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いわゆる、他人事ってやつ 5 ♯ルート:Sf
しおりを挟む~カルナーク視点~
陽向に、寝転がった格好のままでポツリポツリと打ち明けていく。
俺の心の中に、ずっと重さを与えてきた昔話を……。
俺と兄貴は4歳差で、兄貴は頭もよく弟の俺の面倒もよく見てくれて、魔法についての基礎を教えてくれたのは兄貴だと俺は思ってて。
俺の家系の人間は、みんな瑠璃色の瞳持ちで、そのどこか紫のような蒼のような色合いが深ければ深い方が魔法に特化した力を持っていることになっていた。
その色が顕現するのは、特定の年齢に達した時にその色がハッキリすると聞かされていた。
俺が五歳になって、いつものように目を覚まして食堂に行って、家族におはようと言っただけ。
その日は普通に夜には誕生パーティーをするんだというくらいで朝を迎えたつもりで。
なのに、俺の瞳の色の変化に真っ先に気づいたのは兄貴で、兄貴の様子に両親が気づき、そのままその日は魔力測定に連れていかれた。
兄貴も同じ瞳を持っていたはずなのに、俺よりもすこし暗い色合いで近づいてよく見れば深い瑠璃色という色合いで、兄貴はそれをひどく嫌がっていた。
嫌がっていたのに気づけたのは、かなり後のこと。
俺は自分の瞳が、大好きな兄貴の色と似てきたことがただ嬉しくて、その喜びを伝えていただけだったんだ。
けれど、兄貴からすれば自慢をされているようにも聞こえ、自分の背を追っていたはずの弟が自分を追い越していく姿が容易に想像出来。
焦りに焦った兄貴は、自分のレベル以上の魔法を行使しようとして、暴走しかけて魔力の総量をかなり減らしてしまった。
元の量までとはいかなくても、魔力の量を戻そうと俺も兄貴も研究したり努力もしたけど、一旦減ったものは戻せず。
気づけば兄貴は魔法のことよりも違う学びを得ると言って、俺とは距離を取ってしまった。
俺が産まれたから、俺が兄貴よりも魔法特化型になってしまったから、兄貴がもしかしたらなりたかった姿を俺が奪ってしまったから。
俺のせいで、兄貴はいろんなものを失ってしまったのかもしれない。
そう思うようになったのは、つい最近のこと。
というのも、自分の家族のことなのに、どうして兄貴が魔力枯渇なんて状態になるまでに至ったのかを、俺は知ろうとしなかったし、兄貴からも打ちあけられることがなかった。
ただ、ここ最近の俺と兄貴の間に在るもののことで、兄貴がずっと抱えてきたものを教えてくれた人がいる。
兄貴の幼なじみ、ナーヴ。
兄貴と一個違いで、口が悪く、まっすぐな物言い。兄貴とは真逆の性格なのに、なんでかいつも一緒にいた。
俺の耳にそれまで入ることがなかった、兄貴が抱えこんで病みかけたその重さを、すこしだけ俺に預けろってナーヴは兄貴に提案したという。
ここんとこ、俺の兄貴の間にある共通項=陽向という存在。
なんとなくだけど、兄貴の中にも兄貴なりに陽向っていう存在が見え隠れしてて。
「ふと思い出したんだ。俺と兄貴、趣味嗜好が実は似てるってことを」
懐かしい思いを胸に、陽向に話していると、彼女の顔が戸惑って見える。
この部屋に入ってきた時に体調はいいものじゃなかったのに、俺の身勝手にも近い甘ったれな行動で体を休めさせてもいない。
むしろ、俺の胸の内を軽くするためにそばにいてもらっている始末だ。
陽向の体内に混ぜ込んである魔力の影響で、よほどの体調なら異変が知らされるシステム。
でも、まだそこまでじゃないのか警告音は鳴らないまま。
陽向が許してくれることに図々しく甘えっぱなしで、こんな格好で昔話をしているのが今…だ。
「何か聞きたいこと、ある?」
そう問いかければ、小さな声で「カルナークのお兄さん…って」と呟いた。
「シファルだけど?」
当たり前のようにそう返せば、陽向が真っ赤になって口を手のひらで覆うようにして隠した。
「言って…ない? もしかして」
てっきり兄貴かあの二人から、そろそろ話がいってるもんだとばかり。
「あー…そっか。言ってないか。いろいろ都合あるから、立場とかも明かしてないもんな」
と俺が漏らせば、陽向がムッとした顔つきになって「それは秘匿情報っていうものなんでしょ?」と叱られた。
そういえばそうだったなと、苦笑い。
「俺、内緒話って向かないのかもな」
なんて笑っていえば、陽向にコツンと軽くこぶしで頭を叩かれた。
そして、人差し指をたてて、シーッとか言うんだ。…可愛い。
「じゃあ、さ。今までの話を、俺とシファルのことだって知らないで話を聞いていたってこと?」
「うん」
どこかの兄弟の話みたいな感覚で聞いていたみたいだ。
「そっか。まずはそこから説明しなきゃいけなかったな。…ごめん」
素直に謝れば、陽向がふわりと微笑んで「いいよ」とだけ返してきた。
陽向が持つ、独特の空気感。俺はこれが好きなんだな、多分。
その空気感に触れて、トクトクと静かに…だけど強くも鳴る胸の音に、自分の感情を自覚できてしまう。
(やっぱり、陽向のことが好きだ)
再確認をして、その気持ちを抱いたまま話を続けていく。
「じゃあ、改めて。俺とシファルの話ね」
そう切り出せば、またさっきのように髪を撫でてくれる。
穏やかな時間の中で、俺の大きな独り言は続いていくんだ。
俺は、兄貴と遠くなりたかったわけじゃないし、兄貴よりも出来る弟になりたかったわけじゃない。
追い越したくなかったとかじゃないけど、その背中を追いたかったのも本音。
そして、また一緒にくだらない話をしたり、同じものを食べて美味いな! って笑いあいたかった。
本当にそれだけのことを願っていたのに、こんなに長い時間それが叶えられなかった。
叶えるための努力をしてきたはずなのに、どんどん兄貴が遠くなっていく気がして怖くなった。
やがて俺は、俺を見てくれる人が誰もいなくなったんじゃないかと焦るようになった。
俺という人間が、魔力の扱いが一番上手くたって、それで誰が俺を見てくれるのか?
愛してくれるのか? 褒めてくれるのか? 抱きしめてくれる人は?
俺の中では両親よりも兄貴の方がそばにいた記憶があったからか、兄貴がそうしてくれなきゃ誰もしてくれないと思い込んでしまった。
そのタイミングでの、陽向の存在。
もしかしたら俺がこの子の役に立てたら、他の誰よりも頼れると思わせられたら、いつか俺を抱きしめてくれるかもしれない。俺が兄貴に願っていたことを、叶えてくれるかもしれない。
そんなことを考えてしまっていた。
それになにより、最初の時に俺のことを心配してくれた。
兄弟でもなんでもないのに、大丈夫かと声をかけてくれた。下心も何もなく。
陽向のその態度で、俺の気持ちが勝手に独り歩きして加速しまくって、訓練の後なんかは特に陽向を困らせてばかりで。
結果、兄貴が陽向を部屋に送り届けるのが日常になってしまって。
自業自得っていう言葉を陽向から教わっていたけど、まさに俺がそれだと痛感した。
「兄貴が…陽向に惹かれていたことに気づいていたから」
天井を見上げていただけの視線を、陽向に向けて呟いた言葉に、陽向が真っ赤になる。
兄貴が伝えている伝えていないは知らないけれど、この反応だと陽向もまんざらでもないようだな。
(ほんと、女の好みまでも似なくていいのに)
そう思いながら、また視線を天井へと戻してため息をひとつ吐く。
陽向が兄貴と一緒にいる時間を増やしてしまったことを悔いても、本当に今更って感じで。
「まぁ、俺の兄貴だから? なんていうか、元々頼りになる男だし? 魔力が減ったところで、兄貴の良さがなくなるわけないんだよな」
言いながら、どんだけ兄貴自慢してんだよ! って、失笑してしまう。バカだよな、俺。
ナーヴから聞かされた、兄貴の中にあった苦しみや悲しみ、焦り。
顔に出さないようにしていたのは、兄としての矜持だろうってナーヴは言った。
ナーヴ曰く、兄貴として格好つけられなくなったみたいで嫌だったんじゃないかって。
弟に超えられるのが嫌だというよりも、兄貴らしくいられなくなりそうで焦った…のが本当じゃないかとも言われた。
「兄弟して、変な方向にすれ違っていた…で、合ってる?」
まるで話のまとめみたいに呟いた陽向に、思わず笑えてしまう。
「簡単にまとめると、そうだね」
緊張しながら話をしていたはずだったのに、今は緊張感らしいものがないや。
「さっき誰かに勝ちたいの? って陽向が聞いてきたよね」
「あ、うん」
「それね、多分、俺自身だ。俺…弱っちいから。魔力のコントロールがどうこうっていってもそれだけの人間で、他に秀でたところがあるわけじゃない。それに、いつまでも兄貴を追っかけてばっかりだし。だからさ……」
そこまで独り言のように告げてから、さっきのように陽向の腰へ抱きつくように体を反転させてから。
「自分だけで立てる人間になりたい。兄貴に、お前なら大丈夫って思ってもらえるくらいに。一緒にまた歩くためには、自分が弱いことから認めなきゃダメ…だろ? な、陽向」
さっきよりも腰に強めに抱きついて、噛みしめるように呟いた。
「…カルナーク」
陽向が髪を梳いてくれる。
「焦らないでいいよ」
梳いていた指先が、俺の背中を撫でて鼓動に合わせるようにトントンとゆるい感覚で叩いてくれている。
「誰かの…じゃなく、カルナークの人生…だし」
その姿は、好きな女の子というよりも、姉貴が弟を慰めているみたいだ。きっと。
「…うん」
うなずいて、小さく息を吐く。
もう、この恋は一旦おしまいだなって感じたから。
そんなことを考えていた時、頭の中で警告音が鳴り響く。
あわてて体を起こした俺が見たのは、膝枕からじゃ見えない位置から湧き出るような黒いモヤが陽向の頭上にあって。
「陽向!」
両肩をつかんだ俺に、きっと限界を超えて話を聞いてくれたんだろうに、ツラいはずなのに。
「…へへ。楽に…なれた?」
と、俺のことを案じる言葉をくれる。
――そう。
まるで、あの日、俺の体調を気にかけてくれた時のように。
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