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いわゆる、他人事ってやつ 9 ♯ルート:Sf
しおりを挟む~シファル視点~
ジークを呼びに行き、アレクも一緒に連れてひなのところへと戻る。
途中でキッチンで果物をすってもらおうという話になって、アレクがニヤニヤしながらそれを手にしていた。
急いでんのになと内心思いながらも、ひなを想う誰かがいること自体は悪い気はしない。
ひなの部屋に入ると、意外な来訪者がそこにいて。
(ナーヴ?)
カルナークと何か話しているのを邪魔するわけにもいかず、黙ったままみんなの様子を見る。
ナーヴとジークが一瞬視線を合わせてうなずいていたから、多分ジークが呼んでたんだろう。
ジークが前に口にした通り、ひなの頭から出ているものが闇属性というナニカじゃなく、本当に瘴気だったなら…ナーヴにこの部屋の空気はかなりキツイ状態のはず。
アレクはひなに果物を食べさせてご満悦な様子で、意識を飛ばしたひなを見守ってる。
ひなが意識を失くす際に囁くような声で、「ごめんね」と言ったのが聞こえた。
誰に対してか、正直わからない。
聞こえたのは、俺とジークとアレク…かな? 多分。二人の表情が、それっぽい反応してるからね。
場所的にナーヴとカルナークには聞こえなかったかもしれない。
「汗、すごいな」
そういいながらアレクと反対側からひなの顔を覗きこみ、タオルで汗を拭いてやる。
「なんで笑っちゃえるんだろうな、こんな時にも」
ああいうひなを見ていると、もはや誰に対して気を使っているのかわからなくなるんだ。
「ツラきゃ、ツラい…だけで、いいのにな」
こうしている間にも、ひなの頭のまわりは輪郭をぼかすようにモヤがあふれている。
「なにが原因で出てるんだろうな、これ」
指先でその場所に触れると、また指先を侵食するかのように薄く黒くなった。
俺が黒くなった場所を親指の先で撫でていると、視界の端にアレクの手が見えた。
俺と同じように、ひなの頭から出ているモヤに触れてみるアレク。
(…え)
そこから引っ込めたアレクの指先は、俺とは違っていつものまんま。
「俺の指先は黒くならない」
そういいながら、眉間にしわを寄せる。
「…俺は?」
ジークが近づき、同じように指先をモヤに触れるほど近づけた。
「…あれ?」
ジークは、俺ほどじゃないけど淡く色づく程度。移る色の濃さは、なにか体質とか魔力とか性別とか関係あるのか?
互いの指先を触りあって、首をかしげる。
「アレクのは、色は移らなかったけど……質感おかしいな。指先に果汁なんてつけてないんだろ?」
とジークが聞けば、アレクは「ああ」とだけ返す。
「俺たち、色移りした方は質感は変化がないのに、色移りしなかったアレクだけベタついている」
瘴気自体に触れたことがないから、これが俺たちが瘴気に触れた場合の反応なのかが不確定。
ただの闇属性のナニカだとしても、じゃあ何に触れてこうなってるの? って話で。
三人でひなを囲むように並び、険しい顔つきでうなっているだけ。
そこに、割って入ってきた二人。ナーヴとカルナークだ。
瘴気だったならと反射的にナーヴの方を向けば、さっきまで着けていなかったものを口元に装着している。
「え、それ…なに?」
大きめなハンカチに、水色と光る色合いの二色で描かれた魔方陣。
「一時的に俺の体に悪そうなものは防げるモノ作った。カルナークの魔法と二重付与したものだけど、試作品だから短時間しか持たない。……この段階で明かすが、俺は光属性だ。だから、瘴気に極端に弱いってことだ」
そう説明しつつ、ナーヴが視線をひなへと向ける。
「お前も触ってみろ」
と、カルナークの背を押す。
おずおずとひなの頭に触れると、カルナークの指先が誰よりも黒く染まった。
「…つっ」
痛みもあるようで、一瞬、顔を歪める。
「で、俺…も」
軽い口調でそういいながら、ひなのモヤに触れようとするナーヴだけど、触れそうで触れない。
指先を伸ばすのに、何度もためらっては手をこぶしにして。
「無理するなよ、ナーヴ」
俺がそう話しかけるけれど「んな場合じゃ…ねぇんだろ?」と、口元を歪めつつチョンと指先をモヤに触れさせた。
本当にわずかしか触れていないのに、触れたとほぼ同時にナーヴがすごい勢いで咳込む。
「…ッゲ…ゲホッ…ゲホ…ゴフッ……ゴホ」
顔色が悪くなって、膝をつくナーヴ。その指先は、この中の誰よりも黒くなっている。
「ソファーに運んでやろう」
アレクがナーヴを抱きあげようとした瞬間、ナーヴが手のひらを突き出してそれを制した。
「…だが」
俺たちもどうしてやればいいのか悩むし、ためらう。
互いに見合うことしか出来ずにいる俺たちに、「黙ってみてろ」とナーヴが呟いた。
ナーヴの指先が光る。指先から光の糸のようなものが現れて、ナーヴは咳込みながら指先を素早く動かして模様状のものを宙に描く。
(……キレイだ)
なにかの式みたいに見えるそれを、端と端をつなげるような感じで指先で円を描いた。
「魔方陣…か」
思わず見とれてしまうほどの美しい魔方陣。
ナーヴはそれを自分の指先の方へとスイッと移動させてから、反対の手で指を鳴らした。
静かな部屋にパチン! と高い音が響いていく。
指先にあった黒さが、魔方陣へと吸い込まれていく。
細い糸状になりながら、魔方陣の真ん中へとゆっくり吸い込まれて、やがて指先の黒さはなくなった。
単純に吸い込まれて終わりかと思っていたら、ナーヴは咳をしつつその魔方陣を観察し続けている。
「苦しそうなとこ悪いけど、何やってるの? これ」
俺がそう問いかければ、咳の合間に「解析」とだけ返してくる。
解析してるのか、このモヤを。
「……って、いつそんなの完成させた!」
ツッコミを入れずにはいられない。
ほぼ毎日ナーヴと俺は顔を合わせている。互いに研究とかばかりだから、そういう付き合いがとにかく多い俺たち。
「は? ゲホ…おま、えが…ゴホゴホ…ッ、コイツにかまって…ゲッホ…ゴホ…た時だよ」
そういってから、今度はその魔方陣をひなの頭の方へと軽く押し出した。
ひなの頭から出ているモヤが、魔方陣に同じように吸い込まれていく。
ゆっくりと煙が立ち上るようなその光景を眺めていたら、おもむろにナーヴが立ち上がり肘から先だけ動かし。
「みんな、こっち」
短くそう言いながら、全員をソファーの方へ呼びつけた。
「シファ」
俺の名を呼んだかと思えば、俺のポケットを指先でトンと突いて。
「薬草茶の匂いがする。淹れろ、飲むから」
ナーヴはいつものようにそう命じて、辛そうにソファーへ勢いよく腰かけた。
「少しだけ待ってて」
ポットでお湯を沸かし、すぐにお茶を煎じる。
ふわりと薬草のいい匂いがして、ひなにも飲ませてやりたいなと思いながら準備を進める。
「みんなも飲む?」
念のため聞いてみれば、互いに見合ってから。
「俺はいいかな」
「俺は飲む。淹れてくれるか?」
「俺もいいかな、今日は」
アレクだけが飲むと返事をされた。
「体にいいのになぁ」
残念に思いつつ、自分を含めて三杯分の薬草茶を準備した。
「…はい、お待たせ」
あと二人には、カルナークの水をグラスに注いで、テーブルへ。
ふと視線をひなへと向ければ、さっきのまま魔方陣にモヤが吸い込まれているだけ。
俺がやっとソファーにと思った時には、ナーヴが俺の薬草茶にも手を出そうとしていて。
「あぁ、いいよ。後で淹れなおすから、飲みたいだけ飲みなよ」
カップをスッとナーヴの方へと押してやれば、ニヤッとさも当然とでも言わんばかりな顔つきになる。
二杯目の薬草茶を半分ほど飲んでから、ナーヴが「さて、と」と口を開く。
背筋を伸ばし、すこし座りなおしてから、ナーヴへと顔を向けた。
「今後について、俺からの提案とあの聖女のあの状態について…な」
ナーヴのひたいには、まだ汗が浮かんでいる状態だ。
あまりいい話が聞けない予感を抱きつつ、次の言葉を待つ。
「まず、浄化は聖女だけじゃ無理だ。必要なのは、聖女と…俺の光属性の魔力。そのサポートにカルナーク」
カルナークが、コクコクとうなずき唇をキュッと結ぶ。
「っていっても、緊張する必要性はないから重く考えなくていい」
横にいるナーヴを挟むように俺とカルナークが座っている俺たち。
ナーヴがカルナークの肩をトンと軽く叩くと、カルナークがすこしポカンとした顔をしてから遅れてまたうなずく。
「問題は、あのモヤ。カルナークの話だと、外部魔力なんだろ? アレ」
ナーヴが薬草茶を飲み干しながら、カルナークに問いかけると「うん」とだけうなずいた。
「相乗効果っていうのか、なんといえばいいのか…難しいな。アレの表現の仕方がどうにも、なぁ」
何かにつけてハッキリとした物言いのナーヴにしては、珍しい。言葉を濁してる感じがする。
「それについて説明する前に、ジークに確認してほしいことがある。アイツのステータスで、増えた項目がないか見てくれないか」
「増えた項目、ね」
ナーヴに従い、ジークがひなの方へと向かう。
しばらくして、ジークがソファーへと戻ってきたけど、顔がかなり険しい。
ナーヴが、問いかける。
「アイツ。“一人”だったか?」
と。
その意味がわからず、ジークへと顔を向けると、ゆるく首を左右に振って。
「いや。“ひなだけじゃなかった”よ」
そう呟いて、ソファーに腰かけたまま自分の膝に肘を置き、そのまま両手で頭を抱えだした。
「…なんで、わかった?」
ジークが低い声でナーヴに問えば、ため息まじりにこう告げた。
「しょうがねぇよ。俺…、選ばれちゃったんだから」
会話がつながっているようでつながっていない違和感に、残された俺たち三人はただ戸惑うばかりだった。
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