それ、どんなチケット?~売られたチケットは、50%オフでした~

ハル*

文字の大きさ
20 / 30

やっぱ、そういうことか


スノウから受け取ったナイフを鑑定して、んなこと出来たっけと言われ、説明をし。

ふと、思い出す。

あの彼を前にしてしなかったこと。出来なかったことを。

使うなよと言われていた、彼から受け取ったナイフの鑑定をまだしていなかったことを。

俺に対して本当の名は明かせないような話をしていた。

その理由がこの世界においてなのか、彼本人の気持ちの問題なのか。それも聞くことが叶わなかった程度の関係性だ。

その彼がナイフを使っていたのを羨んだらもらえた、偶然の産物にも近いナイフ。

(悪意はなかったと思いたいけど)

何らかの理由があって、どこかに彼の雇用主がいて。命令に従い、半月に二度ほど、この場所を訪れていた様子の彼。

彼について知っていることはほぼ無いと思った方がいい。

名前だって、結局は俺が付けただけ。

信用も信頼も、あの短い時間で何も構築できなかった気がする。

(…今思えばだけどな)

あの短い時間で俺が知ったことといえば、彼のことというよりもこの世界でのことかもしれない。

それでもまだまだ足りていない。何も知らないに等しいのだろう。

スノウが留守の間に俺が知ったことといえば、睡眠学習のようなそれで魔法の使い方を半強制的に取り入れさせられた感じのこと。

学んだ感が少なすぎるそれに、満足感は無いに等しいだろうな。

ふぅ…と短く息を吐き、ナイフを手に取る。

「おい! そのナイフは使うなよって言ったよな!」

俺がナイフを手にしたことで、スノウが反応をする。

鑑定をする前から、嫌な予感がしてるのに。それでもスノウの反応や言葉だけを鵜呑みにして、勝手に想像だけで決めつけるのがなんとなく嫌だなと思っただけなんだと思う。

スノウが止めるのも聞かず、俺はあのナイフを鑑定する。

手に持つナイフの横に、予想よりも大きな画面が出てきて驚く。

「…………へぇ」

説明文というには長すぎなその文章を流し読み、出てきた感想がたったそれだけ。

それだけの感想を吐いた自分に気づき、思っていたよりもガッカリしたんだなと気づかされ。

と同時に、何かを彼に期待していたんだろうなとも気づかされ。

(だからこそ余計にガッカリしたんだろうな、俺。元の世界でもミーティング以外で誰かと会話する機会も失くしてたところがあったからな)

「どんだけ飢えてたんだよ……俺」

と、まあ、そういうことだよな。

ナイフの説明文は、こんな内容だった。

『愚者の塔に現れし人物のみに有効。他者が持っても使っても、普通のナイフと等しい。手渡した相手が近くにいる際には、隠ぺい魔法が適用される。持ち手から、使うたびに体内に浸透していく毒もしくは毒が効かない相手だとナイフが認識すれば、同様の魔法が沁みこむ仕様になっている。解毒は不可能。使用して何らかの食材などを口にすれば、その食材経由で同様の効果が得られる仕組みとなっている。愚者の塔の人物以外には、その毒は効果なし。同じ食事をしても、問題が起きない。その効果は、愚者の塔の人物が亡くなるまで効果が継続。亡くなり次第、ナイフは消滅。英知の塔が製作』

「…は、はっ」

乾いた笑いしか出てこないや。

ポイッと床に放るようにして、そのナイフを棄てる。

ベッドにゴロンと寝転がり、壁の方へと横向きになってスノウに背を向けた。

「……ナギー?」

わずかにベッドが揺れ、背中の方からスノウが俺を呼ぶ声がした。

「……」

でも今は、無理。

返事なんかできない。

散々仕事ばっかしてきて、人の尻拭いばっかして生きて。

最終的にはクソ神の尻拭いみたいなこともして、そうして何も気づかなきゃ知らないうちに毒に侵されて死んでたんだろ? 俺は

「なんなんだよ…」

俺の命は、そんなに軽く扱われるような存在なのか。

あの世界でも、この世界でも。

ギュッと目を閉じる。

、慣れたもんだったろ?)

――――いたら、便利。いなくても、困らない程度。

(そう飲み会で言ってたのは、誰だったっけ)

珍しく参加した飲み会で、ちょっとトイレにと席を外して戻りかけた時。俺がいないからと、酔っているからか声のデカさが調整出来ていない誰かが俺のことをバカにするような話をしていた。

数人の声がしてたのは、なんとなくわかってた。

誰か一人だけが酔って盛り上がってたってんでもなかったと思う。

あんなに必死に仕事をして、今日はいつもよりも早く帰れると思った就業間近に積み上げられたファイルにも笑顔で応えて。

そんな日々を積み重ねて得られた評価が、それっぽっち。

仕事が回せられれば、会社は納得するだけ。それが当然といわんばかりに。

けれど、そこまでに至る経過は?

俺に仕事を回していた上司が、本当はどうしていたかなんて知ってた。

自分のためだけに時間を使っていたって。俺の時間を喰っていたって。楽して、会社からの評価を自分の物にしていたって。

なにもかも、俺の犠牲の上で毎日が回っていたって。

「ナギー…」

肩甲骨あたりに、わずかにスノウらしき温もりを感じる。グイグイと押しているのは、頭だろうか。

「…なに」

思いのほか低い声で返したそれに、一番驚いたのは俺自身。こんな低い声が出るんだなって。

「だ、大丈夫、か?」

「…なにが」

何に対してだ? 気持ち? 体? 

(ああ、そうか。ナイフの毒のことを知っていたから、使うなって言ったんだよな? スノウは。なら、体の方か、心配してんのは)

すこしずつ体に浸透するって仕組みになってて、使ったのは梨っぽいのを剥いた時だけ。

持ち手からと、食材から…だっけ。

それを使わなくなれば、いつか抜けるのか。体に残り続けるのか。解毒は不可能とか書いてあったな。

蓄積して、致死量になったら死ぬってことで合ってるんだよな。

(なら、現時点では体への影響は少ないと見積もってよさそうだ)

「すぐに死ぬってことはなさそうだろ? なら、大丈夫なんじゃねえの?」

自分で他人事みたいに言うなと内心思いながら、スノウへと返事をする俺。

「じゃねえの…って、お前さ…」

俺の返事に納得がいっていないのか、スノウが俺の肩に乗ってくる。

そうしてグイグイと背中の方へと押してくるもんだから、仰向けにならざるを得なくなった。

「……なんなんだよ、スノウ」

仰向けになったまま、視線だけ左へと流して横目でスノウを見る。

「ナギー…お前」

スノウは、白い蛇で。尾にはリボンが付けられてて。小さな目をまともに見たのは初めてかもしれないが、金とも黄色とも、陽があたると違う色にも見える不思議な色合いで。

本当に小さな目なのに、表情がわかるとも思えないのに。

「泣いてんのか?」

俺を心底心配してくれてるように見え、すこしだけ険しく歪んだ目で俺以上に辛そうに見えた。


感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日発売! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)

異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます! って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。 ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。 転移初日からゴブリンの群れが襲来する。 和也はどうやって生き残るのだろうか。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

Sランク宮廷魔術師、理不尽な理由でクビになったので田舎でスローライフ(農家)始めました

仁科異邦
ファンタジー
ざっくり言うと: 追放されても全然落ち込まない最強おじさんが、田舎で好き勝手やってたら村の柱になっていく話。 細かく言うと: 王立魔術師団の筆頭として十年間働いてきたSランク魔術師・ガイウス・ノア(32歳)は、次期国王を占う神託の儀式を執り行ったところ、まさかの自分の名前が出てしまう。 逆賊扱いで王都を追放されるが、本人はむしろホッとしていた。十年間、雑務と徹夜続きで好きなことを何もできなかったからだ。 財布の金貨を握りしめ、地図でいちばん何もなさそうな村——辺境の果てのエーデル村——を選んで移住を決意。幽霊が出ると噂の空き家を格安で借り、畑を耕し、ポーションを作り、夜は酒場でエールを一杯飲む。 夢のスローライフがついに始まった。 村人たちに正体を怪しまれつつも、 「俺はただの農家です」と言い張る日々が続く——。

神様の手違いで異世界転生した俺の魅了チートが、勇者のハーレムを根こそぎ奪って溺愛ハーレム作りました!

まさき
恋愛
ブラック企業で働き続けた俺、佐藤誠が過労で倒れ、気づけば異界の地。 「手違いで死なせちゃってごめん!」という神様から、お詫びに貰ったのは規格外の【魅了】スキル——。 だが、元社畜の俺にはその自覚が微塵もない! ​ただ誠実に、普通に生きようとしているだけなのに、エルフの賢者、獣人の少女、最強の聖女、さらには魔王の娘までもが、俺の「社畜仕込みの優しさ」に絆されて居座り始める。 ​一方で、10年かけて仲間を集めたはずの「勇者・勝利」は、自身の傲慢さゆえに、誠へとなびく仲間たちを一人、また一人と失っていく。 「俺は勇者だぞ! なぜ手違い転生者に負けるんだあああ!?」 ​人界から天界、そして宇宙の創造へ——。 無自覚な誠実さで世界を塗り替えてしまう、元社畜の究極溺愛ハーレムファンタジー、ここに開幕!

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!