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抱えられるもの、抱えられないこと 3 ♯ルート:Sf
しおりを挟む~シファル視点~
ひなの部屋。ドアをノックしたのに、反応がない。
本来なら、相手が女の子だってこともあるから、カルナークみたいに勝手に部屋に入るとかしない方がいいってわかってる。
「……でも、もしも…」
言葉にすれば、それが現実になっていた時の怖さが増していく。
倒れていたら? 苦しんでいたら? と想像できてしまう展開に、らしくなくドアを勢いよく開けた。
静かな部屋。人の気配がない。
「もしかして、他の場所にでもいるのか?」
バルコニーに出て、外の景色を伺う。
「頭痛がツラいって言ってて、どこか行ってるとか……。うー…ん」
と唸った時だ。
かすかに聞こえた音がする方へと、勢いつけて近づいていく。
小さな水音が数回聞こえて、入浴中なのかと居場所がわかってホッとしたと同時に、頭痛がする時に入浴はあまり推奨できないことを思い出す。
ドア越しにでも声をかけようか、ドアの前で何往復もしている俺。
不意に大きな水音がしたと思ったら、静かになってその後はなにも音がしなくなった。
静かすぎるほどに。
(……え? 行った方がいい? 行くべき? でも、入浴中ってことは、ひなは裸で。俺はカルナークじゃないんだから、そんなの見ちゃダメだろう? …いや、カルナークでもダメなことではあるけど。…いや、論点はそこじゃなくて)
一瞬でものすごく思考を巡らせてから。
「ひな! 入るぞ!」
考えてる余裕なんかないだろう? と、万が一が怖くなった俺はドアを開けた。
バスルームで音がしたはずなのに、本人の姿がない。メガネが曇って、別な意味で何も見えなくなる。
そのまま胸のポケットに折り畳み、メガネをしまっておく。
そこまで目が悪いわけじゃないから、外したくらいで困ることはないけどね。
「…は?」
思わず、強めの声が出た。
部屋の中ほどに配置されているバスタブに近づくと、ひなの姿が揺れるお湯の中に歪んで見えた。
「ひな!!」
沈んでいるひなの腕を取り、体を引き起こす。
転ばないように気をつけて、バスタブからひなを出してやる。
傍らのバスタオルを体に掛けて、唇をギュッと噛んだ。
「ひな! ひな!」
軽く頬を叩くと、頬を赤らめたまま薄く目を開くひな。
すこし、ホッとした。
「わかるか? ひな」
声をかけるけど、ぼんやりしてて返事がない。
水分を取らせようと水差しの吸い口を口にあてるけど、水は飲まれることもなく口の端からこぼれていく。
「~~~~……!!! あとで謝るから、許せ」
自分の口に水を含み、体を起こしたひなの口へと口づけながら無理矢理水分を飲ませる。
衛生上よくないってわかってるのに、やらざるを得ない。
それに、ひなが自力で呼吸をしてて、溺れたわけじゃなかったから出来ることだけどな。
コクン…コクン……と、間を開けながら、すこしずつ水を飲んでいくひな。
冷水でタオルを濡らして、額や首元などを順に冷やしていく。
「み…ず」
その声に、水差しを口にあててみると、違うと小さな声がして、俺はまた口移しで水を飲ませてやった。
バスルーム内に置かれているイスへ、抱きあげてひなを移す。
いつまでも床で座ったままはよくないし、もうそろそろ俺の心身どっちもが持たなくなる。
「窓開けてくるから」
そういって、体にバスタオルを掛けてから離れる。
窓を開けると、一気にバスルームの蒸気が逃げるように出ていく。
「…あっちぃ」
服を着たまま入ったから、めちゃくちゃ汗だくだ。汗と風呂のお湯とで、服はビチャビチャ。
上着を脱ぎ、すこし長めの前髪をかきあげる。
「……は、ぁ。風、気持ちいい」
窓から入る風に、やっと息を吐く。
「ひな?」
名前を呼びながら振り返ると、ひなの顔がまだ真っ赤っかで。
「大丈夫か? かなり顔赤いな? タオル冷やしてきてやる。ちょっと待ってろ」
さっき同様で冷水で濡らしたタオルをあててやれば、ひながさっきよりも表情がハッキリしてきた。
まっすぐに俺を見て、小さな声でありがとうと言い微笑む。
タオルという声もしたから、ハンドタオルを手渡すと、それをつかんで俺の顔を拭こうとする。
「あぁ、俺のことはいいって。自分がどういう状態かわかっててやってるのか?」
俺がすこし強めにそう言って見せても、ヤダと子どもみたいな返事をして尚も拭こうとする。
「わかった、わかった。自分で拭くから」
俺が自分を拭いている間、なぜかずっとひなに見上げられててなんともいえない変な感じがした。
いくらか落ち着いたところで新しいバスタオルでひなを包みなおし、ベッドまで運ぶ。
そのタイミングで、来るんだよな。――――アイツが。
「陽向!」
ほらな?
「水の用意していたら、遅くなった!」
理由がそれか。
「カルナーク」
と出遅れたやつの名を呼べば、不思議そうな目で俺を見て。
「あ、シファル」
って呼ぶだけ。
もしかして、今…気づいたのかよ。
「急いで作って持ってきたところ悪いけど、今から状態見なきゃなのと、ひなに話さなきゃいけないことがあるから、お前は席をはずせ」
ここ数年、滅多に表に出さなかった兄貴の顔をして命じる。
「水は預かる。話が終われば、呼ぶ。その間、ひなを通して会話を聞いたり見たりするな。そのうち話はするから、今は弁えてこの場から出ていってくれ」
俺がそこまでハッキリと言葉にすると、不思議なことにカルナークも弟の顔になる。
「…う………わ、わか……った」
うん…とか言いかけたな、多分。
俺より少し背の高いカルナークの頭を撫でてやることが出来ない代わりに、肩にポンと手を置いて「イイコだ」と褒めてやる。
本来喜怒哀楽がわかりやすい性格のカルナーク。どこか嬉しそうに微笑んで、チラッとひなの方を見てから俺に一度頭を下げてみせてから部屋を出ていった。
「ひな……。今すぐ、着替えするのはキツイよな?」
そう聞けば、こくんとうなずく。
「メイド呼ぶか?」
首を左右に振ってノーを示す。
「じゃあ、ガウン持ってくるから、それだけ着ようか」
バスルーム手前のクローゼットに向かうと、数枚のガウンがあった。
「体、起こすから」
ひなの体の横にガウンを置き、「出来るか?」と聞けば、黙ってるだけ。
「……もしかして、俺が着替えさせるって…?」
さっきまでの不可抗力な状態じゃないのに、ひなの体をみてしまうかもしれないお願いをされる俺。
(あぁ、でも、アレか。異性として意識していないから、見られても気にされないとか……)
なんて考えてみて、空しくなったりもする。
それでも俺の方は、それはあまりいいことじゃなく。
(いや…、男としてはものすごく嬉しいけど!)
複雑な気持ちを抱えながら、小さく息を吐いた後に「ちょっと待ってて」とバスルームへと向かってタオルを手にしてきた。
「これで目かくししながらやれば、見られずにすむだろ?」
そういうことだ。
目かくしをする寸前に見えたひなの表情は、うつむいてて見えなかった。
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