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対峙
散々ためらった後、引っ越し同様に部屋の中のアレもコレもを空間魔法に収め。
万が一でアザーが予定を早めた場合を想定し、前回の彼が来たあたりの時間帯を避ける。
時間帯と言ったところで、時計があるわけでもない。だから、完全に勘!
塔を下りるのも慣れたもんで、なんらかの感情を込めておけば発動は容易く。
「さーて、行ってみるとしますか」
誰かに話すってんでもないのに、そんなことを呟いてから前日にスノウを見送った場所まで歩いていく。
どんだけ寂しいんだよ、俺。
その地点に近づくにつれ、緊張感が増していく。
出来るのかどうかもだし、塔と森以外の場所に出たことがないだけにそうならざるを得ないだろう。
出たところで、この世界の常識も知識もない俺。何かしらやらかしそうな予感がないわけじゃない。むしろある。
それでも、ここを出てみようと決めたのは自分。
後ろ盾らしいものがないから、なにかあっても自己責任。
「こういう場所での責任の取り方って、やっぱ死刑とかなのかな」
不安を煽るだけだってわかってても、想像せずにはいられず。
「ま、なるようにしかならないか」
最終的には、そう自分に言い聞かせるほかないのも現実だ。
「…ハッキリとした形で壁らしきものを感じられないけれど、多分ここだな」
肌で感じる違和感というかなんというか。
「拒まれている感覚っていうんだろうか」
服を着ているのに、その上からでもピリピリチクチクした不快感が肌に触れてくる。
「触れたら何かわかるかな」
見えない何かに触れるのも、ちょっと怖い。
「…あ。鑑定!」
そうだ、そうじゃん! 何がどうなるかわかんないんだから、怖いんじゃん。
どこに向けてかければいいか謎だけど、ちょっとずつ近づきながら鑑定してみたら数打ちゃ当たる?
一歩進んでは、鑑定。一歩進んでは鑑定。それを違和感を覚えるあたりから、延々繰り返していく。
意外と気が長いなと自分に呆れかけた頃合いで、鑑定の結果が目の前に表示される。
「お」
スノウが言っていたように、俺というかあの愚者の塔という場所の住人限定の結界っぽいものがあるようだ。
それを管理しているのは、例の場所。アザーさんが所属してるんだろう、英知の塔。
「んなに、愚者の塔にやってくる人間を目の敵にしてんの? それか、逆に怖がってるか。…ま、前者の方が正解なんだろうけどなー」
どうやらこの結界らしきものは、何百年も前に設定されたもので、その時その時の英知の塔の三幹部とかいうのが維持するために力を使っているとか書かれている。
「英知の塔の三幹部、か」
どういう人たちが集まっているのか想像出来ないけど、魔法か何かに特化していなきゃこの手のことは難しい気がする。
「すっげーじいさんばっかだったりして」
幹部と聞いて、頭に浮かんだのはその程度。
これに使われているのは、一つの属性じゃないよう。
メインは光属性と聖属性。地面に近い部分には、闇属性で。
「解除しようとしたら闇に引きずり込まれる仕様、か。トラップみたいなもんかな」
メインは光と聖とあるが、それだけだと簡単に破ることが出来る可能性があるとかで、いろんな部分に他の属性の魔法も混ぜ込んであると書かれている。
「普通の鑑定って、こんな細かい説明とかどうすればいい…みたいなのまであるもんなの?」
勝手な俺のイメージでは、その物にたいしての表面的な説明しかない程度だったんだよな。
俺がそう思ってしまうのも、無理ないと思う。
「解除のために何をどうすればいいとか、なんで書いてあるんだよ」
俺に優しい仕様と思えばいいのか、それか鑑定をし続けているうちにレベルが上がったと思えばいいのか。
俺個人のレベルは上がりようがなくても、魔法や道具自体にその手の裏設定みたいなもんがあるのかも?
ゲームとかだとベータ版だとか、他のものでも試作品をプロトタイプっていったりだとか。
それっくらい、なにか、質とか? やれることが増えるとか?
「うーん…」
などと今、この場で考えてもどうしようもないことを考えるくらい、現実逃避でもしたいのか? 俺。
(本当はまだ、塔から出たくなかったのかな。俺)
塔にある程度いれば、アザーに会わないわけがないって思ってたしな。
塔の中にいて、アザーが自力で上がってこなきゃ顔を合わせずには済むとしても。
きっとどこかで落ち着けずに、そわそわしながら過ごしてたんだろう。
俺が塔から出て彼に会わずにいたとしても、一度は顔を合わせてしまったんだから、生存確認は業務内容に含まれているはず。
自力で上がってこずとも、魔法かスキルか他の方法やアイテムでそれを知ることが可能かもしれない。
俺にはない知恵や知識でそれを可能に出来てしまうかもしれないのが、この世界なんだろ?
目の前に俺という、愚者の塔の住人がここを通り抜ける方法が明記されている。
試す?
試さない?
やれる?
やれない?
今日までに繰り返した自問自答を、今日もまた繰り返す。
目には見えないそこに触れ、ため息を吐く。
「……ここまで来といて、やらないって選択肢はねぇだろ」
通り抜け方は2つ。結界らしきそれ自体をぶっ壊すか、結界らしきそれを損なわずに”抜ける”だけか。
スノウの尾に施されたあの呪いのようなリボン。あれを解呪して、その結果が変態魔女に伝わるのかは、まだ不明。
「でもさすがにこの規模の結界だとかなら、破られましたっていうのがどこぞの塔相手に伝わらない仕組みなわけないよな」
ここまでして外界と距離を置かせようとしている対象者が俺。
出られちゃかなわん。
コッソリ出た方がいいに決まってる。答えは一択。
「のはず、なんだけどな」
正直、面白くないとも思っている。
クソ神のせいでこの場所に飛ばされて、暮らしにくい中で過ごし。元の世界とは違うから過ごしにくいのは当然としても、この場所に閉じ込められた格好になっているのは面白くない。
自力で何も手に入れられない。情報も得られない。誰とも話せない。いろんな意味で、いろんな刺激がない。
手の中にあるものでやりくりをするほかないと思えば、やれなくはない。諦めもつく。
けれど、努力というか工夫というか、やりようがあるのならやりたいと思うのが人間で。
俺自身は誰かを傷つける気は、サラサラない。全くないんだ、マジで。
いたって普通に過ごしていけられればいい。俺がこの世界で生きているだけで、クソ神がよこした半額チケットについての支払いだって、実質可能なわけだからさ。
後者の方法については、俺の魔力を隠す方向で魔法とスキルを使って、一時しのぎのようにそこを素通りするやり方。
前者はというと、かなり力技と表現してよさそう。
「つーか、このやり方って……俺じゃなきゃ無理じゃね?」
結界らしきそれが破れるまで、いろんな属性の魔力を一気に混ぜ込む。結界の方が受け取れる魔力の量を上回るまで。
「どれくらいの勢いで、どれくらいの時間やったらいいのかなぁ」
∞というのが出ていても、回復も早いんだとしても。
「俺に限界ってもんが存在してたら、ここで倒れて、アザーかスノウに見つけられるって事態になるのか?」
それはいいのか、悪いのか。
「ダメに決まってるけど、試さずに終わるのも嫌だな」
何度目か思い出しきれないほどの自問自答をし、またため息を吐き。
「――――やるかぁー」
キュッと口を引き結ぶと、あてていた手の指先にまでも力を込める。
ふぅ…と短く息を吐き出し、頭の中に浮かべたのは一つの感情。
(こんな場所にいつまでもいつまでも…いつまでも、閉じ込めていられっかよ!)
喜怒哀楽でいえば、怒りにも似た感情だ。
人生のやり直しって割に、縛りの多い場所に飛ばしやがって、と。
元の世界で、独りで戦って。この場所に来ても、別な意味で独りにさせられて。
「どうせなら、もっと楽しくやり直したいに決まってんだろうが!」
体がグンと熱を持ち、それが血が巡っていくかのように肩から腕、腕から指先へと流れていく。
触れている手のまわりは、例えるならオーロラのような色合いだ。
同じ色に留まらず、いろんな色へと変わっていきながら魔力を飲みこんでいくのが感じられる。
ものすごい勢いではあるけれど、体にダルさも辛さも感じられない。
怒りの感情を乗せた効果か、単純に流している勢いが激しいのか。
調節しにくいと感じるままに流し込む魔力に、目の前で見えなかったはずの結界らしきそれに綻びが生じだす。
ピキ…とか、パリ…とか。ガラスなどが何らかの負荷に耐えきれずに割れる時に鳴る音に近い。
透明な場所に、白い割れた線や歪みっぽいものが点在しだす。
(このまま圧していけば)
ジワッと汗がこめかみに滲みだした頃、音が変わった。
バキッ…という音とともに、目の前でガラスが割れて欠けていくようになっていく。
欠けて抜け落ちた場所の向こうの景色が、今見ている色合いよりも濃く見える。
「もうすこし…」
無意識で力を指先に込めた瞬間。
「あ…」
バリン! と大きな音をたてて、目の前にあった景色のすべてが色を変えて現れた。
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