それ、どんなチケット?~売られたチケットは、50%オフでした~

ハル*

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んなこと言われても


「もうすこし長居をしたいところではありますが、下で待っている馬が心配ですので」

「あ、あぁ。…じゃあ、そろそろ戻ろうか」

アザーのその言葉に、久々に人と話したせいか名残惜しさを感じながらベッドから下りる。

「収穫らしい収穫はなかったでしょ」

窓の方へ進み、真下を眺める。この高さからじゃ、スノウが戻ってきていてもわからなさそうだなと思いながら。

「愚者の塔に新しい住人がいるということだけでも、十分な情報になるので大丈夫ですよ」

俺の後をついてきて、気づけば同じように窓の下を覗きこんでいるアザーがそう話すのを聞いて、俺は無言でうなずく。

「それじゃ、戻ろうか」

「はい。よろしくお願いします」

言ったと同時に、彼が俺の袖を遠慮がちに摘まんだのを確かめてからすぐさま。

「下ろしてくれ…下に行きたいんだ」

と呟いた。

「…ほ、ぉ」

初回よりはいくらかマシだけど、やっぱり驚くんだな。

「転移の魔法は、もしかして珍しい部類に入るとかいう?」

馬の方へ向かうアザーの横に並び、試しに聞いてみる。

「転移が、というよりも、発動方法が、ですね」

無言を貫かれるかと予想してたのに反し、即答。思わず目を見開く。気づかれる前に、スッと彼がいない方へと顔をそむけた。

「そ、なんだ」

「ええ」

これも即答。逆に違和感。

(なんかヤな感じだ)

「……これまでここの住人とこんな風に話したりは」

違和感があるから、それをどうにかしたくて質問を重ねてしまう。

「顔を”見た”ことはありますが、”合わせた”ことは無いに近いですね。こちらを警戒していた方がほとんどなので」

物言いにも、変な空気を感じる。

違う質問を…と口を開きかけて、そむけていた顔を彼の方へと向けてみて、そのまま口が動かなくなった。

「……っっ」

彼の目が、この短い時間の間で一度も見たことがない色を帯びている。

色というかなんというか、光があるようでないというか。

(俺を見ているようで見ていないようにも…)

固まっている俺へ笑顔を見せつけてから、馬に声をかけながら近づいていった。

結局のところ、最後の最後まで彼がどうしてこの場所を定期的に訪れているのか。その理由も。何一つ聞き出せていない。

それを聞いたからと、今の自分に何か影響があるのかどうかもわからないというのが本音ではあるけれど。

(塔の上へと誘っただけで、特に距離が縮まったわけでもなかったな)

独りきりで黙々と作業する日々に慣れすぎて、誰かと会話をする感覚を忘れてしまっていたのかもなと、彼にバレない程度にため息をこぼす。

彼が柵に結んでいた手綱を外してこちらを振り返り、手綱を引いて近づいてくるまでボーッと見ていた。

「…あのっ」

やっと出せた声は、それだけ。

そのタイミングで、逆に彼から「あ!」と驚くような声が。

「え?」

「あ、あ…の」

こちらへ向かっていたはずの彼と馬の足が止まる。その代わり動くのは、彼の左腕。

スッとまっすぐに俺の指差す形で、俺の足元へと向けられていた。

「ん?」

「あ、し」

「足」

「足元、の」

「足元」

復唱とばかりに言葉を繰り返し、彼が指差す先へと視線を向けた。

「……スノウ?」

尾に結ばれたリボンもそのままに、久しぶりに見る彼がいた。

「浮気か、おい」

「は?」

浮気ってなんだ、浮気って。

「浮気なんか」

「いや、してるだろ。ちょっと留守にしてたら、他の獣人連れ込みやがって」

「連れ込み、って」

と言ってから、「ん?」となる。

「他の獣人?」

何の話? って思った。

「あの馬、人型になるのか?」

誰の話だとスノウへと手を差し出す。乗れよと言わんばかりに。

「お前って、ホント世間知らずなー?」

差し出した手に乗るというより、腕に絡みつく格好で俺の元へと戻ってきたスノウ。

「言ってる意味がわからんが、とりあえずおかえり。スノウ」

「あー、ただいま。ナギー。って、そんなので、話をごまかすなよ」

「え。ごまかすって、失礼な。俺は浮気もしてなきゃ、獣人どうこうもよくわからんって」

アザーとの会話とは違う和らいだ空気に、心底ほっとしている俺がいる。

「んだよ、じゃあたまたまか?」

と、そこまで言ってからスノウの頭がゆるっと動き、アザーがいる方へと向く。

「なあ、お前。コイツになんかしてねぇよな」

コイツってのは、俺のことか。何かって言われてるけど、逆にナイフもらったくらいだ。

「あ、いえ。わたくしは何も」

「…ワタクシ?」

自分とアザーの会話を思い出すが、彼が自分をそんな風に呼んだことなどなかったはずで。

「…ふぅん」

大きさだけでいえば明らかにアザーとその馬の方がデカいので、何かやられるイメージはスノウの方なんだけど。

それとも俺が知らないだけで、蛇って馬にも勝てるのか? 毒とかなんかで。

首をかしげてアレコレ勝手に想像している俺だが、ちょっと様子がおかしいことに今更気づく。

「アザー……なんかすごく緊張してる?」

頭の中で言ってたはずのそれが、ポロッと口を吐く。

「え」

「あ?」

「ん?」

それっぽっちの言葉に、アザーはオロオロし、スノウはなんでかイラついてるし、俺はどうかした? って感じで。

「き、緊張などし、してません! 大丈夫です。はい!」

今までにないほどの大きな声を出し、アザーは馬に騎乗する。

「なんか引き留めたみたいになっちゃって、悪かったな。アザー」

俺がそう言いながら、アザーの方へと近づこうとすると「ぐ、ングッ!」と変な声をあげてアザーが目を見開く。

「…アザー?」

俺がさらに近づけば、騎乗した状態でよろよろと後ずさる。馬って、後ろに下がれるんだな。

「い、いえ。お、おぉ…おかま、いなく?」

そして何故か疑問形な言葉を吐き、馬の向きをすこしだけズラす彼。

「…アザー?」

なんだ、なんなんだ?

「そ、そそそそ、それでは失礼、いたします」

盛大にドモりながら、アザーは俺の横を小さな馬車ごと走り去っていった。

俺以外に出入り可能なこの場所で、なかなか会えない貴重な人だったのに。

「次はまた半月後くらいだったっけ」

彼との会話を思い出して、そうこぼす俺。

「あの羊の獣人、なんなんだよ。何しに来てたんだ?」

アザーがいなくなった後、また定位置のように俺の肩の上まで上がってとぐろを巻くスノウがそう言う。

「ひつじ」

「ん? マジで気づけてなかったのかよ。アイツ、羊の獣人だぞ?」

「羊っぽさ見えなかったろ? なんていうか、こう…この辺にクルッとさ」

そう話しながら、元の世界の羊のイメージを伝える。頭の左右に、円を描いて付いている角のイメージを。

「身に着けてたもんかなんかで隠してたんだろ? 多分。…なんだよ、本気で気づいてなかっただけか」

「なにが」

「相手が獣人なのもだし、なんかお前と仲いいのか? って思ったし」

そう言われて思い出すけど、スノウが戻ってくる直前の空気には仲がよさそうなものは何も含まれていなかった気がする。

彼にとっては、この塔の住人の中で会話をした珍しい存在みたいなもんだろ? 俺って。

塔の中に招きはしたが、特になにかイベントを起こしたわけでもなかったし。

「彼からナイフもらった、そういえば」

「は? なんで」

スノウがそういうが早いか、俺の頬を尾で叩くのが早いか。それくらいの差で、俺の左頬はパシンと叩かれた。

「痛っってぇ!」

何で叩かれた! 俺。

「俺だってナイフ手に入れてきたってのに!」

何でと思ったそれに、すぐさま答えが。

「ナイフ?」

「そうだよ。欲しそうにしてたろ? あればいいのにって。それ以外にもアレコレ手に入れてきたけどよ」

スノウがああでもないこうでもないと、出かけている間の話をするのを黙って聞いているが。

(そのナイフだなんだってアレコレは、どこにある?)

俺のように空間収納がある様子もなく、ただ白い蛇がそこにいるだけにしか見えない。

「ま、詳しい話は上に行ってから。さっさと上がろうぜ、上に」

自分の頭上に無数のハテナがある気がするけど、肩の上で上下に跳ねている蛇をどうにかしなきゃな。

「わかったよ。それじゃ…上へ戻らせてくれ」

ボソッとそう呟いた俺は、アザーを連れて上がった時とは自分が抱く感情がすこし違う気がした。

独りきり、下りる時に呟いた時とも。

一瞬でいつもの部屋に転移した瞬間、俺の口角が上がる。

(そっか。戻ってこないかもしれないと思っていたスノウが戻ってきて、俺…嬉しい?)

嬉しくて、すこしだけ楽しい。そんな時間が戻ってきた気がして、十日ばかりの寂しさがどこかに散っていく感覚があった。





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