「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート

ハル*

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聖女は、誰が為に在る? 8 ※

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※胸くそな表現があります。イジメに関するものなので、無理な方はスルー推奨です。

*****


あの日はものすごく暑い日で、あまり話したことがなかったクラスメイトに誘われてお祭りに行ったんだ。

夕方、夕食の少し前の時間。

仕事でいつも帰りが遅いお母さんにメールすると、屋台ですませてきてもいいわよって返してくれた。

出かける前に、お兄ちゃんとお友達がちょうど帰ってきて。

「ひな。どっか行くのか?」

玄関先でそれだけ聞かれて、嬉しい気持ちのままにこう答えたっけ。

「友達とお祭りに行くの!」

肩甲骨までの長めの髪を、学校には着けていけないカラフルなシュシュで高めの位置に結んで。

「かっわいくできたじゃん。楽しんでおいでね、ひな」

柊也兄ちゃんも笑顔で送り出してくれて、いつもより大きく手を振って家を出た。

神社に向かう途中、いろんな場所でガラスに映り込む自分を見てはおかしなところがないかを確かめて。

――――浮かれていたんだ、本当に。バカだなって思うほどに。子どもみたいだって呆れるくらいに。

待ち合わせ場所に、時間より30分も早く着いてしまった。

落ち着かなくて、ミニショルダーバッグの肩掛けの紐を何度も握ってしまう。

早く時間になれ、早くみんなとお祭りを楽しみたい。

勝手に気分が高揚してしまう。

中学校に入学してから、上手く人付き合いが出来なかった。みんなと同じように過ごしたくても、それはあたしには難しくて。

あたしのペースに合わせてくれる人はいなくて、いつだって早く早くと急かされて自爆をして。

(何がキッカケだったのかはわからないけれど、こうして声をかけてくれた。今日が始まりになったらいいな)

もう、中学校生活の半分を過ぎて、二年の夏休みももうすぐ。

来年は修学旅行が待っている。それまでに友達を作るんだ。

行ったことがないテーマパークで、一緒に楽しめる子がそばにいたらいい。

まだまだ先の未来を想像して、頬をゆるめて友達を待つ。

「…………あれ? 時間、間違えたのかな」

時間になっても誰一人として来ない。

今回声をかけてくれたクラスメイトと、そのつながりで女の子が三人、男の子が四人来ると聞いている。

知っている人がいるのかも知らないまま、誘ってくれた女の子にすべてを任せてこの場所にいる。

「連絡先だけでも聞いておけばよかったかな」

スマホを手にして、何度も時間を確認して。

1時間、2時間。

立ちっぱなしで、体重をかけている踵がジンジンしてきた。

薄暗くなっていく神社では、通り過ぎていくみんなは楽しそうに笑っていて。

「お腹空いたな……」

呟いて、バッグに入れておいたグミを口に放り込む。

嚙んでも噛んでもグミの味しかしない。あたりまえだけど。

風に乗ったいい匂いが、鼻をくすぐっていく。よけいにお腹が鳴ってしまう。

約束通りにみんなと会えていたら、今頃……口の中は焼きそばやたこ焼きのソース味で満たされていたかもしれない。

(ちょっとお手洗いに行ってこよう)

神社の裏手にあるお手洗いを借りる。

みんなが来ていたらと小走りで元いた場所に戻ろうとした時だ。

「やっといなくなったね」

「まさか、こんな時間まで待っているなんて思わないじゃん」

今回、誘ってくれた子といつも一緒にいる子の姿と声だ。

「ぼっちをからかうのやめろよな、お前。ほんと、趣味悪い」

知らない男の子が、趣味が悪いといいつつ笑っていて。

「あんな暗い子、あたしたちと一緒に遊べるわけないのに。なんで誘われただけで、来るの?」

「チョロいよね、ああいう子の扱いは」

「そうそう。もっと前から話してみたかったんだー…とか言って笑ってやりゃいいんだから」

話しかけられた時に言われた言葉が、脳内で再生される。

「でもさ、あの子の髪……きれいじゃん。長くてきれいで。俺、話してみたかったのに」

誰か知らない男の子の背中が見える。背が高い。あんな大きな人いたっけ。

「あー、やだ。男子って女の髪に夢でも見てんの? あんなうざったい長さの髪、切ってしまえばいいのに」

「そうそう。短くしてきたら、仲間に入れてやらなくもないけどね」

「きゃはは。仲間っていいながら、話しかけもしないんでしょ?」

「わかってるじゃん」

あたしの話をしながら、神社の鳥居を通り越していくみんな。

出店の陰で、話を全部聞いてしまった。

「…………だよ、ね。そうだよね。バカみたい、ほんと」

人の群れに混ざって消えていくみんなを見送って、彼らが通り過ぎたお店に向かう。

「すいません。これ、ひとつ」

声が震える。財布からお金を出す手も震えてしまう。

千円札を出して、おつりとお好み焼きを受け取って。

(これくらいはお土産に持って帰ろう。お兄ちゃんにお祭り行ってきたよって言わなきゃ)

足が痛い。本当はもう歩きたくない。でも帰らなきゃ。

(帰らないと、泣けない)

人の群れに逆らうように歩いていく。まるで時間をさかのぼるような感じがする。

本当に時間が戻ればいいのにとすら思う。

サンダルがペタリペタリと不規則に鳴る。

楽しいはずの時間は重たいだけの思い出に変わり、胸の中に息苦しさだけが残った。

ミニショルダーバッグの紐にすがるように、ぎゅっと握りしめる。

ダメだ、このままじゃ泣きそうだ。

泣いたまま帰ったら、お兄ちゃんにきっと心配をかけてしまう。

住宅街の奥に見つけた、小さな公園。誰もいなくて、窓が開いている家からは笑い声といい匂いがする。

喉の奥がぎゅうっと絞まるような感覚に、自分がもう泣いていることを知る。

誰もいないブランコに腰かけて、揺れるでもなく声を殺してうつむくと涙でジーンズが濡れる。

いくつものシミをつくり、小さく震えながらただただ涙が流れるだけ流す。

どれくらい経てば、お兄ちゃんに泣いたってバレないかな。

その前に涙が止まればいいけど、今は止めようとも思えない。

「……ふ、ぅ…っ」

息がしずらい。苦しい。どうしたら楽になれるの?

来週数日学校に行けば、夏休みに突入だ。学校に行かないわけにはいかない。

あの子と顔を合わせても、どうしたらいいのかわからない。

「学校……もう、行きたくない」

泣きながら、家族に伝えられない胸の奥を吐き出す。

「行かなきゃいいじゃん」

不意に背後で聞こえた声は、聞き覚えがある声。

「…………どし、て?」

柊也兄ちゃんの家は反対側なのに、どうしてここにいるの?

それに、こんな場所で泣いちゃってるタイミングで現れるなんて。

驚き、固まっているあたしに、いつもの笑顔で柊也兄ちゃんがこういった。

「涙、引っ込んだじゃん」

って。


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