25 / 96
聖女は、誰が為に在る? 9
しおりを挟む隣のブランコを指さして「おとなり、空いてる?」とか聞いてくる柊也兄ちゃん。
「空いてるじゃん」
おかしなことを言ってくるんだから……と、思わず笑みがこぼれる。
キイッと小さな金属音が鳴り、隣のブランコが揺れた。
「すんごいいい匂いするんだけど」
そうして指さす、お好み焼きが入ったレジ袋。
「お兄ちゃんにって思って」
と言ったのに、あたしの手から袋を奪って。
「もーらい」
おもむろに袋からお好み焼きを取り出してしまう。
「ダメだよ。お土産なんだから!」
あわてて取り返そうとしても、長い脚でブランコを器用に真横に浮かせたようにズラしてそのまま脚で踏ん張って、あたしがお好み焼きを取り返せないようにする。
「いっただっきまー……。……ん、っま。やっぱお好み焼きは家で焼くのより、屋台の鉄板で焼いたやつが美味いよな。むぐ…もぐ……。ほら、ひなも食いな」
そう言ってからブランコの位置を元の位置に戻して、大きめに箸で切り分けたお好み焼きをあーんしようとする。
「この距離じゃ無理だってば」
苦笑いしながら、ブランコから降りて柊也兄ちゃんの横へと。
「あー……ん」
「あー………んむ…むぐ……おおふぃい…」
大きすぎる一口に、上手くしゃべれない。
「美味いだろ?」
作った本人じゃないし、買ってきた本人じゃないのに……と顔が自然と笑顔になる。
「ほら、もう一口食いな。あー……ん」
「おおふぃいひょ」
さっきより大きいかもしれない。
リスのように頬をパンパンにふくらませながら食べるお好み焼き。
あたしが二口食べるのにかかった時間で、あっという間に残りを食べられた。
「お兄ちゃんへのお土産だったのに」
恨みがましそうに見下ろせば、「いーんだって」といつものようにあっけらかんと返してきた。
静かな時間が流れていく。
何もしないのに、居心地がいい。
こういう友達が出来れば、人と関わるのが苦手なあたしでもそばにいられるのかもと思う。
でも、それは互いに努力をした上でその距離感になるんじゃなくて、自然とその距離でいいってなれば尚いいのに。
そう思いつつも、相手がそうしてくれたらいいのにという他力本願な関係みたいで。
自分にも努力や人との関わりあい方から逃げない強い気持ちを持っていなきゃ、ズルしているみたい。
互いが互いに、一緒にいたい、いてほしいという存在であれば。
こないだ見たテレビでは、人は産まれて死ぬまでに100万人の人とすれ違ったり関わると言っていた。
その辺を歩いていて、偶然すれ違った人もそれに換算されるとかも。
おかあさん曰く、親友なんて死ぬまでに一人出会えたらいい方らしい。
あたしはまだそこまでの人数に出会っていないんだろうし、親友になる誰かにも出会えていないのかもしれない。
今日をキッカケにまずは友達から……の関係が始まると思っていたのが、出会いから間違っていた。
そう思うしかない。
「聞かないの? なにがあったのか、とか」
口のまわりにソースがついているのを見つけて、バッグからティッシュを取り出し一枚手渡す。
自分にも一枚取り出して、口のまわりを拭った。
「聞いてほしかった?」
静かなトーンの声。穏やかな気持ちになっていく、あたしの好きな声。
へへ…と笑って、柊也兄ちゃんに手を差し出した。
「あのね。お願いがあるって言ったら、叶えてくれる?」
そういいながら。
まっすぐにあたしを見つめたまま、あたしの手を取って立ち上がる。
高さが逆転した視線に、バッグの紐を握りこみながら呟く。
「髪、切ってくれないかな。柊也兄ちゃん」
美容室を経営している柊也兄ちゃんの家。真似から始まって、今では時々前髪を切ってもらってたあたし。
言葉にしながら、神社で聞こえたあの言葉がリピートされる。
エンドリピしたくないのに、あの高い女の子らしい声でずっと言われているんだ。
「髪、切って。短くしてよ」
涙が目尻からこぼれていく。
髪を切ろうとした理由を聞いてほしい気持ちが半分、知られたくない気持ちが半分。
あの子が言ったことに従うつもりはないけれど、髪と一緒にこの胸の奥の重たさがなくなれと思ってしまった。
そんなわけないことも、現実は一切変わっていないことも理解っているけれど。
「いいよ。今日は店が休みだから、店内が暑いままかもだけどいい?」
それ以上その話題には触れず、手をぎゅっとつなぎなおして二人で公園を出る。
歩きながら、なんてことない普通の話をして、笑って、一緒に「くっだらないなぁ」とか言ったりして。
予告されていたように店内は暑く、クーラーが効くころには髪を切り終わってしまった。
肩先までのボブ。あちこち髪を梳き、重たくならないようにとアレンジをしてくれた。
「これでまだ資格がないなんておかしいよ」
そういうくらいに、普通に美容院で切ったのと同じ状態だ。
ケープを外し、一緒に髪の毛をほうきで掃いて。
クーラーの音だけがする空間で、柊也兄ちゃんが聞いてきた。
「楽になった?」
って。
髪のことだよね? と思っても、頭の端っこの方でさっきまで泣いていた自分を思い出してから。
「……すこし」
短く、そう返す。今はこれが精いっぱい。
「よかったぁ」
時間を見れば結構な時間になっていて。
「送るよ」と今度は差し出された手に、手を重ねるのはあたしの方。
「……ありがと」
上手く笑えているかわからないけど、感謝の気持ちを込めて笑う。
何も言わずに、短くなった髪を撫でながら笑い返してくれる。
外には星が見えていて、遠くには月が浮かんでいて。
遠くににぎやかさがあるのをわかっていても、戻ろうとは思わなかった。
(もういいや)
いつかまたやり直そう。
それまでに自分をもっと知って、人との関わりあい方も迷ったら素直にお兄ちゃんに相談してみて。
と、そこまで考えてから横を歩く人を見上げる。
柊也兄ちゃんの向こうに浮かんでいる、細い月。
(月みたいだな、柊也兄ちゃんって)
控えめにいつもそこにいて、静かに見守っていてくれる。
ぼんやりとそんなことを考えながら、また手をつないで歩いていく。
家の前にはお兄ちゃんが仁王立ちしていて、つながったままの手に手刀が飛んできて。
「いってぇな」
「るっせぇ」
気づけばあたしはお兄ちゃんの腕の中に。
「また明日な」
といいながら、虫でも追い払うように手を振って柊也兄ちゃんを追い払う。
「ひな、またね」
そんなお兄ちゃんにおかまいなしで、いつものように手をヒラヒラ振って帰っていく背中に。
「またねっ」
すこしだけ軽くなった思いに感謝しつつ、小さく手を振った。
1
あなたにおすすめの小説
追放された聖女は旅をする
織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。
その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。
国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる