「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート

ハル*

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久遠 2 ♯ルート:Sf

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~シファル視点~


みんなに薬草茶を振る舞い、順に彼から託された手紙を渡して…普通に戻った外の光景を眺めて。

あの時はあんなにも大変だったのに、過ぎ去ってみればあっという間の出来事。夢か幻だったんじゃと思えるほどに、普通の光景だ。

間違い探しのようにそれまでの差を挙げるとするなら、ひなという存在がいることなんだろう。

ひなが住んでいた世界の話を彼から聞いた。

こっちの世界のように瘴気という形ではないけど、空気が汚れたりもするし、人が心的負担で病むことも同じようにあり。

それを医学や科学という分野の学びから、薬や環境を変えていくことで対処していく。その対処の途中に魔法やスキルという差があれど、やることは思ったよりも差を感じなかった。

だからこそあっちの世界で、こっちの状況に対しての準備が進められたところがあると彼が言っていた。

ひな以外に渡した手紙には、それぞれが隠していただろうことが今後のこの世界に活かせることの重要性と、この浄化に関係したメンバーはそのことを明かしても問題がない相手だということを踏まえた上で、話し合いを進める内容だったり。

他には、今後のひなへの対応を託す内容もあり、カルとナーヴに対しては魔法やスキルについての話が結構な長文で書かれている。

ナーヴのものは、今後に活かせる魔方陣のキッカケになればというアイデアや、この中にいるメンバーに協力を仰ぐと使えるものについても書いたと言っていた。

八割方完成している魔方陣を数枚。自分以外の誰かが発案した魔方陣は、きっとナーヴは喜ばないだろうけどと前置きしつつ、それでも現時点で壁になっている部分を壊す取っ掛かりになればとあえて描いたらしい。

それを素直に受け入れるか、さらに進化させるかどうかは、ナーヴに一任したよう。

(まぁ、ナーヴのことだから面白くなく思いはすれども、なんだかんだ言っても他人との意見交換は嫌いじゃないはずだ。実際、カルに魔法を教えていた時に、カルが意外な視点からの話をしてきたと悔しがりながらも喜んでいたことだってあったんだから)

むかしむかしのことを思い出して、親友のナーヴを信じることにして……。

ふ…とひなの方を見ると、口に半ば無理矢理つっこんで舐めさせている飴の棒が小さく揺れている。

コロコロとかすかに、歯に当たった飴の音がするのが面白い。

あの飴と棒には仕掛けがあって、それもこれも彼がすべて俺を戻すまでの間に準備していたものだ。

俺と一緒にいた時間のどこでそんな作業をしていたのか不思議なほど、手紙を書くのも飴の準備も俺に魔法の使い方を教えるのも、こっちに戻すための準備だって…時間が足りなかったんじゃないかと思えるほどの内容だ。

俺が起きていた時間では、一緒に街を巡りいろんなものに触れ、俺が無意識で抑え込んでいたかもしれない自分の心の問題に踏み込み、語らい、キッカケをくれ、背中を押してからここへと送ってくれた。

こうしてこっちに戻ってきて、その方法が聖女召喚と大差がない方法ということで、やろうと思えばひなを戻すことだって可能なんだと改めて知った。

その選択肢をひなに任せるべきだと思ったのと同時に、ひながこの場所にいたいと思っていてくれたらとも願い…その事実を口にすべきか今…悩み続けている。

彼が現国王の9代前の時代の王族で、自身が持つ力が強大すぎるがゆえに隠されたその存在。けれど、その力のおかげで、俺はこうして生きているし日常に戻れている。

彼はあの世界に逃げた……と言っていたが、ひなが召喚されて以降は特に時間がずっとループしている状態だと言っていた。ひなが召喚された時間を軸として、回り続ける時間。ひなが戻るまでその時間は続き、もしもひなが戻った後は……。

(――ひなが戻れば彼の世界の時間は、再び動き出す)

戻る当日の朝から、彼が語ったいろんな話を思い出す。

暴君と言われた自分の父親から、国から、責務から逃げ。一定の年齢に達したところから、老いなくなり。自分の使命に気づいたのは、ひなが召喚されることを先見したからで、ひなが浄化にかかわると知ってからそれまで自分が研究していたことを活かすタイミングは今だ。

本当ならば自分だけでそれまでの仕組みをすべて変えることが出来たはずなのに、自分の命を優先して逃げたのは自分。だから……それはきっと罪であって、罰でもあるのだろうな…と。そうじゃなきゃ、こんな形で生きていることの理由も意味もわからないし、説明のしようがない。

いつかまた自分があの場所にかかわるキッカケがあれば、今度こそそのシステムを改変してしまうための助力をすべきだ。そこに召喚されてしまう可愛い妹のような子のためにも、今こそ自分が持っているすべてを使って、護るべき者たちを護ろう。

ひなに関しては、召喚されることは必然だった。あのままこっちにいても、ひなはまた死にたがるかもしれない。生きるのを諦めるかもしれない。何もかもと関わること自体をやめてしまうかもしれない。そんな未来がひなの選択肢にあったならば、ひなが成長出来て笑えるような方へと誘い、背を押すのが自分にやれること。

聖女という形で喚ばれたのなら、ひどい扱いもされまい。しかも聖女の色持ちじゃないのに、潜在的な力は持っていた。それが何かをキッカケに表に出せるようになり、かつ自分の生き方をかかわりあい方を肯定してくれる相手がそばにいれば、ひなが変わることは難しくないはず。

そうして成長していき、笑えるようになって、それから…戻ってこれることを知った時にはひなに選択の自由を。

浄化を見守るように遠い次元からその状況を支え続けてきたけど、浄化のために召喚をしなくてもよくなれば、もしかしたら…俺の役目も終えられるのかもしれない。罪を償ったことになるのかもしれない。それをどこのどんな神が決めているのかわからないけれど、俺の役目は最低でも浄化が不要な世界を作るためのサポート。実行はその時代にそこに住んでいる人間がすべきだし、最終判断も同じだ。俺は当事者ではないから。

そうして聖女が不要になり、ひながなりたかった自分へ変わることが出来た時。俺の最後の役目は、ひなが望む世界にひなを送り出すことなんじゃないかと。偶然か必然か、ひながある世界線に自分が存在するようになって。当然のようにかかわり、好ましく思い、好ましく思われ、互いに家族のように大事な存在になれて。その背を押せる場所に立てたのならば、それはもはや俺の役目で宿命でもある気がする。

自分が置いてきた世界の見守りと、護りたいと思える相手を支える。俺にしか出来ないことなら、元王族として、ひなの兄貴分として自身へ命じるよ。

その二つを何が何でも護れ、と。だから、もしも……、ひながこっちに戻れば進み始めた時間の中で役目を終えた俺がどうなるのかわからないけれど、そばにいる間は護ろうと思う。そして、戻らない方を選んだ時には――。

……と、そこまでどこか笑みを浮かべて話していた彼が、一瞬目を瞠り、それから小さく息を吐いてから言葉を続けた。

もしもひながみんなのそばで生きることを選べば、ひなの命が尽きるまでは同じ日々をまた繰り返すよ。ひなの兄貴がひなのいない日常に気づかないように、二人が悲しまないように、寂しくならないように。他愛ない日常を繰り返していく。きっとだけど、ひなにその瞬間が来て天に召された時、こっちの時間がどう動き出すのかわからないんだ。もしかしたらひなが元の姿で戻ってくるかもしれないしね。

こればっかりは、神のみぞ知る…って感じかな。

今後もひながそっちにいる間は、必要性を感じたらそっちの世界に連絡を取るか、勝手に何かをしておくよ。何をするかは、現時点ではわからないけどね。何かするって言っても、そっちの世界を護るためのことだけになるから、警戒しないでいてくれるといいなぁ…。

と、彼が話したことを思い出し、たどり着いたこと。

彼が逃げたのはその時にはどうしても必要なことだったはずなのに、どれほどの時間の罰を受ければ彼は解放されるのだろう…という考えに。

誰かに利用されつくすことは恐怖で、俺だってきっと逃げたはず。逃げる術があれば…の話。

後付けのように出会った、ひなと彼。それでもあの地球という場所に彼が飛んだことに意味があれば、その罪と罰だっていくらか辛くなく感じられるんじゃないか?

ひなという一人の女の子を救う、魔法使いの話。……とか考えられたなら。

そう考えでもしなきゃ、彼の孤独さが埋められない。救われない。同情すべきではないとわかっているのに、同情せずにはいられない。いつ終われるかわからない時間の中で、死ぬこともなく繰り返す日々。

ひなはそんな中の、救いだったはずだ。

ひなにとって彼が救いだったように、彼にとってもひなは救いだったはず。

家族という括りではないとしても、唯一無二にも近しい存在だったんじゃないか?

(ひなのことは他の誰にも渡すつもりはないけど、彼という存在だけはひなの中にも彼の中にも在っても構わない。むしろ、在ってほしいとすら思える)

窓を背にして立てば、手紙を読んでそれぞれにいろいろ考え込んでいる姿が見える。

ナーヴが読むのに一番時間はかかるだろうけど、アレクの手紙に書かれていたことは本人にとって頭が痛いことだろう。

これまで秘されていたことを明かすべきだと書かれているのだから。

アレクが持っているものに関しては特に、彼からサポートするようにと命じられてきただけに、俺にも明かされている。その事実も、あとで個別でアレクと話さなきゃいけない。

ひなが飴を舐め終えたのか、棒を口から抜き出して指でつまんでプラプラさせている。

その棒を俺は内緒で新しいスキルを使い、状態を確かめた。

(……うん。大丈夫そうだな。…よかった)

もうそろそろいい頃合いだなと思い、話を切り出す。手紙の一枚目に共通で書かれていたことの確認と、彼についての話を。

そして歩き出して、ひなのそばにしゃがんで告げる。

俺があっちに転移した時の方法について。

聖女の召喚方法と大差ない方法だという事実、を。

告げる時に、わざとひなだけに顔を向けて。たった今、俺が告げた言葉の意味を理解してほしい、考えてほしいと乞うように。

ひなが一瞬、息を飲んだのがわかった。そして、唾を飲んだのだって静かな部屋の中で響いて聞こえた。

「それ……って」

戸惑いが瞳を揺らす。じわりと潤いはじめて、やがてそれは雫となって彼女の頬を伝っていく。

「もしかして……」

震える声で俺に確かめてくるひなは、その言葉の続きを呟けない。

膝にあった手をぎゅっと握ったまま、小さく震えながら泣いているひなに俺は告げる。

「……帰れる。ひなが…望めば、今すぐにだって」

自分の声なのに、自分の声じゃないみたいだ。ひなに伝えるって最後の最後に決めたのは、他の誰でもない俺なのに。

どこか遠くで聞こえる自分の声は、今まで以上に優しい声でひなに語りかけていた。

「ひなが望むなら…帰してあげるよ?」

と。

そういいながら、心の奥では行かないでと叫んでいるくせに。

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