたかったのに、上半身だけ身を乗り出してみたものの体の向きを変えられて見られなかった。

珍しいアイテムなのかもしれない。

とりあえず、いただくものはいただいておくことにしよう。また話が流れて、手に入れられなくなったら困るからな。

「それでは、遠慮なく」

彼が手渡してきたものは、ナイフとケースみたいなのとベルトがくっついているものだ。

なんだっけ、ホルスター? ナイフケース?

裸持ちしたくなかったから、めちゃくちゃ助かる。

「こんなケースまで! ……ありがとうございます。これで食生活がだいぶ良くなります」

心からの感謝を込めてそう伝えると、クシャッと表情を崩して笑む彼。

「どれだけ欲していたんですか。ただのナイフを差し上げて、申し訳ない気持ちでいっぱいですよ」

「いやー。だって、ねえ? たかだかナイフ一本がないだけで、こんなに苦労すると思ってなかったんで」

実際、本当に欲しかった。

自分で加工する術があるのかもしれなくとも、現状…使い方がわからない上に使いこなすまでしばらくかかりそうな気がするからな。

「試しに、さっきの木の実を切ってみてもいいですか」

「どうぞ、どうぞ」

彼の目の前でナッスィを出して、まずは半分に割り、更にもう半分に割る。

芯の部分を取り除き、皮を剥いていく。

この程度のナイフさばきなら問題ない俺は、気分がよくなって鼻歌まじりに梨っぽいそれを剥いていた。

「こんなに切れ味いいナイフ、本当にいただいても?」

と言いながら、最初に皮が剥けたそれを彼へと差し出す。

わずかに目を大きくしたかと思うと、スッと手を差し出して指で抓んで梨っぽいのを受け取った。

俺も自分の分を剥いて、あーんと大きく口を開ける。

シャクッといい音が口内に響く。ものすごくジューシーだ。果汁で口の中がいっぱいになる。

「んまいでふね」

咀嚼しつつ、残りの半分も彼の分と自分の分を剥いて、また差し出す。

今度はなにもリアクションなしに受け取った彼が「そうですね。馬に食わすのがもったいないくらい」と笑った。

その笑顔は今までのものとは違い、本当に素で笑った感じがしてホッとする。

「なにか珍しいものでもありました?」

食べ終わり、ナイフを川で汲んでいた水をかけて洗浄する。

ベッドの足元が水で濡れたが、気にしない。

(彼がここを出てから、他の生活魔法とか試せないかやってみればいい)

スノウが出かけて以降、いろいろやる気が失せていたが、すこしだけ気分が変わったよう。

(人間って単純だな)

自分の単純さに呆れながら、彼の返事を待ってみたが。

「んー…」

と、小さく唸るだけ。

(何もないならないとわかってもらえれば、それはそれでいいのかもしれないしな)

彼の本来の仕事の理由や意味を知ることが叶わないから、これ以上踏み込めない。

鑑定を人にかけられるのかもしれないなと思いもしたが、相手の知らぬところで情報を勝手に手に入れるのは失礼だ。

それになにより、相手を信用していないとも言える行動じゃないか?

信用も信頼もなにもしようがない程度の、わずかな時間の付き合いしかない二人なだけに、この状況は仕方がないんだとしても。

(それでもやはり勝手に相手のことをるのはよくないよな)

知りたい気持ちは強いのに、彼がまた来た時に罪悪感なく彼の名を呼べるように。

余計なことはしないでおこうと決め、彼が馬が心配なので戻ると口にするまで口角を上げたまま、彼の言葉を待っていた。

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