「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート

ハル*

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久遠 11 ♯ルート:Sf

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~シファル視点~


――――時は流れに流れて。

俺とひなが結婚をし、シューヤの思念体は姿を変えてみんなで聖女を召喚せずにいられる場所を創りあげるまでを見守ってきた。

俺がこっちに戻った数日後、ナーヴとの話は結局三日間もかかり、その後はシューヤも何かにつけ同席して師弟のような関係へとなっていく様を俺は見ていた。

カルはひなから聞いたいろんな異世界の料理を作る店を出して、そこから何年も経って、今は次代の料理人を育てている。

安くて美味くて早い飯屋は、もうすぐで三店目になる。

あれだけ魔法に精通していたのに、それを生活魔法だけ使うことに特化させて、他はひなの世界の言葉で宝の持ち腐れってくらい使わなくなった。

ひなが大好きなカル特製の水のレシピは、今では国民みんなに周知され、いろんな人々を潤しているわけで。

ジークとアレクの二人は国の発展などに尽力したものの、王族として必要とされているはずの結婚を二人ともせず。

その後、かなり歳の離れた弟が産まれたのだが、その…いわゆる第三王子が王位を継承することになって、二人は弟の成長を温かい目で見守っていき。

第三王子が二十歳になった頃に結婚して、後に産まれた子どもは二人。その子どもたちも王族としての勉強などが進んでいて、それぞれにジークとアレクがいろいろと学ぶ機会を与えている日々。

ちなみに第三王子は31になり、その子どもたちは10歳と6歳になった。

二人の甥っ子に、ジジイと称されるようになっても、大した気にもしないで二人で笑いあっている。そんな二人もあと数年で、順に60を超えようとしている。

ひなと俺の年齢はあの時以降、ずっと変わらず同い年。今は、互いに51だ。

俺たちの間に生まれた子供は三人。上と下が女の子で、挟まれたように男の子が一人。

上から、26・24・21とすっかり成人して、三者三様の成長を見せてくれた。

結婚して三年後に一人目、その二年後に二人目、さらに三年後に三人目を産んだ時にはお互い30になってて、ひなの体力的にこれ以上は無理という話になった。

俺的には十分だった。真ん中の長男が長女と次女に体のいいおもちゃにされつつもたくましく育って、笑顔で言うことを聞くふりして逆に人を誘導して使うような男に成長していた。

ひな曰く、腹黒キャラっていうらしい。……なんかすごい言葉だな。

第三王子と長女が5歳離れていて、幼なじみといえばそんな感じで。お転婆な長女に振り回される王太子って姿が、ある時期から見慣れた光景になっていた。

お転婆な長女を窘める次女は、気づけば王太子の筆頭婚約者。王太子=第三王子曰く、二女は10歳差と感じることもないほどに頭もよく、ジークがよく言い負かされていた。言いくるめられていたともいえるけど。

長女はどちらかといえば、かなりな年上好みで。いつのまにかアレクから剣術を学んでいたり、一緒に遠乗りをしたり。なんとか視界に入っていようと必死な様がその辺で普通にみられるようになった。

アレクがそれをどう感じているのかは、一度だって直接聞いてみたことはない。

(俺が聞くのも、なんか野暮だしな)

懐かしさを思い出して、口がゆるむ。

「…どうしたの? さっきから、なんだか楽しそうに笑ってるね。何か思い出していたの?」

ひなが俺のそばで、果物の皮をむいてくれている。

「んー…そうだね。懐かしいこといろいろ」

剥き終わった果物を盛りつけてから、フォークに刺して俺へと差し出してくれた。

「懐かしいこと、ね。…なにもかもだね」

ひなも何かを思い出したんだろう。どこを見ているとかはなく、それでもどこかを見て口元をゆるめた。

剥いてもらった果物は、一つだけ食べるともうお腹がいっぱいになる。

「ほら。俺はもういいから、残りはみんなで分けなさい」

俺のベッドのそばでぎゃいぎゃい騒いでいた三人が、こういう時だけはタイミングばっちりで揃って元気に返事をする。

もう、結構大人なのに、こういう時だけ子どもに戻っているようにみえるな。

「…ふはっ」

思わずふき出した俺を見て、三人が不思議そうに首をかしげるところまでタイミングが合う。

(なんだかんだで仲がいいようだから、これだったら…置いていっても安心かな)

起こしていた体をズラして、ベッドに寝転がった。

「ふう……。そろそろ…ってことかな、ジークの見立て通りでいけば」

ベッドの横に腰かけているひなの手を取って、申し訳なく思いつつ呟く。

ジークが俺がいつごろ亡くなるとかをあらかじめ教えてくれていて、俺はそれに従って最期を迎える場所をここに決めていた。

ひなと何度も一緒の時間を過ごしたベッドの上。

俺の研究室かここか。どっちか迷ったけどな。俺らしいったら研究室だろうと思っていたけど、シューヤにやってもらことを考えたら一択だったから。

「…パパ? 本当にいいの? あたしだけが戻ればいいって、向こうでやり直そうって思っていたのに」

何度目かわからない確認の言葉を、今日もひなは俺に投げかけてくる。

「いいんだって。…俺が行きたいって言ったんだ。シューヤが俺なら来てもいいよって言ってくれたからな」

俺がこっちに戻ってきてから告げた元の世界に帰れる手段があるよということについて、話をした一か月ほど後になってひなが返事をしてきた。

「今、アッチに戻っても、やれる自信がなくなっちゃった。カッコ悪いけど…こっちで自分を持つ修行というか…練習をさせてください。もしも…この選択肢によって二度と戻れなくなっても、心残りがないわけじゃないけど諦める。あたしが自分の気持ちをちゃんと誰かに伝える勇気を持てるように、失敗や苦しいことにくじけない強さを持てるように、誰かと関わることを諦めないように。…誰かと一緒に笑って過ごすために、誰よりも自分が一番努力できるように。そのための心と体の強さを手に入れたい。……それに、あたしは……シファと離れるのは無理」

俺の中での三日間は、コッチの世界で三年も経過したことが結構ひなの中で尾を引いていて。その三年間でひなの中での俺という存在が大きかったことを知らされた、と。

「シファ…お願い。あたしをこれからも支えてください。それと……いつかでいいから、結婚をお願いします!」

逆プロポーズとかいうのをされて、もしもひながコッチに残るのならといろいろ準備をしていたものを、全部潰された俺は。

「なんでお願い?」

言いたいことはもっとたくさんあったはずなのに、最後の一言への確認をまるで叫ぶような声で言い返していた。

「だって、シファ……すっごくカッコよくなってて、絶対あたしよりも胸が大きくっていい匂いがして、頭もよくって人付き合いだって上手で、キスだってその先だってなんだって上手な人の方が絶対に似合うって思ったんだもん。でも! でもっっ! 何の武器も胸の大きさもないけど! それでもあたしを選んでほしくって!」

言ってることがどれだけすごい内容なのかを本人がわかっていなくって、まわりでそれを聞かされていた俺を含めた全員が真っ赤になってひなを止めようとしていた。

「わかったから、それ以上何も言わないで!」

真っ先にひなの口を手で塞ぎにかかったのは、カル。

「ひなの胸は、ちょっと人より控えめなだけだろ? ちゃんとあるから、大丈夫!!」

とか、いつもの通りでいらん一言つきだった。

「カルのエッチ!!! カルのばかぁっ!」

ひながカルに涙目で怒るのまでが一連の流れのようで、その空気に一か月経った後になってから、本当に戻ってこれたんだなと実感できた記憶がある。

人は死ぬ前になったら、過去ばっか思い出すんだな。

(死ぬのが怖いとか、そっちのことばかり頭に浮かぶんじゃないかと思っていたのに)

「ただ、シューヤがどういう形で俺をアッチに連れて行ってくれるのか、どんな形でひなと関われるのかまでは、現段階では教えてくれてなくてさ」

俺がコッチで天寿を全うした後。ひなが亡くなった後に戻る予定の元いた世界に、俺も転生というか転移というか、一緒に同じ場所で過ごせるようにしてくれることになった。

元いた世界でも力になりたい、支えたい。その気持ちがどんどん膨らんでいって、ひなとシューヤを何年もかけて説得して手にした結果だ。

どちらかが先に召された場合に寂しくないように、見送ってくれる家族がいるように…ってのもあって子作りを頑張ったところもあった。

「シファが先に行っちゃったら、年齢差ってどうなるんだろうね? 記憶もどうなるのか、教えてくれていないんでしょ? 柊也兄ちゃん」

「うん。お楽しみにーって言われてるよ」

「……言いそう、たしかに」

シューヤが俺の命を救ってくれたことや、ひなが元の世界に戻るまでにアッチがどうなっているのかを全部説明した時に、本人の思念体がコッチに来ていることも合わせて説明した。

その結果がさっき思い出した、あの返事というかプロポーズつきのアレなんだけど。

ひなは悩みに悩んで、向こうで永遠にループし続けている兄の存在を気にしつつも、それが兄の心身に負担になることがないことや、時間がコッチに来たときそのままだということも決め手になったようだった。

自分のせいで誰かが大変だとか苦しいのは嫌だと思っていたから、もしも自分の兄が永遠にループしている事実に気づきながらもそれに抗えなくて苦しい思いをするような状況だったなら、戻るのを諦めるつもりだったらしい。

最終的にひなから、この一言が出て、未来までのやることがハッキリした。

「あたしが帰らないことでお兄ちゃんの中からあたしって存在が消えてしまうのなら、それもあたしには耐えられないかもしれない。お兄ちゃんの中には、残っていたいんだ。お兄ちゃんにとっていい妹だったかわからないけど」

ひなの中での、兄という存在。その大きさを改めて知らされた一言だ。そして、最後にもう一言。

「もう、ワガママ言わないから、最後のワガママだと思って、許してほしい」

ひなの口からそんな言葉が出た瞬間、みんなで互いに顔を見合ってからこう言ったんだ。

「最初で最後のワガママの間違いじゃないの?」

って。

いつも誰かに気を使ってばかりだったひな。シューヤ曰く、やっと自己主張が出来るようになったことは、いずれ元の場所でやり直すために一番必要なことだから、一番の収穫になったらしい。

成長したかっただろう形へと変わっていけたこと。ひなの背中を押せたのかもしれないと思っただけで、胸の中がほわりとあたたかくなった。

ひなのことを想った時とは違う、別なあたたかさだ。

ひなの成長が、まるで自分のことのように嬉しくてたまらない。

「そんなにワガママ言ってこなかったんだっけ」

まわりから言われたことが不思議だったようで、首をかしげては眉間にシワを寄せていた。

「ぜんっぜん!」

コッチの世界からまるでお土産のように、ひなが気持ち新たにやり直す時の武器や支えを増やしていく。目には見えないけれど、あると嬉しくて勇気をわけてもらえそうな…そんなモノを。

「……ひな」

久しぶりに呼ぶ、二人の時だけの呼び名。

「…なぁに? シファ」

ひなもそれに、何も聞かずに応えてくれる。

「カルのこと、子どもたちのこと、頼む。…少しだけ先に行くよ、アッチに。どうやって再会出来るのか、記憶はどの程度あるのか…わかんないけど。…それでも、ね、…ひな」

すこしずつ意識が遠のいていく感覚が、まるで体に滲みこんでいくように拡がっていく。

「きっと見つけるから。会いに行く。……ね、ひな」

「…ん。うん…待ってて」

「またね、ひな」

「…ん。あたしも探す。シファのこと、きっと見つける。出会う。二人で…新しい人生、一緒に………シファ?」

「……………」

勝手にまぶたは重たくなっていく、もっと言いたいことがあったはずなのに口が動かない。

『シファル、時間だね』

頭の中に聞きなれた声が響き、俺はその声に応える。

『時間、か。……じゃあ、後のことは任せたからな。シューヤ』

目を閉じているのに、目の前がまぶしく感じられる。変な感じだ。

『伝え忘れたことはないかい?』

シューヤのその言葉に、そういえばと思い出して内心ため息をつく。

『最後にもう一回言いたかったな。…愛してるって』

小さく笑いながらそう言い返せば、シューヤの笑った声が響いていく。

『…バカだね、シファル。しょうがないけど、時間だよ。…言いたかったことは、アッチに行ってから言いなよ。二人にはこれからもまだ…時間が残されたんだから』

いつものみんなとの時間はここまでだ。

『――――さぁ、行こうか。シファル』

頭の中で実際互いに手を差し出しあってなんていないのに、感覚的にはシューヤの手を掴んでいるよう。

「ほら、コッチ」とか言いながら、普通に誰かの家でも訪問する時の案内みたいに。

『…ああ』

体が軽くなって、あの日あの時のようにどこかに自分が消えていくみたいだ。

でもあの時と違うのは、この後もひなと一緒に生きるために飛んでいく。

『さぁ、コッチでのひなとの再会まで…シファルには学ぶことがいっぱいあるんだからね』

シューヤのその言葉に、元いた世界でのいわゆるスパルタな魔法の特訓をした日々を思い出す。

『あ…あぁ』

アッチに着いて早々、俺死なないよな? なんてドキドキしながらどこかに引き寄せられるように飛んでいったその先で。

「…お。お前がシファルってやつか?」

着いて10分もしないうちに、ひなの兄貴との初対面の場が設けられているだとか…誰が想像してる?

「…え」

そして、俺の名前がシファルそのままなのか? というのもハッキリは理解していなくて。

横目でシューヤを睨めば、くすくすとどこか楽しげに笑う姿がそこにはあって。

「そうだよ、この子がシファル。駆け出しの配信者…のね」

初めて耳にする言葉に顔の筋肉を引きつかせながら、俺は精いっぱい笑顔で答えた。

「はじめまして、シファル…です」

とだけ。

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